「今日はここまでにするぞ」
『はい、ありやとう、ごじゃい、ましゅ?』
リボーン先生の勉強時間は、大体一日2時間ぐらい。
始めの頃は、イタリヤ語の書き取りや言葉を教えて貰っていたんだけれど、最近は、つなよしの生まれ育った国の言葉を教えて貰っている。
日本語って言うらしいのだけど、どうしても発音が可笑しくなってしまうのだ。
お礼の言葉を日本語で言うのが、最後の締め括りなんだけど、まだ一度も上手く言えた事がない。
「残念だったな。『有難うございます』だ」
『う〜っ、あり、がとぅ、ごりゃいます』
上手く言えないボクの言葉に、リボーン先生が笑いながら訂正する言葉を、もう一度頑張って口に出してみるけど、やはり上手く言葉にならなかった。
頭の中でなら言えるのに、いざ口に出すと、上手く言葉にならない。
「後もう少しだな。日本語は、発音が難しいから、ゆっくり慣れるしかねぇぞ」
『はい、がんばる、です』
ポンポンと叩くように頭を撫でられながら言われたその言葉に、コクンと頷いて返す。
頑張って日本語を覚えてつなよしを驚かせて見たいと思うのに、思うようにいかなくて、ちょっと自分が情けなくなった。
「焦る必要はねぇぞ。雪は、オレから見れば、十分優秀だからな」
自分が情けなくて、沈んでしまったボクの考えを読んだように、リボーン先生が慰めてくれる。
ああ、リボーン先生は、読心術が使えるっだったっけ……って、事は、ボクが考えていた事は、読まれているのかなぁ?
う〜っ、それって、つなよしを驚かせよう作戦も、当然ばれているって事なんだよね?
「ああ、バレてるな。まぁ、ダメツナには、黙っててやるぞ」
あう〜っ、やっぱり、読まれてるよぉ。
笑いながら言われた言葉に、どういう表情をすればいいのかが、分からない。
最近、ボクにも表情と言うものが、出せるようになってきたんだけど、こういう時には、どんな表情をするもんなんだろう。
やっぱり、分からない。
「そう言えば、ダメツナから勉強終わったら、執務室に来るようにって伝言を貰ってたぞ」
「つなよし、用事?」
ちょっとだけ考えたボクに、思い出したというようにリボーン先生が言ったその内容に、不思議に思って首を傾げる。
お別れした時には、何も言ってなかったのに?
「内容は知らねぇから、直接聞きに行くんだな」
首を傾げたボクに気付いたリボーン先生が、何処か楽しそうな笑みを浮かべて言う。
確かに、そうかもしれないけど、リボーン先生の顔を見ていると、多分知らないと言うのは、嘘だと思えた。
多分、知っているけど、教えてくれないって顔だ。
「リボーン先生、何だか楽しそう…」
「クク、やっぱり、お前は優秀だな」
ポソリと呟いたボクの言葉が聞こえたのだろうリボーン先生がまたボクの頭を、叩くように撫でる。
何が優秀なのか分からないけど、リボーン先生が楽しそうって言うのは、誰でも気付くと思うんだけど
「普通は気付かねぇから、優秀なんだ」
あう〜っ、またリボーン先生に心を読まれたよ。
でも、気付かないのが普通なの?良く分からない。
ボクには、何となく分かるんだけど
「考えてねぇで、早くダメツナの所に行って来い。あいつの事だ、仕事も手に付かず、お前の事を待ってるだろうからな」
「……仕事しないのは、ダメだよね?」
「そうだな。だから、安心して仕事が出来るようにしてやれ」
何となく考えたボクに、リボーン先生が促すように返してきたその言葉に、恐る恐る口を開けば、ニヤリと笑ってリボーン先生が頷いて返してくる。
ボクもそれに頷いて、もう一度リボーン先生にペコリと頭を下げてから部屋を出た。
ボクが勉強しているのは、リボーン先生の部屋。
最初はつなよしの部屋でって言ってたんだけど、リボーン先生が反対したので、リボーン先生の部屋で勉強している。
そろそろボクにも部屋を与えるべきだって、みんなが言ってるんだけど、多分、一人になるとボクはもう眠れないかもしれない。
だって、眠る時、つなよしに抱き締められて眠るのが当たり前になっちゃっているから
つなよしに抱き締められて眠ると、怖い夢も見ないで眠れるんだ。
「つなよし?」
