良く分からない状況に、キョロキョロと辺りを見回す。
 目の前に居るのは、ツナギを着た男の人。

「ふむ、どうやら、成功したみたいだ」

 状況が飲み込めていない俺の耳に、ツナギの男の人がポツリと呟いた声が聞こえて来て思わず首を傾げてしまう。

 成功って事は、俺は呼び出されたと思ってもいいんだろうか?

 目の前にいる男の人は、話した事はないけれど、前に一度だけ別世界の10年後に来た時にこの世界の綱吉と一緒に居た人だ。

 でも、何でその人が今俺の目の前に居るんだろう?

 そもそも、俺がここに居る原因は、何時ものようにランボくんの10年バズーカーに当たってしまった所為。
 俺なりに頑張って当たらないようにしているはずなんだけど、何時ものように巻き込まれてごらんの通りだ。


「あの、ここは、未来なんですか?」


 でも、ここは一度だけ迷い込んだあの世界のようで……
 俺は、恐る恐る目の前の人に問い掛けた。


「ああ、あんたから言えば、ここは確かに未来の世界になる」


 俺の問い掛けに、ツナギの人が答えてくれる。
 自分の質問に答えてもらえた事にホッして、改めて男の人へと視線を向けた。

 でも、言われた言葉が気に掛かる。

 この人は、俺から言うとここは未来になるという曖昧な言葉を使った。
 それは、確かにここが未来だと言う事を教えてくれているけれど、どう考えても、俺の居る未来とは異なると言う事だ。
 このツナギの人がここに居る事から考えて、もしかしてまた俺は別世界の未来に来てしまったと言う事になるのだろう。


「ここは、もしかして前に一度来た世界なんでしょうか?」
「ふむ、流石はボンゴレの関係者と言うところだな。確かにここは、あんたから言えば、別世界の未来になる。ウチと正一で、あんたをこの世界に引き寄せてみた」


 再度質問した俺に対して、ツナギの人があっさりと口にした言葉に、なんと返したらのいいかの分からなくなってしまった。

 正一と言うのは、あの時白い服を着ていた入江さんの事だと思う。
 確か、フルネームが入江正一さんだったから、間違いないだろう。

 でも、このツナギの人と一緒にオレをこの世界に引き寄せたって、言うのは……
 普通に考えれば、そんな事が出来るとは思えないよね。


「スパナ、どうやら成功したみたいだね」


 呆然としている俺の耳に、新たな声が聞こえてきて何とか意識を取り戻した俺は、視線をそちらへと向ける。
 そこに居たのは、確かに入江正一さん、その人。


「あ、あの……」
「不安にさせたみたいだね、ごめん」


 知っている人が居ると言う事に、少しだけホッとした俺が、入江さんへと声を掛ければ、申し訳なさそうに謝罪されてしまった。


「いや、でも、状況が理解できないのは、その……」
「そうだろうね。スパナが説明するとは思えないし……」
「ウチは、ちゃんと説明した。ウチと正一がこの子を引き寄せたって」


 意味も分からず謝罪されて、慌てて首を振って返した俺に、入江さんはため息をつく。
 それにツナギの人が、抗議するように口を開いた。

 いや、すみません、それは説明したとは言えないと思うんですが……
 俺としては、何で引き寄せられたのか、その理由が知りたい。
 だって、成功したって事は、態々その状況を作った事になるのだから


「それは、説明したとは言わないよ。えっと、くんだったよね?」

「はい!」

「どうしても、君に会いたいと言う人達が居てね、無茶な事をさせてもらったんだ」


 俺が心の中で思ったことを入江さんが突っ込んでくれて、確認するように名前を呼ばれたので、慌てて返事をすれば申し訳なさそうに言われた言葉。

 会いたい、人達?
 ああ、でも俺も、もしまたこの世界に来ることがあったらどうしても会いたい人が居たんだよ!
 会って、謝罪しないといけないと、ずっと思っていたのだ。


