ちゃん、買い物一緒に行ってくれない?」

 机に向って宿題をしていた俺は、ノックの音と同時に顔を覗かせた母親の言葉に椅子に座ったままの体制で体を後ろに向けた。

「別にいいけど……俺でいいの?」

 母さんは、時々俺をこうして買い物に誘う。
 歩く速度が遅い事を嫌と言うほど知っている自分にとっては、不思議でたまらないんだけど……。

 そしてそう言われて、毎回同じ質問を返す俺って、進歩ないんだろうか?

「私は、ちゃんと行きたいのよ」

 それに返される母さんの言葉も毎回同じなのは、本当に進歩ないのかもしれない。
 うん、ダメだったら、質問してこないのに、何で俺って同じ事聞いてるんだろう……

 まぁ、習慣って事で、納得して椅子から立ち上がる。

「いいよ。役に立つ荷物持ちじゃないけど……」

 椅子から立ち上がりながら言った俺のそれに、母さんがニッコリと笑顔を見せてくれた。
 いや、そこは笑顔を見せるような所じゃないような気もするんですが……俺が、荷物持ちとして役立たずなのは、本当の事だけど……。

「そんなに買う物はないから、大丈夫よ」

 ニコニコと嬉しそうに言われる母さんのその言葉に、俺は思わず首を傾げてしまう。
 確かに、俺だと重いモノは持てなくって、荷物持ちには向かないのは本当の事だから気にしないんだけど、毎回、俺が一緒に買い物に行く時って、極端に買う物少ないよな。

 だから、俺でも荷物持ち出来るって言うのが、現状なんだけど……大荷物の時には、ツナを連れて行くもんなぁ……んじゃ、俺はなんの為に連れて行かれてるんだろう??
 それって、やっぱり役立たずって言われてるような気がするんですけど、俺の気の所為?
 疑問に思ってしまったんだけど、嬉しそうに出掛ける準備をしている母さんに質問する事も出来ず準備の整った母さんの後に続いて玄関へと向った。

「あら?ちゃん、もしかして大きくなった?」

 玄関に出て母さんの隣に並んだ瞬間、言われたその言葉。
 一瞬言われた言葉が何を意味してるのか分からなくって、きょとんとしてしまったけど、それを理解して瞬間嬉しくって思わず母さんに問い掛けてしまう。

「えっ?大きくなった??」

 だって双子の兄であるツナは、もう既に母さんの身長を超えてしまっているんだけど、俺はまだまだ母さんより低い。
 だから、言われた言葉に嬉しくなって身長を確認するように母さんの前に立って背を比べるように手を翳した。
 うん、まだちょっと足りないけど、後少しで追い越せる位の身長だ!確実に目線の高さが同じぐらいになってる事に嬉しくなる。

「もう、男の子は直ぐに大きくなるんだから」

 確かにちょっとだけ大きくなれた俺に、母さんが不機嫌そうに口を開く。
 いや、そんな拗ねたように言われても、俺としては大きくなれてかなり嬉しいんですけど……。

「えっと、伸びてくれないと、本気で困るんだけど……」

 だけど、俺としては、身長が伸びてくれないのは死活問題に関わってくるのだ。
 だって、この年で母親よりも低いって、余りにも悲しすぎるんだからな!
 だからこそ、ちょっとでも伸びた身長にこんなにも喜んでいるっていうのに……。そんな拗ねた風に言われると、素直に喜べないんですが……。

「あらあら、そんな小さい事を気にしてちゃ、何時まで経っても大きくなれないわよ」

 切実だと言うように呟いた俺に、母さんが笑いながら俺の頭を撫でてくれる。
 嬉しそうに俺の頭を撫でる母さんは、もしかして俺を小さい子供と勘違いしてるんじゃないだろうか……これでも一応中学生男児なんですけど、俺。

「全然、小さい事じゃないから!」

 それに、身長の事は、俺ぐらいの年齢だと重要事項に入ると思う。
 まぁ、確かに身長が低いからって、死ぬ訳じゃないんだけど、その辺の女の子よりも低いのは正直悲しいものがあります……しかも、中学入って早半年も過ぎてるのに、今だに小学生に間違えられる俺って……。
 ヤバイ、悲しくなってきたから、これ以上考えるのはやめよう、うん。

「えっと、それで何買うの?」

 小さく呟いた言葉は母さんには聞えなかったみたいで、不思議そうに首を傾げて俺を見てきた母さんに、別な質問。
 これ以上空しくなりたくはないから、俺!

