気が付いたらもう外は真っ暗で、持っていた携帯で時間を確認しようと手に持てば数十件ものツナからの着信とメールが……

 恐る恐る開いたメールには、『今何処に居るの!』とか『すぐに連絡して!!』などの言葉しか綴られていなかった。




 別段大した事をしていた訳じゃない。

 うん、これは本当。

 場所だって、学校の教室で、周りに誰かが居る訳でもない。

 うんうん、これも本当。

 ただ、ちょっと頼まれた作業をしていたら、それに没頭して時間を忘れてしまっただけです。

 別に今日中じゃなくてもいいからと言っていたのに、全部終わらせちゃいました。
 その為に、こんな時間まで俺は気付く事なく作業に没頭していたと言う訳です。
 単純作業自体を嫌いじゃないからって引き受けたんだけど、こんなに集中するとは思わなかった。

 まさかツナも、学校に残っているなんて思ってないみたいで、心配して携帯に連絡を大量にしてくれたんだと思う。

「って、考えてる場合じゃない!ツナに連絡しなくっちゃ!!」

 どうしてこんな事になったのかを考えてしまった俺は、今現実にしなければいけない事を思い出して慌てて何度も掛かっている着信からリダイアルする。
 1回目のコールが鳴り終わる前に、即効で繋がる携帯に少しだけ驚いたけど、きっと手に携帯を持っていたんだろうと納得して口を開こうとした瞬間、自分よりも先に相手が俺の名前を呼んだ。

!今、何処に居るの!!!』

 その声が焦っているのが良く分かる。

「…………えっと、学校です」

 下手に何かを言う事も出来ず、暫く考えてから素直に口を開いた。

『何でまだ学校なんかに居るの?!とっくに下校時間は過ぎているはずだよね?!ヒバリさんに注意されなかったの?!』

 俺の言葉にまくし立てられる綱吉さんのお言葉。
 うん、確かに恭弥さんが見回りに来て追い出されても可笑しくないのに、俺は何も注意されなかった。

 あれ?そう言えば何時の間に教室の電気が点いたんだろう?俺は点けた記憶はないんだけど

「そう言えば、恭弥さんに注意されなかったなぁ……今日お休みかなぁ?」
『そんな訳ないでしょう!あの学校大好きが休みなんて有り得ないから!!』

 疑問に思ったそれを口に出して言えば、きっぱりと返されるツナの言葉。
 えっと、でも風邪ひいてお休みって事も考えられると思うんだけど……そうじゃなくても、風邪が流行っているみたいだし

「わざと見逃したんだよ。君が居る事は知っていたからね」
「恭弥さん?」

 聞こえてくるツナさんの言葉に苦笑を零した瞬間聞こえて来た声に驚いて振り返れば、そこに居たのは先ほど話題になっていた人物。

『恭弥さんって、何、そこにヒバリさんが居るの?』
「えっと、うん…あっ!」
「沢田綱吉、言いたい事があるなら直接聞くよ」

 俺の呟きが聞こえたのか、綱吉が質問してくるそれに頷けば近付いてきた恭弥さんが俺の持っていた携帯を取り上げてしまう。

『雲雀さん!何でを帰してないんですか?!何時もなら、規律を護らないヤツはとか言うくせに!!』
「何、この草食動物を咬み殺しても良かったの?」
『いい訳ありませんよ!!そんな事したら、オレが許しませんから!!!』

 そして、俺に代わって恭弥さんがツナと話をしているんだけど……
 俺は、この場合どうすればいいんだろう。

「なら珍しく見逃した事に感謝するべきなんじゃないの?」
『誰があなたなんかに感謝するんですか?!』

 ツナの声がここまで聞こえて来る。
 でも、二人の会話から分かった事は一つ。

「えっと、恭弥さんは、俺の事を見逃してくれたんなら、感謝した方がいいと思うんだけど……こんなに遅くまで付き合わせてしまってすみません」

 俺は、素直にこんな時間まで付き合ってくれた恭弥さんに謝罪の言葉と一緒に頭を下げた。

「別に、君の為に待って居た訳じゃないよ。声を掛けたのに、君が気付かなかっただけだからね」

 って、俺恭弥さんに声を掛けられたのに、気付かなかったなんて!!