大きな扉の前で立ち止まってから、数回ノックをして中へと声を掛ける。
「ああ、雪だね。入っておいで」
そうすれば、直ぐに中からつなよしの声が聞こえて来た。
それにコクリと頷いてから、ゆっくりと扉を開いて中を覗き込む。
「今日の勉強は、終わったの?」
中を見ると、つなよしが笑顔で質問してくる。
それに対して、ボクはコクリと頷いて返した。
「リボーンの授業は、辛くない?」
「リボーン先生、やさしい、から、ボクが出来なかったら、怒るけど……」
頷いたボクに、また笑って今度はちょっと心配そうな顔をして質問してくる内容に、ボクは素直に返事を返した。
出来なかったら、怒るけど、でも、それはボクが悪いし、何よりも怒っていても、それはボクの事を思って怒ってくれているのだと分かるから、とっても嬉しい。
「そっか……」
「つなよし、毎日同じ事、聞いてる……用事は、それ?」
素直に返したボクに、つなよしが少しだけ残念そうに、頷く。
その意味が分からなかったけど、毎晩同じ内容の事を聞かれているから、不思議に思いながらも聞き返してみた。
「ああ、違うよ。そっちは、何時もの癖。ちょっとこの書類を終わらせてから話すよ、待っててね」
質問したボクに、つなよしは手に持っていた書類をボクに見せてからそう言う。
ボクは、それに頷いて、部屋の中に置かれている大きなソファに座った。
チラリと見るのは、真剣な表情で書類とにらめっこしているつなよしの顔。
ボクに自由をくれた人。
そして、ボクにとって初めて大好きになった人。
「どうしたの?」
じっとつなよしを見ていたからか、ボクの視線に気付いたつなよしが問い掛けてくる。
ど、どうしよう、お仕事の邪魔しちゃった。
「お仕事の邪魔して、ごめんなさい。なんでも、ない、です」
書類からボクへと視線を向けてくるつなよしに、慌てて謝罪する。
お仕事の邪魔は、しちゃいけなかったのに……
「本当に、ごめんなさい」
「う〜ん、別に怒ってないんだから、そんなに謝る事ないよ。そんなに謝られると、逆にオレが悪い事しちゃったみたいだからね」
「……ご、めんなさい」
シュンとして、もう一度謝罪したボクに、つなよしが苦笑を零しながら返してくる。
それに、ボクはもう一度謝罪の言葉を口に出した。
だって、お仕事の邪魔しちゃったのは、ボクなんだから、謝るのは当然のことだよね?
「うーん、それじゃ、雪がそれ以上謝らない為にも、オレは早く書類を終わらせないとだね」
下を向いてしまったボクに、つなよしの声が聞こえて来て顔を上げる。
顔を上げれば、笑顔のつなよしが居て、ボクはホッとしてコクンと頷いて返した。
その後、またつなよしは仕事に戻ってしまう。
ボクは今度こそ邪魔をしないように、窓の外へと視線を向ける。
そう言えば、ここに来た時も、あの場所に居た時も、ボクはこの空を見ていた。
あの場所に居る時は、空に憧れながら、風に触れてみたいと、そう願いを込めて
そして、ここに来た時は……
「雪、終わったよ」
考え事をしながら窓の外を見ている間に、つなよしの仕事が終わったらしく、名前を呼ばれた瞬間現実へと引き戻される。
あれ?ボク、何を考えてたんだっけ?
「どうしたの、雪?」
自分の状況が分からなくて、思わず首を傾げたボクに、またつなよしが声を掛けて来た。
「ううん、なんでもないの。つなよし、おつかれさま」
「有難う、待たせてごめんね」
「ううん、ボクは待つの平気だから」
何もしないで、ずっと過ごしてきたから、だから自然と何もせずに時間が流れる方法を知っている。
それは、生きる為には必要な事だったから
「そう、さっきは何を考えていたの?」
「ううん、何も、考えてないよ」
ボンヤリしていた時の事を質問されて、首を振って返す。
うん、何も考えてなかったと思う……そう、空を見ていただけ……
あれ?考えていたんだっけ?
良く、分からないや。
「そう?じゃあ、オレの気の所為だったのかな?」
「つなよし?」
「何かを考えているように見えたからね」
言われた事に、思わず首を傾げて返してしまう。
ボク、何かを考えているように見えたのかなぁ?
