オレには、ずっと好きな相手が居る。
 相手も、オレの事が好きだと思う。

 昔からそう言った勘は、誰よりも強いから間違いないとは思うんだけど、確証はない。

 だって、相手からは、何も言ってくれないから

 だからね、自信がないからオレは、君から『好き』って、言って貰いたいんだ。




「おはよう、。体調は、もう大丈夫なの?」

 家を出た先で、隣の家から出てきた相手を見つけて声を掛ければ、オレの声に反応して相手が振り返る。

「おはよう、綱吉。何とか復活したって所かな」

 オレの姿を見つけて、笑顔で返事を返してきたのは、オレの大切な大切な相手。

 勿論、本人はそんな事、気付いても居ないんだろけど

「良かった。心配してたんだよ。おばさんから、暫くが学校休むって、伝言頼まれた時には、ビックリしたんだからね」

 返事を返してくれた相手に、オレは急いで駆け寄り、その隣に並んだ。
 そして、数日前の事を思い出して、相手にその時の事を話す。

「ごめん。母さんには、綱吉とはもうクラスが違うんだから、学校に電話するように言ったんだけど」
「それは全然問題なかったんだけど、何か嫌な事でもあった?」

 オレの言葉に、は何処か困ったよう表情を見せて謝罪してきた。
 それから、まったく見当違いの事を言う。

 伝言を頼まれた事が嫌だった訳じゃない、だからこそ、心配した事を素直に質問する。

「何で、嫌な事?」

 オレが質問したら、は意味が分からないと言うように、問い掛けてきた。

「だって、昔からは嫌な事があると熱を出していたからね」
「そう、だっけ?」

 問い掛けてきたの言葉に、笑って返事を返す。

 長い付き合いだからこそ、知っている事。
 は、嫌な事があると体調を崩して熱を出すのだ。

「そうだよ!クラスで、何か嫌な事でもあったの?」
「嫌な事って、まだ入学したばっかりだし、入学式しか出てないんだから、嫌な事なんてある訳ないよ」

 オレの言葉に、とぼけたように返してきたに質問する。
 だけど、本当は、願って居たのかも知れない。

 にとって、嫌な事って言うのが、オレとクラスが離れてしまったのが寂しかったのだと……

「そうかもしれないけど……」
「心配しなくても、ちょっと体調崩しただけだよ」

 だけど返ってきたのは、笑って言われた言葉。
 それに、落胆したように頷けば、が何処か困ったような笑みを浮かべて返してきた。

 流石にそう言われてしまったらそれ以上、突っ込む事は出来ない。
 だって、そうすれば、オレのこの気持ちをに伝えなければいけなくなってしまうから

「そう言えば、綱吉はクラスの方には馴染めた?」

 そんな事を考えていれば、が話を変えるように質問してくる。

「まだ、入学して4日しか経ってないから、これからだよ。は、3日間休んでたんだから、大丈夫なの?」

 それに内心ほっとしながらも、表面上はため息をつきながら、無難な返事を返し、逆にの事を心配しながら質問した。
 オレが質問した内容に、が苦笑を零す。

「まぁ、小学校が一緒だった人がいるから大丈夫だと思う。綱吉のクラスは、小学校が一緒の人って居る?」
「オレのクラスには、居ないから、慣れるのは一苦労だよ」

 の言葉に、盛大なため息をついて返す。

 勿論、苦労するなんて思っていない。
 だって、新しい自分を創るには、最高の条件が整ってくれたのだから

 とクラスが離れてしまったのは、本当に残念だと思うけど、これからの事を考えると、それは逆に良かったのかもしれない。

「ああ、でも、隣の席に座っていた女の子が凄く可愛い子だったのはラッキーだったかな」

 ため息をつきながら言ったその言葉に、が苦笑する。
 それを見ながら、思い出したというように言えば、元から大きなの目が一瞬更に大きく見開かれた。

「そ、そうなんだ……それは、確かに、ラッキーだね」

 それから、何処か取り繕ったような表情で返事を返してくる。

「うん、笹川京子ちゃんって言うんだけど、可愛い上に、明るくて良い子なんだよね」

 だけど、それに気付かない振りをして、興味もない話を続ける。

 本当は、に嫉妬して貰いたいって思っているからこそ、オレは心無い事を言ってしまう。
 さっき動揺したのは、少しでも、オレの事を気に掛けていたと思っていいだろうか?