「俺も、この世界の人でどうしても会いたい人が居るんです。会って、謝罪しないといけないと思って……」
「謝罪?」


 それだけが気になっていたから、またこの世界に来られたのは有難いかもしれない。
 俺が言った言葉に、入江さんが不思議そうに聞き返してくる。


「はい、その俺、大変失礼な事をしちゃいましたから……」


 なんと言うか、女性に対して、何て失礼な事しちゃったんだろうね。
 セクハラで訴えられても、文句は言えません。
 だから、また会う事が出来たら、謝罪しなきゃとずっと思っていたのだ。
 でも良く考えたら、俺あの人の名前も知らないんだよね。


「失礼な事?君は、感謝こそされたとしても、失礼な事はしていなかったと思うけど……」


 困ったように言った俺の言葉に、入江さんが不思議そうな表情で口を開く。

 いやいや、感謝されるような事なんて、何一つしていません!
 それどころか、ぶっ倒れて皆さんに多大な迷惑を掛けたと思うんですけど


「あの、感謝って、一体……」
「詳しい事は、もう一人来てから……ああ、来たみたいだね」
「えっ?」
!!」


 感謝の意味が分からなくて問い掛けた俺に、入江さんが顔を上げた瞬間、後ろから力強い腕に抱き締められた。
 そして聞こえてきたのは、聞き慣れた人の声。


「ツナ?」
「ふむ、流石ウチと正一」
「うん、成功だね」


 恐る恐る振り返れば、ぎゅっと俺に抱き付いているツナが居る。
 そして、満足そうに笑う入江さんとツナギの人。


「未来のと入れ替わる気配がないから、心配したんだよ」
「えっと、ごめんね、ツナ」
が悪い訳じゃないのは、この状況見れば大体分かるよ。で、あんた等は、まだオレ達に用事でもある訳?」


 抱き締められたまま心配したと言われたので、謝罪すれば不機嫌な声が入江さん達へと問い掛ける。


「二人は、オレの頼みで動いてくれてたんだ。無理やり呼び出して、悪かったね」


 ツナの問い掛けに、目の前の二人ではなく新たな声が聞こえて来て驚いた。
 落ち着いた声は、聞いた事があるような懐かしい声。


「迷惑な話だね」
「まぁ、そう言わないで欲しいな」


 相手が誰か分からなくて、声の方へと視線を向ければ、逆光で顔が見えないけど、シルエットがハッキリと見えた。
 その相手に、ツナが不機嫌そうに呟けば、楽しそうな声が返ってくる。

 何だろう、身近に感じた事のある安心感があるんだけど……


「ボンゴレ自らのお出ましみたいだな」


 ツナギの人が、その人を前に小さくため息をつきながら呟く。

 ボンゴレって、ボンゴレファミリーの事だよね?
 だったら、ボンゴレって呼ばれる人は、一人しか居ない。


「ようこそ、別世界の10年後へ」


 そう言いながら笑みを浮かべたのは、間違いなく10年後の綱吉の姿。

 けれど、前に見た事がある綱吉は本当にカッコ良かったんだけど、今目の前に居る綱吉は何だろう綺麗って言う言葉が似合うような……いや、カッコ良いとも思うんだけどね。
 なんて言うか、優しそうな綺麗な笑みを浮かべている綱吉を見ると、何処となく母さんの面影があるようにも見える。


「あ、あの、あなたは、綱吉なんですか?」
「うん、オレはこの世界の沢田綱吉で間違いないよ」


 だから思わず、恐る恐る質問すれば、優しい笑顔と共に同意の言葉が返ってきた。

 ああ、やっぱり綱吉なんだ。

 あの時、ツナギを着ていた綱吉が成長したら、今の綱吉になるって事なんだよね。
 やっぱり、世界が違うとなんて言うか、その人もこんなに変わっちゃうんだなぁ。


「なら、あんたに聞くけど、オレ達を呼び出した理由はどんな訳」
「ツ、ツナ!」


 ニコニコとを笑顔を見せている綱吉が、なんとなく遠い存在のような気がして戸惑っていた俺に、ツナがズバリと確信の質問を投げ掛ける。
 だけど、その聞き方が年上の人に質問する内容じゃなかった為に、俺は咎めるようにツナの名前を呼ぶ。


