あの人が生まれた日だと、教えてもらった。
ボクに名前をくれた、大好きな人の生まれた日。
でも、ボクはそんな大切な日に何をすればいいのかが分からない。
だって、誰も誕生日のお祝いの仕方なんて教えてくれなかったから
ボクの家庭教師になってくれたリボーン先生に聞いた事を思い出しながら、ぼんやりと外を見詰める。
ボクが窓の外を見るのは、もう染み付いてしまった日常の一部だから
あの人は、ボクが窓の外を見るのは、あんまり好きじゃないと言っていたけど、どうしてだろう?
ぼんやりと見詰めた空は、まるであの人みたいに何処までも青く広がっていた。
外を見ていれば、ボクの姿を見付けて自由な友達が声を掛けてくる。
最近出来た名前で呼ばれるのはまだ慣れないけれど、名前を呼ばれるのは好き。
だって、あの人がボクに付けてくれた名前だから
そんな事を考えていたボクに、友達が心配そうに声を掛けてくる。
何を考えているのかを聞かれて、ボクは一瞬考えてからみんなに質問した。
「あの人の、生まれた日にね、お祝いをしたいんだけど、どうすればいい?」
ボクの質問に、みんな意味が分からないというように首を傾げる。
えっと、どう説明すればいいんだろう。
ボクも、良く分からないからうまく説明できないんだけど……
必死で言葉を探すけど、やはりなんと言えばいいのか分からなくて口を閉ざす。
ここに来てたくさんの事を知ったのに、それでも自分の中の言葉はこんなにも少ない。
「何を小鳥に相談してやがるんだ、雪?」
どうすれば伝わるのかを必死で考えていた瞬間、いきなり声が聞こえてきてボクの傍に居たみんなが飛び立ってしまった。
「あっ!」
大事な相談相手が居なくなってしまった事に焦って声を出すけど、みんなは戻っては来てくれない。
それが少し寂しくもあったけれど、でも自分に声を掛けてきてくれた相手を無視する事が出来なく振り返る。
「リボーン先生」
振り返った先に居たのは、ボクの家庭教師をしてくれているリボーン先生。
家庭教師だと言われた時から、先生呼びをしろと言われたので、ちゃんと先生と呼んでいる。
「どうした、ダメツナに何か言われたのか?」
そっと名前を呼んだボクに、リボーン先生が質問して来たそれにフルフルと首を振って返す。
リボーン先生は、あの人の事をダメツナって呼ぶけど、何でダメツナなのか、ボクには良く分からない。
聞いたら教えてくれるのかな?
「まぁ、あいつはアメーから、お前に文句を言う事はねぇだろうがな」
ボクが首を振って返した事にリボーン先生が、当然と言うように返してくる。
うん、ボクはあの人に怒られた事は一度もない。
あの人は、優しいから、ボクを怒ったりしないから
「なら、何を考えていたんだ?」
真っ直ぐにリボーン先生を見て頷いたボクに、再度質問される。
リボーン先生なら、知っているのかなぁ?
ボクに、あの人の誕生日を教えてくれたのはリボーン先生なんだから、きっとどうすればいいかも教えてくれるはずだよね?
「……リボーン先生、誕生日のお祝いって、何をすればいいの?」
「誕生日のお祝い?ああ、ダメツナの誕生日をちゃんと覚えていたのか……だがな、その前日はオレの誕生日だぞ」
「えっ?リボーン先生も、誕生日、なの?」
意を決し質問したボクに、リボーン先生が思い出したように頷いて、更に続けて言われたそれに問い返す。
だって、リボーン先生の誕生日だって言うのは、初めて聞いたから
「そうだ。オレの誕生日はダメツナの前日だぞ。勿論、祝ってくれるよな?」
質問するように返したボクに、リボーン先生はニヤリと笑って返してくる。
祝いたいんだけど、ボクにはそのお祝いの方法が分からないのに、どうやってお祝いすればいいんだろう。
「ボ、ボク、どうすれば、お祝いできる?」
分からないから、質問する。
だって、ここに居る人達は、ボクに自由をくれたから
生きる事を教えてくれた人達だから、だから、ボクに出来るお祝いをしたい。
「……笑顔で、『おめでとう』と言ってみるんだな」
訴えるようにリボーン先生を見ていたんだと思う、小さくため息をついたリボーン先生が、ポツリと言ったその言葉に一瞬思考がついていけなかった。
「笑顔?」
笑顔って、笑う事だよね?
