2月14日は、バレンタインデー。

 日本では、女の子が好きな男の子にチョコレートを渡す日とされているが、それは日本だけの事。
 他の国では、そうじゃないと言うのは何となく知っていた。

 チョコレートを渡すのは、お菓子会社の陰謀と言うのは良く聞く話だ。
 一体、どれだけの人がバレンタインデーの本当の意味を知っているのかは分からない。

 俺自身も、そんなに詳しく知っている訳じゃないけど、確かセイント・バレンタインさんが亡くなった日とか何とか……
 うん、確かそんな理由だったような……間違っていたら、ごめんなさい。

「バレンタインは、イタリアが発祥だぞ」

 そして、物知りな小さなヒットマンがさらに教えてくれたその事実は、ちょっとだけ驚かされるような内容だった。
 そっか、バレンタインは、イタリアが発祥の地だったんだなぁと感心したのは、つい最近。
 さらに、教えてくれた内容が、普通は好きな人にプレゼントを渡す日で、主に男性が女性に送る事の方が一般的らしい。

 うん、日本のバレンタインデーとは違うんだね。

 感心して終わると思ったんだけど、そこは小さなヒットマンが許してくれなかった。

「期待してるからな」

 えっと、それは、渡すのは既に決定事項なんでしょうか?
 いや、そりゃ確かに俺は、リボーンの事嫌いじゃないよ。
 うん、むしろ好きだけど、あれ?だから、プレゼントを渡さないといけないのか??




 と言う事なので、バレンタインのプレゼントを考えています。
 言い出したのはリボーンだけど、リボーンだけにプレゼントを渡すのはどうかと考えて、皆にプレゼントを渡そうと思ってしまったのが、悩みの原因。
 プレゼントと言っても、バレンタイン=チョコレートしか思い浮かばないのだ。
 期待してると言ったリボーンが、それで満足してくれるか、正直言って自信がない。

 でも、俺の頭の中は、プレゼント=チョコレートの方程式が離れてくれないので、諦めてチョコレートのお菓子をプレゼントする事にした。

 リボーンには期待されても、所詮考えているのが俺なので、諦めてもらおう。
 後は、何のチョコレートのお菓子をプレゼントしよう。

「母さんやツナ、リボーンには家で渡せるからケーキでもいいかなぁ……ガトーショコラに、シフォン、ロールケーキ……チーズケーキも美味しそう……」

 お菓子をプレゼントすると決めたので、チョコレートのお菓子で纏められている本をペラペラと捲る。

 見ていると、どれも美味しそうで、迷うんだけど……
 ついでに、他の皆にも配れるようなものを考える。

「皆には、渡しやすいクッキーとかの方がいいかなぁ……ブラウニーも美味しそう……あっ、これいいかも!」

 とりあえずケーキは保留にして、みんなに渡せるようなものを先に考えようと思ってページを開いていた俺は、一つのページで手を止めた。

 ブラックプティング、チョコレートのプリン。

 うん、これなら、可愛くラッピング出来そう。
 チョコレートを沢山貰うだろう山本や獄寺くん、恭弥さんも嫌がらずに貰ってくれるかも

「あっ、それって、ツナも一緒だよね。だったら、やっぱりちょっと変わったのがいいだろなぁ……」
「オレがどうしたの?」

 それなら、チョコレートのチーズケーキって変わっているから、それにしようと思った瞬間、不思議そうな声が聞こえてきた。

「ツ、ツナ?!」

 急に聞こえてきた声に驚いて、その名前を呼ぶ。
 一体、何時から居たんだろう。
 隠し事するのに、リビングでなんかで考え事していちゃだめだよね。
 俺は、何で部屋に戻ってなかったんだろう。

「うん、それで、オレがどうかした?」

 ツナに声を掛けられた事で、自分の部屋に戻っていなかった事を後悔していた俺に、ツナが再度質問してくる。

「えっと、もうすぐバレンタインだなぁ、と……」

 って、俺、素直に何を話してるんだ?!
 いやいや、流石にそれだけだとツナには分からないから大丈夫だよね?
 それに、下手に全部隠しても、逆に怪しまれるから!

「そうだね。迷惑な行事だよね」

 俺が言ったその言葉に、ツナがうんざりした様にため息をつく。

 よ、良かった。怪しまれていない!!

「うん、ツナはモテるから、大変だろうなぁと思ってたんだ」

 普通に返してくれたツナに対して、素直に言葉を返す。
 嘘はついていないから、問題ないよね?