「楽しそうだね」
「うん、まだオレは、親しい友達にはなってないんだけどね」

 自分のクラスの事をに話せば、何処か寂しそうな表情で返事を返してくるが居る。
 そして、最後には俯いてしまったに、オレは内心嬉しく思っていた。
 こんなにも、の事を傷付けているのに、その原因が自分にあるのだと分かって、嬉しいなんて、酷い奴だよね、オレは

?もしかして、まだ調子が悪いの?」

 俯いて返事をしないを心配して、声を掛けた。

 を傷付けておいて、それに気付かない振りをして、こんな風に質問する自分が嫌になる。
 だって、そうすれば、はオレに心配掛けないように、返事をする事が分かっているのだから

「大丈夫。ほら、俺は、まだクラスがどんなクラスかも分からないから、ちょっと考えてたんだ」

 予想通り、は顔を上げて、少しだけ困ったような表情を見せながら、返事を返してきた。
 多分、なりに一生懸命考えたのだろうその言葉は、全部が全部嘘じゃないと分かる。

 が嘘をつく時の癖を、オレは知っているから

 だから、全部を嘘で誤魔化さずに、本当の事も織り交ぜてのその言葉にオレは一瞬言葉を返す事が出来なかった。

 基本的に、は人見知りをする方だ。
 だからこそ、知り合いの居ないクラスでは直ぐに溶け込む事は出ないだろう。

「でも、何度か話をした事がある人が居るから大丈夫だと思うけど」

 思わず心配そうに見詰めていたのだろう、オレの心情を読み取って、慌ててが無理やりな笑顔を見せて返してきた。
 だけど、言われたその言葉に、オレは一瞬考えてしまう。


 と同じクラスになった奴は……


「……のクラスに居る一緒の小学校だった奴って、確か森山とその配下の奴等だっけ?」
「えっ?森山くんと配下?……配下って言うのは良く分からないけど、森山くんは確かに同じクラスだったよ」

 オレの質問に、は訳が分からないと言うように首を傾げながらも頷いて返してくる。


 森山とその配下。


 は知らないだろうけど、森山はの事を好きなのだ。

「…出来れば、を近付けたくない相手だな」
「えっ?何?」

 そんな相手がの直ぐ傍に居るのだと思うと、心配になる。
 だって、は、そう言う事には、本当に鈍いから

 これは、何かしらの手を打った方がいいだろう。

「何でもないよ、あっ、ほら、学校が見えてきた。あれ?校門に黒い集団が……」

 オレの呟きを聞き逃したが不思議そうに聞き返してくるのに、首を振って返し、誤魔化すように言えば、も校門へと視線を向ける。
 その目が明らかに、驚きで見開かれたのが分かった。

「あれが、並盛中噂の風紀委員」

 オレも噂でしか知らなかったが、並盛中の風紀委員は不良の集まりだと言うのは、間違いなさそうだ。
 学ランを着ている集団を見て、一人納得する。

「風紀委員って、学ラン集団なの?」
「あれ?は、知らなかったっけ?」

 だけど、はその噂さえ知らなかったようで、驚いたように聞き返してきた。
 オレとしては、その噂さえ知らなかった方に驚きなんだけど

「まぁ、でも、服装検査だろうから、オレ達には関係ないと思うよ」

 ビックリして、キョトンとした表情でオレを見てくるに思わず苦笑を零してしまって、心配掛けないように言えば、コクリと頷いて返してくる。

 まぁ、オレは兎も角として、は極めて目立つタイプじゃないから、心配要らないだろう。
 それでも、オレと違って、はビクビクとした様子で学ラン集団の傍を通っているのが良く分かる。

