|
10年経ったのに、俺は何か変わったんだろうか?
いや、変われたのだろうか?
唯一つ、変わらないのは、貴方が世界で一番大切だという事だけ……
「ねぇ、また君が出るの?」
部屋に入って来た瞬間、不機嫌な声で質問された内容に思わず苦笑をこぼしてしまう。
主語が抜けているのに、その質問の意味が良く分かってしまうから
「はい、一応、俺の仕事の一つですから」
鏡越しに見える相手の顔に、ニッコリと笑顔を見せる。
守護者であるははずなのに、俺は幹部としては認めてもらえず、何でここに居るかも分からない状態なのだ。
だから、自分に与えられる仕事は、どんな些細な事でも嬉しい。
それが、俺の大好きな人の役に立てるのなら
「いい加減、自分の気持ちを伝えたら」
笑った俺を見て、鏡に写ったその人が大きなため息をついて呆れたように口を開く。
俺の気持ちを伝える……そんな事、
「出来る訳ないですよ。だって、今の関係も壊れちゃいそうだから……俺は、役立たずだけど、ここに居させてもらえるだけで十分なんです」
その為に、俺はこんな格好までしてるんだから
女装なんて大嫌いだった俺が、今ではその女装を喜んでやっているなんだから、昔の俺が知ったらビックリするだろうね。
でも、誰にもツナの横に立って欲しくないから
だから、俺は喜んでこんな姿をしているんだ。
女顔である自分の顔や、高くならなかった身長に感謝したのは何時からだろう。
リボーンにお願いして、しっかりと女性としての身の振舞い方も勉強して叩き込まれたから、今では誰も俺の女装姿を見て男だと思う人は一人も居ない。
それは、女装してない時もあんまり変わらないのが悲しいかもしれないけど
「あいつが、君を手放すとは思えないんだけど……」
「それは買い被りですよ。綱吉、お年より連中に色々言われているみたいだから……役立たずな奴は処分しろって」
「頭の固い古狸連中の言葉なんて、あいつが聞くとは思えないし、何よりも君だって守護者のはずだよね」
確認するように言われたそれに、俺はただ曖昧に笑って返した。
確かに俺は、守護者の一人だ。
その証である指輪だってちゃんと持っている。
だけど、綱吉は俺を幹部として認めてくれなかった。
俺は、ここでは占い師としての身分で存在しているのだから
マフィアの中に占い師なんて、かなり胡散臭いんだろうけど、これでも信頼はされているつもり
だって、俺の占いが当たる確立はほぼ100に近いから
それでもやはり、占いをバカにする人達は多い。その中で一番反対しているのが、上層部の人達だ。
「でも、綱吉は、俺を守護者だって、認めてくれないから……」
そして、何よりも俺を守護者として認めてくれないのは、綱吉本人。
だから、俺が守護者のリングを持っている事を知っている人は少ない。
苦笑いしながら言った俺の言葉に、鏡に映ったその人の顔が複雑なものに変わる。
それに俺も、ただ困ったように笑った。
「ダメ、時間だ。っと、ヒバリも居たのか?」
その瞬間、部屋のドアがノックもなしに開かれて、呼ばれ慣れてしまった名前で呼ばれる。
相手が相手だけに、その人が俺に時間を教えに来た事に驚かされた。
「赤ん坊か……僕は、出るつもりはないからね、この子の様子を見に来ていただけだよ」
「恭弥さんも、偶には出て下さい。綱吉が上層部から文句を言われるんですよ」
「それこそ興味ないね。文句があるなら、僕に直接言いに来ればいい。勿論、言いに来たら、当然咬み殺す」
突然開いたドアと、入ってきた人物を見て恭弥さんが小さくため息をつく。
恭弥さんは、今でもリボーンの事を赤ん坊呼びしてるんだよね。
今のリボーンは、俺よりも確実に身長も高くなっている立派な青年になっているって言うのに
そんな事を思いながらも、パーティーには参加しないと言う恭弥さんに文句を言えば、物騒な言葉が返される。