「本気で迷惑な話なんだけど……」

 同情するように言った俺に、ツナが再度ため息をつく。
 世の中のモテない人に喧嘩売っているように聞こえるんだけど、綱吉さん。
 どちらかと言えば、俺もモテない方なので、複雑です。

 いや、羨ましいとか思った事は一度もないんですけどね。
 女の子のパワーって凄いと思うから、正直自分がツナの立場になったら、怖いと思うだろうから

「オレとしては、から貰えれば、十分なんだけど……」

 女の子パワーを思い出して、複雑な表情をしていた俺の耳に、ボソリとツナが何かを言ったのが聞こえてきた。

「ツナ、何か言った?」

 でも、何を言ったのか聞こえなかったから、疑問に思って質問する。

「何も言ってないよ。それで、はお菓子の本と睨めっこしてたんだ」

 俺の手の中にある本を見て、ツナが嬉しそうに質問してくる。
 ああ、やっぱり俺のバカ、こんなの持っていたら、直ぐにばれるのに……

 折角誤魔化せたと思ったのに、全て無駄になってしまった。
 せめてのもの救いは、ツナに何を作るのかばれてない事だよね。

「うん、みんなにプレゼントしようと思って……勿論、ツナにも作るから、楽しみにしててね」

 ばれてしまったのなら正直に話してしまおうと、素直にツナに言って笑みを浮かべる。
 うん、でも頑張って作ろうって気になるから、バレてもいいんだけどね。

「…みんな、なんだね……」
「えっ?」

 気合を入れていた俺に、ツナが再度ボソリと何か言ったんだけど、見事に聞き逃してしまった。
 何を言ったのか分からなかったので、首を傾げて聞き返す。

「ううん、何でもないよ。楽しみにしているから」

 聞き返した俺に、ツナが首を振ってから笑顔で返されたそれに思わず苦笑を零してしまう。

 それは、流石にプレッシャーになると言うか……そんなに期待されると困るんだけど……
 でも、そうだなぁ、俺にとってツナは特別な相手だから、母さんやリボーンと同じものじゃなくて、特別なものを贈りたい。

?」

 ツナに言われた言葉で、思わず考え込んでしまった俺は、心配そうな声で名前を呼ばれて意識を取り戻す。

「ご、ごめん。ちょっと考えてた。ツナには頑張って特別なモノを作るから!」
「…有難う、

 心配そうに俺の事を見てくるツナに、謝罪して力拳まで作ってそう言えば、一瞬驚いたような表情を見せたけど、その後綺麗な笑顔を見せてくれた。
 そんな笑顔見せられたら、頑張るしかないよね!

 何を作るかは、まだ決まってないんだけど……




 と、言う訳なので、バレンタイン前日。
 今年は、バレンタイン日曜日だから、早い子は金曜日にチョコレート渡していた。
 まだ渡してない子は、もしかしてやっぱり月曜に渡すのかなぁ?
 それとも、明日直接家に届けるんだろうか?
 女の子のパワーを考えたら、それも有り得そうで怖いんだけど……

「あら?ちゃん、何か作るの?」

 材料を並べながら、そんな事を考えていた俺に、母さんの声が掛けられる。

「うん、明日のお菓子を作ろうかと……もしかして邪魔?」
「そんな事ないわよ。でも、夕飯の準備までには終わるかしら?」
「う〜ん、多分……俺も、夕飯作るの手伝うから」

 もしかして今から母さんがここを使うのなら、俺は邪魔になるよなぁと思って心配しながら質問すれば、あっさりと返される言葉。
 それに少しだけホッとしてから、でも確実に終わらせられるかは自信がなかったので曖昧な返事を返す。

「ふふ、有難う、いつも助かるわ」

 で、母さん一人で夕飯作るのは大変だろうと思って、言えば笑ってお礼の言葉を返された。
 いや、俺は好きでしているから、御礼を言われるような事はしてないと思うんだけどね。

「それじゃ、明日、母さんも楽しみにしているわね」

 お礼を言われて、困ったような表情をした俺に、母さんはもう一度笑ってサラリととんでもない事を言ってから、キッチンを出て行ってしまう。

 あら?俺が、母さんの分のお菓子を作る事はお見通しなんですか??
 流石です、お母様。

「侮れないよね、母さんって……さぁてと、まずは山本達に渡すのから作ろうかな」

 山本達に渡すのは、チョコレートプティング。

 本に書いている材料だとカップ5個分だから、材料はその4倍。
 結構、チョコレートを刻むのが大変でした。
 こんな事なら、2個づつとか考えない方が良かったかも、そうすれば、2倍ですんだのに……

