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階段から落ちて、怪我をしてしまった。
いや、小学校の頃と違って、女の子に突き飛ばされた訳じゃなく、本当に偶々運が悪かったとしか言えない状態で階段から落ちてしまったのだ。
理由は簡単。
雨が降って良くすべる状態が出来上がっていたので、慎重に階段を上っていた俺は、急いで駆け上がっていた生徒が滑ってバランスを崩したのに巻き込まれてしまったのだ。
しかも、更に運が悪かった事に、落ちた時その生徒の下敷きになってしまった。
一応自分でも回避しようとして、慌てて掴んだ手摺が悪かったのか右腕の骨折が一番の重症。
更に、右足の捻挫と打撲が数箇所……。
右手が自分の利き手なので、不自由極まりない。
病院に直行したので、今は治療も終り、右手にはギブスがされている状態で、右足も俺が無茶をしないようにとかなりしっかりとテーピングがされている状態だ。
しかも、これ以上の酷使をしない為にと松葉杖まで強制的に渡されたんだけど、俺右手を骨折してるから松葉杖を上手く使う事が出来ないんだけど、どうしろと言うんだろう……
「沢田、本当に大丈夫なのか?」
病院に付き添ってくれた担任の先生が、今の俺の状態を見て心配そうに声を掛けて来る。
元から右足は使い物にならないから捻挫しても大した問題じゃないんだけど、右手の骨折は本気で俺にとっては痛手だ。
「……多分、としか言えません……」
心配そうに質問してくれた担任の先生に、曖昧な返事しか返せないのは申し訳ないんだけど、俺が返せたのはそれが精一杯。
大丈夫だと笑って言える状態では、流石にない。
ちなみに、俺を巻き添えに階段から落ちた生徒には、怪我はなかったと聞く。
まぁ、俺の怪我が無駄にならなかったんだから、それだけは救いかもしれないよね。
「お兄さんを呼んだ方がいいんじゃないかい?」
曖昧な返事をした俺に、担任の先生が恐々と質問してくる。
「いえ、流石に兄は授業中………」
「!!」
それに丁寧に断りを入れようとした瞬間聞えてきた声に、言葉が途切れてしまう。
今って、授業中だったよね?
どうして、ツナがここに居るの?!
「ツ、ツナ??な、なんで……」
「のクラスの子から病院に運ばれたって……その手から考えると、右手は骨折?」
「う、うん……後は、右足の捻挫とちょっとした打撲程度、だけど……」
確認するようなその質問に、思わず素直に返事を返してしまって、ハッとする。
何、バカ正直に話してるんだ、俺!?
そんな事言ったら、綱吉が心配するのが分かっているのに
「あ、あの、綱吉……」
「何で、こんな事になっているの。勿論、ちゃんと説明してくれるんだよね?」
恐る恐るツナの様子を伺おうと名前を呼べば、ニッコリと笑顔で尋ねられる。
一見優しい笑みに見えるのに、どう見ても拒否は許さないと目が語っているんですけど
「あ、あのな、沢田は、今回は巻き込まれただけで……」
「あんたには聞いてないから、黙っててもらえます」
オロオロとしている俺に助け舟を出そうと担任の先生が口を開いてくれたんだけど、一刀両断でその言葉を遮ってしまった。
いや、あの、一応ここに居るのは俺の担任の先生になるんだけど?!
なんで、そんなに口調が上から目線なんでしょうか?!
「えっと、先生が言うように、巻き込まれて……その、ほら、今日雨が降ってて廊下が滑りやすくて、階段も同じような状態だったから、上ってた生徒が滑って落ちそうになったのに巻き込まれちゃったんだ。流石に俺だと、落ちてきた人を支えられなかったのが一番の原因なんだけど……」
チラチラとツナの様子を伺いながら、嘘偽りなく報告する。
俺の言葉をツナはただ黙って聞いているんだけど、何も言わない。
それが逆に怖いと言うか何と言うか……
ちなみに俺は、ちゃんと椅子に座らされています、勿論ツナによって強制的に!
「で、に怪我をさせた生徒は?」
ドキドキしながらツナの様子を伺っていれば、漸くその口を開いたツナから出てきたのは俺を巻き添えにした生徒への疑問。
「えっと、怪我はしてないって聞いてるから、多分今は授業を受けてると思うんだけど……」
ツナに質問された内容に、恐る恐る返事を返す。
でも、それはあくまでも憶測で、自分で確認した訳じゃないから合っているのかは分からない。
情けない事に、俺は病院で治療している最中に意識を取り戻した状態で、ここに運ばれた時には気を失っていたのだ。
なので、色々と説明をしてくれたのはこの病院に連れてきてくれた担任の先生で、詳しい事までは流石に分からない。
「へぇ、に怪我させておいて、自分はのうのうと下らない授業を受けている訳」
いや、あの確かにツナにとっては下らないかもしれないけど、一応、教える立場の人が直ぐ傍に居るのにそんな風に言うのはどうかと思うんだけど
「ねぇ、その生徒のクラスと名前教えてくれるよね?」
何とも言えない複雑な表情をした俺には、全く気付かずに、ツナが先生へと質問を投げ掛ける。
でも、何だろう拒否するのは許さないという響きが感じられるのは、きっと気の所為だよね?