この人が言うと、洒落にならないと言うよりも、きっと本気なのだろうなぁ。
「何?リボーン??」
自分で考え付いた内容にため息をついてしまうのは止められない。
だけど、自分の事を見詰めてくるリボーンの視線に気付いて首を傾げた。
何処か、可笑しなところでもあるのだろうか。
一応、自分でもしっかりと鏡で確認したが、今の俺の格好は見事な女性に見えるはず。
顔には、薄くそれでもしっかりと化粧を施してある。
服は、あまり派手にならないパーティードレス。
髪の毛は、地毛の髪をアップして纏めてあるので、首筋が見えるような状態。
悲しいかな、線の細さは今も昔も殆ど変わらなかったので、素の状態でも女の子と間違えられる。
童顔の母さんの顔を、そのまま受け継いじゃっているからなぁ、俺。
「いや、相変わらず、完璧だな」
心配気に問い掛けた俺に、リボーンが関心したように口を開く。
可笑しな所でもあるのだろうかと心配してしまったけど、リボーンにそう言って貰えるのなら、問題ないだろう。
「良かった」
「ねぇ、今度風紀財団の方で、僕の付き添いもしてくれる?」
リボーンの言葉にほっと胸を撫で下ろした瞬間、恭弥さんからとんでもない言葉が聞こえてきた。
「いや、あの、恭弥さん?」
自分の耳を疑いたくなるようなその言葉に、恐る恐る恭弥さんの名前を呼ぶ。
だって、俺は確かにツナのパートナーとしてなら、嫌いな女装だって喜んでするけど、それ以外には出来れば女装はしたくないから
「何、聞こえなかったの?」
「い、いえ、聞こえては、いるんですけど……どっちらかと言うと、その言葉を信じたくないというか、引き受けたくない、かなぁ、と……」
問い掛けるように名前を呼んだ俺に、不機嫌そうな声で聞き返される。
それに、しどろもどろに返事を返せば、盛大なため息で返されてしまった。
「それじゃ、交換条件だよ。僕も仕方ないから、パーティーに出席してあげる」
えっと、それって交換条件になっているんだろうか?
俺としては、別に恭弥さんがパーティーに出席しなくても問題ないんだけど
綱吉が上層部に怒られるのは嫌だけど、だからと言って俺が被害を受けるわけじゃないし……
「ねぇ、どうなの?」
思わず考え込んでしまった俺に、恭弥さんが再度質問してくる。
「いえ、あの……」
「残念ですけど、はオレのパートナーですから、他を当たって下さい」
返答に困っていれば、突然第三者の声が聞こえて来た。
「つ、綱吉?!」
何時の間に部屋の中に入って来たのか、ぎゅっと後ろから抱き締められる。
それに驚いて名前を呼んで振り返れば、不機嫌な表情で恭弥さんを睨んでいる綱吉の視線とかち合った。
「何時まで経ってもが来ないから呼びに来たんだよ」
小さくため息をつきながら言われたその言葉に焦る。
ボス自ら、呼びに来たって?!
いや、そこは獄寺くんとか武とかを使っておこうよ!
「別段、雲雀さんに出席していただかなくても、こちらは問題ありませんから、ご心配なく」
内心で慌てている俺なんて、まったく気にした様子もなく、にっこりと笑顔で言われる言葉は十分な棘が感じられたのは気の所為だろうか?
「そう、なら、僕はもう帰るよ。でも、今度その子は貸してもらうから」
「嫌です。は貸しませんから!」
ちょっと待って、何で俺を挟んで口論始めてるんですか、二人とも?!
「子供じゃないんだから、無駄な独占欲見せないでくれる」
「そっちこそ、子供じゃないんですから、一人で参加してください。は絶対に貸しませんから!」
ぎゅっと綱吉の腕に抱き締められたままの状態で、二人が子供のような言い合いを始めるのに冷や汗が流れる。
「リ、リボーン!」
この状況を何とかして欲しくて、直ぐ傍にいるだろう相手へと助けを求めるように名前を呼べば、先程まで確かにそこに立っていた人物の姿は見えなくなっていた。
リボーン、一人で逃げるなんてずるい!!