「そうね、今日は、ランボくんがハンバーグが食べたいんですって、だから、ハンバーグとポタージュスープに野菜の付け合せとサラダにしようと思ってるの」

 俺の質問に、何の疑問もなく母さんが今晩の献立を口にする。

 うん、最近お子様が好きなメニューが増えたよね……ハンバーグとかコロッケとかグラタンとか……別にそれに対しての文句がある訳じゃないんだけど、そろそろ煮物類食べたいと思ってもいいですか?
 それは自分の家にチビッ子の居候が増えたから、仕方ないとは思うんだけど……。

 良く考えたら家って、居候合わせると7人も居るんだよな……毎日の食費って、どうなってるんだろう……やっぱり、父さんからの仕送り?
 それとも、ボンゴレから支給されてるんだろうか??

「んじゃ、スーパーに買い物?」
「ううん、今日は、商店街に買い物よ」

 疑問に思った事を母さんに聞く訳にもいかないので、俺は今日の献立から買い物先を確認すれば、何故か何でもそろうスーパーではなくって、並盛り商店街の名前を聞いてしまいました。

 えっと、激しく買い物に付き合ったの後悔してきてるんですけど……。
 あそこには、我等の風紀委員長さんが毎日のように居るのだ。
 出来れば、お近付きになりたくないんですが……。

「か、母さん、スーパーじゃダメなの?」
「ダメよ!今日は、並盛り商店街で、福引があるんだから!」

 恐る恐る言った俺の質問に、母さんが力強く否定の言葉をくれる。

 ああ、だから俺が連れて来られたんですね……。
 思いっきり、納得してしまいました。

 俺、すっごく運だけはいいんだよなぁ……だから、母さんは福引がある時は、大抵俺を一緒に連れて行く。
 とりあえず、クジを引いて一度も外れを引いた事ないのが俺の自慢です、はい。

 母さんも、そんな所だけは、ちゃんと主婦なんだよなぁ、なんて感心していいのだろうか?
 でも、最近食費本当に馬鹿にならないだろうから、いい商品当たった方がいいよね。
 俺って、こんな事でしか役に立たないし、俺自身が病院代でかなり金食い虫だもんなぁ……なんて、ちょっと悲しくなってきたかも……。

 でも、お金に困ってるのは見た事ないから、父さん本気でどんな仕事してるんだろう?
 昔母さんに聞いたら、『消えて星になったと伝えてくれって言われた』って言ってたんだよなぁ……そんな父さんが、一体何の仕事してるんだろう??
 ツナ曰く、あんなダメ親父の事は忘れていいらしんだけど……俺達を養ってくれてる父さんを忘れるのもどうかと思うんだけど……。

ちゃん、大丈夫?足痛むの?」

 ボンヤリと考えていた俺は、思わずその歩みを完全にストップしていたらしく、歩き出さない俺に、母さんが心配そうに声を掛けてきた。

「えっ、大丈夫!ちょっと、考え事してただけだよ……それで、福引の景品は?」

 心配そうに見詰めてくる母親に、俺はニッコリと笑って質問する。
 コレだけで母さんは誤魔化されてくれるから、好きだ。
 本当に、細かい事は気にしない大らかな性格なのは、時々迷惑以外の何物でもないけど、こう言う時には助かってしまう。

「そう?なら、良かったわ。今回の商品はね、特賞が4人での温泉旅行よ!母さん友達と一緒に行きたいわ」

 案の上、俺の言葉に安心したように笑って、続けて言われた言葉・……えっと、温泉旅行は別にいいんだけど、その間子供達はどうするんでしょうか?
 嬉しそうに言われた言葉に、思わず疑問が浮んでしまう。うん、母さんにも息抜きは必要だと思うんだけど、今、家には3人ものお子様が居るんですけど……。

 まぁ、俺も料理が出来ない訳じゃないんだけど、個人的和食系が好きなので、子供向けの料理は作れるけど好んで作らないと言うか、えっと、趣味に走ったものしか作らないんですけど、俺。

 母さんの旅行は反対しないけど、今の状況でそれは、ちょっと遠慮したいと正直に思ってしまった。
 だって、家に居るお子様達は母さんの言葉だから聞いてるって言うところが結構多い。
 それなのに、確かに料理に関しては心配ないかもだけど、子供達の世話が俺に出来るとは思えない。

「えっと、でも、まだ特賞が当たると決まった訳じゃ……」
「そうね、後は、1等が並盛で出来たブランド米100キロ……2等が並盛特上酒10升ビンを5本とおつまみセット……3等が並盛遊園地のペアチケットだったかしら?」

 俺が、出来ればそれ以外がイイと言う含みで言った言葉に、母さんが少し考えるように他の景品も教えてくれた。
 えっと、何でそんなに大量なんでしょうか…お米100キロって、どんなだけの量だよ!更にお酒5本におつまみセットって……なんか、特賞と3等が普通に思える……。並盛商店、どれだけ頑張ってんだよ、今回の福引……。

「何が当たっても文句ない内容になってるでしょう?」

 ニコニコと何の疑問もなく言われたその言葉に、俺は何も言葉を返す事が出来なかった。
 もし、1等が当りでもしたら、誰が持って帰るんですか?100キロものお米を!!

