俺には、ずっと好きな奴が居る。
 だけど、相手はきっと俺のことなんて何とも思ってないだろう。

 だって、あいつにとって俺は、ただの幼馴染でしかないんだから……

 でも、それが普通だ。

 だって、俺が好きな相手は、俺と同じ男なのだから




「おはよう、。体調は、もう大丈夫なの?」

 家を出た所で、声を掛けられて振り返る。

「おはよう、綱吉。何とか復活したって所かな」

 声を掛けてきたのが、俺の幼馴染で好きな相手。

 そんな事、絶対に相手に言えはしないけど、ね。

「良かった。心配してたんだよ。おばさんから、暫くが学校休むって、伝言頼まれた時には、ビックリしたんだからね」

 俺の傍へと駆け寄ってきた綱吉と、並んで学校へ向けて歩き出す。
 その時に、安心したように言われたその言葉を聞いて、俺は困ったような表情を見せた。

「ごめん。母さんには、綱吉とはもうクラスが違うんだから、学校に電話するように言ったんだけど」
「それは全然問題ないんだけど、何か嫌な事でもあった?」

 素直に謝罪すれば、心配そうに綱吉が質問してくる。

「何で、嫌な事?」

 だけど、その質問の意味が分からなくて、俺は思わず首を傾げながら問い返した。

「だって、昔からは嫌な事があると良く熱を出していたからね」
「そう、だっけ?」

 俺の問いに、綱吉が笑って言ったその言葉に再度首を傾げて見せる。

 もっとも、内心では少し驚いていた。
 だって、それは間違いじゃないから

 俺は、どうも嫌な事が起こると体が拒否反応を起こして熱を出してしまう体質らしい。

 今回の嫌な事は、綱吉とクラスが離れてしまった事だと思う。
 だって、今までずっと同じクラスだったのに、中学に入学した途端に、綱吉と離れ離れになってしまったのだ。

 それが、俺にとってはかなり嫌な事になったのだろう。

「そうだよ!クラスで、何か嫌な事でもあったの?」
「嫌な事って、まだ入学したばっかりだし、入学式しか出てないんだから、嫌な事なんてある訳ないよ」

 とぼけた俺に、綱吉が心配そうに質問してきた。
 それに困った表情を浮かべて、返事を返す。

 そう、俺は入学式が終わって直ぐに熱を出してから、3日間ずっとベッドと友達状態だったのだ。

「そうかもしれないけど……」
「心配しなくても、ちょっと体調崩しただけだよ」

 俺の言葉に綱吉は納得できないようだったが、何とか頷いてくれる。
 それに、駄目押しと言うように笑って言えば、諦めたのか綱吉がため息をつく。

 俺だって、これ以上綱吉に心配を掛けたい訳じゃないし、何よりも本当の理由なんて教えられる筈もないのだ。
 そんな事をしたら、何気に鋭い綱吉は、俺の気持ちに気付いてしまうから

「そう言えば、綱吉はクラスの方には馴染めた?」

 だから、俺は慌てて話を誤魔化すように違う事を質問した。

「まだ、入学して4日しか経ってないから、まだこれからだよ。は、3日間休んでたんだから、大丈夫なの?」

 俺の質問に、綱吉がため息をつきながら言葉を返してくる。
 そして、心配そうに質問されて、思わず苦笑を零してしまった。
 確かに、学校を数日休んでしまうと、馴染むのが遅れてしまうのは仕方ないだろう。

「まぁ、小学校が一緒だった人がいるから大丈夫だと思う。綱吉のクラスは、小学校が一緒の人って居る?」
「オレのクラスには、居ないから、慣れるのは一苦労だよ」

 綱吉の質問に返してから、更に聞き返せばため息をつきながら綱吉が返してくる。

 まぁ、綱吉の事だから、勉強もスポーツも出来るし、クラスに馴染むのは直ぐだろう。
 と言うよりも、周りが放って置かないと思うのだ。

「ああ、でも、隣の席に座っていた女の子が凄く可愛い子だったのはラッキーだったかな」

 だけど、続いて言われたその言葉に、ズキリと胸が痛む。

「そ、そうなんだ……それは、確かに、ラッキーだね」

 嬉しそうに言われた綱吉の言葉に、必死に返事を返す。

 綱吉が、可愛いと言う女の子。
 綱吉がそう言う位だから、本当に可愛いんだろう。

 女の子を可愛いと思うのは、普通の事だ。
 だから、俺が傷付く事じゃない。

「うん、笹川京子ちゃんって言うんだけど、可愛い上に、明るくて良い子なんだよね」

 必死で返事を返した俺に気付く事無く、綱吉はニコニコと嬉しそうにその女の子の話をする。

 そんな話聞きたくないのに、でもそれを遮る事も出来ずに、俺は必死に平静を装いながら、綱吉の話を聞いていた。

 他にも、綱吉のクラスには、結構人気者が揃っているらしい。
 綱吉が可愛いと言う女の子と、山本と言う明るくてクラスのムードメーカー的な人物も居るのだと教えてくれた。

