君が笑うから
 だからオレも笑う事しか出来なかった。


 目を覚ました時、君は一番にオレの心配をするから
 そして、オレが無事だと分かったら、嬉しそうに笑うんだよね。

「ツナが、無事でよかった」

 笑顔で言われるそれが、逆にオレの心を傷付けているなんて、君はきっと知らないだろう。


 だから、オレは強くなる事を選んだ。
 君を護れる程、強く。






 あの事故で、は2日間の意識不明で右足を負傷した。
 医者の話では、歩けなくなるかもしれないと言う事。

 それを聞いた時、オレはただ愕然としてしまったのだ。
 オレを庇ってが歩けなくなるかもしれないなんて、目の前が真っ暗になってしまった。
 当事者じゃないオレがそんな風になったと言うのに、はただ笑ったのだ。

「いいよ、歩けなくなっても、ツナが無事だったんだから……」

 儚く笑いながら言ったを、オレはただ強く強く抱き締める事しか出来なかった。
 が苦しいって言うまで、ただ強くが消えてしまわないように、その存在を確かめるように……

 オレを庇って傷付いたのに、君は笑う。

 どんなに辛くっても、君が笑うから、オレはただ笑顔を返す事しか出来ない。
 だって、当事者である君が笑うのに、オレが泣く事なんて出来ないから……





 の足は、リハビリで何とか歩けるようになると言う事が分かったのはが入院して1ヶ月も経ってからの事。

 それは嬉しい事だったけど、でももう二度と走れないのだと言う事実は変わらなかった。

 それでも、やっぱり君は笑う。
 歩けるのなら、それだけで十分だと言って君は笑った。


 それから、どんなに辛いリハビリが始まっても君はずっと変わらない笑顔で接してくれる。


 本当は、痛くて悲鳴を上げても可笑しくない程の怪我なのに、必死で何でもないように頑張る姿だけしかオレには見せない。


 だけどオレは聞いてしまったから、看護師達が話しをしているのを

 君の足は、ほんの少しでも体重を掛けただけで痛みを伴うのだと言う話をしていたのだ。
 普通の子供なら、リハビリなんて絶対に出来ないだろう怪我なのだと……


 なのに、君は笑うのだ。

 なんでもないと言うように、変わらない笑顔を見せてくれる。

 ねぇ、何処にそんな強い君が隠されているんだろう?
 オレよりも細い体をして、今にも崩れてしまいそうなのに、どうして笑っていられるのだろう。


 ずっと疑問に思っていたオレのその答えは、が担当医と話をしているのを偶然聞いて知る事が出来た。
 辛いリハビリ、痛いだろうけど泣き事一つ言わないに、担当医も不思議だったのだろう。

「確かにね、とっても痛いんだけど、頑張れば歩けるんだよね?だったら、頑張って歩けるようになりたい。だって、ボクが歩けないままだとツナがね、とっても悲しそうな顔をするから……だから、ボクは頑張って歩けるようになりたいんだ」

 どこか困ったような表情で言われた言葉。


 どうして、君はオレの事ばかりを考えるんだろう。
 本当は辛くてやめたいだろうリハビリだって、オレの為に弱音一つ吐かないで必死に頑張る君を、オレはただ見守る事しか出来なかった。


 どうして、はオレを庇ったりしたんだろう。
 こんな事なら、オレが轢かれていた方が………

「ツナ、今日ね、一人だけで立てたんだよ」

 そんな事を毎日考えていたオレに、君が笑って言ったのは本当に嬉しそうな報告だった。

 きっとそれは、無意識にオレの心を読んだ君がオレを励ます為に言った言葉だろう。
 君は、無意識に相手の心を読んで、包み込もうとするところがあるから

 ねぇ、君のその笑顔にオレがどれだけ救われているか知っている?
 それと同時に、君のその笑顔がオレを苦しめるのだ。

 君は、自分の事は後回しにしてしまうから、オレの事で君が傷付いてしまうから
 だから、オレは苦しくなる。

 君を護りたいと思っているのに、本当に護られているのは、オレの方だ。


 だから、オレはただ笑う事しか出来ない。

 どんなに辛くても、君が笑うから

 その笑顔に返すのは、笑顔しかなくて……