 俺には絶対に無理ですから!!
 そして、お酒5本も、俺には持って帰られません。
 し、死ぬ気で狙うのは、特賞と3等か?!
 いやいや、特賞は、母さん居なくなって、家が大変な事になる!
 なら狙うは、3等のみ!頑張れ俺、死ぬ気でやれば、何とかなる筈だ、きっと!!

「それじゃ、まずはお買い物しちゃいましょう」
 ポテポテと真剣にそんなことを考えながら、母さんの後に続く。
 そして漸く見えてきた商店街を前に、母さんが振り返ってニッコリと笑顔。
 俺はそれに、力なく頷く事しか出来ない。これからの事を考えると、どうしても複雑な気持ちを隠す事が出来ないから

 い、一応携帯持って来ておいて良かった。変な物が当たった時にはツナを呼び出そう、そうしよう!きっと、山本も呼んだら来てくれる筈だ!後、獄寺くんも泣き付けば来てくれる!どうしてもダメなら、ツナから来て貰えるようにお願いしてもらおう、うん。

 って、まだ、米が当たると決まった訳じゃない、頑張ればきっと別な物が当たる筈だ……そう、死ぬ気になれば何でも出来る、頑張れ俺!

 でも、こう考えている時点で、負けてると思うってしまったのは、きっと俺の直感が働いていた証拠だと思う……。






「ごめんね、みんな」

 買い物を終わらせて、母さんが嬉々として向った福引コーナーで俺が引き当てた物は、見事に予想通りのモノでした。

 それから、携帯でツナに連絡して、急いで来てもらい。更に山本にも連絡。獄寺くんには、ツナから連絡してもらって今は3人と更に、偶然商店街で会った委員長さんまでもが、俺が引き当てたそれを持って歩いてくれている状態です。

 100キロのお米を前に呆然としていた俺達に声を掛けてきた委員長さんでしたが、理由を聞いて複雑な表情を見せてくれました。

 だって、車もないのに、軟弱な俺と母さんでどうやってこれを持って帰れって言うんですか?!ツナや山本が来てくれる事は確定してるし獄寺くんもツナが呼び出してくれたから何とか来てくれるらしいけど、たった3人だけじゃ、一人30キロ以上も持つ事になるんだよ!そんなの絶対無理だから!!
 ちなみに俺は、30キロなんて持てません。5キロでも無理ですから!2キロぐらいなら、ちょっと歩くだけなら何とかできるかもだけど、ここから家まで持って帰れって言われたら、絶対に無理です。

 本当に、引き当てた人間が役立たずですみません。

「本当、みんな悪いわね」

 母さんは、ニコニコとしながら、それでも嬉しそうにみんなの事を見ている。
 きっと、俺やツナにこんなに一杯お友達が出来て嬉しいとかそんな事を思っているんだろう。
 そして、皆逞しいわねと、思っている事も否定出来ない。

「いえ、お母様!コレぐらいの荷物なんて何て事ありませんよ!」

 母さんの言葉に、獄寺くんは軽々と25キロはあるだろうそれを持って振り返って笑顔。
 って、それを片手で持てる君が俺は信じられません。

「それにしても、はスゲーな、これ一発で当てたんだろう?」

 獄寺くんに続いて、今度は山本が尊敬するように俺を見てくる……そして、何気に山本さんも片手で持てるんですか、それを?!
 何だか、遠い目をしたい気がするんですが、ここに居る皆(ツナも含めて)が同じように軽々とそれを持っているから、きっとアレは見た目ほど重くないんだと、必死で思い込もうと努力してみた。
 きっと、100キロって言うのも、商店街の書き間違いだったんだ、そうだよな、うん。そうじゃなければ、アレを軽々と持てるのが信じられませんから!