「楽しそうだね」
「うん、まだオレは、親しい友達にはなってないんだけどね」

 嬉しそうにクラスの話をする綱吉に、複雑な気持ちになるのは止められない。
 同じクラスじゃない俺は、もう綱吉と一緒に同じ話を共有出来ないのだ。

 ズッシリと、心に重りを感じる。

?もしかして、まだ調子が悪いの?」

 何も返事を返す事が出来ずに、下を向いていた俺に、綱吉が心配そうに質問してくる。
 ダメだ、綱吉に、これ以上余計な心配は掛けたくない。

「大丈夫。ほら、俺は、まだクラスがどんなクラスかも分からないから、ちょっと考えてたんだ」

 だから、必死に言い訳を考えて、それを口にする。

 まぁ、それは全部が全部嘘じゃないけど
 だって、俺はこの3日間休んでいて、既にクラスでは仲良しグループが出来ているだろうと想像できる。

 俺は、どちらかと言えば、クラスでは大人しい方だから、どこかのグループに今から入れてもらうなんて勇気は流石にない。
 どう考えても、浮いた存在になるだろう事は、簡単に想像できそうだ。

 まぁ、唯一の救いなのは、小学校で何度か話をしてくれた人がクラスに居てくれるって事だろうか。

「でも、何度か話をした事がある人が居るから大丈夫だと思うけど」

 言ってから、また綱吉に余計な心配を掛けると思って、慌てて笑顔で返事を返した。

「……のクラスに居る一緒の小学校だった奴って、確か森山とその配下の奴等だっけ?」
「えっ?森山くんと配下?……配下って言うのは良く分からないけど、森山くんは確かに同じクラスだったよ」

 心配を掛けないように言えば、綱吉の表情が複雑なものになって、訳の分からない事を質問された。
 それに対して、疑問に思いながらも頷けば、何かを考えるような素振りを見せる。

「…出来れば、を近付けたくない相手だな」
「えっ?何?」

 ボソリと呟かれた言葉が聞こえなくて、聞き返す。

「何でもないよ、あっ、ほら、学校が見えてきた。あれ?校門に黒い集団が……」

 俺の質問を誤魔化すように言われたその言葉に、校門へと視線を向ければ、確かに黒い集団が……


 学ランの集団?
 えっ?今日って、何かあるの??


「あれが、並盛中噂の風紀委員」

 訳が分からない俺の耳に、ボソリと呟かれたその声が聞こえて来て、首を傾げてしまう。


 並盛中、噂の風紀委員?
 あの、黒い集団が、風紀委員なの?


「風紀委員って、学ラン集団なの?」
「あれ?は、知らなかったっけ?」

 初めて知った事に疑問に思いながら口を開けば、意外だというように綱吉が返してくる。


 えっ、そんなに有名なの?


「まぁ、でも、服装検査だろうから、オレ達には関係ないと思うよ」

 綱吉の聞き返しに、きょとんとした俺に苦笑を零して、心配ないだろうと言われた言葉に、コクンと頷いて返す。

 確かに、俺と綱吉は校則違反をするようなタイプじゃないから、風紀委員のお世話になる事はないと思う。
 そうは思いながらも、やはり学ラン集団の傍を通るのはビクビクしてしまう。

「そこのお前」

 集団の前を通り過ぎて、ほっとした瞬間、低い声が誰かを呼び止める。
 その声に、ビクッと肩が震えて、足を止めた。

 勿論、俺が呼び止められたとは思わないけど、なんて言うか思わず怯えてしまうのは仕方ないだろう。

「1年B組、だな」

 思わず足を止めてしまった自分に苦笑を零して、再度歩き出そうとした瞬間、名指しで名前を呼ばれた。



 名前を呼ばれた俺に、心配そうに綱吉が声を掛けてくる。
 俺としては、何で名前を呼ばれたのか分からないくて、内心パニックになった。

「あ、あの、お、俺、何かしましたか?」

 だから、俺に出来たのは、恐る恐る振り返って、必死に質問するのが精一杯。

「体調の方は、良くなったらしいな」
「あっ、はい!」

 相手の方も見る事が出来なくて、俯いたまま鞄を握り締めて何を言われるのか待っていれば、言われたのは安心したように、俺の体調を気遣っているものだったので、勢いよく返事をして、恐る恐る顔を上げて、相手を見る。
 そこに立っていたのは、リーゼント頭の学ランに風紀委員と書かれた腕章、更に葉っぱを銜えている大きな男の人。