 プティングをオーブンで湯せん焼きすれば、ひと段落。

 えっと、次はチョコレートチーズケーキ。

 前日に作っておいたココアクッキーを砕いて敷き詰め、常温で戻しておいたクリームチーズを泡だて器で滑らかになるまでかき混ぜて、グラニュー糖とサワークリームを合わせて、一緒に準備した刻みチョコを温めた生クリームで溶かす。
 んで、出来上がったプティングを取り出して、今度はチーズケーキを湯せん焼き。

 プティングと違って時間が掛かるから、ちょっと休憩……している場合じゃないよね。
 夕飯の準備を始めるまでに全部終わらせないといけないから、頑張ろう。

 でも流石に、ずっと立っているのは、足に負担が掛かる。
 混ぜる時とかは、ちゃんと座っていたんだけど、どうしても座って作業すると遣り難いので、気が付いたら立って作業してるんだよね。

 流石に、これを見られたら、ツナに怒られるかも……

?」

 って、思ったら何でこの人は来るんですか?!!

「な、何?!」

 今まさに考えていた人が突然入って来て、思わず挙動不審な行動をとってしまった。
 いや、ただどもって返事を返しただけなんだけどね。

「驚かしちゃったみたいで、ごめん。それにしても、凄いチョコレートの匂いだね」

 どもって返事をした俺に、ツナが苦笑を零しながら謝罪してくる。
 そして続けて言われた言葉に、今度は俺が苦笑を零した。

 確かに、キッチンの中はチョコレートの匂いが充満している。
 それはキッチンに留まらず、家の中に広がっているみたいで、実はプティングを作っている時に、ランボくんとイーピンちゃんにフゥ太くんがキッチンに遊びに来てたんだよね。
 流石に作っている物は上げられなかったけど、昨日作っておいたココアのクッキーを渡して許してもらったのだ。
 ココアのクッキーを多めに作っておいて、良かった。

「ツナには、ちょっと申し訳ない状態だよね」

 甘いものを好きじゃない人には、喜べる状態じゃないかもしれない。
 うん、だからツナにとっては、迷惑な状態だよね。

「確かに、素直に喜べないけど、が作ってるんだから、そんなに悪い気はしないよ」

 苦笑を零しながら言った俺の言葉に、ツナがニッコリと笑顔で返してくれる。

 うわ、何だろう、何でそんな照れるような事をサラリと言えるんだろう。
 ツナがモテるのは、こんな所もだよね、きっと。

「だからって、長時間立ちつくした状態なのは、感心しないからね」

 思わず顔が赤くなってしまったのを隠そうとした俺に、続けて言われた言葉が現実へと引き戻してくれました。

「えっと、うん、もう休憩入れようと思っていたところだから!えっと、ツナも一緒に何か飲む?」

 釘をさすように言われたそれに、慌てて返事を返して質問する。
 俺は、紅茶って気分じゃないから、柚子茶にしようかな。

 休憩入れるつもりじゃなかったけど、強制的に休憩タイムを入れる事にする。
 後は、ツナの分を作るだけだから、きっと大丈夫だろう。
 もし間に合わないようだったら、夕飯食べ終わってから作ればいいよね。

「それじゃ、オレはコーヒー入れてくれる?」
「うん。あっ!お茶菓子はココアクッキーが余っているから、それでいい?」
「それも、作ったの?」

 頭の中で、これからの事を考えていた俺に、ツナが質問するように口を開く、それに頷いて俺も逆に聞き返した。
 聞き返した俺に、ツナがちょっと驚いたように質問してくる。

「これは、昨日の夜作ったんだ。今日作るお菓子に使うから」

 お茶の準備をしながら、テーブルに置いてあるクッキーを指して説明。

 ちゃんと、事前に本を読んで準備しておいたんだよね。
 ただ、結構な量を作ったので、大量に余っちゃたんだけど
 そのお陰で、ランボくんとイーピンちゃん、ウゥ太くんにお裾分けできたのは良かったんだけどね。

「はい、インスタントで悪いんだけど……」
「別にいいよ」

 椅子に座って、俺がコーヒーを作るのを見ているツナに出来上がったそれを差し出す。
 流石に時間が掛かるので、インスタントで許してください。
 俺からカップを受け取ったツナが、クッキーにも手を伸ばす。

 ツナが食べるのを思わず、じっと見守ってしまった。

「うん、美味しい」
「良かった。ちょっと甘さ控えめにしたから、心配だったんだよね」

 って、ツナは甘いのそんなに好きじゃないから、美味しいって言ってくれたんだけど、ランボくん達には、ちょっと合わなかったかもしれない。

 ツナの言葉に喜んだけど、逆に心配になる。
 もう既にランボくん達は、食べちゃっているだろうから遅いかもしれないけど、俺味見してなかったんだよね。
 流石に、眠くなったので、寝る前に食べる気はしなくて、味見をしなかった事を後悔した。

