風邪をひいてしまったバレンタイン当日。
 皆がお見舞いと称して家に来てくれたのが、とっても嬉しかった。

 ハルちゃんや京ちゃんは、態々その日にチョコレートを届けてくれたし、次の日に学校へ行った俺を迎えてくれた黒川さんが手渡しでくれたのもチョコレート。
 『一日遅れで悪いけど』って言われたけど、態々手渡ししてくれた黒川さんの気持ちが嬉しかった。


 なので、皆にお礼を準備しようと思ったんだけど……


「ツナ、そこで見張らなくても……」
「同じ過ちをしでかすのが分かっているのに、見過ごすわけには行かないからね」


 作業を始めようとキッチンに立った俺と同時に、一緒に入って来たツナが当然のように椅子へと座る。
 明らかに見張られている状態に、ツナに訴えればしっかりと釘を刺されてしまった。

 同じ過ちって、流石に俺だって学習するんだから、そんな事にはならないと思うんだけど


「ツナ、同じ過ちって……」
「しでかさないとは言えないよね?」


 ツナの言い分に苦笑を零しながら返しかけた俺の言葉を遮って、聞き返されてしまう。
 それに対して、俺は返事を返す事が出来なかった。

 だって、どう考えても絶対に大丈夫とは言えそうにないから
 それなら、ツナも納得するだろうし、見張っててもらう方が安全だ。


「……なら、お願いするよ、ツナストップが出たら、大人しく部屋に帰ります」
「勿論、強制的に部屋に連行するから、安心していいよ」


 あきらめて言った俺に、ニッコリと笑顔で言われた言葉は、全然安心出来ないんだけど
 そうならないように努力しようと、心に誓った瞬間だった。


「それじゃ、ツナに連行されないように、早く作って部屋に戻るよ……でも、何作るか、決めてないんだよね……普通にクッキーがいいかなぁとは思うんだけど、多分皆もクッキーだろうから同じものになるのは、気が引けるし、黒川さんはそんなに甘いもの好きじゃないって言ってたし、ハルちゃんや京ちゃんも、結構ダイエットとか気にしてたからなぁ……」


 苦笑を零しながら返事を返し、これから何を作るのかを考る。
 本気で、何を作るかを考えていなかったんだよね。

 クッキーは、皆のお返しも無難な所でクッキーになるだろうから、同じモノをプレゼントするのは、芸がない。
 だからと言って他のモノでは、結構甘いモノが多くなってしまう。
 年中ダイエットを気にしている女の子には喜んでもらえないだろうし、一人は甘いモノがそんなに好きじゃないから、やっぱりダメだ。

 そんなに甘くなくて、喜んでもらえるモノって、何があるかなぁ?


、作るのが決まってないのなら、まずは上着着て座って温かいモノでも飲みながら考えたら?」


 何を作るのかを考えていた俺に、ツナからのお言葉が……

 あれ?もしかしてバレンタインと同じ事をしてない、俺?!
 確か、バレンタインの時も、何を作るのか長々考えて、その結果時間が掛かり風邪をひいたんだった。


「そ、そうします……ツナも何か飲む?」
「じゃ、何時もので」
「了解」


 鋭いツナの言葉に素直に従って、飲み物を作る。

 俺は体を冷やさない為に、ジンジャーミルクティーで、ツナは何時ものブラックコーヒー。
 流石にジンジャーミルクティーを一から作ると時間が掛かるので、市販のジンジャーティーに暖めたミルクを入れて簡単に作った。
 でも折角ミルクを温めたので、こっそりとツナのコーヒーにもミルクを入れちゃえ。
 ブラックは体に悪いから、ちょうどいいよね。


「はい、ツナ」
「有難う……って、オレ何時ものって言ったと思うんだけど」
「うん、だから何時ものミルクコーヒー砂糖なし。ストレートは胃に悪いからね」


 椅子に座っているツナにカップを渡せば、礼を言って受け取り中身を見て文句を言う。
 だからこそ、笑って返した俺にツナが複雑な表情をしながらも、渡したコーヒーを大人しく飲んでいる。
 それを確認してから、俺も自分の分を飲んだ。

 さて、これを飲み終わる前に、何を作るのかを考えないと

 ぼんやりと、ツナがコーヒーを飲んでいるのを見ながら、頭の中で何を作るのかを考えてみた。

 クッキーは却下したから、ケーキ、マフィン、マドレーヌ、スコーン、ブラウニー、ビスケット……、ビスケットかぁ、クッキーに似たものならサブレでもいいかも。
 確か、持ってきた本に塩チョコサブレが載っていたから、それにしてみようかなぁ。


「決まったみたいだね」


 部屋から持ってきた本を手に取り開いて、材料を確認していた俺にツナが声を掛けてくる。


「うん、クッキーは皆から貰うだろうから、サブレにしてみようかと思う。でも、これ一晩寝かせないといけないから、間に合わないかなぁ……」
「うーん、流石に早起きするとかには、無理だよね」
「うん、俺には無理。また今度作るって事で、今回は保留かな……折角決まったと思ったんだけど、また考え直さないとだね。どうしようかなぁ」
「プリン」
「えっ?」


