あれからが、オレの家に来なくなった。
 用事がない限り、教室に来ないようにと言った事を今では本気で後悔している。

 当然、そう言った手前、オレの方からの教室にいく事なんて出来るはずもなく、こっそりとの様子を見に行くだけの日が続いていた。

 そんな毎日に、オレはかなりイライラした日々を過ごしている。
 が、居ないと言うだけで、こんなにも心は落ち着かない。


 は、オレが近くに居なくても、気にならないのだろうか?
 ねぇ、は、オレの事が好きだったんじゃないの?

 それは、オレが勝手に思い込んでいるだけなのだろうか……


 今すぐ、に会いたい。


 オレの我慢は、1週間が限度だったようだ。

 オレから、に会いに行こうと決心した瞬間、聞こえて来たのはバイクの音。
 そのエンジン音は、の家の前で止まった。

 それの音に気付いて、オレは窓から外の様子を伺う。
 バイクの音は、雲雀恭弥が運転していたモノで、そのバイクの後ろに乗っているのは、オレがずっと会いたいと思っていた、

「何で、雲雀恭弥のバイクになんか……」

 雲雀恭弥に抱き付くようにバイクの後ろに乗っていたは、止まったバイクに気付いたのか、ゆっくりとその体を雲雀恭弥から離して、のろのろとした動きでバイクから降りた。
 だが、その体が不安定にグラリと倒れそうになる。
 オレが、『あっ!』と思った瞬間、その体を雲雀恭弥が抱き止め、そのまま軽々と抱き上げた。
 雲雀恭弥の顔は、何処かを心配しているように見える。
 そしてオレが見ている中、を抱えたまま家の中へと入って行く。

 その全てをずっと見ていたオレが、嫉妬の炎を燃やして雲雀恭弥を睨んで居た事なんて、きっと誰も知らないだろう。









 雲雀恭弥がの家から出て行くのを確認してから、入れ替わるようにの家に入る。

 リビングに居たおばさんに聞けば、は熱を出してまともに動けなくなったのを雲雀恭弥が送って来たのだと言う。
 何時もの熱だろうとは言っていたけど、部屋を覗いた時に意識を失っていたが居たらしくて、かなり動揺しているようだ。

、そんなに酷いんですか?」

 医者を呼ぶべきかどうかを迷っているおばさんに、確認するように問い掛ける。
 雲雀恭弥に送られて戻ってきた事を考えれば、容易に想像が付くのだが、医者を呼ぶべきかどうか迷っている様子に心配になってきた。

「それが、何時も以上に酷いらしくて、ベッドに入って気を失うように眠っちゃったのよ。の先輩が送ってくれなかったら、どうなっていたか……」

 オレが質問すれば、おばさんがため息をつきながら説明してくれる。
 今は、気を失うように眠っていると言う事らしい。

 確かに、雲雀恭弥が送ってくれなければ、道端で倒れていた可能性は高いだろう。

「そう言えば、最近は綱吉くん、と一緒じゃないんですってね、とっても寂しがっていたわよ」

 おばさんが教えてくれた事に、2階のの部屋を仰ぎ見たオレに、おばさんが思い出したというように口を開く。
 それは、から聞いたのだろう。
 確かに、ここ最近、オレはと一緒に居なかったから、嘘じゃない。
 その事を、おばさんが寂しがって居たと言ってくれた事が、不謹慎だけど嬉しいと思ってしまう。

「余計な事を言ったら、に怒られちゃうわね。ああ、綱吉くんは、の様子を見に行ってくれるかしら?」
「あっ、はい。あの、オレ、に付添っててもいいですか?」

 慌てたように質問された内容に、オレは小さく頷いて返す。
 そして、思い切って質問してみた。

 医者を呼ぼうかどうしようか悩んでいたおばさんは、オレの申し出に一瞬考えるような素振りを見せる。

「そうね。も私より、綱吉くんが居る方が喜びそうだわ。奈々ちゃんには、私から話しておくから、お願いしてもいいかしら?」

 オレの申し出に、頷いてからおばさんが逆に質問してくる。
 それに大きく頷いて返せば、おばさんが安心したように微笑み返してくれた。
 その笑顔は、オレの大好きなの笑顔と良く似ているモノだった。