でも、何かを考えていた訳じゃない。
そう、ちょっとだけ昔を思い出していたんだ。
「分からなかったらいいんだよ。それじゃ、オレの用事に付き合ってもらってもいいかなぁ?」
「つなよしの、ようじ?」
「うん、今日が、何の日か知っている?」
「今日?」
首を傾げたボクに、つなよしが少しだけ困ったような表情をしてから、直ぐにその顔が笑みを浮かべて質問してくる。
えっと、今日?今日は……
「12月24日?」
「うん、そうだよ。その日が何の日か分かる?」
今日の日を聞かれたから答えたら、更に質問された。
でも、その質問に答える事が出来なくて、また首を傾げて返してしまう。
「やっぱり、知らないか……」
「つなよし?」
分からない事を示したボクに、つなよしがちょっとだけ寂しそうな顔を見せる。
なんで、つなよしがそんな顔をするのかが分からなくて、ボクはただつなよしの名前を呼んだ。
「今日はね、クリスマス・イヴなんだよ」
「くりすます・いぶ?」
「そう、クリスマスの前の日だから、クリスマス・イヴ」
ボクが名前を呼んだら、つなよしは振り切るように笑顔を見せて今日が何の日なのかを教えてくれた。
くりすますの前日、だから、くりすます・いぶ?
なら、くりすますって、何の日なんだろう??
「うん、クリスマスって言うのはね、神様が生まれた日なんだ」
「神様の誕生日?」
「うん、そう。だからね、みんなでお祝いをする日なんだよ」
ボクが疑問に思った事を汲み取って、つなよしが説明してくれる。
神様が生まれた日だから、みんなでお祝いするんだ。
でも、神様って、どんな人なんだろう?
「つなよし、神様って誰?」
「えっ、あれ?しまった、そこから説明しなきゃいけなかったんだ……えっと、神様って言うのは……」
分からなくて質問したボクの言葉に、つなよしが少しだけ焦ったように口を開く。
ボク、難しい事を聞いたのだろうか?
「神様って言うのは、雪を創った奴だな」
「リボーン先生」
必死で説明しようとするつなよしに変わって、別の誰かの声が聞こえてくる。
その声に振り返れば、ドアの所に居たのは、先程別れたばかりのリボーン先生。
「ボクを創ったのは、神様なの?」
「人間を創ったとされるのは、神だと言うが、実際には存在せず、あくまでも想像上の産物。まぁ、人間は、居もしないモノを崇めてはいるがな」
ボクを創ったのが神様だって言うリボーン先生の言葉に驚いて質問すれば、難しい言葉が返ってきた。
えっと、リボーン先生の言葉をまとめると、神様って、結局は、居ないって事になるのかなぁ?
それじゃ、くりすますって言うのは、居ない神様の誕生日をお祝いする日なの?
居ない人なのに、お祝いするなんて、なんか、変。
「リボーンは、またそうやって嘘を教えるなよ!」
「嘘じゃねぇだろう。まぁ、真実でもねぇけどな」
「えっ?嘘、なの?本当なの?」
「えっとね、嘘って言うか……」
居ない神様をお祝いするって教えてくれたリボーン先生に、つなよしが怒る。
嘘じゃないけど、本当でもないって言うリボーン先生の言葉に、訳が分からなくなって聞き返せば、つなよしが困ったような表情をして必死で考え始めた。
じっとボクが見詰める中、漸く考えが纏まったのか、つなよしの顔がぱっと明るくなる。
「うん。クリスマスって言うのはね、イエス・キリストって言う神様が生まれた日なんだ。キリストは、色々な奇跡を起こしたから、神様みたいだって言われた人なんだよ」
「偉い人だから、みんなでお祝いするの?」
「う〜ん、なんて言うか、祝ってみんなで幸せになろうって言う気持ちがあるんだと思うんだ」
「神様の誕生日をお祝いすると、幸せになれるの?」
「そうだね。いい子には、サンタクロースからプレゼントが貰えるから、子供にとっては嬉しい日だと思うんだけど……今では、恋人達の日なんてなんとも悲しい現実状態だけどね」
「……さんたくろーすって、誰?」
苦笑交じりに説明してくれたつなよしの言葉に、また分からない言葉が含まれていたので質問する。
さんたくろーすから、プレゼントって事は、さんたくろーすは、人、なんだよね?それとも、さんたくろーすも神様なの?