 作り方を確認してため息をついた俺に、ツナも頷いて返す。

 うん、俺には早起きして続きを作るのは無理だ。
 だから、これは今度時間があるときに作るようにしよう。
 でもそうすると、また何を作るのか考えなきゃいけない訳で……

 どうしようか本気で困った俺に、小さくツナが呟いた声が聞こえてきた。
 言われた内容が良く分からなかったので、思わず聞き返してしまう。


「プリンって、急にどうしたの?」
「うん、が作ったサツマイモのプリン、食べたいなぁと思って」


 サツマイモのプリン。

 でも、あれって季節的には秋に作るものだよね。
 サツマイモの旬は秋だよね、勿論、春にもサツマイモはあるんだけど、秋ほど甘くはない。

 あれ?それって、俺が作ろうとしているモノに、ちょうど当て嵌まるんじゃ。

 ツナからのリクエストに、考えてみると、それは俺が求めていたモノに繋がった。
 ちょうど母さんが近所の人からサツマイモを貰ったと言っていたので、材料も問題ない。


「うん、サツマイモのプリンって、いいかもしれない!リクエスト有難う、ツナ」


 早速サツマイモのプリンの作り方が載っている本を開きながら、リクエストしてくれたツナに礼を言う。


「どういたしまして、それじゃ、裏ごしとか手伝おうか?」


 本で作り方を確認していた俺に、ツナが問い掛けてくる。
 うん、一番大変な裏ごし作業を手伝ってもらえるのは、とっても助かります。


「有難う、それ助かる」


 綱吉の申し出を有難く受けて、早速材料を準備していく。
 サツマイモに牛乳、グラニュー糖、生クリームと卵にプリン用のカップを取り合えず在るだけ。

 まずはサツマイモを電子レンジで柔らかくなるまで温める。
 柔らかくなったサツマイモは、熱い内に裏ごし……これはツナにお願いして、その間に牛乳と生クリームを温めて、砂糖と卵を入れて掻き混ぜて、ツナが頑張って裏ごししてくれたサツマイモを入れてプリンの元は出来上がり。
 これは一先ず置いといて、グラニュー糖と水でキャラメルソースを作る。
 それをプリン用のカップに入れ、その後にプリンの元を入れてから蒸し器で蒸せばサツマイモのプリンの出来上がり。

 作るのはそんなに難しくないんだけど、裏ごし作業が大変なんだよね。
 今回は、ツナが手伝ってくれたから、かなり楽だったけど


「ツナ、今食べる?」


 出来上がったサツマイモのプリンを蒸し器から取り出して、まだまだ俺の事を監視してくれている綱吉に声を掛ける。


「明日でいいよ」
「そっか、俺はこれが冷めてからラッピングしなきゃいけないけど、ツナはどうする?」
「最後まで、付き合うよ」


 一応、ツナからのリクエストで出来たのだから、確認したんだけど、当然今は食べないと言う返事を貰った。
 それに頷いて、俺は出来上がったプリンをテーブルの上に置く。
 流石に完全に冷めるのを待つのは無理だけど、少し冷めたらラッピングしておかないと、早起きしてラッピングするなんて、俺には絶対に無理だ。

 まだ時間が掛かりそうだから、これ以上ツナに付き合ってもらうのは悪いと思って問い掛けた俺に、ツナが笑顔で返事を返してくれた。
 うん、多分そう言う返事が返ってくると思ってたんだけどね。
 ツナが、俺を置いて先に部屋に戻るなんて、まず在り得ない。


「それじゃ、何か飲む?流石に寝る前だから、コーヒーはなしだけど」
「ああ、それじゃのお勧めで」
「了解!」


 俺に付き合ってくれると言うツナに、なら飲み物でもと思って質問すれば、俺に任せるとの事。
 それに、笑顔で返事を返した。

 さて、ツナにお勧めでいいって言われたから、何を作るかなぁ。
 最近の俺のお気に入りは、ハーブティの詰め合わせセット。
 色々なハーブティが入っていて、気分に合わせて味を変えられるのが、お勧め。
 うーんと、今は寝る前だから、カモミールティにしようかな。
 ちょっとだけ蜂蜜を入れるのが、俺のお勧め飲み方。


「はい、どーぞ」
「有難う、


 ハーブティを入れたカップを渡したら、笑顔で受け取るツナに俺も笑顔を返す。
 それから、椅子に座って同じカモミールティを飲む。

 その間に、どうやってラッピングするかを考えてみた。
 前にチョコプリンをラッピングした時と同じようにすればいいかな、2個を一セットにして箱に入れればいいだろう。

 えっと、京ちゃんに、ハルちゃん、黒川さんにクロームで、4人だから、全部で8個。
 出来上がっているサツマイモプリンは、全部で15個だから数は十分。
 ツナにも2個と考えても、まだ5個余る。