 その後、の様子が酷いようだったら、直ぐに医者を呼ぶと言うおばさんに頷いて、の部屋へと向かう。

 オレが今手に持っているのは、アイスノンとヒエピタ。
 それから、目が覚めた時にに飲ませる為の水指しとコップの乗ったお盆。
 
 それを手にの部屋に入れば、ベッドの上でが制服のまま寝ている姿が目に飛び込んできた。

 おばさん、せめてパジャマに着替えさせるとかは、してあげるべきだと思うんだけど
 余程動揺していたのが分かるけど、これはあんまりな状態だろう。

 その事に小さくため息をついて、持ってきたお盆をテーブルの上に置き、タンスの中からパジャマを取り出す。
 そして、ベッドに倒れるように眠っているの制服を脱がして着替えさせる。

 着替えさせる為に触れたの体は、何時も以上に熱くてそして、力なくぐったりとしていた。

「もし、この熱がオレの所為だったらいいのに、何て、酷い考えなのかなぁ……」

 が熱を出すのは大抵嫌な事があった時だ。
 なら、この熱が、オレに会えなかった為に出した熱だとすれば、それはどんなに嬉しい事だろうか。

 オレが、思っている以上に、がオレの事を思ってくれればいいのに

「そんなの贅沢な望みだって、分かっているんだけど、ね……」

 をオレだけのモノにしたい。
 誰にも渡したくなんてないんだ。
 それが、あの雲雀恭弥だとしても、渡したくはない。

 ギュッと眠っているの体を強く抱き締める。
 離したくないと言う気持ちを込めて、強く強く抱き締めた。




、大丈夫?」

 あれからが目を覚ましたのは、その次の夜になってからの事だった。

 オレは当然の事ながら、学校を休んで一日中に付き切りだったのは言うまでもないだろう。
 今更、一日ぐらい授業を受けなくても、困るような頭は持っていないし、何よりも学校に行ってもどうせ嘘の自分を演じるだけなのだから
 それなら、に付いていることの方が、オレにとっては大切なんだ。

 母さん達も、そんなオレの性格を分かっているから、何も言わないで好きなようにさせてくれている。


 目を開いたに気付いて、そっと声を掛ければ、驚いたようにその目が見開かれた。
 まさか、オレがここに居るとは思いもしなかったと言うような表情だ。

「つ、な、よし……」

 そして、確認するように掠れた声がオレの名前を呼ぶ。

 ずっと寝ていた所為なのか、それとも熱の所為なのかは分からないけど弱々しいけど、確かな声がオレの名前を呼ぶのにホッと息をついた。
 がオレの名前を呼んでくれた事が、本当に嬉しかったのだ。

「うん、まだ熱が高いから、動かない方がいいよ」

 だけど、今にも起き上がりそうな雰囲気のに気付いて、それをやんわりと制すれば、不安そうな瞳が見詰めてくる。
 そんなに気付いて、安心させるように微笑んで声を掛ける。

「水、飲む?」

 熱を確認するように触れた手には、まだその熱が高い事が伺える。
 ずっと寝ていたし、熱の所為で汗をかいている事を知っているので問い掛ければ、コクリと頷く。

 その前に、オレの手に気持ち良さそうに目を細めた顔が、凄く可愛かったと思うのは、オレの心の中だけに留めて置く事にする。

「はい」

 内心熱の所為で何時も以上に色っぽくなっているに動揺しながらも、用意していた水差しの水をコップに移しに差し出す。
 当然は直ぐに受け取とるだろうと思っていたのに、動く事なくじっとがオレの事を見詰めてくる。

?」

 それを不思議に思って名前を呼べば、困ったような表情が返された。
 どう考えても、喉が渇いているのは状況を見れば直ぐに分かる。
 なのに、水を受け取らずに困ったような表情で見詰めてくるなんて……

「もしかして、動けないの?」

 そんなに不思議に思ったが、一つの考えに辿り着き驚きの声で質問すれば、困った表情のままコクリと小さく頷いて返された。

 今まで何度も熱を出してきたを見てきたから知っているのだけど、動けなくなったことなんで一度としてない。
 今回の熱は、何時も以上にの体にかなりの負担を与えているとみていいだろう。