「うっ、えっと、サンタクロースって言うのは……」
ボクの質問に、またつなよしが困った表情をする。
聞いちゃいけない事だったのかなぁ?でも、ボクには、くりすますも、神様も、さんたくろーすも分からないから
「サンタクロースって言うのは、クリスマスの夜に不法侵入して子供にプレゼントを配って回る太っちょのじーさんの事だぞ」
分からないボクに、また楽しそうに笑いながらリボーン先生がさんたくろーすについて教えてくれた。
えっと、でも、ふほうしんにゅうは、いけない事なんだよね?
なのに、プレゼントを配る人なの?それって、悪い人?それとも、いい人なの??
「リボーン、そんな夢も希望もない説明するなよな!」
「何言ってやがる、居ないとは言ってねぇんだから、ちゃんと夢があるじゃねぇか」
混乱しているボクには気付かない様子で、つなよしがまたリボーン先生に怒鳴る。
でもリボーン先生は、『居ない』って言うって事は、さんたくろーすも神様と一緒で、存在しない人なのかなぁ?
うう、頭が混乱してきちゃった……くりすますって、とっても難しい。
「雪?」
頭を抱えて混乱しているボクに気付いたつなよしが、ボクの名前を呼ぶ。
うん、つなよしに名前を呼んでもらうと、ちょっとだけ落ち着いた。
「だいじょうぶ、えっとね、ちゃんとまとめるから、ちょっとまって・・・・・・・くりすますは、きりすとって言う神様のお誕生日で、それをお祝いする日……それで、その夜にさんたくろーすがプレゼントを配ってくれるんだよね?えっと、さんたくろーすも、神様とおんなじで、想像上の人でいいの?」
これで合っているのかどうか心配そうにつなよしを見れば、ため息をつかれてしまう。
あれ?間違っていたのかなぁ??
「つなよし」
「色々突っ込みたいんだけど、うん、間違ってはいないよ。子供には夢も希望ない内容になっちゃったけどね」
心配してつなよしの名前を呼べば、苦笑交じりに頷いてくれた。
でも、何処か諦めたように見えるのは、気の所為かなぁ。
「バッチリじゃねぇかよ。流石は、オレの生徒だな」
だけど、リボーン先生は満足そうに頷いてくれた。
ボクの事を褒めてくれたリボーン先生に、素直に喜んでもいいのかなぁ??
どう言う反応を返したらいいのか分からなくて、チラリとつなよしを見れば諦めたようにため息をついていた。
多分、ボクはつなよしが望んでいる答えとは違うものを答えてしまったんだろう。
「そんな顔しなくてもいいよ。まぁ、間違いじゃないんだから、気にしなくていいからね。だから、そろそろ本題に入っていいかなぁ?」
心配になってつなよしを見ていれば、優しく微笑みながらつなよしが問い掛けてくる。
それにボクは、コクリと頷いて返した。
そう言えば、つなよしの用事をまだ聞いてなかったっけ
「今日がクリスマス・イヴって言うのは、もうこの際横に置いといて、クリスマスにはいい子にプレゼントをするのがお約束なんだ。だから、オレは雪にプレゼントを渡そうと思ったんだよ」
「ボクに、プレゼント?」
聞き返したボクに、つなよしが頷いて返してくれる。
でも、ボクはここに居られるだけで十分なのに、プレゼントを欲しいと思った事はない。
そして、何よりもいい子だとは、思えないから……
「でも……」
「雪は、とってもいい子だよ。だからこそ、プレゼントを受け取る資格があるんだ」
「オレも認めているんだから、安心しろ」
つなよしに、言葉を返そうとすれば、それを遮られて優しい手がボクの頭を撫でてくれる。
そして、その隣でリボーン先生が当然だと言うような笑みを浮かべていた。
ここに居られるだけで、ボクにとっては十分なプレゼントなのに、どうしてこの人達は、こんなにも優しいんだろう。
「ボクにとっては、ここに居られるだけで、十分なプレゼントだから……」
「それはプレゼントじゃないよ。ここはもう雪の家なんだから、当たり前の事。だから、プレゼントでもなんでもないんだからね」
だから、何もいらないと言う事を伝えようとしたボクの言葉は、またつなよしによって遮られて否定されてしまった。
でも、それは、ボク一人だけがこんなにも幸せで、許されるのだろうか?