「気にしなくても大丈夫だよ。そっちの世界でのオレの性格は、他の人達から聞いているからね」


 慌てている俺と違って、大人の綱吉は優しい笑顔で返してくれる。

 本当に、大人の対応だ。


「なら、さっさと用事を終わらせて、帰らして貰いたいんだけど」
「だから、ツナ、そんな言い方……」
「本当に、喧嘩腰なんだね。ヒバリさんよりも強いって聞いていたんだけど、それなら、納得できるかもしれない」


 だけどツナはツナで、不機嫌そうに大人の綱吉を睨み付けている。
 それに、ため息をついて言えば、大人綱吉が、クスクスと楽しそうに笑いながら言ったその言葉に、思わず恐る恐るその顔を見上げてしまった。


「ああ、確かにこの綱吉くんは、過去のヒバリさんよりも強かったね。そのお陰で、かなりの戦力になって貰ったよ」
「オレは、を守っただけだよ。他の事には、興味ない」
「確かに、その子を優先して守っていたけど、女子供は異世界のボンゴレが居たからこそ、守られていたのも事実」


 それに続いて入江さんが口を開き、ツナが顔をそらして答えれば、ツナギの人がそれに続いてまたツナの事を褒めるように口を開く。
 ああ、俺が寝ている間、ツナはちゃんと皆を助けてくれていたんだ。


「それに対しては、本当に助かったとラルからも聞いているよ」


 その言葉を聞いて大人の綱吉が……面倒だから、綱吉さんと呼ぼう。
 綱吉さんが優しく笑って口に出したその言葉に、首を傾げてしまった。

 えっと、ラルさんって誰ですか?


「興味ないよ」


 俺が一人疑問に思っている中、状況が分かっているのだろう綱吉は素っ気無く返した。


「本当に、オレと言うよりも、ヒバリさんに似ているよね」


 そんなツナに、綱吉さんは楽しそうに笑うだけで、まったく気にした様子もない。
 そんな姿を見ていると、本当に、大人なんだなぁと思ってしまう。


「沢田!あいつ等が来たのだろう!!」


 感心している中、勢い良く誰かの声が聞こえて来た。
 それは、前にこの世界に来た時にも聞いた事がある声。
 声の方に視線を向ければ、そこに立っていたのは、俺がこの世界にもう一度来られたら、謝罪しなければいけないと思っていた相手。


「ラル、皆には後で会わせるって言っただろう」

「そんなに待っていられるか!」


 突然飛び込んできた人に、綱吉さんは呆れたようにため息をつきながら言えば、怒鳴り声が返ってくる。


「あっ!あの……」


 そんな二人に割って入るように声を掛ければ、皆の視線が自分に集まった。


?」
「…俺、もし、ここに来られたら、謝らなきゃって、あの時、本当に失礼な事してすみませんでした!」


 心配そうに俺の名前を呼ぶツナの声を聞きながら、必死になけなしの勇気を絞って深々と頭を下げる。

 だって、俺ね、名前も知らない女性に行き成り抱き付いちゃったんだよ!セクハラで訴えられても、文句は言えません。
 なので、相手の反応が怖くて、下げた頭を上げられない。


「何を謝っているのだ?」


 だけど聞こえて来たのは、意味が分からないというような質問の言葉。

 あれ?怒ってないのかな??