 今回の症状がかなり酷い状態にある事が分かって、驚きを隠せないで動揺してしまう。

 でも今は何よりも、熱の所為で喉が渇いているだろうにどうやって水を飲ませるかの方が大事だ。
 一番いい方法で確かなものは、ストローを準備する事だと頭では分かっている。
 だけど、こんなチャンスを逃すなんて勿体ない事はしたくない。

 そこまで考えて、オレはの為に準備した水を自分の口に含んだ。

「つな……」

 そんなオレの行動に、驚いたようにがその瞳を見開くのを見ながら、ゆっくりとの顔に自分の顔を近付けて行く。
 ドキドキと煩い心臓の音を無視して、オレの名前を呼ぶ為に開かれた唇に、そっと自分のそれを押し当てた。

「んっ!」

 唇が触れた瞬間、から驚きの声が聞こたけれど、それを無視して口に含んだ水をの口の中へと流し込む。
 流し込んだその水をコクリと飲み込んだのを確認してから、ゆっくりと唇を離す。

「ごめん、が動けないみたいだから、口移しで飲ませるのが、一番早いと思って……」

 の口から溢れてしまった水を手で拭きながら、驚いた表情でオレを見てくるに謝罪する。
 本当は、こんな事をしなくても、他にいくらでも方法があるなんて分かっていたけど、それなのにそれを言い訳の理由にするなんて、オレは卑怯だ。

「そ、そっか、あ、ありがとう……」

 オレの謝罪の言葉を聞いて、一瞬傷付いた表情を見せたが顔を逸らしながらお礼の言葉を口にする。
 その声が、少し震えている事に気付いて、オレは自分がを傷付けてしまった事に気付いた。

「で、でも、母さんに言ってくれれば、ストロー用意して貰えたと思うけど……」

 必死で言葉を続けるが言ったその内容は、一番的確な方法。
 勿論、オレが一番に思い付いた方法だ。

 だけど、それを行動に移さなかったのは

「そうだね。でも、オレは、にキスしたかったんだ」

 俯いたままオレを見ないに、同意するように頷いてから、でも正直な自分の気持ちを伝えた。
 オレのその言葉を聞いて、驚いたようにが顔を上げて真っ直ぐにオレを見詰めてくる。

「綱吉?」
「ねぇ、早くオレに好きだって言ってよ!じゃないと、不安なんだ!」

 真っ直ぐに見詰めてくるの瞳が、不安気に揺れているのを見ていたオレは、その体をギュッと抱き締めて、もう押さえ切れなくなった気持ちをそのままへとブツけてしまう。
 誰にも渡したくなくて、そして何よりも離したくないと言う気持ちで、ギュッとを抱き締める。

「い、嫌だ、離して!」
!?」

 だけど、腕の中に抱き締めたが突然オレを拒絶するように動かない体で必死に暴れ出した。
 勿論、動かない体では、オレを引き離す事なんて出来ない。

 だけど、がオレの事を拒絶したのが許せなくて、更にを強く抱き締める。

「嫌だ、渡さない!オレはを雲雀恭弥なんかに渡したくない!!」

 例えがもうオレの事を思っていないとしても、誰にも渡したくなんてない。
 オレの思いを伝えるように拒絶しているを押さえ付けて、無理やりキスをする。

「んっ、ふぁっ」

 薄らと開いた唇を逃さないように、舌を入れて深くを貪った。
 逃げるの舌に自分の舌を触れさせれば、ビクリとの体が震えるのが分かる。

 だけど、オレは熱の所為で、熱くなっているの口内を我が物顔で犯していく。

 クチュッと、水音が部屋の中に響いた。

「ふっんっ、やぁっ、だぁ」

 その音を耳にした、がまた拒絶の言葉を口に出す。

 その声を聞いてから、俺は漸くから唇を離した。
 離れた唇を、銀色の糸が繋ぐ。

 それがプツリと切れるのを見ていれば、オレの手に何かが当たる。
 それは、後から後からオレの手を濡らしていく。
 驚いてを見れば、ポロポロと大粒の涙を流している事に気付いて、ギョッとする。

