夏はどうしてもダメ。
 暑いのは、苦手だから
 でも、だからと言って冬が良いという訳でもない。
 だって、冬の寒さは古傷に影響してしまうから

 だから、俺が好きな季節は、春と秋。

 まぁ、我侭な理由だと、自分でもそう思うんだけどね、こればっかりは仕方ないんだよね。


「暑い」


 暑さで目が覚めるのは、ここ数日では毎朝の事。
 折角の夏休みなのに、全然ゆっくり寝られない。

 クーラーをつければ快適に過ごせるんだろうけど、どうしても苦手なので夜寝る前につけて直ぐに切れるように設定してある。
 本当は窓を開けて寝たいんだけど、それはツナから絶対にダメだって言われているので、窓は閉め切っているので、余計に暑いと思うんだよね。
 危ないから窓を開けちゃダメって言うんだけど、俺は女の子じゃないから心配のし過ぎだと思う。
 確かに、物騒な世の中になってきていると思うのだけど、並盛はその辺で言えばまだまだ平和だ。何せ風紀委員が見回りをしているので、犯罪者を見逃すなんて事がないから

 汗をかいて気持ち悪いから、起きて直ぐにシャワーを浴びるのが最近では朝の日課になってしまった。


「おはよう、母さん」
「おはよう、ちゃん。夏になると、ちゃんが早起きになるわね」


 シャワーを浴びてスッキリしてからキッチンに居る母さんに声を掛ければ、笑いながら返されてしまう。

 早起きと言っても、今の時間は8時を回ったぐらい。
 決して早い時間ではない。

 母さんの言葉に苦笑を零して、椅子に座る。


「朝ご飯はどうする?」
「う〜ん、飲み物だけでいい」


 椅子に座った俺に、母さんが質問してくるから少しだけ考えて返事を返す。
 本当はしっかりと食べなきゃいけないと分かっているんだけど、どうしても食べられないんだよね。


「また?ちゃんと食べないと、そろそろツっくんからお小言貰っちゃうわよ」
「うん、分かってるんだけどね……」


 朝ご飯をパスした俺に、母さんがため息を付きながら返してくる。
 確かに、そろそろツナが爆発しちゃいそうなんだけど、食欲がわかないので、食べるのは難しい。
 無理やり胃に押し込んでも、吐いてしまうのは経験済みだ。


「五穀粥作ってみたんだけど、食べてみない?」


 困って返事した俺に、母さんが茶碗にそれを入れて手渡してくれた。
 冷たく冷やされた五穀粥を受け取って、一口食べてみる。
 あっさりとした味は、食欲のなくなっている俺でも何とか食べられそうだった。


「うん、態々ごめんね」
ちゃんが食べられそうなもの、ツっくんと一緒に考えてみたのよ。食べられるようなら、明日も用意するわね」


 俺の為に手間を掛けさせてしまった事が、申し訳なくて謝れば笑顔で返される。
 母さんとツナが俺の為に考えてくれた事が、本当に嬉しい。


「うん、有難う」


 だから今度は謝罪ではなく感謝の言葉を返せば、母さんが嬉しそうに笑ってくれた。

 母さんが準備してくれた五穀粥は、梅昆布茶とほんの少しの生姜の味が隠し味となっていて冷たいのに、しっかりと燃焼系が取り入れられているからクーラーで冷えたからだにも良さそうだ。
 それに、水分を大量に含んでいるから、サラサラと食べられるのも有難い。


「おはよう、今日もの方が早かったみたいだね」
「おはよう、ツナ」


 久し振りに朝ご飯をしっかり食べ終わった時に、後ろから声が聞こえて来た。
 それに対して、笑顔で返事を返す。


「今日はちゃんとご飯食べられたみたいだね」
「うん、ツナと母さんが考えてくれたメニュー良かったみたい」


 お粥だったら、スムーズに食べられた。
 お茶碗1杯だとしても、今まで何も食べられなかったのだから、大した進歩だ。


「そう、良かった」


 笑顔で報告した俺に、ツナも嬉しそうに笑ってくれた。
 それだけ、俺はツナや母さんに心配を掛けていたのだろ思うと、申し訳ないんだけど


「ツっくんも、五穀粥食べる?」
「それじゃ、お願いするよ」


 そんな俺達に、母さんが声を掛けて来た事で、ツナも俺の隣の椅子に座って朝食タイム。
 でも、俺とは違って、五穀粥とお味噌汁、焼き魚と玉子焼きにお浸しとしっかりと日本の朝ご飯だ。
 俺は、五穀粥だけで精一杯だったのに、ツナはしっかりと朝ご飯を食べているんだから、そこからして違いすぎるよ。