だって、あの場所に居たみんなは、苦しみの中でその命を散らしていったのに……
「それは間違いだな。だからこそ、お前が幸せにならねぇといけないんだぞ」
「リボーン先生?」
「そうだね、他のみんなの為にも、雪が幸せになる事が、みんなへの弔いにもなるんだと思うよ」
「つなよし」
目の前で連れて行かれた子供達の事を考えていたボクの心を読んだようにリボーン先生がポンッと頭に手を乗せる。
それに続いて、つなよしがギュッとボクを抱き締めながら口に出したその言葉も、ボクの心を読んでいたように的確な言葉だった。
「ボクが、幸せになっても、いいの?」
今だって、十分幸せだと思えるのに、これ以上何を望めばいいのかなんて分からない。
だけど、ボクが幸せになる事で、罪滅ぼしになるというのなら、ボクはみんなの為にもっと幸せになりたいと思う。
「勿論だよ」
ボクの質問に、またギュッとつなよしがボクの事を抱き締めてくれる。
この温もりに出会えたからこそ、ボクは今、こんなにも幸せなんだと思えるんだ。
『ありがとう、つなよし』
「えっ?雪、日本語?!何時、覚えたの??」
ボクに沢山の幸せをくれたつなよしに、ボクは覚えた日本語でお礼の言葉を口にした。
まだ一度も上手く言えた事はなかったんだけれど、今が、つなよしに言う時だとそう思ったから
予想通り、つなよしはすごく驚いてくれた。
ボクの目の前で驚いているつなよしに、笑顔を見せる。
「ああ、上出来だ」
そして、リボーン先生から、笑顔で頭を撫でて貰う事が出来た。
クリスマスって、良く分からないけど、本当に幸せになれる日なのかなぁ?
それって、神様って言う人が、みんなに幸せを与えてくれているからなのかもしれない。
「夜には、隼人達も集まって、クリスマス・パーティーを開く事になっているから、楽しみにしててね」
「その為に、こいつは幾つのパーティーを蹴ったか、考えたくもないぞ」
「別にいいだろう!ちゃんと代理のヤツは向かわせてるんだし、ディーノさんはちゃんとこのパーティーに招待してあるんだから!」
嬉しそうに教えてくれたつなよしに、リボーン先生がため息をつきながら言えば、それにつなよしが返事を返した。
えっと、ディーノって言うのは、確かリボーン先生の弟子でつなよしにとっては、兄弟子になるんだったよね?
ディーノも、つなよしと同じで確か、きゃばろーねファミリーのボスさん。
何度か会った事があるけど、優しくてとっても温かい感じの人だった。
優しくて温かいところは、とてもつなよしに似ていて、ボクのことも嫌がらずに少し大きな手で頭を撫でてくれる人。
「ディーノ、くるの?」
出て来た名前に、首を傾げて問い掛けてみる。
クリスマス・パーティーに招待していると言う事は、来るって事だよね?
「ああ、うん。来てくれるらしい。雪にプレゼント持ってくるから『楽しみにしてろ』って言っていたよ」
ボクの質問に、つなよしがニコニコと嬉しそうに頷いてくれた。
えっと、ボクにプレゼント持ってきてくれるって……ボクは、それを貰ってもいいのかなぁ?
「ディーノのヤツがお前の為に用意したんだから、貰わなくてどうすんだ」
嬉しそうにつなよしが言ったその言葉に、考えていたらリボーン先生がポンと頭の上に手を置いて呆れたように返されてしまった。
うん、またリボーン先生に心の中を読まれちゃったんだね、ボク。
「そうだね、ディーノさんが雪の為に頑張って選ぶって言ってたんだから、笑顔で受け取ってあげて欲しいな」
「えがおで?」
「そう、ディーノさんがまだ雪の笑顔を見た事ないって、嘆いていたからね」
「ボクの、えがお?」
「うん、雪の笑顔」
ボクなんかの笑顔、見たいのかなぁ?
でも、ボクまだちゃんと笑顔が出来ているのか良く分からないんだけど
つなよしとリボーン先生の誕生日の日にちゃんと笑えていたって言ってくれたから、大丈夫なのかなぁ?