「ご、ごめんなさい」
、何そこで謝ってるの?!雲雀さんが勝手にした事なんだから、謝る事ないんだからね!!』
「それから、ツナも心配掛けてごめんね」

 再度謝った俺の声が聞こえたのか、携帯の向こうからツナの声が聞こえてくる。
 それを聞いて苦笑を零しながら、ツナに聞こえるようにもう一度謝罪の言葉を口にした。

『謝って欲しい訳じゃないから!兎に角!!今からそっちに行く、はそこで待ってて』
「ツナ!」

 今からって、えっと、流石に俺は一人で帰れると言うか、迎えは必要なんだけど……
 そりゃ、確かに外は真っ暗だから、ツナが心配するのは今までの経験上良く分かるんだけど、だからって寒い中を態々来てもらわなくても

「心配しなくても、僕が送っていくよ」
『何、勝手なこと言ってるんですか!!大体それが一番心配なんですよ!!』

 迎えに来るというツナを止めようとその名前を呼んだ瞬間、携帯から少し距離をとっていた恭弥さんが有り得ない事を口にした。
 それに続いて聞こえてくるのは、ツナの言葉。

「えっと……」

 どうしたものかと考えている中、携帯が俺の手の中に戻ってくる。

「自分で説明したら」
「はい!」
『聞いてるんですか?!』

 携帯を耳に当てた瞬間、聞こえてくるのはツナの怒鳴り声。

 う〜っ、ちょっと耳が痛いです。

「ツナ、俺だけど……」
!何、雲雀さん、に携帯返したの?』
「うん、自分でちゃんと説明しろって」

 どうして、こんなに遅くなってしまったのかをきちんとツナに説明する。

 頼まれたのは、偶々。
 本当に申し訳なさそうにお願いしてきたクラスメイトに、笑顔でそれを承諾した事を説明した。

『何でそこでそんなお願い受けるからなぁ……』
「だって、困っていたから……それに、足手まといでしかない俺でも出来る事なら役に立ちたい」

 作業はいたって簡単な事だったから
 印刷された幾つかの用紙を順番通りに並べてホッチキスで止めるだけ
 本当は数人でやるような事だけど、今日は誰もが用事があると言って作業する人が居なかったのが理由。

 始めの内は、クラス委員の二人も一緒に作業していたんだけど、二人とも用事があるからって、本当に何度も何度も謝りながら帰っていった。
 だから、一人で作業していたんだけど、結構時間が掛かってしまったのだ。

 うん、クラス委員の二人は全部終らせなくても大丈夫だって言ってくれたんだけどね、明日早く来てやるからって……
 でも、俺は結局それを終らせてしまったので、クラス委員の二人にはちゃんと連絡しておこう。
 寒い中、朝早くから行動するのは、大変だからね。

「『……どうしてそこで、自分の事を足手まといとか言うの……』」
「ツナ?」

 あれ?気の所為かな?ツナの声が、二重で聞こえたような気が……

「君、来るのが早すぎるよ」
「勿論です。あなたなんかにを任せられませんから!」

 そして聞こえてきたのは、呆れたような恭弥さんの言葉と先ほどまで携帯電話を通して聞こえて来た声。
 驚いて振り返れば、携帯を片手に持っているツナが教室に入ってくる姿が……

「お待たせ、
「……いやいや、待ってないから!って、何でツナがここに居るの?!!」
「何でって、が帰ってこないから、心配して探してたんだよ」

 女の子じゃないのに、ちょっと遅くなっただけで探し回らなくっても……って言っても、もう既に8時を回ってるから、当然といえば当然か……
 しかも、全く連絡が取れない状態だったのだから、心配するなと言う方が無理な話だと思う。

「ごめん」
「いいから!ほら、帰ろう。母さん達も心配してたんだからね」
「うん、ごめん!」
「謝罪は分かったから、さっさと帰ってくれる。下校時刻はとっくに過ぎてるよ」

 ツナがゆっくりとした足取りで自分に近付いてきて、最後にはフワリと抱き締められる。
 きっと走り回っていたんだろう、ツナの体温は教室の中でずっと作業をしていて冷え切ってしまっていた俺の体をじんわりと包んでくれた。
 だけど、そんな俺達に不機嫌そうな恭弥さんの声が聞こえてきて、慌ててしまう。

「す、すみません!直ぐに帰ります!!」

 もう既に準備してあった荷物を持って、深々と頭を下げれば楽しそうな恭弥さんの笑い声が……

「本当に君は、飽きないよね」
「はい?」
「雲雀さんの事は気にしなくっていいから、帰るよ、!」

 不思議に思って恭弥さんを見上げれば、楽しそうな笑顔と共に言われた言葉の意味が分からずにますます首を傾げてしまった。
 そんな俺に、ツナが不機嫌そうに腕を取ってさっさと歩き出す。

「ちょっ、ツナ!!」

 突然の事にバランスを崩しそうになった俺は、転ぶと思った瞬間、誰かに抱き止められる。

「……何するんですか?」

 咄嗟に目を閉じた俺の耳に、不機嫌なツナの声が……
 って事は、俺を抱き止めたのって!

