オレ達が食べている横で、食べ終わったくんがボンヤリとオレ達を見ている。
 正直言えば食べずらいんだけど、ちょっと驚いたような顔でオレや獄寺くん、特に山本を見ているようだ。
 もしかしたら、オレ達が食べる量に驚いているんだろうか、オレからすると、くんの食べる量の余りの少なさに驚かされたんだけど


「何言ってやがる。これが成長期には普通だぞ」
「そないなんか?」


 そしてどうしても、リボーンを膝に乗せているくんが気になっているオレは、意識がそこに集中しているらしく、小さな声で話をしているのに二人の声が良く聞こえる。
 会話を盗み聞きしているようで心苦しいんだけど、気になるのはどうしようもない。

 聞こえてくる会話からして、リボーンがまたくんの心を読んだのだろう。
 内容から考えると、オレ達が食べる量に驚いているように感じたのは、間違いじゃなかったみたいだ。
 リボーンに言われても、くんはちょっと信じられないと言うように聞き返している。


「そうだぞ。お前が少な過ぎるんだ」


 聞き返したくんに対して、リボーンがあっさりと返事を返す。
 確かに、極端にくんの食は細いと思う。それは、間違いじゃない。
 だけど、それだけの量しか食べられないのは、今までの生活環境が原因だと思うのだ。
 高校入学と共に一人暮らしをするだなんて、やっぱり何らかの家庭の事情があるんだと思う。
 何よりも、くんがたったあれだけの量しか食べられないのは、きっと家でも………

 って、人の家の詮索をするなんて、失礼過ぎるよな。


「お前、本当に一人暮らし出来るのか?」


 そんな事を考えていたオレの耳に、リボーンの心配するような声が聞こえてきた。

 そう、くんは高校から一人暮らしをする為に、この並盛に来たのだ。
 それは即ち、たった一人で毎日ご飯を食べなければいけないと言う事。
 くんが料理出来るのか分からないけど、たったこれだけの量しか食べられないなんて、家で本当にご飯を食べるのか心配になる。
 なんだか、食べない事の方が多いように思うのは、オレの超直感が働いているのかもしれない。


「簡単なモノは、作れるんやから心配あらへんよ。言うても、自己流やから、美味くあらへんのやけど……そうやな、綱吉はんのお袋さんに料理教えて貰えるんやったら、大丈夫なんやろうけど」


 リボーンから、心配気に質問されたくんは、少し困ったように口を開く。
 そして、恐る恐ると言うように付け足されたその言葉に反応したのは、傍に居た母さんだった。


くんは、一人暮らしをするの?それなら、いつでも家に食べにいらっしゃいな。勿論、私なんかで良ければ、お料理だって教えちゃうわよ」


 ニコニコと嬉しそうに口を開く母さんに言われて、くんが驚いたような表情をする。
 多分、自分が言った事がこんなにすんなりと受け入れられるなんて、思ってもいなかったんだろう。
 でも、お節介な母さんなら、当然の反応だ。
 それに何よりも、人に自分の料理を食べてもらうのも、好きなんだよな、母さんは

 いつもなら、そんな事には反対するオレだけど、今回はそんな母さんの意見に賛成だ。
 くんが、家にご飯を食べに来れば、心配する事が一気に減る!


「そうだね。オレもそれがいいと思う!くんが良ければ、いつでも家に来るといいよ!」


 多分、母さんにどう返していいのか困っているのだろうくんに、オレも笑って母さんの言葉に同意した。
 やっぱり超直感なんだと思うけど、ずっとくんを一人にするのは、ダメだとそう思っているオレにとって、母さんの申し出はまさに打って付けだ。
 家なら、絶対にくんが一人になる事なんてない。


「そ、そないな迷惑、掛けられへんよ」
「あらあら、迷惑なんかじゃないわよ。こんな家でよかったら、何時でもいらっしゃい」


 だけど、オレ達の申し出に、くんが本当に困ったように返事を返してくる。
 それに対して、母さんがにこやかに返事を返した。

 家は煩いぐらいに賑やかだけど、こんな家だからこそくんに来て欲しいと思う。
 たった一人で家に居るなんて、やっぱり寂しい事だと思うから


「……その気持ちだけで、十分や。おおきに……せやけど、大丈夫やさかい気にせんといてや」


 オレはそう思うんだけど、オレ達のその思いは、くんにとって迷惑な事なのかもしれない。
 とっても辛そうに言われたその言葉に、胸が痛くなる。

 何かを考えているのかその表情は、何処か苦しそうで、もしかしたら、本当に迷惑だったのかも知れない。
 そんなくんにどう声を掛けたらいいのか分からなかったオレと違って、リボーンがボソリとくんに何かを言ったのが聞こえて来た。
 でも、流石に声が小さすぎて何を言ったのかまでは分からない。