綱吉に抱き締められている状態の自分は、勿論逃げる事は出来ず、どんどんエスカレートして行く二人の口喧嘩に挟まれた状態が続く。
流石に、この状況で手は出していないけど、何時それが乱闘に変わってしまうか気が気じゃない。
「あ、あの、綱吉、時間だから、呼びに来たんじゃ……」
だからそれを止めるために、恐る恐る綱吉に声を掛ける。
恭弥さんに声を掛けなかったのは、後のことを考えてとやっぱりどう考えても双子の兄である綱吉の方が声を掛けやすかったから
「ああ、そうだった。でも、別に大した集まりでもないから、好きにやってるんじゃないの」
いやいや、それはどう考えても無理だから!
ボスがいない状態で、パーティーを始められる訳がない。
「それは無理だから!」
俺が居なくてもパーティーは始まるだろうけど、ボスである綱吉がいない場合は、絶対に始められないだろう。
きっと、会場では今か今かと、綱吉の登場を待ち侘びているだろう事が簡単に想像できる。
「きっと、直ぐにでも獄寺くんが……」
「10代目!どちらにいらっしゃるんですか?!」
急に姿を消した綱吉を探して、獄寺くんが慌てているのが容易に想像できて口を開きかけた瞬間廊下からその声が聞こえてきた。
「ああ、煩いのが来たみたいだね」
「……君、飼い犬の躾はちゃんとしてくれる。煩くてかなわないんだけど」
って、二人同時に煩い呼ばわり。
恭弥さんにいたっては、飼い犬ですか……言い得て妙なんだけど、さすがにそんな事は口に出せない。
「別に飼っているつもりはありませんよ。なんでしたら、差し上げましょうか?」
「いやいや!勝手に何言っちゃっているの?!」
「あんなのはいらないよ。僕が欲しいのは、君の腕の中に居るのなんだけど」
「これは、絶対にあげませんから、他を当たってください」
にっこり笑顔で、さらりと何言ってるんですか?!
しかも、これとか綱吉は、俺の事を完全にモノ扱いしているし
「いらないなら言って、何時でも引き取ってあげるから」
「一生言いませんから!」
綱吉の言葉にフッと笑みを浮かべて言われた恭弥さんのそれに、キッパリと綱吉が断りを入れる。
その時ぎゅっと俺の事を抱き締める綱吉の腕の強さに、俺は知らない間に笑みを浮かべてしまった。
だって、その強さこそが綱吉の思いだから
「!雲雀さんに何言われても付いて行っちゃダメだからね!って、何笑ってるの?」
「ううん、何でもない。ほら、獄寺くんが呼んでいるから早く行こう」
部屋から出て行く恭弥さんを見送った瞬間、噛み付くような勢いで綱吉が言った言葉にまた笑ってしまった俺に、不思議そうに質問してきたそれに首を振って返して、早く会場に向かうように促す。
本気で獄寺くんの声が涙声になりそうだから
「」
「ん?」
もう一度だけ自分の格好が可笑しくないかどうかを鏡で確認していれば、真剣な声で名前を呼ばれた。
それに不思議に思って振り返る。
「ごめんね」
その瞬間、またギュッと抱き締められて謝罪された。
「何、急に……」
突然謝罪されても意味が分からずに、聞き返す。
「は、女装が嫌いなのに、オレの所為で……」
「それは、昔の事だよ。今はそんなに気にしてないから」
そうすれば、本当に申し訳なさそうな声が聞こえて来る。
確かに、昔は女装するのが大嫌いだった。
でも、今は……
「それに、ツナの婚約者設定なんて、早々出来るもんじゃないからね」
にっこりと笑顔で言えば、少しだけ驚いたような綱吉の顔がある。
だって、俺はそれを喜んでいるんだから
俺は綱吉の隣に居られるのなら、何だってする。
兄弟だから離れられないなんて、そんな事は絶対にないから
だって、綱吉はもうボンゴレのボス。
なのに、俺はなんの役職もない、ただここに居るだけのお荷物なのだから……
「……なら、このまま結婚しちゃおうか?」
ウインク付きで言った俺の言葉に、綱吉が少しだけおどけた様に返してくれる。