 って、現実逃避してて、思わず山本の言葉を完全無視してしまった。えっと、山本が言う一発で当たったって言うのは1等であった100キロのお米の事だろうか?それとも、3等だった並盛遊園地のペアチケットの事だろうか?
 確かに、どちらも一発で当てたんだから、両方とも当て嵌まるよな……。

 福引のチャレンジ回数は、2回でした。それで引き当てたのは、1等であった100キロのお米と、3等だった遊園地ペアチケット……うん、外れは引いてないです、今回も。

 でも、出来れば、1等は外れて欲しかったと思うのは、正直な気持ちです。ええ、誰かに贅沢だって言われても、途方にくれるようなモノが当っても、嬉しくないんです、本気で!
 しかも、皆に迷惑かけるなんて、本当に申し訳ない。

に福引を引かせたら、間違いなく景品は貰えるんだよね。だから、母さんは小さい時から福引を引くならに任せてたんだから……お陰で、旅行とかにも良く行ったりしてたよ、昔から」
「そうなのよ。本当、今回は皆にも迷惑掛けちゃって、ごめんなさいね」

 うん、それは否定しないんですけど、ツナさん……でも、そんな身内を褒めるのはやめて下さい!本人目の前に褒めるのは、マジで恥ずかしいですから!
 そして、続けて言われた母さんの言葉に、俺は思わず自分達からちょっと離れて歩いている委員長さんの姿をチラリと確認してしまった。
 どう見ても不機嫌そのままと言うような委員長さんですが、年上の女性には弱いらしく、母さんの申し出を渋々と引き受けてくれたのには正直かなり驚かされたんですけど……。

「そうだわ!是非、家に持って帰ってくれないかしら?こんなにも食べられないものね……それから、コレのお礼に今日は家で御飯食べていってくれると嬉しいわ」

 ニコニコと名案とばかりに言われた母さんの言葉に、獄寺くんが嬉しそうに返事を返して山本は米を持って帰るのはいいみたいだけど、家に戻ると言う声が聞えて来た。
 えっと、委員長さんは何も言わないけど、やっぱり迷惑なんだろうなぁ……。

「あ、あの、委員長さん……本当に巻き込んでしまって、すみません」

 そして俺は、不機嫌そうに歩いている委員長さんに、そっと近付いて声を掛けて、深々と頭を下げた。
 あっ、何かツナが『ヒバリさんには、近付いちゃダメ』って言ってるのが聞えたんだけど、スルーする事にする。だって今回は俺達が無理矢理付き合わせてるんだから、謝罪するのは当然の事だと思う。

「別に、嫌だったら放り出してるけど……」

 申し訳なく思って謝罪した俺に、委員長さんはそっけないけど、意外な言葉を返してくれた。
 えっと、それって、放り出してないから、嫌じゃないって事なんだろうか?

「それにしても、信じられない強運だね、君」

 疑問に思った事を思わず考え込んでいた俺の耳に、委員長さんの信じられないと言うような声が聞えてきて、俯かせていた顔を上げて委員長さんの顔を見上げてしまう。
 って、見上げないと委員長さんの顔が見えないのが悲しいんですけど……。

「えっと、俺はそれだけが取柄って言うか、今俺が生きてるのも、その強運のお陰ですから」

 内心で身長差に嘆きながらも、ニッコリと笑顔で言葉を返した。
 うん、俺が今生きていられるのは、全てこの強運のお陰。
 だって、そうじゃなければ、俺はあの事故の時に死んでいただろう。そして、今こうして歩く事など出来なかっただろうから、それは、自分の強運が齎してくれた事だと感謝している。

「どう言う事?」

 俺の言葉に、委員長さんがちょっと驚いたように俺を見てきた。そんな風に委員長さんが驚く事が新鮮で、俺はちょっと笑ってしまった。
 あっ、そう言えばこうやって委員長さんと話をするのも久し振りなんだよなぁ、なんて思いながら、何て事はないと言うように口を開く。

「そうじゃなければ、俺は死んでいたか、歩けずに居たはずだから……」

 何度言われただろう、あの事故の時、死んでいても可笑しくはなかったのだと、そして、今こうして歩けているのは奇跡なのだと……。

 だから、俺はその強運に感謝しているのだ。
 今、こうして生きて居られるのは、その運があってこそだから……。

 そのお陰で、今こうしてツナと笑っていられる。山本や獄寺くんとも知り合えた。
 そして、こうやって委員長さんと話が出来るのも、強運があったから成し得たんだとそう思える。

「何を言ってるの?そんなモノは必要ないでしょ、君が今生きているのは、君が生きたいと思ったからだ。そして、今君が歩いているのは、君が頑張ったからじゃないの?」
「そうだよ!ヒバリさんの言う通りだからね!は頑張って、歩けるようになったんだよ!強運だけじゃ、絶対に出来ないんだからね!!」

 当然のように言った俺に、委員長さんが質問するように問い掛けて来た。それに続いて、話を聞いていただろうツナが、不機嫌に話しに割り込んでくる。
 って、何でツナが話を聞いてるんだろう…皆からはちょっと離れたところで話をしていたはずなんですけど……どんな地獄耳ですか?