、どうしたの?」

 ツナの言葉は嬉しかったんだけど、子供向けに作ってないお菓子を食べてランボくん達怒ってないかなぁ?
 不安に思って、俺は恐る恐る自分が作ったクッキーを食べてみる。
 そんな俺に、ツナが心配そうに声を掛けてくるんだけど返事を返す事が出来なかった。

「そんなに心配しなくても、何時も通りの味だったんだけど」

 恐る恐るクッキーを食べた俺に、ツナが苦笑を零しながらコーヒーを飲んでいる。
 それからその間にクッキーを食べるのを見て、俺は漸くホッと息を付いた。

 甘さ控えめだけど、ココアで作ってあるから、何とか子供でも食べられる味に出来上がっている。
 いや、本気で甘さ控えめなんだけどね。
 ほのかな甘さって言うのか、うん、ちゃんと作れていて良かった。
 今度からは、心配しなくていいように、ちゃんと味見してから食べさせるようにしよう。

は、まだお菓子を作るの?」
「うん、後一つ作る予定なんだ。でも、作ったのはいいけど、皆に渡すのはやっぱり月曜日にした方がいいのかなぁ?」

 流石に家まで押しかけていく勇気は、俺にはない。
 ハルちゃんは、学校が違うので帰りに渡しに行く事になると思うんだけど
 帰り道だから、問題ないよね。

「そんな心配しなくても、あいつ等の事だから押しかけてくると思うんだけど」

 皆に渡すのをどうしようかと考えていった俺の言葉に、ツナがうんざりしたように返してくる。

 えっ、それって、ツナの超直感???

「皆、押しかけてくるって、何か約束とかしているの?」
「そう言うわけじゃないけど、オレの勘」

 言われた事に質問すればきっぱりと返される言葉。

 やっぱり、ツナの超直感?!

「なら、今日の夜に包装しておいた方がいいかなぁ……」
「流石に全員は揃わないかもしれないけど、誰に渡すかは聞いてもいいの?」
「うん、山本に獄寺くん、京子ちゃんに黒川さん、京子ちゃんのお兄さんと恭弥さん、後は、ビアンキさんにランボくんイーピンちゃん、フゥ太くんに勿論母さんとリボーン」

 ツナがそう思うのなら、間違いないだろうと今日中に包装する事を考える。
 呟いた俺に、ツナが質問してくるから、俺は指折り誰にプレゼントをするかを教えた。
 後、勿論ツナも人数に入っているから、総勢14名。
 流石にディーノさんには渡せないだろうから、そんなもんだろう。

「……そんなに?」
「うん、皆にはお世話になっているから!」

 迷惑でなければいいなぁと思いながら、驚いているツナに頷いて返した。
 少しでも、皆に喜んでもらえると良いんだけどな。

「勿論、ツナには特別なのを作るから、楽しみにしててね」

 って、まだツナの分は出来えてないので申し訳ないんだけど、頑張って作ろうと思っているから、楽しみにしててもらえると嬉しい。

「うん、楽しみにしてるよ」

 俺の言葉に、ツナがふんわりと笑ってくれる。
 珍しいツナの笑みに、俺も嬉しくなって笑顔を返す。

 うん、またツナの笑顔が見られるように頑張って作ろう!

 意を決して、遠慮して出て行ってくれるツナを見送ってから、再度腕捲りした。

 さぁ、後一つは、ちょっと大変な作業だけど、ツナのために頑張ろう!!
 見た目はちょっと悪いかもだけど、変わったチョコレートケーキをツナに食べさせたいなぁって思ったんだよね。
 でも、多分一番大変な作業になるのは分かっていたので、最後に作ろうと思っていたのだ。

 ツナに作ろうと思ったのは、温かいチョコレートケーキ。

 食べる前に、レンジで温める変わった見た目は羊羹のようなケーキ。
 こまめに温度を測りながら、本の通りに作るけど失敗しませんように……

 失敗したものをツナにプレゼントするのは嫌だから、慎重に作業したお陰で、何とか失敗せずに作る事が出来ました。

 後は、冷まして、食べる前にレンジで温めて出せばOK。

 でもこれ、ソースの事は何も触れてないんだけど、どんなソースでもいいのかな??
 写真ではクリーム色のソースがあるんだけど、説明にはまったく触れていない。
 ちょっと味見してから、合いそうなソースを考えよう、そうしよう。