「えっ、?!」

 が泣いている事に気付いて驚いて名前を呼ぶけど、その涙は止まらない。
 オレは、を泣かせてしまった事に、本気で慌てた。

「な、何で泣くの?!やっぱり、オレよりも雲雀恭弥の方が良くなったのか!!」
「な、なんで、ここで、雲雀さんの名前が出て来るんだよ!分からない、綱吉は、俺の気持ちを知っていながら、何でこんな事するの!」

 オレにキスされたことがそんなに嫌だったのかと思って、そのまま気持ちを口に出せば、訳が分からないと言うようにが返してくる。
 しかも、オレがにキスした理由が分からないなんて

「そんなの、オレがを好きだからだよ!!」

 確かにオレは、の気持ちに気付いていた。
 でも、それはもしかしたらとか、本当はオレの願望かもしれないと思っていたのも否定しない。
 そんな中に、雲雀恭弥なんてとんでもない相手が出てきたものだから、焦ってしまったんだと思う。

 だからこそ、そんな状態のオレからの告白は、何とも情けないものになってしまった。

「幼馴染として、だよね?」
「なんで、今、この状況で、そんな風に考えられるの?!」

 だけど、勢いで告白したオレの気持ちを聞いた瞬間、拒絶するようにもがいていたの動きがピタリと止まる。
 そして恐る恐る質問された内容に、即行で突っ込みを入れてしまう。

 何でこの状況で告白して、幼馴染としての好きなんて思えるのかが分からない。
 大体、幼馴染相手の好きなら、オレはキスなんてしないから!

 まさか、ずっとはオレがの事を好きだって事を、まったくこれっぽっちも気付いてなかったの?!

「用事がなかったら、教室に来るなって、言った」
「それは、オレのクラスに狙いのヤツが何人か居たから、予防したんだ!」
「風紀委員になって、一緒に登下校出来なくなっても、仕方ないって……」
「雲雀恭弥の事は噂で知っていたから、何を言っても無駄だと思ったんだよ。それに、夜にはオレの部屋に来ると思っていたんだ」

 オレの言葉が信じられないと言うようなの質問に、一つ一つに返事を返す。

 本気で、オレが言った言葉をそのまま受け取っていたのだと思うと悲しくなってくる。
 オレの気持ちは、にまったく届いていなかったんだと思うと本気で頭が痛い。

「それなのに、は全然オレの部屋には来なくなるし、挙句の果てには雲雀恭弥と一緒に帰って来たかと思ったら抱き締められているわ、簡単に抱き上げられて運ばれているわで、本気で、ムカつくんだけど!」

 その事実に悲しくなりながらも、昨日の事を思い出して雲雀恭弥に対して殺意が浮かぶ。
 オレのに、あんなにベタベタするなんて絶対に許せない。

「雲雀さんは、俺の事を送ってくれただけなんだけど……」
は、自分に向けられる好意に鈍すぎるんだよ!!」

 思い出した事にムカムカしているオレに、少しだけ顔を赤くしたが、あの時の状況を説明するように口を開く。
 だけど言われた内容に、オレは呆れたように返してしまった。

 あれをただの善意だと思っているなんて、本気で信じられないんだけど!

 オレが怒鳴るように言ったその言葉に、は意味が分からないと言うように首を傾げる。
 本気で、意味が分かってないは、鈍い。

「あいつが、を風紀委員に引き入れた張本人なんだよ!」
「えっ?そう、なの?」

 本気で分かっていないに対して、本当の事を教えれば、信じれられないと言うようにが問い返て来た。
 その様子から見ても、本気では雲雀恭弥の気持ちには気付いてないのが分かる。