 残った分は、母さん、リボーンにランボくん、イーピンちゃん、フウ太くん、ビアンキさん……あっ、足りない。
 それなら、獄寺くん、武に恭弥さん、骸に千種さんに犬くん……あっ、こっちも足りない……どうしようかなぁ。
 女の子も1個づつにすれば足りるけど、それだとなんだか物足りない。


?」


 余った分をどうするべきかを考えていた俺に、ツナが不思議そうに名前を呼んで来る。
 その声に気付いて、俺は意識を現実へと引き戻した。


「難しい顔してどうしたの?」


 声を掛けてきたツナへと視線を向ければ、心配そうな顔で問い掛けてくる。

 俺、考えている事が、顔に出てたんだろうか?
 言われた内容に、思わず自分の顔を触って確認するが、当然自分がどんな顔をしていたのか分かる訳がない。


「俺、そんなに難しい顔してた?」
「うん、してたね」


 だから、問い掛けるようにツナに聞けば、頷いて返された。

 うん、難しい顔してたんだ。
 でも、考えていた事は、そんなに大した内容じゃない。


「難しい事でも考えてたの?」
「ううん、そんなに大した事を考えていた訳じゃないんだ。余った分をどうしようか考えてたんだけど、どう考えてもみんなに配るには数が足りないんだよね。だから、どうしようかなぁと……」


 小さくため息をつきながら、ツナに何を考えていたのかを正直に話す。
 別に悪い事を考えていた訳じゃないから、そのままを口に出した。


「まぁ、煩いだろうから、偽赤ん坊と馬鹿牛とかに渡しとけばいいんじゃない」
「だよね、それが一番かな」


 それに納得したのか、ツナが助言をくれたことに頷いて返す。

 そうだよね、数がないから子供達に配るのが一番だよね。
 リボーンにランボくんにイーピンちゃんとフウ太くん、一個余るのは母さんに渡せばいいかな。


「うん、決まった」


 そろそろ粗熱も取れた頃だから、女の子にプレゼントする分をラッピングしちゃって、今日はもう寝よう。
 あんまり遅くまで、ツナを付き合わせる訳にはいかないからね。

 人数分のプリンをプレゼント用にラッピングして、これで明日の準備はOK。


「ツナ、付き合ってくれて有難う」
「どういたしまして、オレとしてはが風邪をひかなければそれでいいんだけどね」


 出来上がった女の子達に渡すプレゼントに満足して頷いて、ここまで付き合ってくれたツナにお礼の言葉を言えば、笑顔で返されたそれに思わず苦笑を零してしまう。
 確かに、そう言われてはいたんだけど、よっぽど先月風邪ひいたのって、ツナに迷惑掛けちゃったんだ。


「えっと、ご迷惑おかけしました……それじゃ、ここまで付き合ってもらったついでに、一緒に寝ようか?」


 迷惑を掛けた事に謝罪して、ついでの提案。
 一緒に寝れば、寒くなくてあったかいもんね、いいアイデア!


「……本当、らしいね」


 笑って提案した俺に、ツナが呆れたようにため息をついて、苦笑を零した。
 でも結局は、俺の提案に乗ってくれるのが、ツナのいい所だよね。

 その夜は、ツナと一緒に寝た。
 なので、風邪もひかずにちゃんと次の日も学校に行けました。

 女の子達、と言っても学校が一緒なのは、京ちゃんと黒川さんだけだから、二人には学校でバレンタインのお返しを渡す。
 学校に必要ないものは持ち込みアウトだけど、バレンタインとホワイトデーだけは、風紀委員も大目に見てくれているらしい。

 恭弥さんにとっては、不本意なんだろうけど


 学校が終わった後、ハルちゃんとクロームにもお返しを届ける。
 二人とも喜んでくれたから、作って良かったと思う。

 勿論、ツナも一緒に行きました。
 その時、ツナも準備していたお返しを一緒に渡したんだけど、その時のハルちゃんの喜びようは、本当に凄かったんだよね。
 ツナに抱き付いて、なかなか離れてくれなかった。
 流石に、ツナの機嫌がかなり悪くなっていたから、正直かなりハラハラさせられたのは、仕方ないだろう。

 クロームは、俺に抱き付いてきて、こっちはこっちで大変だった。
 それに対しても、やっぱりツナが不機嫌になっていたのは何でだろう?

 俺も女の子に抱き付かれたのは初めてだから、かなり対応に困ったのもある。

 誰にでもこんなに簡単に抱きついちゃダメだよって、ちゃんと言ったから次からは大丈夫だと思いたい。


 そんなこんなで、なんだからすっごく疲れた一日だった。

 一日の最後は、ツナがリクエストしてくれたサツマイモのプリンを一緒に食べて終わった。

 あれ?これって、2個ともツナに食べてもらうつもりだったのに、可笑しいなぁ。
 でも、一緒に食べたサツマイモプリンは、甘さ控えめでとっても美味しく出来ていたので、これはこれでよかったのかなぁ?