 そんな訳で、何とか準備は終わった。
 そろそろ母さんが、夕飯の準備を始める時間だ。

 良かった、こっちもちゃんと間に合って

「チョコレートの匂いが充満しているわね」

 時計を確認したところで、楽しそうな声が聞こえてくる。

「うん、換気してるんだけど追い付かないみたい……寒いけど窓開けておこうか?」

 その声に振り向けば、母さんが何時もの笑顔を浮かべてキッチンへと入ってきた。

「大丈夫よ。それじゃ、夕飯作っちゃいましょうか」
「うん、今日は何にするの?」

 意識をお菓子作りから夕飯へと切り替えて、母さんへと質問する。
 そうすれば、母さんが考えていた献立を答えてくれた。

 今日は、ビーフシチューに和風ポテトサラダ。

 何時も通り、母さんと仲良く作りました。

 母さんがビーフシチュー担当で、俺がサラダ担当。
 話のネタは、俺が作ったお菓子の話で、盛り上がった。
 母さんも楽しみにしてくれているから、明日皆で一緒に食べよう。







 で、朝と言う時間じゃなく、お昼に起きたら女の子二人が家に来ていた。
 キッチンに顔を出したら、ビアンキさんとハルちゃんに京子ちゃんが居て本気で吃驚したんだけど

「あっ!さんです。今起きられたんですか?」
「えっ、うん」

 俺を見付けたハルちゃんが元気良く声を掛けてくるのに、何とか頷いて返す。

「おはよう、くん」

 頷いた俺に、今度は京子ちゃんが挨拶の言葉をくれる。

「お、おはよう、京子ちゃん。もう、おはようの時間じゃないかもだけど……」
「そんな細かい事は気にしないです!おはようございます、さん」
「うん、おはよう、ハルちゃん」

 京子ちゃんの挨拶の言葉に苦笑を零しながら返事を返した俺に、またハルちゃんが元気良く挨拶してくれた。
 それに、頷いて今度はハルちゃんに挨拶を返す。

「起きたのね、おはよう、
「はい、おはようございます、ビアンキさん」

 最後に声を掛けてきたのはビアンキさんで、その手に持っているものが不安を誘うんだけど、一体家のキッチンで何をしているんだろう??
 楽しそうに何かを作ってるんだと思うんだけど、一体何を作っているのかは、まだ寝ぼけているのか俺にはさっぱり分からない。

「えっと、何を作っているの?」

 チョコレートが、主催なのは分かる。
 昨日しっかりと空気を入れ替えて、チョコの匂いをなくしてあったはずなのに、また部屋の中をその匂いが充満しているんだから、それは分かるんだけど
 でも、何を作っているのかは、分からない。

「今日は、バレンタインデーなので、愛しのツナさんに最高のチョコレートを手作りしているんです!」
くんのようにお料理得意じゃないから、そんなに上手に出来ないと思って、教えてもらっているんだよ」

 恐る恐る質問した俺に、まずハルちゃんが答えてくれて、続いて京子ちゃんが恥ずかしそうに状況を説明してくれた。

 えっと、それはもしかして、ビアンキさんに教わっているって事なのかな?

 ご、ごめん。
 もしそれが本当なら、俺は二人が頑張って作ったとしても、食べたくないかもなんだけど……

「だから、キッチンは男子禁制にしているのよ」

 二人の説明に、思わず遠い目をしてしまった俺に、ビアンキさんが可笑しな事を口にする。
 あれ?男子禁制なのに、何で俺は怒られないの???
 逆に、ここに居るのが当たり前のように受け入れられているみたいなんだけど、気の所為ですか?

くんも一緒に作る?」

 しかも、誘われてるんですけど、可笑しいよね、明らかに!?

「えっと、でも男子禁制って……」
はいいのよ」
「はい、さんは特別です!」

 京子ちゃんに誘われたので恐る恐る確認すれば、当然のように返事が返ってきて、かなり複雑なんですけど……

 俺、時々性別を間違えられているように思うのは気の所為ですか?
 でも、一応ハルちゃんが特別って言ってくれているから、男としては認識されていると思いたい。

「それじゃ、俺に手伝える事があるなら、手伝うよ」

 でも、ここに居る事の許可が下りたので、出来るだけビアンキさんのポイズンクッキングが二人に伝授されないように見張っていよう。
 多分、ツナ達の安全を考えたらそれが一番いい方法だと思うから

「わー、くんが手伝ってくれるのなら、素敵なのが出来そうだね」
「はい、さんのお菓子は本当に美味しいですから!」

 手伝いを申し出た俺に、二人が喜んでくれる。
 そこまで喜んでもらってなんだけど、邪魔したら本当にごめんね。

が手伝うのなら、私は監督で大丈夫ね」

 しかも、ビアンキさんがあっさりと先生役を譲ってくれました。
 それは、安全の為にはありがたい内容なんですけど、そこまで信頼されていいのだろうか?