「ボク、笑えるかなぁ?」
「無理して笑わなくていいんだよ。雪が笑いたいと思ったら笑ってあげてね」
心配して困ったように言えば、つなよしが優しく言ってくれる。
無理に笑う必要がないって言われただけで、ボクはホッとした。
「うん、その笑顔で大丈夫だよ」
そしたら、つなよしが嬉しそうに返す。
あれ?ボク、笑っていたのかなぁ?やっぱり、良く分からない。
つなよしが笑いながら言ってくれたその言葉に、首を傾げてしまう。
「で、お前は何時になったら雪にプレゼントを渡すんだ、ダメツナ」
「あっ!すっかり話が違う方向に行ってた?!そうだった、オレから雪にプレゼントを用意してたんだけど、何をプレゼントすれば喜ぶか分からなくて、迷ったんだけどね」
「ごちゃごちゃ言ってねぇで、さっさと案内してやったらどうなんだ」
だけど、そんなボクとつなよしの間にリボーン先生が呆れたように口を開けば、つなよしが苦笑零しながら返したそれに、またしてもリボーン先生の突込みが入る。
えっと、案内?
プレゼントに案内が必要なの?
「煩いなぁ!今から案内するところなんだから、リボーンは黙ってろよ」
「オレが口を挟まねぇと何時まで経っても先にすすまねぇだろうが、ダメツナ」
「ダメツナって言うなっていつも言ってるだろう!」
だけどつなよしは、そんなリボーン先生に怒鳴るから、また二人の言い合いが始まってしまう。
ボク、この場合、どうしたらいいんだろうか……。
どうすればいいのか分からなくて、思わすオロオロしながら二人の遣り取りを見守る事しか出来ない。
リボーン先生はとっても楽しそうだけど、つなよしは本当に迷惑そうだから、止めた方がいいのかなぁ?
「おーい、雪が困ってるのな」
どうしたらいいのか分からなくて困っているボクを、誰かが後ろから抱き上げる。
突然の事に、ボクは驚いてボクを抱き上げた人物を見た。
「たけし?」
「おう、今仕事から戻って来たのな」
「おかえりなさい」
「ただいまなのな、雪」
ボクを抱き上げたのは、顔にちょっと傷があって怖そうに見えるけど、とっても優しくて頼もしいたけしだった。
でも、何時部屋に入ってきたんだろう?ボク、ノックの音に気付かなかったんだけど……
「って!武、何雪を勝手に抱き上げてるの!!しかも、ノックせずに入ってくるなって、何時も言ってるのに」
「固いこと言うなって!」
あれ?たけしは、ノックせずに入ってきたの?
それじゃ、ボクが気付かなかったんじゃなくって、気付かれないように入ってきたって事なのかなぁ?
つなよしに怒られても全く気にした様子もなく、たけしはボクを抱き上げたまま何時もの笑顔を見せている。
「はぁ、兎に角、雪を降ろしてよ」
「ああ、わりぃわりぃ」
そんなたけしに、つなよしは疲れたようなため息をついた。
全く悪いとは思っていないような謝罪をして、たけしがボクを降ろしてくれる。
それから、少しだけ乱暴な動きでボクの頭を撫でてくれるのは、たけしの大きな手。
「なんにしても、お疲れ様。今日に間に合って良かったよ」
「おう、連絡貰って、慌てて終わらせたのな」
そんなボクとたけしを見て、つなよしがもう一度ため息をつきながら安心したように言われた言葉に、またたけしが笑顔を見せる。
「雪には、土産を買ってきてるのな」
「有難う」
わしゃわしゃと頭を撫でながら言われた言葉に、コクリと頷いて素直にお礼の言葉を口に出す。
たけし達は、仕事で出掛ける時には、何時もお土産を買って来てくれる。
食べ物だったり、置物だったり、色々だけど、ボクの為に買って来てくれることがとっても嬉しい。
たけしは、食べ物を買ってきてくれることが多いので、みんなで食べるのが好き。
「とりあえず報告書は後回しでいいから、夕方まではまだ時間もあるしゆっくりしてていいよ」
「了解。んじゃ、部屋で休ませて貰うのな。雪、オレの部屋に来るか?」
「ううん、ボクが一緒だとたけしが、ゆっくり出来ないよね……それに、つなよしの用事がね、まだ終わってないの」
「そっか、んじゃ土産は後で渡すのな」
「うん、有難う」
たけしが部屋に誘ってくれたけど、それを断れば、またわしゃわしゃと頭を撫でられる。
それから言われた言葉にもう一度お礼を言って、たけしが部屋から出て行くのを見送った。
『時々、武に対して殺意を抱きたくなるんだけど……』
『お前は、心が狭すぎなんだぞ、ダメツナ』
パタンとドアが閉まった瞬間、ため息をつきながらつなよしが良く分からない事を言うのに、リボーン先生が呆れたように返す。
日本語で言われた会話は、良く分からない。
まだ、そこまで日本語は理解できないから
「つなよし?」
「なんでもないよ。それじゃ、上着着てちょっと外に出ようか」
心配になって名前を呼べば、つなよしが何時もの笑顔を浮かべながら返してきた。
えっと、上着を着て外に出るって、何処かに出掛けるのかなぁ?