 まぁ、オレの気持ちにさえ気付いていなかったのだから、当然と言えば当然かもしれない。

 ああ、そうだ。
 あいつさえ出て来なければ、を泣かすような事だってなかったんだ。

 そして、何よりも、オレがこんなにもイライラする事もなかっただろう。

 全く持って雲雀恭弥を疑っても居ないに、呆れたように返す。

「そうなんだよ!あいつが出てこなければ、がオレから離れて行く事なんてなかったんだ!!」

 更に、思い出した怒りを口に出せば、怯えたようにがオレの名前を呼ぶ。

「つ、綱吉……」

 ビクビクと怯えているのが分かるに名前を呼ばれる。
 それに気付いて、視線をへと向けその肩を掴んでからしっかりと念を押す。

「だから、、雲雀恭弥に気を許しちゃだめだよ!」

 そうでもしないと、の事だから無防備な姿を晒して簡単に食べられてしまうだろう。
 そうじゃなくても、あっちは最強の肉食動物なのだから、小動物のようなはあっという間に餌食になってしまうだろう。

、聞いているの?!」
「はい!」

 オレが念を押すように言ったその言葉に対して、一向に返事を返す様子を見せないに焦れて、確認するように問い掛ければ、勢い良く返事が返された。
 その目は、完全に怯えているのが伺えて、オレは自分を落ち着かせる為に息を吐き出す。

 オレは、を怯えさせたい訳じゃないんだから

「……ごめん。こんな事言って、には迷惑だった?」

 無理やり自分の気持ちをに押し付けてしまった事に反省して、困ったように問い掛ける。
 だけど、が誰よりも大切だから、だからこんな無茶な事を言ってしまうのだ。

「迷惑なんかじゃないよ!そりゃ、ちょっと訳が分からない所もあるけど、それは、綱吉が俺の事を想ってくれているって事なんだから、逆に嬉しい」

 でも、それが全部にとって迷惑となってしまったらと考えると、どうしたらいいのか分からない。
 それが表情に表れていたのだろう、恐る恐る質問したオレの言葉に、勢い良くが首を振ってその言葉を否定してくれた。

 そして、最後には何処か嬉しそうに微笑んでくれる。

「有難う、

 オレの言葉を真っ直ぐに受け取ってくれた事が何よりも嬉しくて、自然と笑顔を見せれば、またが笑い返してくれた。
 その笑顔が、オレにとっては一番大切で、何よりも失いたくない大事な宝物だと言ったら、君はなんて返してくれるかなぁ?

「そう言えば、、熱の方は、もう大丈夫なの?」

 だけど、その瞬間、思い出してしまう。
 今の今まで、何時も以上に酷い熱を出してが寝ていたと言う事実を

 それなのに、オレは酷い事を一杯にしてしまったんだよね。

「あれ?熱、下がった、ような……」

 無茶をさせてしまった自覚があるからこそ、心配して問い掛ければ、が自分の額に触れながら不思議そうに首を傾げる。
 しかも、今まで手も動かせなかった状態なのに、それさえも忘れる程スムーズな動きで

「本当に?」

 だけど、あんなにも酷い熱が急に下がるなんて信じられなくて、の手をやんわりと外させてから、自分の手での額に触れる。
 触れた手が感じられたのは、明らかに熱が下がっていると分かる額の温度。

「確かに、さっきまでと違って、下がっているみたいだね」

 熱が下がっている事に安心して、ホッと息を吐く。
 そう思うのは、今回の熱は本当に酷かったから、かなり心配していたのだ。

 このまま熱が下がらなかったら、間違いなくおばさんは入院させる気満々だったと思う。
 オレも、その事実を知っているからこそ、本当に安心した。

「心配掛けて、ごめん」
「心配は、オレが好きでしているんだよ。でも、もし悪いと思うなら、からもオレに好きって言って欲しいな」

 安堵のため息をついたオレに、が申し訳なさそうに謝罪してくる。
 本当に心配掛けてしまった事を悪いと思っているに対して、笑みを浮かべて返してから、でも一つだけ思い付いた事に意地悪な笑みを浮かべて欲求を出す。