 そんなに怯えなくても、大丈夫だと思うんだけどね。
 もっとも、それは、だけじゃなくて、他の生徒達も同じようだけど

「そこのお前」

 集団の前を通り過ぎて、がほっと息を吐き出した瞬間、野太い声が誰かを呼び止める。
 チラリと視線を向ければ、その相手の視線が向けているのは、間違いなく

「1年B組、だな」

 そして、予想通り名前を呼ぶ。
 どうして、風紀委員がの名前を知っているのかは、分からない。



 名指しで呼ばれたは、その顔を青くして、怯えた表情を見せている。
 それに気付いて、オレは少しでも落ち着かせようと、そっとの名前を呼んだ。

「あ、あの、お、俺、何かしましたか?」

 オレに名前を呼ばれて、少し落ち着いたのか、それでも恐る恐る振り返って、必死になって質問する。

「体調の方は、良くなったらしいな」
「あっ、はい!」

 でも、流石に相手を見る事は出来ないようで、鞄を握り締めて俯いている姿は怯えているのが良く分かる状態だ。

 まぁ、それでも、質問できただけ、にとっては凄い事だろう。

 そんなに、声を掛けて来た男は少しだけ困ったような表情をしてから、出来るだけ優しい声で安心したと言うように口を開く。
 言われた内容に、慌ててが返事を返した。
 そこで漸く、も相手が自分の事を心配してくれた事に気付いて、その顔を上げる。

「あ、あの、それで、俺に、何か?」
「ああ、1年B組の風紀委員は、だと聞いていたが、体調を崩して休んでいたのだろう。登校したら、委員長がテストをしたいとおっしゃっていたので、今日の放課後応接室に来るように」

 ビクビクと怯えた様子のが質問すれば、風紀委員の男が信じられない事を口にした。


 が、風紀委員?


 不良の集団だと言われている風紀委員に、が入る事になるなんて、何て不釣合いな事を言っているんだ?
 どう考えても、に風紀委員なんて無理だろう。

「忘れずに、来る様に」
「は、はい!」

 ぽかんとした表情をしていたは、念を押すように言われたその言葉に、反射的に返事を返す。
 が返事を返した事で、満足そうに風紀委員の男は、学ラン集団へと戻っていく。
 その後姿を呆然と見ているに気付いて、そっと声を掛けた。

、風紀委員に入ったの?!」
「えっ、いや、俺も、今初めて知ったんだけど……」

 オレの質問に対して、も複雑な表情を浮かべて、首を傾げながら返してくる。
 どうやら、本当に知らなかったらしい。

「休んでいるのをいいことに、押し付けられたんだと思う」

 だからこそ、考え付いた事に苦笑を零しながら口に出すに、逆に心配になる。
 だって、どう考えても、に風紀委員なんて、無理だと思うから

「だ、大丈夫なの?!
「うーん、それは分からないけど、取り合えず、放課後に、委員長のテストを受けてくるよ」

 心配気に問い掛ければ、曖昧な返事が返ってくる。
 しかも、気楽に言われたその言葉に、オレは小さくため息をついた。

「………、風紀委員長は並盛の不良の頂点に立っている人だって聞くから、気を付けてね」

 多分、の事だから、テストに受からなければいいとかそんな風に考えているのだろうけど、これだけはしっかりと教えておかなければというように言えば、明らかにの表情が複雑なものになった。

 時々は、物事を気楽に考える時があるから、心配になる。
 きっと、並盛の風紀委員長が不良の頂点だと言う事も知らなかったのだろう。
 しかも、風紀委員長は一筋縄ではいかないと言う事も聞いている。
 が考えているように、簡単に事が運ぶとは到底思えない。

 曖昧に頷いたを見て、オレはこっそりとため息をついた。

「あっ!そうだ、休み時間とか、綱吉の所に行ってもいい?」

 その瞬間、思い出したようにが質問してきた内容に、正直言えば困ったような表情をしてしまう。
 オレだって、に会いたくない訳じゃない。
 だけど、これからの事を考えると、を巻き込む事なんて出来る訳がないのだ。

