が眠った事を確認して、再度ため息をつく。


 本気で、何が『ね?』なんだか……


 上目遣いでしかも、熱でトロンとした瞳で見詰めながら言われたその言葉に、ドキリとしたのは絶対に秘密。
 その後も、オレは必死で平静を装った。

 その甲斐あって、は気付かなかったみたいで、かなりホッとしたのは隠しようもない事実。

 そして思う事は、熱を出して倒れるまで気付かないの事。

 こんなに熱が高いのに、気付かない筈がないのに……


「……本当に、無茶ばっかりだよね……」


 自覚の無い君に、何を言っても無駄だという事は分かっている。

 だけどね、オレは君だからこんなにも心配するんだよ。
 君が熱を出す度に、心配になるんだ。

 また、君が動けなくなってしまうんじゃないかと……


「オレは、の事になると臆病なんだよ」


 眠っているの前髪に触れる。

 オレの髪と違って、の髪はサラサラで持ち上げればスルスル指から流れていってしまう。


 それはまるで、君自身のようだとオレには感じられた。

 だって、君は何時だってオレの手から離れて行ってしまう。
 離しくたくなんてないのに、君は何時だって心のままに行動を起こすから

 例えそれが、どんなに危険な事だとしても……


「昨日だって、君は誰の為に無茶をしてきたの?」


 珍しく家に戻ってから直ぐに出掛けたなんて言われて、オレがどんなに心配した事か。

 きっと、君は知らないよね。
 オレの気持ちには、気付きもしないんだから


「……ツっくん、ちゃんは寝た?」


 再度ため息をついた瞬間、躊躇いがちなノックの音と共に静かに扉が開いて、母さんが小さな声で問い掛けてきた。


「うん、今漸く寝た所」
「そう、あのね、ちゃんを尋ねて、男の子とそのお母さんが見えてたんだけど……」


 声を掛けてきた母さんに返事を返せば、ホッとしたような表情を見せてから、続けて言われる言葉。

 言われて思い出す、確かに呼び鈴の音がしてたっけ……


「何の用事だったの?」
「昨日ね、ちゃんに家のカギを探して貰ったんですって……今日はお仕事がお休みで男の子から話を聞いて態々お礼を言いに来てくれたのよ」


 疑問に思って質問すれば、あっさりとが無茶をした理由を教えてくれた。

 ねぇ、どうして君は人の為に無茶な事ばかりしているの?
 君を何処かに閉じ込めてしまえは、オレはこんなにも心配しなくてすむんだろうか?


「そう言う事……」
「だから、あんまりちゃんを叱らないであげてね」


 ポツリと呟いたオレに気付いて、母さんが恐る恐る声を掛けてくる。


 叱らないように?

 もう、とっくの昔に叱った後だよ。
 大体それで、無茶はしてないなんてどうして言えるの?

 君にとっては、それが十分無茶な内容だって、どうして分からないんだろうね。


「熱を出して当然だった訳だ……」
「ツ、ツっくん?」
「母さん、明日は一日はこのまま、熱が下がっても学校は休ませるから」


 自覚がないと言うのなら、しっかりと自覚を持ってもらう事から始めないと


「そ、そうね、ちゃんは、ツっくんに任せておくわね。母さんは、夕飯の支度しなくっちゃ」


 ニッコリと笑顔で言ったオレの言葉に、母さんが慌てたように頷いて部屋から出て行く。

 まぁ、時間的に夕飯の準備をしなくちゃいけない時間だから、問題はないけど

 珍しく母さんがオレの笑顔に、怯えてたのは気の所為じゃないだろう。
 かなり不機嫌だって言う自覚は持っているから、仕方ないかもしれない。

 何度言っても君は、全然分かってくれないから
 だったら、君が無茶な事をしないように片時も離れなければいいのかな?


「その為には、どうするかだよね」


 考えるのは、全部君の事。
 今直ぐには無理かもしれないけど、出来る限り君と一緒に居られるようにしよう。



 そして、それから沢田の傍には双子の兄の姿が見られるようになったのは言うまでも無い。