「とりあえず、着いて来てね。リボーン、暫くここ頼むね」
「ああ、仕方ねぇから留守番しててやる」
リボーン先生に声を掛けながら、ボクに上着を渡してくる。
てっきり部屋に取りに行くのだと思っていたから、ちょっと驚いた。
ちゃんと、準備しててくれたんだ。
渡された上着を手に持って、つなよしの後に続いて執務室を出る。
ドアを閉める前に部屋の中を見たら、リボーン先生が楽しそうな顔をしていたのが見えた。
一体、何があるのか分からないまま、つなよしに手を引かれ庭へと出る。
「えっと、確かここの辺に用意して貰ったんだけど……」
つなよしは庭に出て直ぐに花壇の方へと歩いて行く。
それから、少し辺りを見回してから、目的の物を見つけたのか満足そうに呟いた。
「ああ、あった!」
つなよしが見ているのは、何もない一つの花壇。
今の季節、花は咲いていなくても、葉っぱや茎なんかは残っているのに、その花壇には本当に何もない。
「つなよし?」
「うん、この花壇はね、雪の花壇だよ」
何もない花壇に、不思議に思いながらつなよしの名前を呼べば、満足そうな笑顔と共に信じられない言葉が聞こえて来た。
えっと、ボクの花壇?
でも、ボク花壇なんて、持ってないよ?
「だからね。これがオレからのプレゼント。雪、自分で植物を育てたいんだってね。庭師から聞いて、ここを準備して貰ったんだよ」
ニコニコと嬉しそうに言われるつなよしの言葉に、ボクは驚いて何も言えなかった。
だって、本当に一度だけ言った言葉を、まさかつなよしが知っているなんて思わなかったから
確かに、一度だけ庭師のおじさんに言った事がある。
色トリドリの花をボクも育ててみたいって
「雪?」
だけど、たった一度だけの言葉を聞き入れてくれるなんて、思いもしなかったんだ。
でも、ボクの為に、つなよしがここを準備してくれた事が、とっても嬉しい。
「もしかして、気に入らなかった?」
どう言う反応を返せばいいのか分からなくて、呆然としているボクに、つなよしが心配そうに名前を呼んでから困ったように質問してくる。
不安そうな声で質問されたそれに、ボクはただブンブンと首を振って返した。
とっても嬉しい。
だけど、嬉し過ぎて、どう言う反応で返したらいいのかが分からない。
「とっても、うれしいの……あり、がとう、つなよし」
ボクに出来たのは、必死に自分の気持ちを言葉にするぐらいだった。
本当に嬉しいのに、それを言葉で伝えるのは難しい。
ああ、これじゃ、つなよしが心配しちゃうのに
「うん、大丈夫だよ。雪がとっても喜んでくれているんだって、ちゃんと分かっているから」
必死で言葉を探して居るボクを、急につなよしが抱き寄せてポンポンと背中をあやす様に叩く。
それにボクは、少しだけ落ち着いてホッと息を吐き出した。
でも、なんだろう。
今日のつなよしは、まるでボクの心を読んでいるかのように、分かってくれる。
落ち着いて考えてみると、何度かまるでリボーン先生みたいなタイミングでボクの心を理解しているような気がするんだけど
もしかして、つなよしも読心術使えたりするのかなぁ?