 情けない告白となってしまったけど、確かにオレはに好きだと告白したのだ。
 だけど、からは返事の言葉を聞いていない。

 確かにオレはの気持ちを知っているけれど、言葉にして聞きたいと思うのは当然の事だろう。

「そ、そんなの、言わなくても……」
「オレは、ちゃんと言ったんだから、からも聞きたいんだけど」

 オレの申し出に、の顔が一気に赤くなるのが分かる。
 そして、拒否の言葉を口に出しそうな勢いのに、ニッコリと笑顔でお願いモード。



 オレのお願いモードを前に、はまるでそれから隠れるように布団の中に入り込んでしまう。
 隠れてしまったに、促すようにその名前を呼ぶ。

「ま、また今度!」
「また今度って、何時!」

 だけど、名前を呼んだオレに返されたのは、そんな言葉だけで、オレは即行で聞き返した。

 聞き返したオレの質問に、からの返事は何もない。
 明らかにが困っているのが分かるけど、オレだってから好きと言う言葉を貰いたいのだ。

 だけど、これ以上を困らせる事は流石に出来ないので仕方ないと言うようにため息を一つ。

「分かった。そんなに言いたくないんだ。なら、言わなくてもいいから、からキスしてよ」

 だから、これで諦めると言うように言ったオレの言葉に、モゾモゾと動いていた布団の中のの動きがピタリと止まる。
 動かなくなった布団を前に、オレはもう一度ため息をついて布団の塊に声を掛けた。

、聞こえているよね?」
「無理無理無理!絶対に、無理だから!!」

 反応を示さないに焦れて、問い掛ければ勢い良く布団から顔を出したが、ブンブンと激しく首を振って返してくる。
 その顔は、これ以上ないほど真っ赤になっていた。
 だからこそ、嫌いだから嫌がられているんじゃないと分かるけど、そんなに勢い良く否定しなくてもいいと思うんだけど

「なら構わないよ、オレからするから」

 そんな初心なだからこそ、から行動して貰うのは諦めて自分から行動する。
 ブンブンと激しく首を振っているに両手を伸ばして、その顔を包み込み優しくキスをした。

 先程の思いを伝える為にした無理やりのキスと違って、今はまだ触れるだけのキスをする。

「今は、これで満足しとくよ」

 そっと唇を離して、ニッコリと笑顔を見せれば、は両手で自分の唇を隠すように覆ってから、またその顔を真っ赤に染め上げた。
 驚いて瞳を見開いた状態でオレの事を見詰めてくるに、ニコニコと笑みを浮かべて見詰めていれば、突然の体がグラリと倒れそうになるのに気付く。