 不思議そうに質問された内容に、思わず恐る恐る顔を上げて女性へと視線を向ける。


「何って、俺、あなたに、その、失礼なことを……」


 それでも何ていうか相手の出方を見ながら、ビクビクと質問に何とか返事を返そうと口を開く。


「失礼な事?何の事だ??」


 俺の恐る恐る口にしたその言葉に、やっぱり分からないと言うように更に質問で返されてしまった。

 えっと、やっぱり怒ってないのかなぁ?もしかして、気にしているのは、俺だけだった??


「お前が謝る必要は何も無いはずだが」


 本気で分からないと言うように言われる言葉に、俺は漸く顔を上げて真っ直ぐにその人を見た。

 見て初めて気付く、何だろう、目の前の人の体が小さい?!
 あれ?違う人??でも、なんとなく、見覚えがあると言うかなんと言うか……
 首から下げられているのは、おしゃぶり?!えっと、もしかして、この子は、ア、アルコバレーノなの?!


「オレが、ラルから聞いた話によると、くんは、ラルの体調を回復してくれたって聞いてたんだけど……その所為で、くんは2週間寝たままになったんだよね?」


 目の前に立っている小さな女の子に、驚いて言葉も出ない俺には気付くことなく、綱吉さんが不思議そうに質問してくる。


「その通りだよ。止めたのに力を使っちゃったんだよね、は!!」


 うっ、ツナがあの時の事を思い出して、不機嫌になっちゃっています。

 確かに、俺はあの時、ツナに止められたのも聴かずに、女の人に力を使っちゃったのだ。
 その所為で、2週間眠ったままになって、目が覚めた時には全てが終わって元の世界に戻っていたんだよね。
 しかも、その後ツナから長々と説教をされたので、俺にとっては痛い思い出なんです。


「だが、そのお陰でオレが助かったのは否定しない」


 その時の事を思い出して思わず震えてしまった俺に、女の子が口を開いた。

 って、あれ?なんで、この子が助かったなんて言うんだろう……やっぱり、この子があの時の女の人なんだろうか?

 誰も何も言わないって事は、皆状況を理解しているって事なんだと思う。
 でも、俺には何が何なのか、さっぱり分からない。


「あ、あの、俺一人状況が理解できてないんですけど……」


 だから、場の雰囲気を損ねちゃうと分かっていても、聞かずには居られなかった。


「ああ、そう言えば、お前は何も知らないんだったな」
「そうだったね。なら、ここで話をするよりも、場所を移して話をしようか」


 俺の言葉に、女の子が思い出したように頷く。
 それに綱吉さんも頷いて、笑顔で言われたその言葉に、慌てたようにツナが口を開いた。


「ちょっと、オレ達は、何時戻れるんだよ!」
「心配しなくても、この世界の12時間後。向こうの世界の1時間後に戻れるように僕とスパナで設計してあるから」
「ウチ達の計算に間違いはありえない」


 ツナの驚きの声に、入江さんとツナギの人…スパナさんが、説明してくれる。

 って、事は、暫くは帰れないって事なんだよね?


「お前は、オレを抱えていけ!」
「わぁっ?」


 何て言うか、複雑な気持ちになっていた瞬間、ピョンと俺の腕の中に女の子が飛び込んできて慌ててそれを抱き止める。


「珍しいね、ラルが誰かに自分を委ねるなんて」


 腕に女の子を抱えたオレを見て、綱吉さんが驚いたように口を開く。

 でも、俺が女の子を抱えて歩いてもいいものなのでしょうか?
 多分、この中で一番歩くのが遅いお荷物なんですけど


「勝手に、に触らないでくれる」
「ツ、ツナ、これぐらいなら大丈夫だよ」


 女の子を抱えた俺に、直ぐさまツナが不機嫌そうに声を掛けてくるので、慌ててそれを慰めようと名前を呼ぶ。
 リボーンと同じぐらいの重さだから、そんなに重くはないんだけど、でも流石にこの子を抱えて長時間歩けと言われたら、それは流石に無理だ。