「心配しなくても、大丈夫だ」
「リボーン」


 だけど、もう一度言われた言葉はしっかりと聞こえた。
 言われたその言葉に、くんがまた驚いたようにリボーンの名前を呼ぶ。

 ああ、またリボーンはくんの心を読んだんだろう。


「……そないに、オレの心は読みやすいんか?」
「ちげぇぞ。オレも普段はそこまで心を読むつもりはねぇが、お前は遠慮するタイプみてぇだからな、誰かが、その心を読んでやった方がもっと積極的になれそうだと思ったんだ」


 それを証明するようにくんが、リボーンに質問する。
 続けて言われたその言葉は、なんとなく納得出来るものなんだけど、だからと言って勝手に人の心を読むなんて、やっぱり許せるものじゃない。
 だけど、確かに誰かがくんの心に干渉しなければ、閉じこもってしまうような気がするのは、間違いじゃない訳で
 かなり複雑なんだけど


「普通じゃねぇから、オレがココまでしてるんじゃねぇか」


 確かに、リボーンがオレ以外の心をこんなに読むなんて初めてだと思う。
 だけど、どんなにそれがくんにとっていい事なのかもしれないが、やっぱり勝手に心を読むなんて、いけない事だ。
 まぁ、読まれている本人が気にしてないってのは分かっているんだけど、ちゃんとリボーンに突っ込んでおかないとオレの気がすまない。


「リボーン、お前さっきから、くんの心をずっと読んでるのかよ!!」


 だから、今気付きましたと言うように、リボーンを叱る。
 本人が気にしてないのなら、こんなにオレが神経質にならなくてもいいと分かっていても、突っ込むのはオレの仕事になっているからなぁ。
 多分、リボーンのヤツはオレの心も読んでいたんだろう、フッと口端を上げて明らかに人を馬鹿にしたような笑みをった。


「ええよ、オレは気にしてへんし、リボーンがオレの心を読んどるんは、心配してくれとるんやって、分かるんやからな」


 だけど、オレのその言葉に口を開いたのはくんで、何処か嬉しそうな、でもちょっとだけ困ったような表情で言われたそれに、一瞬言葉を失ってしまう。
 あの、電話の人に向けた笑顔とは全然違うけど、それはなんて言うか、ちょっと心を温かくしてくれるような表情だった。

 だけど、それとこれとは話は別だ。
 しっかりとリボーンを庇うように言われたその内容に、オレは少し大げさにため息をつく。


くん、リボーンを甘やかす事ないんだからね!」


 そしてこれだけは言っておくと言うように、ちょっと強目の口調でくんへと注意する。
 だけど、言われたくんは、オレのその言葉に不思議そうに首をかしげた。


「甘やかす?この場合は、オレの方がリボーンに甘やかされとるように思うんやけど、どないやろう?」


 そして、質問されるように言われたその内容は、なんて言うかくんの人の良さが有り有りと分かるモノだったように思う。
 だって、勝手に心を読まれているのに、それを甘やかされてるとか普通、そんな風に捉えることは出来ないと思うんだけど


「確かに、そうなのな。ツナ、今回は小僧の方がを甘やかしてるみたいだぜ」


 くんの言葉に、なんと返せばいいのか、返答に困っていれば、その言葉に同意するように山本が口を開く。
 いや、それは山本が天然過ぎるだけだと思うんだけど、普通はそれを甘やかしているなんて言わないから!!


「山本まで、何言ってるの!勝手に人の心読むなんて、失礼すぎるだろう!!」


 だから、条件反射的に山本に突っ込みを入れてしまったのは、当然の反応だと思う。
 大体、勝手に人の心を読むなんて、普通に考えたらありえない事だから!


「読まれとる人が気にしてへんのやから、綱吉はんが気にする事あらへんよ」
「そうですよ!こいつが気にしてないんですから、10代目が気にされる事なんてありません!!」


 山本に突っ込んだオレに、くんがちょっとだけ笑って言ったその言葉に続いて、獄寺くんが口を開く。
 でも、それは、獄寺くんが言う事じゃないと思うんだけど

 確かに、本人が気にしていないのに、周りが何を言っても仕方ないのかもしれないって言うのは分かるんだけどね。


「そこが、溜め込んでるって言うんだぞ」


 勝手に獄寺くんに言われても、全く気にした様子のないくんに対して、リボンが呆れたようなため息をつく。
 そうして言われた内容は、またくんの心を読んだものらしく、リボーンが呆れるなんて、くんは何を考えたんだろう。
 きっと獄寺くんが言った事に対してなんだとは思うけど、言われた本人は、意味が分からないと言うように、不思議そうに首を傾げている。

 ああ、きっとそう言う所が、リボーンも放っておけないと思っているのかもしれない。
 確かに、溜め込んでいると言えば溜め込んでいるのだろう。

 何もない空間に向けて、不思議そうに首を傾げているくんを見ながら、オレも小さくため息をつくことしか出来なかった。