でも、ボクが笑っても、嬉しくないと思う。
それに、ボクはうまく笑えない。
コテリと首を傾げて聞き返したボクに、リボーン先生が頷く。
笑顔で、『おめでとう』を言うのが、お祝いする事なの?
良く分からないけど、リボーン先生がボクにウソを教える事はないから、多分それがお祝いになるんだと思う。
だけど、ボクに上手くそれが出来るか分からない。
「練習だ、オレに言ってみろ」
不安に思っていたボクに、リボーン先生が問答無用で強制してきた。
ここで断ったりすれば、リボーン先生の機嫌が悪くなるのは分かっている事だ。
そうすると、あの人が八つ当たりされるらしいので、それは避けたい。
「えっと、笑顔で、『おめでとう』だよね?」
「ああ、祝いたいと言う気持ちで、言ってみろ」
そうなるのはイヤだから、ボクが確認するよう聞けば頷いて返される。
さらに付け足すように言われた内容に、ボクは一生懸命考えた。
えっと、お祝いしたいという気持ちで……
「……おめでとう」
ボクが出来る精一杯の気持ちを込めて、その言葉を口にする。
うまく笑顔を作れたのかどうかは、分からない。
だって、ボクはうまく笑えないから
「合格だぞ。当日、もう一度オレに言うんだ」
「えっ、うん」
ボクが言ったその言葉で、リボーン先生が一発で合格をくれた。
あれ?あれで良かったのかなぁ?
良く分からなかったんだけど……
それから、リボーン先生の誕生日に同じようにその言葉を言ったら、あの人がリボーン先生に何でか文句を言っていた。
えっと、早口で言われているから何を言っているのかまでは分からなかったんだけど、ちょんとその次の日に同じようにあの人に同じ言葉を言ったら、泣いて抱き付かれた。
『やっぱり、笑顔が可愛い』とか『成長してくれて、寂しいような嬉しいような…』とか良く分からないことを言われたんだけど、それは喜んでもらえたと思っていいのかな?
初めて人の誕生日を祝った。
それは、ボクに名前をくれた人の誕生日。
ボクが今、一番大切な人。
誕生日、おめでとう
-おまけ-
「何でオレよりも先にリボーンが雪(に笑顔でお祝いの言葉言われてるんだよ!」
リボーンの誕生日に、雪が綻ぶ様な笑みを見せながらリボーンにお祝いの言葉を口にしたのが気に入らなくて、文句を言う。
「お前よりもオレの誕生日が早いからに決まってるだろうが、ダメツナ」
そうすれば、当然のように返されるリボーンの言葉。
そんな事は分かっているけど、面白くないものは面白くないのだ。
最近漸く笑顔を見せるようになった雪のその笑みで、お祝いの言葉を貰うなんて羨まし過ぎる。
心が狭いと言われようと、この子供に対しての独占欲を自覚しているオレとしては、面白くないのだ。
「……ご、ごめんなさい」
リボーンに対して文句を言ったオレに、雪が謝罪してくる。
行き成り謝ってきた雪に気付いて、オレは慌てて首を横に振った。
「いや、雪に対して怒ってるんじゃないから!ただ、リボーンにムカついたと言うか……」
不安そうに見上げてくる赤い瞳に、オレは慌てて言い訳をする。
ああ、そんな顔をさせたかった訳じゃないのに……
「本気でダメダメだな」
そんなオレに、リボーンが呆れたように言う声が聞こえてくるけど、無視。
だって、不安そうにしている雪を少しでも安心させてあげる事の方が大事だから
「心配しなくても、本当に怒ってる訳じゃないんだ。うん、リボーンが、羨ましかっただけだからね」
必死で言ったオレの言葉に納得してくれたのか、漸く雪が頷いてくれる。
でも、オレのその言葉の意味はきっと理解していないだろう。
羨ましかった、その理由は……
そして、オレの誕生日に、雪がリボーンに見せた笑顔よりももっと綺麗な笑顔でオレにお祝いの言葉をくれた。
少し恥ずかしそうに言われたそれが、可愛くて、思わずその体を抱き締めてしまう。
時々見せてくれる笑顔は、本当に貴重で、今のオレにとってはとっても大切なもの。
そして、一番護りたいものだ。
この笑顔の為に頑張ろうと思えるほどに
それが、どう言う気持ちなのか、オレにも良く分かっていない。
親としての気持ちなのか、それとも……
その気持ちを理解するのは、まだまだ先の話。
今はただ、自分に嬉しそうに笑ってくれるその笑顔があるから、それを大切にしたいとそう思うだけだ。