「何?なら、コレが転んでも良かったの?」
「あなたが助けなくても、オレが助けますから!!」

 恐る恐る目を開けば、俺の頭上でツナが恭弥さんを睨みつけていました。
 どうしよう、こうなったら長いんだよね……どうして毎回、似たような事で恭弥さんに文句を言うんだろう、ツナは

「あっ!」

 どうしたものかと考えている中、目に入った廊下の向こうの窓から見えたそれに、思わず声が出る。

「どうしたの、?」

 俺の声に驚いて、文句を言っていたツナが声を掛けてきた。

「雪が降ってる……初雪だ」

 闇の中チラチラ白いモノが見えて思わず声を上げた俺は、ちょっと感動したようにその事実を口にした。

「ああ、今日は本当に寒かったから……なのに、はそんな寒い中こんな寒い場所でずっと居たんだよ!分かってる?」
「う〜っ、ごめんなさい」

 って、事はこの雪が降る中、ツナは俺の事を探し回っていたって事になる訳で……
 どうりで、ツナの鼻の頭が真っ赤になっているはずだ。

「どうでもいいんですが、何時までを抱えているんですか?」
「君に文句を言われる筋合いはないはずだけど」
「十分にありますから!あなたに触られるだけで、が穢れます!!」
「ツ、ツナ」

 ああ、折角険悪なムードから復帰できたと思ったのに、またしても不穏な空気が……

 って、俺は触られたぐらいで穢れたりしませんから!

「君、本当にムカつくよね」
「奇遇ですね、オレも、あなたがムカつきますから!」

 一触即発状態だよ。

 折角闇に見える初雪の中、多分もう暫く帰れないんだろうなぁなんて思いながら、深々とため息をついても仕方ないだろう。

 ああ、クラス委員に連絡しないと……思い出した事に携帯を取り出して、一瞬どうしたものかと考えた。

 クラス名簿ないから連絡できない。

 そうだ!確か、教室にも一冊置かれてたような……
 恭弥さんに離してもらっているので、自由に動けるようになった俺は、思い出したというようにトコトコと教壇の方へと移動する。

 教室の後ろの方では、ツナと恭弥さんが睨み合いをしていて、きっと俺の存在なんて忘れられてるんだろうなぁ。

 ちょっと悲しいなぁ、なんて思いながら、教室に置かれているクラス名簿を開いてクラス委員の二人の電話番号を確認し携帯に打ち込む。
 二人ともまだ塾から戻ってきてないって、お母さんだろうと思われる人が言ったので、しっかりと伝言を頼んでおいた。

 うん、知らない人の家に電話するのって、ドキドキするよね。
 電話を切ってから、ホッと胸を撫で下ろす。

、何してるの?」

 その瞬間、声を掛けられて、ビックリしてしまった。

 忘れられてなかったみたいだ。

 って言うか、教室が無事って事は、二人とも喧嘩しなかったんだ。
 良かった。

「何って、クラス委員に連絡を……だって、あんまり遅い時間に電話を掛けるのは失礼だから」

 質問に素直に答えれば、呆れたようにため息をつかれてしまう。
 だって、一人は女の子なんだから、そう思うのは当然だと思うんだけど

「だからって、急に行動しないでよ」

 ああ、もしかして俺が急に行動を起こしたから喧嘩にならなかったのかな?

「ごめん。でも、二人が今にも喧嘩しちゃいそうな勢いだったから……」

 巻き込まれたくないし、っと続ける言葉を飲み込んで苦笑を零す。

「気が殺がれた。サッサと帰りなよ」

 そう言って、恭弥さんが先に教室から出て行ってしまう。

「あっ!恭弥さん!遅くまで付き合ってくださって、有難うございました!!」

 そんな恭弥さんに俺は慌ててお礼の言葉を口にする。
 恭弥さんは、振り返る事無くただ右手を上げてそのまま遠去かって行ってしまった。

「……それじゃ、オレ達も帰ろうか」
「うん。戸締りと電気!」

 と、言って教室の電気をパチンと切れば、当然の事ながら真っ暗になってしまう。
 でも、こんなに真っ暗なのに、降る雪は見えるなんてちょっと不思議。

、足元気をつけてよ」
「大丈夫!」

 なんて言うけど、本当に真っ暗で殆ど見えないんだけど……

「ほら!」

 強がっている俺に気付いたのか、ツナが手を繋いでくれる。
 それが照れ臭いけど、ツナの手が暖かくって、思わず笑ってしまった。

?」

 気配で俺が笑ってるのが分かったのか、不思議そうにツナが俺の名前を呼ぶ。

「寒い中、俺の事探してくれて有難う……迎えに来てくれて、本当に有難う」

 ギュッと握っている手に力を込めれば、ツナからも強く握り返された。

「当たり前だよ。オレは何時だって、が何処に居ようと迎えに行くから」
「うん、俺も、ツナが何処に居ても絶対に迎えに行くからね!」

 何て、当然のように返した俺に、ツナから何処か寂しそうな気配を感じたのは気の所為だろうか?
 だって、外に出て街灯に照らされたツナの顔は何時ものツナだったから……


 初雪が降った日。
 ツナが、学校まで迎えに来てくれました。

 まぁ、心配掛けたのは本当に申し訳ないと思うんだけど、やっぱりツナは過保護だなぁとそう思わずには居られなかったのは秘密。