「えっと、それで、二人はどんなお菓子を考えているの?」

 ひとまず先生役を譲られたので、まずはどんなお菓子を作るのか確認する。
 それが分からないと、何も始まらないからね。

「それが、どれも美味しそうなので迷ってるんです」
「うん、いいなぁと思うのは、難しそうなんだよね」

 ペラペラと本を捲りながら言われた内容に、俺は一瞬どうしたものかと考えてしまった。

 えっと、作るモノを考えて材料を準備したんじゃないんだ。
 ざっと、目の前に並べられている材料を確認して、置かれている本から何が作れるのかを考える事にする。

 簡単そうで、美味しそうなもの。
 後、ツナが喜んで食べられそうなものがいいよね……。

「そうだね、材料から考えて、これなんていいと思うんだけど…」
「どれですか?」

 チョコレートを使わずに、ココアパウダーを使うので、甘さ控えに出来るローファットブラウニー。
 これなら、多分ツナも喜んで食べてくれると思う。
 プレンヨーグルトは、家の冷蔵庫に入っているから問題ないしね。

「これなら、甘さ控えめなので、ツナさんに喜んで貰えますね。私でも、何とか作れそうです」

 ハルちゃんに勧めれば、どうやらこれで決定のようだ。

 直ぐに決まって、よかった。
 早速ハルちゃんが、材料を集め始める。

「京子ちゃんは、お兄さんにも考えてるんだよね?了平さんって、甘いものとか平気?」
「うん、お兄ちゃんは、好き嫌いないんだ」

 甘いものは、大丈夫……
 えっと、昨日使ったカップはまだ余ってたよね。

「これなんて、どうかなぁ?」
「どれ?」
「アールグレイ風味のガトーショコラ。ちょっと変わってるから、どうかなぁ」

 いや、俺が食べたいなぁと思ったんじゃないから!
 ちょっとは、美味しそうだなぁと思ったんだけど、決して俺の分も作って欲しいとか催促してないからね。

「わぁ!美味しそうだね。でも、難しくないかなぁ?」

 本を見せたら、京子ちゃんも頷いてくれたけど、その後不安そうな表情になる。

「大丈夫だよ。そんなに難しくないと思う。ちょうどカップもあるから、心配ないしね」
「……なら、挑戦してみるね」

 ニッコリと笑顔で言えば、京子ちゃんも俺が勧めたヤツに決定してしまった。

 あれ?俺が決めて良かったのかなぁ??

 何はともあれ、起きて早々二人にお菓子作りを教える事になりました。

 上手く出来るといいんだけど……
 不安はどうしても、拭えません。


「出来ました!」
「うん、上手くできたね」

 それから、数時間後。
 美味しそうなお菓子が、出来上がりました。

 二人とも料理経験者だから、そんなに教えるのも難しくなくて、良かったです。

「後は、ラッピングだね」

 綺麗に出来上がったので、次はプレゼント用のラッピング。
 ラッピング材料も、一杯買って来ているからそのまま作業に入れる。

「どうやってラッピングするか、難しいです」
「そうだね、ハルちゃんのは、ちょっとラッピングするのは大変かもしれないね……」

 京子ちゃんのは、袋に入れてリボンをすれば、可愛くラッピングできるんだけど、ハルちゃんのはそうもいかない。

 箱詰めにするのが簡単だとは思うけど、そうすると可愛くないしなぁ……

「いっその事、箱に入れないでグラスに入れるって言うのは?」
「はひ?グラスですか??」
「うん、切り方をスティック型にして、グラスに挿すの。で、グラスの方にリボンを付けたら可愛いと思うんだけど」

 考え付いた内容を、説明してみる。
 ちょうど本の写真もカップに挿しているから、考え付いたんだけどね。

「それ、いいです。有難うございます、さん」

 俺の提案に、ハルちゃんが頷いてお礼の言葉をくれる。

「流石ね」

 そんな俺に、ビアンキさんが満足そうに笑って口にした言葉は、力一杯否定出来る内容だった。

 二人がバレンタインの準備を終わらせたので、そのまま2階に居るツナ達にプレゼントをする事に

 あれ?もしかして、山本達も来ていたの??俺、全然知らなかったんだけど……

「えっと、それじゃ、俺はお茶の準備してから上に行くから、二人は先にツナの部屋に行っててくれる?」

 『早くツナさんに食べて貰いたいです』と言うハルちゃんの言葉に思わず笑ってしまって、二人に先にツナの部屋に行くように勧める。

 二人が作ったチョコレートのお菓子をお茶菓子にして、ティータイムするにはちょうどいい時間だ。
 俺も作っているんだけど、流石に二人の分があるから、お土産に渡すのでいいかなぁ?