「でも、俺、そんなに歩くのは……」
「心配しなくても、歩く必要は無いよ。スパナ」
「まぁ、仕方ないね」


 困ったように口を開きかけた俺の言葉を遮って、綱吉さんがスパナさんを呼べば、小さくため息をついてからスパナさんが何かリモコンのような物を取り出した。
 そして、スパナさんがボタンを押した瞬間、近くにあった椅子のようなものが浮き上がる。


「えっ、あの……」
「これに乗るといいよ。移動用の椅子になるからね」


 突然浮き上がった椅子に驚いてオロオロしている俺に、今度は入江さんが説明してくれた。

 な、何ですか、移動用の椅子って?!それって、車椅子じゃないんですか??


「へぇ、便利なモノがあるんだ。、好意は素直に受け取った方がいいよ」


 驚いている俺とは違って、ツナは感心したように椅子を観察して、俺に座るように促してくる。


「ウチの発明に問題はないよ」


 スパナさんが得意気に言っているし、リモコンのような物を持っている事から考えて、これを作ったのはスパナさんと言う事なのだろう。
 いくら未来だと言っても、椅子が浮き上がるなんて、どんな技術力を持ってるんだろうか。


くん、座って、そしたら部屋を移動しよう」


 誰も椅子が浮き上がった事に突っ込みは無いんだろうか?

 一人疑問に思っている俺だけを取り残して、綱吉さんがにこやかに話を進めて行く、更にツナからも肩を叩かれ促されては、恐る恐る椅子に座るしかない。
 俺は、意を決して椅子に座った。


「それじゃ、行くとしようか」
「頼むよ、スパナ」


 それを確認したスパナさんがそう言えば、綱吉さんが笑顔で返す。
 スパナさんはただ頷いて、リモコンのようなものを操作した。


「わっ!」
「心配しなくても、大丈夫だ」


 それと同時に動き出した椅子に驚いて声を上げれば、俺の膝に座っている女の子が慰めるように言葉をくれる。
 大丈夫だと言われても、フワフワした感覚は、何ていうか不思議な感覚なんですが……

 フワフワしていて、心許無いと言うか何と言うか……


「自己紹介をしていなかったな。オレは、ラル・ミルチだ」
「あっ、はい。俺は、沢田です」
「知っている。お前とは一度会っているからな」


 しっかりと手摺に捕まって居る俺に、膝に座っている女の子が自己紹介してくれたので、慌てて俺も自分の名前を言えば、あっさりと返事が返ってきた。

 あれ?会った事があるって、何時?


「気付いていなかったのか?お前に治療されたのは、オレだ」


 言われた言葉の意味が分からなくて、首を傾げた俺に、ラル・ミルチさんが呆れたように口を開いた。

 えっ、えっ、治療って、俺が、ラル・ミルチさんの??
 そんなの記憶に無いんですけど……


、この人があの時の女性だよ」


 訳が分からない俺に、ツナがため息をつきながら教えてくれた内容に、一瞬意味が分からなくてまた首を傾げてしまう。

 えっと、あの時の彼女さんが、この女の子なの?


「それって、俺がずっと謝りたかった人がこの子なの?」
「そう言えば、オレに謝っていたが、一体何の事なのだ?」


 疑問に思った事を口にしたら、ラル・ミルチさんが質問して来た。

 そう言えば、ラル・ミルチさんの声を聞いた時に、彼女だと思って謝罪したんだよね、俺。
 でも、俺は謝る相手を間違っていると思ったんだけど、やっぱり間違ってなかったって事なのだろうか?
 謝る相手は、ラル・ミルチさんって事なのかなぁ?