ちゃん、飲み物は何にする?」


 ツナの前に並べられた朝食を見て、ちょっとだけショックを受けていた俺に、母さんが再度質問してくる。
 そう言えば、初めに飲み物だけって話はしたけど、何を飲むのかは言わなかったっけ?


「えっと、それじゃ、緑茶のホットで」
「ホットでいいの?」
「うん、ホットがいい」


 飲みたい物のリクエストを言えば、少し驚いたように母さんが質問してくる。
 俺は、それに頷いて返した。

 いや、ほら、さっき冷たいものを食べたので、ホットの方がいいのかなぁと……嘘です、本当にホットのお茶が飲みたかっただけです。


「母さん、オレの分も一緒に入れといてよ」
「分かったわ。何だか母さんも飲みたくなっちゃった」


 俺が言った事で、ツナもそれに便乗して、気が付いたら母さんも一緒にお茶する事になった。
 みんなでホットのお茶を飲むって言うのは、まったりとしているよね。

 と、ここで初めて気付く、そう言えば今日はものすごく家の中が静かだ。


「母さん、今日は他のみんなは?」


 母さんが入れてくれたお茶を飲みながら、本当に今更ながらの質問をする。


「今日は、みんなお出掛けしちゃったのよ」
「それは、静かでいいね」


 朝食を食べながら、母さんの言葉にツナが呟いた内容に思わず苦笑をこぼしてしまう。

 確かに、静かなのは否定しない。
 何時も賑やかな家がこんなに静かだと、何だか寂しく感じてしまうのは、あの賑やかさに慣れてしまっているからだろうか。
 2年前は、これが当たり前だったのに


?」


 そんな事を考えていた俺に気付いたのか、ツナが心配そうに名前を呼ぶ。
 それに気付いて、慌てて考えていた事を放棄した。


「何?」


 だから、分からないと言うようにツナに聞き返す。


「何でもない」


 聞き返せばツナはジッと俺の顔を見詰めて、悪いことを考えていないと言う事を察したのか、それ以上質問してくる事はなかった。
 まぁ、本当に悪い事を考えていた訳じゃなくて、昔の事を思い出していただけなので心配される事はないと思う。


「それで、みんな何処に行ったの?」
「ビアンキちゃんは、リボーンくんとデートって出て行ったのよね」
「えっ?こんな時間から?」
「ちょっと遠出するんですって、羨ましいわよね」


 驚いて声を上げた俺に、母さんが説明してくれる。
 遠出なら、確かにこの時間から出掛けても可笑しくないだろう。


「ランボくん達は暑くなる前に外で遊んで来るって飛び出して行ったわ」


 それから、他の子供達も外に遊びに行ったのだと、教えてくれた。
 でも、子供達だけで遊びに行ったなんて、大丈夫なのだろうか?


「そのまま帰ってこなければ、平和なのに」
「いやいや、そう言う訳には行かないから!それより、ランボくん達だけって、大丈夫なの?」
「フゥ太が居るから何とかなるんじゃない?」


 ぼそりと言われたツナの言葉に思わず突っ込んで、心配で問い掛けてしまった俺に今度はツナが返してくる。

 うーん、確かにフゥ太くんはしっかりしているんだけど、やっぱり子供な訳で、一番心配なのはランボくんの面倒を子供だけで見られるのかと言う事。
 絶対に、一人で暴走しちゃいそうだよね。


「ああ、それなら大丈夫よ、ハルちゃんが面倒見てくれているわ」
「えっ?ハルちゃんが?」


 心配が顔に出ていたのか、母さんから心配ないというように言われた内容に驚いてしまう。
 だって、こんな時間からまさかハルちゃんが子供達の面倒を見てくれているなんて思いもしなかったのだから