「お手伝いしますよ」
「慣れているから、大丈夫だよ。出来れば、先に行ってツナを呼んで貰えると嬉しいんだけど……」

 お茶の準備をすると言った俺に、ハルちゃんが手伝いを申し出てくれたんだけど、流石にお客様に手伝わせる訳にはいけないので、やんわりと断りを入れてから、お願い事をする。
 だってね、ツナの部屋に行くなら、どうせ、俺一人では階段を上る許可をもらえないんだから、先にツナを呼んでもらった方が楽なんだもん。

「分かりました、ツナさんを呼べばいいんですね」
「うん、お願いするね」

 俺の言葉に頷いてくれたハルちゃんに、もう一度お願いしてから、二人が2階へと向かうのを見送ってお茶の準備を始める。

 どうしよう、母さんには、先にケーキを食べてもらおうかなぁ……
 流石に、チーズケーキの方は一個しか作っていないので、皆に行き渡すのは無理だよねぇ……。

 お土産に、プティングを持って帰ってもらうのは確定。
 昨日の内にラッピングしておいて良かった。

 プティングは、母さん達の分も作っているから、ケーキじゃなくてこれをお茶菓子に持って行けばいいかな?
 多分、今の時間だと、リビングでテレビを見ている時間だ。



 お茶の準備をしながら、母さんへもお茶を持って行こうと考えていた俺は、名前を呼ばれて意識を引き戻す。

「ツナ、呼び付けてごめんね」
「オレとしては、がしっかりと自覚してくれた事が嬉しいんだけど」

 ハルちゃんが伝えてくれたのだろう、直ぐに来てくれたツナに、謝罪すればサラリと返された言葉。
 いや、自覚したんじゃなくて、後が面倒だと思ったとか、それは秘密にしておこう、うん。

「それじゃ、皆にお茶を持っててもらっていい?その間に俺は、母さんにお茶を持っていくから」
「分かった」
「で、今更の質問なんだけど、人数ってこれで合ってる?」

 準備してから聞くのもなんだけど、俺何人居るのか把握してなかったんだけど
 多分獄寺くんに山本、京子ちゃんにハルちゃん、リボーンにビアンキさんと言う人数で、俺とツナを入れたら8人……ツナの部屋だと狭くないかなぁ?

「人数は、これで問題ないよ。ランボとイーピン、フゥ太は母さんの所に居るからね」

 あらら、母さんの所にランボくん達が居るのか……
 なら、お茶の準備増やして、プティングもみんなの分準備しなきゃ駄目だね。

「分かった。じゃ、それお願い」
「いいよ。後で迎えに来るから」
「うん」

 準備できたトレーをツナに渡して言えば、受け取ってツナが2階へと上がっていく。
 それを見送ってから、俺は母さん達へのお茶の準備を仕上げて、リビングへとそれを運んだ。

 予想通り、母さんはリビングでテレビを見ていて、お茶を渡したら喜んでくれた。
 ランボくん達は、お昼寝中みたいなので、母さんに任せておく。

「有難う、ちゃん」

 ニッコリと笑顔でお礼の言葉をくれた母さんに、俺も笑顔を返した。

「俺からも、何時も有難う、母さん」

 感謝の気持ちのチョコレート。

 少しでも、その気持ちを返す事が出来ればいいんだけど
 って、メインは夜に出す予定のチーズケーキなんだけど、喜んでもらえたらいいなぁ。
 同じようにお礼を返した俺に、母さんがまた笑ってくれた。

 その笑顔が見られただけでも、頑張って作った甲斐があったと思える。



 リビングを出て、ホッと息を吐いた瞬間名前を呼ばれて視線を向ければ、階段を下りてくるツナの姿。
 どうやら、タイミング良く降りて来てくれたらしい。

 待たせなくて、良かった。

 ツナに連れられて、部屋に向かった俺の迎えたのは京子ちゃんとハルちゃんが作ったお菓子を美味しそうに食べているみんなの姿。
 階段を上っている時に、ツナからビアンキさんに料理させなかった事を感謝してお礼を言われたんだよね。
 俺としても、ビアンキさんには申し訳ないんだけど、ポイズンクッキングの餌食にはなりたくなかったんだから、お礼を言われるような事はしていない。

 獄寺くんは、ハルちゃんと喧嘩みたいな状態なんだけど、これはこれで仲が良い証拠なのかな?