「あ、あの、それで、俺に、何か?」
「ああ、1年B組の風紀委員は、だと聞いていたが、体調を崩して休んでいたのだろう。登校したら、委員長がテストをしたいとおっしゃっていたので、今日の放課後応接室に来るように」

 明らかに自分よりも大きな人を見上げて、ビクビクしながら質問すれば、信じられない事を言われた。


 えっ、俺、風紀委員?
 しかも、風紀委員って、委員長が直接テストするのものなの??


「忘れずに、来る様に」
「は、はい!」

 疑問に思った事を質問する事も出来ずに呆然とリーゼントの人を見上げていれば、再度確認するように言われて、慌てて返事をしてしまった。
 俺が返事した事で、リーゼントの人は満足そうに頷いて学ラン集団へと戻っていってしまう。

、風紀委員に入ったの?!」
「えっ、いや、俺も、今初めて知ったんだけど……」

 リーゼントの人が居なくなってから、信じられないと言うように綱吉が声を上げる。
 それに、俺も、複雑な表情で首を傾げて返すしか出来なかった。

 だって、俺が風紀委員だなんて、本当に知らなかったんだから

「休んでいるのをいいことに、押し付けられたんだと思う」

 間違いなく、理由はそんなところだろうと思う。
 そう言う事は、良くある事だから、俺も気にしない。
 そんな時に休んだ、俺が悪いんだからね。

「だ、大丈夫なの?!
「うーん、それは分からないけど、取り合えず、放課後に、委員長のテストを受けてくるよ」

 小さくため息をついた俺に、綱吉が心配そうに質問してくるのに、曖昧な返事を返す。
 だって、風紀委員の存在さえ今日初めて知ったのに、大丈夫なのかどうかなんて、分かる訳がない。
 テストに受からなければ、風紀委員にはなれないって事だと思うから

「………、風紀委員長は並盛の不良の頂点に立っている人だって聞くから、気を付けてね」

 そんな怖い事を言った綱吉に、俺はただ複雑な表情をしてしまうのを止められなかった。


 俺、無事に家へ帰れるんだろうか?


 恐怖を感じながらも、久し振りの学校に意識を引き締める。

 と、言っても綱吉が居ない教室に、またしても寂しさを感じてしまったのは言うまでもない。

 しかも、綱吉からはお互いクラスに馴染むまでは出来るだけお互いのクラスには顔を出さないようにしようとか言われるし……
 今日は、まったくもっていい事がないんだけど……

 自分の席に座って、盛大なため息をついても仕方ないだろう程に、今日は朝から疲れた。


 このまま帰っちゃダメですか?





 その後、当然帰れるはずもなく、容赦なく放課後になってしまった。
 この時間まで、俺は綱吉の教室には行っていない。

 だって、来るなって言われたのに、行ける訳ないよね。
 お陰で、今日の授業もまともに聞いてない状態だ。
 折角学校に来ているのに、これじゃ意味がない。

 隣の席の人達にも心配掛けちゃったし、明日はちゃんとしないとだよね。



 もう一度ため息をついた瞬間、名前を呼ばれて顔を上げる。
 それは朝綱吉との会話にも出てきた相手で、その後ろには綱吉曰く森山くんの配下の人達が数人……

「森山くん、どうしたの?」

 何か言い辛そうにしている森山くんに、首を傾げて問い掛ける。
 いや、俺のことを呼んだのに、何も言わないから焦れた訳じゃないんだよ。

「今日、風紀委員の顔出しに行くのか?」

 俺が質問したら、言い難そうに森山くんが質問してくる。
 ああ、確かにこれから風紀委員長に会いに行かなきゃいけないんだよね。

「うん、風紀委員になっているみたいだから、顔出さない訳にはいかないから」
「オレ達じゃないからな!」

 質問された内容に、素直に頷いた瞬間、訳の分からない事を言われた。


 えっ、何が俺達の所為じゃないの?