?」

 倒れそうになるに気付いて、慌ててその体を支えれば、真っ赤な顔のままは意識を手放してしまっていた。
 そんなに気付いて、苦笑を零す。

 ああ、純真培養のだからこそ、ゆっくりと慣らしていくしかないみたいだね。








「2〜3日、休むんじゃなかったの?」

 に付き合って初めて来た応接室に居たのは、当然オレが今一番嫌いなヤツ。

 そんなヤツが開口一番に質問してきたのは、そんな内容だった。
 は、雲雀恭弥の質問に、何かを考えているようで何も答えない。

「聞いているの?」
「あっ、はい!えっと、今回は、早く復活できました。その分、症状は重かったんですけどね」

 返事を返さないに焦れたのか、雲雀恭弥が再度質問してくるのに、慌ててが返事を返す。
 そして、苦笑交じりにもう大丈夫だと言う事を伝えた。

 確かに、今回のの熱は酷かったけど、回復するのも早かったのは間違いじゃない。
 何時もなら、まだベッドと友達状態になっているだろう。

「そう。で、君のその後ろに居るのは、何?」
「あっと、俺の幼馴染です」

 の言葉に小さく頷いて、不機嫌そうな瞳がオレを睨んで更に質問してきた。
 それには、普通に返事を返す。

 多分、雲雀恭弥が質問した内容は、そう言う事じゃないと思うけどね。
 当然の事ながら、そんな事にが気付くはずもない。

「興味ないけど、部外者を部屋に入れないでくれる」
「す、すみません!どうしてもって、言われちゃって……」

 の返事に雲雀恭弥が小さくため息をつきながらも、不機嫌な声で言葉を続ける。

 オレは、ソファに座って作業に入ろうとしているを後ろからギュッと抱き締めた。
 勿論、それは雲雀恭弥に対する牽制だ。

「つ、綱吉、もう離して」

 ギュッとを抱き締めていれば、が少し顔を赤くしながらもお願いしてくる。
 今日は、久し振りにと一緒に登校してきたんだけど、それだけじゃ足りないんだよね。

「嫌だよ。それに、オレはただの幼馴染じゃないだろう」
「つ、綱吉?!」

 のお願いをあっさり却下して、雲雀恭弥に紹介したその言葉を訂正するように口を開けば、慌てたようにがオレの名前を呼ぶ。

は、オレのものになりましたから、手は出さないで下さいね」
「どう言う意味?」
「言葉通りの意味ですよ。雲雀恭弥」

 そして、チラリと雲雀恭弥へと向けて、しっかりと釘を刺すことも忘れない。
 それに反応して聞き返された内容に、ニヤリと笑みを浮かべて返し、オレの腕の中でオロオロしているの頬にこれ見よがしにキスをした。

「綱吉!!」

 オレの行動に、は真っ赤な顔をして名前を呼んでくるけど、気にしない。
 だって、嘘なんて一つも言っていないのだから

「沢田綱吉、ずいぶんと性格が変わっているね。そっちが本性って訳」
「へぇ、オレの事も知っていてくれているんですね、風紀委員長様は」

 そんなオレに、雲雀恭弥が不機嫌な声で確認してくる。
 まさか、オレの事を知っているとは思ってもいなかったので、感心したように返した。

「性格が、変わっているって、どう言う事?」
「1年A組沢田綱吉は、何をやっても落ち零れだと聞いているけど」

 だけど、には意味が分からなかったのだろう、不思議そうに質問してくる。

 そう言えば、には何も説明していなかったっけ
 の質問に答えようとしたオレが口を開く前に、雲雀恭弥が勝手に人の情報をバラしてくれた。

「綱吉が落ち零れって、どう言う事?!だって、勉強は俺よりも出来るし、スポーツだって何でも出来ていたのに……」
「あ〜っ、勝手に人の事バラさないでくれます」

 には知られたくなかった事なのに、本当に面倒な事をしてくれる。
 信じられないと言うように問い掛けてくるを前に、盛大なため息をつき、勝手にバラしてくれた雲雀恭弥を睨み付けた。

「綱吉、だから俺に教室に来るなって言ったのか?!」
「あ〜っ、まぁ、ぶっちゃけると、そうかな。でも、の事を狙っているヤツが居るって言うのも嘘じゃないからね」

 そんなオレを前にして、今気が付きましたと言うようにが質問してくる。
 そんなに、ため息をつきながら正直に頷いて返すが、昨日言った事だって、嘘じゃない事を教えておく。

 本気で、の事を狙っている奴が居るんだよね。
 そんなヤツ等に、を近付けさせるなんて冗談じゃない。

「綱吉、昨日も気になったんだけど、俺を狙っているって、どう言う意味?俺、命を狙われるような覚えないんだけど……」

 だけど、そう言ったオレに対して、は意味が分からないと言うように首を傾げながら質問してくる。
 しかも、言っている内容は、何とも間抜け内容だ。

 本気で何も分かっていないに、思わずため息をつけば、誰かのため息と重なってしまった。

「あの、俺、変な事聞いたんですか?」

 雲雀恭弥も、オレと同じようにため息をついた事に対して、もう一度ため息をついてしまうのを止められない。
 そして、オレ達がどうしてため息を付いたのかも分かっていないに、苦笑を零す。

「まぁ、それがなんだけどね」

 思わず呟いたオレの言葉の意味が分からないと言うように、がまた首を傾げた。
 本当に、鈍いにも程があるよね。

「なので、あなたの気持ちはまったくには通じていませんから、回りくどい事しても無駄ですよ」
「……みたいだね。折角忠告も貰ったから、僕も本気で行動する事にするよ」

 そんなを前にもう一度笑みを浮かべてから、雲雀恭弥へと口を開けば、こちらも小さくため息をついてしっかりと返してきた。

「オレから奪えるとは思わないで下さいね」
「奪って上げるよ。必ず、ね」

 それに反応して睨み付ければ、相手も負けじと、睨み返してくる。
 本気で厄介な相手に惚れられたものだよね、は……

 もっとも、誰が相手でも渡すつもりなんてないけどね。