「あのね、。クラスに馴染むまでは、お互いの教室を行きかうのはやめて置こうよ」

 本当は、こんな事言いたくないけど、それがの為になるのなら、いくらでも言うよ。

「……そ、そっか…そうだね。わ、分かった。それじゃ、用事がない限り、綱吉の所には行かないようにするから……」

 オレの言葉に、が驚いたように瞳を見開いてから、それでも必死に頷いて返事を返してくる。
 でも、それは今にも泣き出してしまいそうで、正直言えば今直ぐにでも撤回したいぐらいの気持ちになった。

 そのままとはクラスの前で別れてしまったので、その後の様子は分からない。

 放課後、風紀委員の件で応接室に行くだろうから、今日はもう学校で会う事はないだろう。
 せめてもの救いは、風紀委員にテストがあることだろうか。
 流石に、気弱で人見知りの激しいの事だから、風紀委員のテストに受かる事はないだろう。

「………でも、何だろう、この嫌な予感は……」

 そう自分に言い聞かせているのに、膨れ上がる不安な気持ちに、オレは自然と眉間に皺が寄るのを感じだ。








 オレがあんな風に言ったから、今日一日学校でに会う事はなかった。

 まぁ、実際は、オレがこっそりとの様子を見に行ってたんだけど、は気付いてないだろう。
 だから、放課後森山と話をしていた事も、風紀委員長である雲雀恭弥直々にの事を向かえに来ていた事も知っている。

 夜、オレの部屋に尋ねて来たが、報告してきた内容を聞いて、嫌な予感が当たっていた事を知った。

「それで、同意して帰ってきちゃったの?」

 が説明した内容を聞いて、盛大なため息をつく。

 結局は、テストもなしに問答無用で風紀委員となってしまったは、朝と放課後は風紀委員の仕事がある事を告げてから、シュンと落ち込んだような表情になる。

「ごめん、綱吉」

 呆れたようにため息をついたオレに、が謝ってきた。

 勿論、が悪い訳じゃないと分かっている。
 分かっているけど、内心かなりイライラしていた。

 それじゃなくても、との時間が減っているのに、を委員会に取られるなんて、許せない。

 でも、オレからそんな事を言うなんて、絶対に出来ないので、オレは落ち込んでいるを前にもう一度自分を落ち着かせる為にため息をつく。

「それじゃ、仕方ない、明日から、一人で登校するよ。も朝早くに出掛ける事になるんだから、気を付けてね」

 そして、あっさりとの言葉を承諾した。
 勿論、心の中では、そんな事思ってもいない。

 風紀委員なんかに、を取られるは、許せないのだ。

 あっさりと頷いたオレに、が驚いたようにその顔を上げて、信じられないと言うようにオレを見てくる。

「どうしたの、?」

 その視線を感じて、オレは出来るだけ冷静に、に質問した。
 そうでもしないと、このまま自分の気持ちを暴露して、を閉じ込めてしまうかもしれないから

「な、なんでもない。俺、明日から早く起きなきゃいけないから、もう帰るね」

 オレの質問に、は小さく首を振って返してくる。

 なんでもない、なんて言うのに、その顔は今にも泣き出してしまいそうだ。

 オレは、今日2度もにそんな顔をさせている。
 オレの部屋から急いで出て行くを見送って、イライラをぶつけるようにガンッとベッドを蹴り付けた。

「仕方ないんだ。を巻き込みたくないから……だから、ごめん」

 好きだからこそ、これからの事に巻き込みたくない。

 でも、その所為で、オレがを傷付けている事が許せないのだ。
 こんなんだから、を風紀委員なんかに取られたりする。

「……雲雀恭弥、に手を出すようなら、絶対に許さない」

 だからこそ、を引き入れた風紀委員長である雲雀恭弥へと怒りをぶつけるぐらいが精一杯だった。