 本気で良く分からず、思わず首を傾げてしまう。

「風紀委員をにしたのは、オレ達じゃないからな!」

 首祖傾げた俺に、森山くんが、またしても慌てたように口を開いた。

「えっと、何も、俺を風紀委員にしたのが、森山くん達だとは思ってないよ。委員会を決める時に休んじゃった俺が悪いんだしね」

 言い訳のように言われたその言葉に、困ったように口を開く。


 俺、そんなに恨みがましく言ったつもりもなかったんだけど、森山くんには、嫌味に聞こえちゃったのかなぁ?
 それなら、悪い事したかも


「別に、俺は気にしてないから、森山くんも気にしなくて大丈夫だよ」

 ニッコリと笑顔で言えば、何でか赤い顔で複雑な表情をされてしまった。


 俺の顔って、そんなに変な顔していたのかなぁ?


「それじゃ、俺これから風紀委員長に会わなきゃいけないから、これで失礼するね」

 鞄を持って、椅子から立ち上がる。
 委員長がどんな人なのか知らないけど、人を待たせるのは良くないから、早く行った方がいいだろう。


 あれ?でも、応接室って、何処にあるんだろうか?


 入学して5日目。
 でも、俺はその内の3日を休んでいたので、学校に来たのはこれで2日目。
 流石に、学校の構造を把握している筈もない。

?」

 困ったような表情をした俺に、森山くんが気付いて声を掛けてくる。
 そうだ!森山くんに聞いてみよう。

「森山くんは、応接室の場所知っているかなぁ?」

 心配そうに見詰めてくる森山くんに、恐る恐る聞いてみる。


 その瞬間、『うっ』と言う森山くんの声が聞こえたのは気の所為?しかも、さっきよりも顔が真っ赤になっているような?
 熱を出して休んでいた俺が言うのも変かもしれないけど、無理はしない方がいいと思うよ。


「森山くん?」

 赤い顔の森山くんを心配して、名前を呼ぶ、その瞬間教室の中がザワリと騒がしくなった。

は、居る?」

 そして、その直ぐ後には、シーンと静まり返り良く通る声が俺の名前を呼ぶ。

「はい!」

 その声に、俺は慌てて返事を返す。
 もはや、条件反射と言ってもいいかもしれない。

「居るなら、早く付いて来て」

 返事を返した俺に、一瞬だけ視線を向けて、俺を呼んだその人は既に踵を返してしまっていた。
 言われた言葉に、俺は慌ててそれを追い掛ける。

「森山くん、調子悪いようだったら、無理しないで保健室行った方がいいと思うよ」

 それからまだ呆然と俺の席の直ぐ傍に立っている森山くんに声を掛けた。
 俺に名前を呼ばれた森山くんは、それにはっとしたように、ただ小さく頷く。
 それを確認して、俺は慌てて名前を呼んだ人の後を追い掛ける。

 黒髪に、切れの長つり目の黒い眼。
 学ランを肩に掛けて颯爽と歩くその人は、なんて言うか迫力がある。
 学ランの腕に風紀委員と言う腕章があるから、この人も風紀委員だと言う事は分かるんだけど、朝見た風紀委員はみんなきちんと学ランを着ていたし、リーゼント姿の人が殆どだったから、それが風紀委員の決まりだと思っていたんだけど

 階段を歩くその人の後を追えば、辿り着いたのは応接室と書かれた部屋の前。
 どうやら、態々迎えに来てくれたみたいだ。


 見た目ほど怖くないのかなぁ?


、入りなよ」
「はい、失礼します」

 先に中へ入った人が、声を掛けてくるのに返事を返して応接室に頭を下げてから入る。

「そこに座って」

 中に入れば、先に部屋に入った人は、まるで自分の部屋のように寛いだ様子で部屋の真ん中に置かれているソファに座った。
 それから、俺にその前に座るように促す。

「あっ、あの、俺は、風紀委員長に会うようにと言われているんですが……」
「うん、だから会っているでしょう」

 でも、俺は俺でここには風紀委員長に会う為に来ているから、勝手に座るわけにもいかないと、恐る恐る言えばあっさりと返ってきた言葉に一瞬何を言われたのか分からなかった。


 あれ?会っている?
 俺が、風紀委員長に?いつ?!


「あ、あの……」
「僕が風紀委員長の雲雀恭弥だよ」

 訳が分からなくて、問い掛けようと口を開きかけたその言葉は遮られて、自己紹介された。


 この人が、風紀委員長……。


「す、すみません、俺、知らなくて……」
「うん、君が知らない事は知っていたから気にしてない」

 自己紹介してくれた人に、慌てて謝罪すれば気にしてないと言ってくれる。
 それに、俺は安心してホッと息を吐き出す。

「それじゃ、改めて言うよ、そこに座りなよ、
「あっ、はい」

 それと同時に再度言われた言葉に頷いて、言われたように委員長の前に座る。


 あれ?でも、俺はここに委員長のテストを受けに来たんだよね?だったら、こんなにのんびり座っていていいのかなぁ?