「あ、あの、俺、その、初めて会った人にいきなり抱き付いたりしたから、ずっと謝りたかったんです」


 恐る恐る、ラル・ミルチさんの質問に答える。
 俺としては、まだラル・ミルチさんとあの時の人が同一人物であるのかどうか分からないから


「なんだ、そんな事を気にしていたのか?だが、そのお陰でオレは助けられたのだから、謝罪の必要はないだろう」


 恐る恐る口にした俺の言葉に、あっさりとラル・ミルチさんが言葉を返してくる。

 って、事はやっぱりラル・ミルチさんがあの時俺が失礼を働いた相手と言う事だ。
 彼女を見た時、あの時の人が見えていたのは、実は幻じゃなくて俺の目には、実際に彼女の姿が見えていたって事なのだろうか?

 まぁ、色々なものを見せてくれるこの左目ならそれも納得できるんだけど……


「本人が気にしてないんだから、がそれ以上気にする事は無いよ。大体、そんな事を気にするぐらいなら、今の膝の上に座るなんて真似できないだろうからね」


 スットンと全てを納得した瞬間、ツナが嫌味のように口を開く。


「お前には関係ないだろう」


 それに、ラル・ミルチさんが睨みながらツナに返せば、何故かツナも睨み返してくる。
 なんで二人は、そんなにも睨み合っているんだろう。


「睨み合っているところ悪いんだけど、着いたよ」


 二人の睨み合いを前に、どうしたらいいのか対応に困っていれば、綱吉さんが苦笑しながら声を掛けてきた。
 それと同時に、動いていた椅子も一つのドアの前で止まる。


「どーぞ」


 しかも、綱吉さん自らがドアを開けてくれて、優雅にお辞儀して中へと導いてくれた。

 ホストのような振る舞いだが、それがすごく様になっていると思うのは、俺だけだろうか?

 勧められるままに部屋の中に入れば、そこには数人の男の人が……


「見知った顔ばかりだね」


 中に居る人達を見た瞬間、ツナがボソリと呟く。
 その言葉で中に居る人達の顔を良く見れば、確かに大人にはなっているけど見知った面影がある顔ばかりが集まっていた。


「遅かったのな、ツナ」


 その内の一人、山本に面影が似ている人が声を掛けてくる。


「うーん、話に聞いていたよりも、違う世界のオレがなかなか強烈だったからね」


 そんな相手に、綱吉さんが笑顔でさらりととんでもない言葉を返してくれた。
 いや、ツナだけが悪い訳じゃないと思うんだけど


「ふーん、それが今回の計画に協力してくれた別世界の君なの」
「ええ、京子ちゃんやハルは彼が守ってくれたと言っても間違いじゃないと思いますよ」


 恭弥さんに似ている人が言えば、にこやかに綱吉さんが返事を返す。
 本当に、俺と違ってツナはこの世界で、かなり活躍してくれたみたいだ。

 うん、本当に俺と違ってね……。


「言った筈だけど、興味ないって」


 だけど、言われたその言葉にツナはフイっと横を向く。
 でも、その顔は知っているよ、照れてるんだよね、ツナは
 そんなツナの顔を見てしまった俺は、思わずクスクスと小さく笑ってしまった。


!」


 その笑い声がツナに聞こえたのだろう、怒ったように名前を呼ばれる。


「ごめん」


 そんなツナに素直に謝罪して、笑いを引っ込められたのは、一斉に仲の人達の視線を集めてしまったからだ。
 そうじゃなかったら、絶対に笑いを止めるのは無理だったと思う。


「オレ達を前に、気楽に話が出来るとは中々の根性だな」
「そんなの彼には関係ないと思うよ。匣もなしにこの世界で見事な活躍をしてくれらしいからね」


 ギロリと鋭い視線で睨んでくるのは、間違いなくリボーンの姿。
 そして呆れたように言われたその言葉に、楽しそうな笑い声で返したのは、綱吉さんだ。
 ああ、やっぱりここに居るのは、この世界の守護者達。


「改めて、君達をこの世界に呼び寄せたのは、心からの感謝の気持ちを伝えたかったからだよ」


 思わず身構えてしまった俺に、綱吉さんが振り返って言われた言葉にきょとんとしてしまう。
 えっと、もしかしなくても、それを伝える為だけに俺達はこの世界に召還されたんだろうか?
 いや、確かに、俺もずっとこの世界に来て、失礼を働いてしまった相手に謝りたいとは思っていたけど、だからって、それだけの為に行動を起こそうとは思えない。
 それだけの為に行動に移せるなんて、ど、どれだけすごいんですか、綱吉さん?!