それに少しだけほっとした。
「そうなっても、母さんはすんなりと認めてくれそうだよね」
だから俺も、安心して平静を装う事が出来るのだ。
「……ごめんね、……オレはを手放せないから……ずっと、一緒にいたいから」
「うん、俺も、綱吉と一緒に居たいから、大丈夫だよ」
その為なら、何だってすると誓ったのはここに来る前の事。
だから、俺はその誓いを守る為に、そして、綱吉のフィアンセと言う肩書きが欲しくて女装してるんだから
「雲雀」
名前を呼ばれて振り返る。
そこに居たのは、早々に部屋から出て行った筈の赤ん坊の姿。
「何?」
「いい加減、ダメにちょっかいを掛けるのはやめたらどうだ」
「君には関係ないよ」
用事があるのだろうと質問すれば、呆れたように言葉が返されるそれに、そっけなく返事を返す。
今頃は二人仲の良い恋人同士としてパーティー会場に向かっているだろう二人を思い出して、深いため息をついた。
「あの二人を見ているとイライラする。お互いの気持ちに気付いていないのは、当人達だけだなんだからね」
「だからと言って、それを素直に受け入れられない立場だからな、あいつ等は……」
僕の言葉に、赤ん坊がため息をつきながら言葉を続ける。
お互いが一番大切な存在なのに、それを相手に伝えられないなんて、見ていてもどかしい。
さっさとあの子があいつのモノになってしまえば、諦めも付くと言うのに
「だからなに?そんなものに、あいつが縛られるとは思えないね。それに、そう思うのなら、手放してしまえばいい。僕ならそうする」
受け入れられないのなら、さっさと手放してしまえばいい。
そうすれば、あの子を直ぐにでも受け入れる相手はあいつ以外にもたくさん居るのだから
もしも手放すと言うのなら、一番に僕が貰うけど
「それが出来ねぇから、守護者のあいつに役職も与えず傍に置いてんだぞ」
「それが愚かだと言っているんだよ。大事なら役職を与えて、離さなければいい」
誰にも文句を言わせない位置に就かせればいいだけの話だ、それをしない沢田綱吉が僕には理解できない。
「てめぇらしいな。だが、綱吉がそれをしないのは、あいつをこの世界に入れたくねぇからだ。あいつは、優し過ぎるからな」
だけど、僕の考えを否定するように言われた赤ん坊の言葉。
多分、それは僕も分かっている事だ。
あの子には、この世界は一番似つかわしくないと言う事に
誰かを傷付ける事よりも、自分が傷付く事を迷わず選ぶ。
それは、マフィアの世界では、存在していけない優しさと強さ。
だから、沢田綱吉は、あの子をこの世界に引き入れないのだと言う事を
「本当に、くだらない世界だね。あの子が生きて行けない世界なら、さっさと他の奴に引き渡してしまえばいいのに……」
「それも、あいつには出来ねぇんだ。もっとも、初代と同じようにさっさと引退して、次の11代目に引き渡すつもりみてぇだがな」
呆れて呟いた僕の言葉に楽し気に言われた言葉に、驚きを隠せない。
「へぇ、それは初耳だ。もう11代目候補が上がっているのかい?」
「ああ。あいつは、とっとと引退する気満々みてぇだな。これはまだオレしか知らねぇことだぞ」
驚いて問い掛けた言葉に、すんなりと答える赤ん坊の言葉に感心させられる。
多分、沢田綱吉は、ボスとして就任する時からもう既に考えていたことなのだろう。
教えられた内容に、口端が上がったのが自分でも分かる。
ああ、だからこそ、面白いと思う。
僕が唯一認めた男を改めて、再認識させられた気分だ。
「赤ん坊、沢田綱吉に伝えておいてよ、後10年、それが限界だってね」
「……分かったぞ、伝えといてやる」
もしも、10年先にも変わらなければ、あの子は僕が貰う。
それまでは、今の関係をイライラしながら見守ってあげるのも一挙だ。
もっとも、結果の分かりきった賭けではあるかもしれないけれど、ね。
|