「あ、あの、俺テストを受けに来たんですけど……」
「ああ、テストなんてしないよ。君には僕の手伝いをして貰うから」
「えっ、でも、朝言われたのは、テストをするって……」

 素直にソファに座ったから、目の前に座っている委員長へと質問すれば、あっさりと返ってくる返事。
 でも、テストをせずにもう採用は決定って……

「君の成績は確認済み。だから、テストの必要はない」
「俺の成績?」

 確かに、俺の成績は綱吉のお陰でかなり良い方だ。
 でも、だからって、テストが必要みたいなのに、そのテストをせずに採用なんて

「優秀な生徒を野放しにしておくのは勿体無いからね。先も言ったように、君には僕の手伝いをしてもうよ」

 いや、あの、俺くらいで優秀なら、綱吉はもっともっと優秀なんですけど、それは、放っておいてもいいんでしょうか?

「取り合えず、今日は顔合わせだけだけど、明日からは朝と放課後に仕事を手伝って貰うから」
「朝と、放課後に、ですか?」
「そう、明日は7時にここに来る事」

 俺の心の声が委員長に聞こえるはずもなく、サクサクと話が進む。

「…7時……」


 そんな時間に登校したら、綱吉に会えなくなる。
 しかも、放課後もここに来なきゃいけないなんて、ますます綱吉には会えない。

 休み時間には、会わないようにしようって言われているから、朝と放課後だけが綱吉に会える時間なのに

「そう、7時だよ。遅刻したら、許さないからね」

 信じられない時間だったから、ポツリと呟いた俺に対して、委員長がきっぱりと返してくる。
 どう考えても、拒否権はなしと言う事なのだろう。

 テストがあるって言っていたから、受からないようにするつもりだったのに、俺は結局問答無用で風紀委員になってしまった。


 綱吉に、会う時間がどんどん減っちゃうよぉ〜。





「それで、同意して帰ってきちゃったの?」

 あれから俺は、委員長に拒否の言葉が言えるはずもなく、家に帰った。

 ご飯を食べてから、綱吉の部屋にお邪魔して、問答無用で風紀委員になった事と、朝一緒に登校できなくなった事を話したら、呆れたように綱吉がため息をつく。

 自分でも、意気地なしだと思うけど、どう考えても拒否できる雰囲気じゃなかったし、何よりも委員長の迫力には到底逆らえなかったんだ。

「ごめん、綱吉」

 だから、素直に謝る事しか自分には出来なかった。
 でも、俺としては、綱吉と一緒に登校できないのも、下校出来ないのも、もの凄く寂しい。

「それじゃ、仕方ない、明日から、一人で登校するよ。も朝早くに出掛ける事になるんだから、気を付けてね」

 謝罪した俺に、また綱吉がため息をついて、あっさりとその事を了承してしまう。
 確かに、決まってしまった事は仕方ないかもしれないけど、そんなにあっさり納得されるとは思っていなかった俺は、信じられないと言うように綱吉を見る。

「どうしたの、?」

 だけど、綱吉は俺が信じられないと言うように見ているのが、どうしてなのか分からないと言うように質問してきた。

「な、なんでもない。俺、明日から早く起きなきゃいけないから、もう帰るね」

 何時もと変わらない綱吉に、俺は必死に平静を装って、でもこれ以上綱吉と一緒に居る事が出来る訳もなく、急いで綱吉の部屋を出る。


 だって、このまま綱吉の部屋に居たら、泣いてしまいそうだったから


 パタンと部屋のドアを閉じて、階段を下り階下に居る奈々さんに声を掛けて、綱吉の家を出て隣の自分の家に帰る。

 その間、必死で泣きたいのを我慢した。
 家に帰って、直ぐに自分の部屋に入って、ドアを閉めその場に座り込む。

「……俺が、居なくても、綱吉は平気、なんだ……」

 一緒に居られなくなっても、綱吉は少しも変わった様子もなく、全てを受け入れていた。
 それは、俺が居なくても、平気だと言う事。
 寂しいと思っているのは、俺だけ

「……好き、なのは、やっぱり、俺だけ、なんだ……」

 綱吉にとって、幼馴染である俺が離れても、気にならないんだと、そう言われた気がしたから