「ええ、早くに目が覚めて散歩していたんですって、ちょうど通り掛かって面倒を見てくれるって」


 ニコニコと笑顔で言われた内容に、何だか申し訳なくなってしまう。
 いくらハルちゃんが子供好きでも、ランボくん達の相手は大変だと思うんだよね。


が心配しなくても、ハルは好きでやってるんだよ。どうしても申し訳ないって思うんなら、お礼にお菓子でも作って上げればいいんじゃない」


 思わず考え込んでしまった俺に、まるでその心を読んだかのようにツナが声を掛けてくる。


「ツナ?」
「違う?」


 思わず驚いてツナを見れば、逆に問い掛けられてしまった。

 確かに、ツナが言う事に間違いはない。
 ハルちゃんは、嫌々面倒を見てくれているんじゃなくて、自分から申し出てくれてるんだから、俺はそれに感謝して、少しでもハルちゃんに何かを返せばいいんだ。


「ううん、違ってないよ。それじゃ、俺はハルちゃんが好きなお菓子を作る……って、ハルちゃんが好きなお菓子って、ラ・ナミモリーヌのモンブランだよね、流石に俺には作れないんだけど……」


 それに、モンブランって、真夏に作るケーキじゃないので、流石に材料として揃えてない。
 もう少し先の季節には、ちょうどいいんだけど

 でも、材料があったとしても、ラ・ナミモリーヌのケーキなんて素人の俺に作れる訳ない。


が作るなら、何でも喜んでくれると思うけど」
「そうかなぁ?」
「現に、何時もが作ったお菓子を嬉しそうに食べているしね」


 確かにハルちゃんは、俺が作ったお菓子を何時も『おいしいです!』って笑いながら食べてくれる。

 不安そうに言った俺の言葉に、返してくれたツナの言葉で考えを改めた。
 ハルちゃんは誰かが作ったものを、喜ばないような人じゃない。


「うん、ハルちゃんが喜んでくれそうな夏のお菓子を作ってみるよ」
「それは、いいことだけど、流石に作るには時間がないんじゃないかしら?」


 頷いて言った俺の言葉に、母さんが苦笑を零しながら声を掛けて来る。
 た、確かに、今からの時間だと、皆が帰ってくるまでにお菓子を作る時間なんてなさそうだ。


「そうだね。流石に今回は時間がないから、帰ってきたみんなには、市販のアイスで我慢してもらうよ」


 母さんに言われて時間を見れば、そろそろ皆が帰ってきても可笑しくない時間で、どう考えてもお菓子なんて作っている時間なんてない。
 今回は諦めて、おやつの時間にでも何か作ろうかな。
 ハルちゃんが、それまで何も用事がなければいいんだけど





 元気良く帰ってきたハルちゃん達にアイスを渡して、今日の予定を聞けば、何も用事はないって言ってくれたので、ランボくん達の面倒を見てくれた御礼にって、お昼をご馳走するって言ったら、喜んでくれた。
 今日のお昼は、冷麺。
 毎日素麺って訳には行かないので、今日はちょっと違う麺類で
 キュウリと金糸卵とハムにレタスとトマトに焼き豚とちょっと豪華な冷麺を作って出したら、喜んでもらえた。
 で、3時のおやつに、何が食べたいかって、リクエストを聞いたら抹茶のムースって答えが返ってきたので、作って出したらこちらも喜んでくれたから、うん、嬉しい。

 夏の暑い日だけど、今日は珍しく俺にとってはかなり良い一日だったかなぁ?
 今日は、本当に久し振りに3食食べられたし、おやつまで食べられた。
 うん、暑いからって、うだうだしてるのは、体に悪いよね。
 久し振りに、お菓子を作れたのも、俺にとってはいい気分転換だったのかもしれない。


 結局何が言いたいのかと言えば、朝ご飯はちゃんと食べないといけないって事だよね。
 朝からちゃんと食べられるって、本当に大事だと本気で思った。

 だからこそ、明日からは、ちゃんと朝ご飯食べようって心に誓った一日でした。