「えっと……でも、それは、俺の運が良かったから……」
「違う!頑張ったに、運が味方してくれたんだよ!」

 必死で言われたツナの言葉に、一瞬瞳を見開いてしまう。

 俺が、頑張ったから、運が味方してくれた?

 そんな事考えた事もなかった。
 だって、俺は運が良かったから、助かったんだと思ったんだ。
 歩けたのだって、運が良くって……だって、歩けないだろうって言われてたんだから……でも、俺が歩けなくなったら、ツナが悲しむって思って、頑張って歩けるようにリハビリを続けた。

 でも、何とか俺は歩けるようになった。
 それも、運が良かったからだと思っていたのに……。

「俺が、頑張ったから、運が味方してくれたのか…」

「まぁ、僕らしくないかもしれないけど、それには同意してあげるよ。君は、誰よりも頑張ってるんじゃないの?」

 頑張ってる。

 そう言って貰えるぐらい、俺は頑張っているんだろうか?
 だって、それは全部自分の為、ツナが悲しむ顔を見たくなかったから……それが、俺が頑張れた全ての理由。

は、頑張り過ぎなぐらい、頑張ってるよ」
「ツナ?」

「そうだな、もうちょっと息抜きしてもいいんじゃねぇの」
「山本?」

「10代目の弟なんだから、お前も凄いヤツだって認めてやってるんだからな!」
「獄寺くん……」

 何時の間にか、皆に囲まれるように真中に立っていた俺。
 次々に声を掛けてくれる、みんなの名前を呼ぶ。
 ああ、俺って、やっぱり強運の持ち主だってそう思うよ。だって、ツナの弟に生まれて来れた事、それが一番の強運。

「ねぇ、僕の目の前で群れるのはやめてくれる。もうそろそろ限界なんだけど……」

 感動していた俺の耳に、不機嫌な声が聞えてきて、ビクリと肩が震えた。
 って、もしかして、委員長さんがずっと不機嫌だったのって……

「一緒に居る事に我慢できなくって、機嫌が悪かったんだ……」

 片手でトンファを構える委員長さんに、全員が顔を見合わせて苦笑を零してしまう。

「それじゃ、これを早く家に持って帰らないと、ヒバリさんに破かれちゃいそうだね!は、母さんとゆっくり帰って来るんだよ」

 トンファを構えた委員長さんを前に、ツナと山本が走り出す。

 って、そんな重い荷物持って何で軽々とした足取りで歩けるんですか、皆さん……。
 ツナは、逃げずに向かい合おうとした獄寺くんの腕をしっかりと掴んで委員長さんに追い掛けられるように遠去かって行ってしまった。

「あらあら、賑やかね」
「うん、本当にね……」

 そんなツナ達を見送った俺に母さんが楽しそうに笑いながら声を掛けてくる。
 うん、本当に賑やかだけど、この賑やかだけど鮮やかな時間は嫌いじゃないよ。

「ねぇ、ちゃん。ちゃんの運は確かに強いかもしれないけど、それは、私達の想いでもあるのよ」
「母さん」

 見えなくなって行く後姿を見送っていた俺に、母さんがポツリと呟く。
 って、母さんもさっきの言葉を聞いていたみたいだ。
 だからこそ、言われたその言葉に、俺はそっと母さんの顔を見た。
 そこにあったのは、俺を優しく見詰めている母親の顔。

「だって、ちゃんが居なくなるのも、歩けなくなるのも、嫌だったのは私達も一緒……確かにちゃんの頑張りがあってこそだと思うけどね、私達の祈りも含まれているのよ」

 ああ、そうだった。
 俺は、皆に愛されていたんだ。

 そんな大事な事さえ忘れていたなんて、本当に情けない。
 俺が皆を思うように、皆も同じように思ってくれていたと言う事……。
 うん、それはみんなの想いも含まれていたからこその、奇跡だと今ならそう思える。

「それじゃ、私達も帰りましょうか」

 大事な事を思い出した俺に、母さんがニッコリと笑って歩き出す。

「うん、そうだね」

 そんな母さんに、俺も笑って返事を返した。

 家に帰ったらきっと、皆が笑顔で迎えてくれるだろう。
 そう思いながら、皆が消えていった方へと一歩を踏み出す。
 皆が待っているだろう家へと向けて