「えっと、うん。実は、リボーンに叩き込まれていたりするんだよね。でも、身内にはほとんど使ってないんだよ!何時も、雪の心の中は知りたいと思っていたんだけど、今日はちょっと……あっ!」
ボクが疑問に思った瞬間、その疑問に答えるようにつなよしが頷く。
少し困ったように言われたその言葉に、ボクは驚いてつなよしを見上げた。
ボクが見上げた事で、つなよしはしまったと言うように声を出す。
もしかして、読心術使える事、知られたくなかったのかなぁ?
「出来れば、ね……自分の心の中を読まれるのって、嫌だよね?」
「ううん。リボーン先生やつなよしなら、ボク嫌じゃないよ」
またボクの心を読んで返事を返してくれたつなよしに、今度はちゃんと口に出して言葉を返す。
ボクは、ここに来てから考える事を知ったし、何かを感じる事が出来るようになった。
それは、全部つなよしや、リボーン先生が、ボクに教えてくれた事。
だから、誰よりもボクを分かって貰いたいって思うから、心を読まれても、嫌だ何て思わない。
リボーン先生曰く、『本当に読まれたくないなら、読まれないようにしろ』と言うのが、正しいと思うから
「……やっぱり、リボーンに雪の教育任せたの間違いだったかもしれない。それ、違うから!人にはプライバシーを守る権利もちゃんとあるんだからね!」
ボクが考えた事に、つなよしが盛大なため息をついて、僕の考えを否定する。
でもね、ボクは、今のままでいいと思うんだ。
だってね、ボクは、まだそんなに言葉に出来る事が多くはないから、考えを読んで貰う方が楽なの。
ボクの心を分かって、それに何時でもちゃんと分かり易い返事をしてくれるのは、ボクにとってはいい勉強方法だと思う。
だって、何時もリボーン先生に言われてるんだけど、遠慮して口に出せないボクの心を理解してくれて、教えてくれるのは、きっとリボーン先生だけだと思うから
「はぁ〜、そこまで言われちゃうと、反対できないよ。雪は、リボーンに教えて貰うのが、好きなんだね」
「うん、リボーン先生の教え方は、合ってるんだと思う」
「まぁ、スパルタ教育じゃないみたいだし、リボーンに任せておくよ」
「ありがとう、つなよし」
諦めたように納得してくれたつなよしに、素直にお礼の言葉を口にする。
そうすれば、つなよしがボクに笑ってくれるから
「そろそろディーノさんも来る頃だし、それじゃ、部屋に戻ろうか」
「うん、つなよし。花壇、準備してくれて、本当にありがとう」
「どーいたしまして、雪が何を植えるのか、楽しみにしているからね」
ゆっくりとボクを離してから、つなよしが言ったその言葉に頷いて、もう一度花壇をくれた事に対してのお礼を言えば、つなよしが笑いながら返してきた事に、思わず考えてしまう。
そうだった。
花壇に何を植えるか、それをまず考えないといけないんだ。
なら、自由な友達に聞けば、きっと何か教えてくれるだろう。
「うん、みんなと考えるね」
「あーっ、庭師に聞いた方が良くない?まぁ、雪が好きなようにしていいんだけどね」
考えて返したそれに、つなよしがなんともいえない顔をしたけど、小さくため息をついて返してくれる。
ボクの好きにしていいって言ってくれたつなよしに、ボクは知らずに笑顔を返していた。
今日、ボクは、生まれて初めてプレゼントをいっぱい貰った。
みんながボクに笑ってくれる事が、とっても嬉しい。
ディーノとそのファミリーの人達も一緒に、とっても楽しい時間を過ごしたんだ。
知らない間にボクも、笑っていて、ディーノが急に抱き付いてきたのには、すっごく驚いた。
その後、つなよしとリボーン先生がディーノを怒っていたけど、ボクはビックリしたけど抱き締められるのは、嫌いじゃない。
ここに来る前は、あんなにも人に触られる事を恐れていたのに
それは、ずっとつなよしがボクに優しく接してくれたからだと思う。
だから、ボクはここに居るみんなが大好き。
普通じゃない色を持つボクにも、こんなにも優しく接してくれるし、抱き締めてくれるから
ボク一人が、こんなにも幸せになっていいのか分からないけど、つなよしもリボーン先生も言ってくれるから、それを信じたい。
ボクが幸せになる事が、みんなの為になるんだって言うその言葉を