「……迷惑な話だね」


 余りの事に言葉を無くしていた俺とは違って、ツナはため息をつきながら興味なさ気に呟く。
 でも、俺は何もしていないのに御礼の言葉なんて貰えない。
 その感謝の言葉を貰うのは、俺じゃなくてツナのはず。


「ツナ、そんな言い方……」


 俺はずっと寝ていたから、邪魔にしかならなかったと思うけど、ツナはそんな俺や一緒に居た女の子達を守ってくれていたんだから、その言葉を貰う権利を持っているのに、何でそんなに素っ気無い態度しか見せないんだろう。


「いいんだ、くん。これは、オレ達の自己満足なんだからね。彼にとっては迷惑以外の何者でもない行為なんだよ」


 咎めるようにツナに口を開けば、綱吉さんは気にしないと言うように返してくれる。
 だけど、俺としてはツナが不機嫌な理由が分からないから、なんと言っていいのか分からない。


「でも……」
「こいつが、何を一番に大切にしているのか知っているか?」
「えっ?」


 言葉に困って口を開きかけた俺に、ラル・ミルチさんが質問してきた。
 質問された内容の意味が分からなくて、思わず首を傾げてしまう。


「こいつは確かに、女子供を守っていたが、それはただの結果だ。本当に守っていた者は、一人しか居ない」


 そんな俺に、ラル・ミルチさんは気にした様子も無く、話を続ける。
 ツナが本当に、守っていたのは……


「俺?」
「そうだね。くんは、彼のおまけのように思っているみたいだけど、君が居たからこそ、彼は京子ちゃん達を守ってくれたんだよ」


 質問するような視線を受けて、恐る恐る口にした俺の言葉に、綱吉さんが頷く。
 そして言われた言葉は、あれ?もしかして、読心術会得ずみですか?!
 そっと綱吉さんを見れば、ニッコリと笑顔。


「だからこそ、君達二人を呼んでもらったんだよ」
「なんにしても、難しい話は置いといて、今日の為にオレが頑張って準備した寿司を食ってくれな」


 しっかりと俺の心を呼んでいるらしい綱吉さんがそう言えば、見た目はワイルドになっているのにさわやかな笑顔で言われたその言葉に一瞬頭が働かなかった。

 っえ?お、お寿司、なの?




 その後、本当にお寿司を振舞われた。

 なんて言うか、最初の迫力が嘘のようにみんなが砕けてくれて、それからアルコバレーノが数人……コロネロさんに風さんという二人。
 コロネロさんが来た時は、嬉しくて思わず抱き締めてしまった。

 だって、俺の目がラル・ミルチさんの後ろに居るのを見てしまったから、無事な姿を見られて嬉しかったのだ。
 皆が無事でそこに居る事が、本当に嬉しい。

 詳しい話は良く分からないけど、この未来は大変な事になっていたみたいらだから、皆が無事で元気な姿を見られて本当に良かった。
 俺自身の願いを叶えられた上に、心配事を全て解決できたのだから、この世界に来られて良かったと思う。
 詳しい事は説明して貰ってないけど、皆が無事なんだと言う事が分かったんだから、十分。

 その後、何でかまたツナの機嫌が悪かったけど、何でだろう?

 最初は何がなんだか分からなかったけど、その後は楽しい時間を過ごす事ができた。

 なんて言うか、ツナはずっと不機嫌だったんだけどね。
 俺は、すごく楽しかったんだよ、ツナには申し訳ないんだけど