 どうやら獄寺くんが元気なのは、ビアンキさんがゴーグルを付けているからだろう。
 山本は、元気に俺に挨拶してくれて、俺が作ったお菓子を楽しみにしてると言ってくれた。
 帰りに渡す事を伝えたら、皆が楽しみだと言ってくれたのが嬉しい。

 そんなこんなで、賑やかな時間をすごす事が出来た。

 皆が帰る時に、ラッピングしておいたプティングを渡す。
 京子ちゃんには荷物になるけど、了平さんへも渡してもらえるように頼んだから、後渡すのは恭弥さんと、黒川さんだけだ。

 皆を見送ってから、家の中へ入る。
 外はやっぱり寒くて、中に入った瞬間、ホッと息をついてしまった。

、足は大丈夫?」

 そんな俺に気付いたのか、ツナが心配そうに声を掛けてくる。

 そう言えば、昨日から立ったままの状態が続いていたので、正直足にかなりの負担が掛かっているのは否定できない。
 痛みには慣れているけど、流石にこれ以上は無理出来ない状態だ。

「うん、ちょっと疲れてるけど、大丈夫だよ」

 心配そうに見詰めてくるツナに、嘘をついても、逆に心配させる事が分かっているから素直に返す。

「夜、マッサージしてあげるからね」

 素直に返した俺に、ツナが確定事項だと言うように返してきた。
 それは、俺としては有難いんだけど……

「ちなみに否定の言葉は聞かないからね。それから、気になったんだけど、、今日ご飯食べた?」

 申し訳ないからと断ろうとした俺の言葉を遮って、ツナがきっぱりと言ってから、再度心配そうに質問される。

 あれ?そう言えば、俺今日はお菓子しか食べていないような……

 だって、起きたら、京子ちゃんとハルちゃんのお菓子作りを手伝って、その後お茶を飲んだんだよね。
 うん、ご飯を食べる暇はまったくありませんでした。

「……食べてないです……」

 お腹は空いてないので問題ないんだけど、これでは栄養面、ボロボロ状態です。

「まぁ、今日は仕方ないけど、ちゃんと食べないと駄目だからね」

 素直に返した俺を心配して、ツナがため息をつきなら念を推してくる。

「気を付けます。あっ!ツナ、夜マッサージしてくれるのなら、一緒に寝よう!その時に、ツナの為に頑張って作ったケーキを食べて貰いたいから」
「いいよ。楽しみにしてるから」
「うん!夕飯のデザートにはチーズケーキもあるから、楽しみにしてて!!」

 ツナの言葉に素直に頷いて、一つの提案。

 ツナがマッサージしてくれるのが確定事項ならと、申し出ればそれに笑って頷いてくれたのが嬉しくて、笑顔を返す。

 少しでも、喜んでもらえるのなら、頑張って作った甲斐があると言うものだ。

 その夜、一緒に夕飯を作った母さんから、プティングが美味しかったと言ってもらえて嬉しかった。
 さらに、夕食のデザートに出したチーズケーキも好評で、リボーンも満足してくれたので、ホッと一安心。

 お風呂から上がった俺を待っていたのは、マッサージをしてくれると言ったツナで、本当にしっかりとマッサージしてもらいました。
 お陰で、この2日間無理していたのが、かなりリセットされて助かったのは本当です。

 それから、ツナだけのために頑張って作ったケーキをレンジで温めてから、二人で食べた。
 ツナが美味しいといってくれたので、それだけで十分です。



 2月14日は、バレンタインデー。

 今年のバレンタインデーは、俺にとっては感謝の気持ちを贈る日となった。
 俺が作ったお菓子で、少しでもその気持ちが返せたとすれば嬉しいんだけど……

 次の日。
 皆が俺の渡したプティングの感想をくれたのが、嬉しかった。
 美味しかったって、笑顔で言ってくれたのが、本当に嬉しかったんだよね。

 うん、少しでも、俺の感謝の気持ちが伝わってくれたのなら、いいのになぁ……。

 勿論、恭弥さんと黒川さんにも、ちゃんとプレゼントした。
 黒川さんからは、チョコレートを貰ったので、嬉しかったです。
 俺、学校でチョコレート貰ったのって、初めてだったからすごく嬉しかった。

 恭弥さんも、迷惑かなぁと思ったけど、受け取ってくれたので良かったです。
 お礼にって、お茶をご馳走してくれると言ってたんだけど、それはツナが許してくれなかったので、ホワイトデーを楽しみにしてと言われた。

 そう言えば、世の中には、ホワイトデーと言う日が存在していた事をすっかり忘れてたよ。
 あ〜っ、京子ちゃんやハルちゃん、黒川さんからチョコレートを貰ったので、お返しを考えなきゃだよね。
 うん、来月も、頑張ってお菓子をつくろう!
 そう決意した、日でした。