だけど、ツナの質問に、あっさりと先生がその生徒のクラスと名前を口に出した。
って、そんなにあっさりと話していいんですか?!
「そう、ならそいつに伝えといてくれる。に怪我をさせたんだから、それ相応の謝罪をするようにって」
それ相応の謝罪って何ですか?!!
しかも、何で先生はそんなにツナの言葉で大きく頷いてるのか分からないんですけど
「ツ、ツナ、不可抗力なんだから、そんなに責めたりしたら……」
「不可抗力だからこそ、オレが直接手を下さないんだよ。もしこれに悪意があるなら、絶対に許してないから」
とんでもない事を言うツナに対して、それをフォローしようと口を開けばもっと恐ろしい言葉が返ってきた。
えっと、ツナが直接手を出さないから、穏便なんだ……なんだろう、すっごく説得力がありすぎるんだけど
「それじゃ、は連れて帰ります」
言うが早いか、あっと言う間にツナに抱き上げられてしまう。
しかも、お姫様抱っこって……勘弁してもらいたいんですけど
「ツ、ツナ?!」
「何時ものじゃ、流石に不便だからね。これが一番に負担が掛からないんだよ」
慌てて名前を呼べば、当然と言うように言葉が返される。
た、確かに、俺の手にも足にも負担は掛からないかもしれないけど、恥かしい上に滅茶苦茶ツナに負担が掛かると思うんだけど!
「さ、沢田くん、なんなら、ウチまで送って……」
「そ、そうだよね、先生に送ってもらった方が!」
俺を抱き上げたツナに、先生が声を掛けてくるそれに便乗して口を開く。
「外でタクシーを捕まえますから、問題ありません。あなたは先ほどオレが言った事を実行してくれますか」
だけどツナから出てきたのは拒否の言葉で、あっさりとそれを切り捨てて学校にさっさと戻れと目が訴えているんですが
しかも、実行に移せって事は、さっきツナが言った事を俺を巻き込んだ生徒に伝えろって事だよね?
いや、あの、流石にそれは……
「わ、分かりました!早急に!!」
って、伝えに行くんですか、先生!!
完全にツナの言いなりなんですが、綱吉は一般の生徒じゃないのか?!
先生は、ツナの言葉に何度も頷くとそのまま走り出しそうな勢いで玄関へと向かってしまった。
あの、病院の中では走らない方が……
見ていれば、それは小走りに変わり思わず心の中で突っ込んでしまっても仕方ないだろう。
「それじゃ、オレ達はウチに帰ろうか?母さんには、連絡入れてないんだよね?」
「あっ、うん、流石に……もしかしたら、保健の先生が連絡を……」
「ああ、じゃあ、無理だね。まぁ、連絡なくてもいいか、帰ったら説明するし」
ツナはそんな先生など全く気にした様子もなく、俺の事を抱え上げたままゆっくりとした足取りで歩き出す。
そして、質問された内容に俺が答えると、それに当てにならないと悟ったのか、当然のように自分が一緒に帰る事を主張した。
「あの、ツナ、俺は一人で帰れるし、一回学校に帰らないと荷物もあるから……」
「そんなの獄寺に運ばせればいいよ。後で連絡入れておくから」
ああ、獄寺くんは完全にパシリ扱いなんだね、本当にごめんなさい。
でも、ツナに言われたら喜んで運んでくれる事が分かっているので、本人には何も言えないんだけど
「、頭もぶつけたの?」
内心でそんな事を考えていれば、ツナが心配そうな声で質問してきた。
頭……そう言えば大きなタンコブが出来てるんだっけ、ちょっとズキズキしてるけど、すっかり忘れてた。
「そうみたい、これの所為で気を失ってたんだよね。そのお陰で、治療中は殆ど寝てたんだけど……」
軽い消毒と頭を冷やしてもらったので、大分楽になってはいるんだけど、それでもやっぱりまだズキズキして熱を持っているのが分かる。
一応精密検査もしたから、大丈夫だと思うんだけど、急に気分が悪くなったりしたら直ぐに知らせなさいって何度も言われたっけ。
タンコブが出来ているから、今日は帰ってもいいって先生が言ってくれたんだけど、多分俺じゃなかったら入院する事になってたと思う。
ここの病院は小さい頃からお世話になっていて、色々データが残っているから、大丈夫だと判断されたのだと思うから
本当に、この病院にはお世話になりっぱなしだよね。
「……家に帰ってからも冷やした方がいいね」
俺の言葉にツナが不機嫌な顔になるけど、直ぐに心配するように言われたその言葉に頷いて返す。
それから、病院の前でタクシーを捕まえて家に帰った。
ツナ、お金持ってたんだね。
ちなみに病院のお金は、先生が立て替えてくれました。
この場合、保険で何とかなるのかな?
それとも、怪我をさせた相手が払う事になるのか……良く分からないんだけど
今のままだと、確実に俺を巻き込んだ生徒が払う事になりそうで怖い。
「ちゃん、学校で怪我をしたって、大丈夫なの?」
タクシーで家に帰った俺達を待っていたのは、母さんの心配した声だった。
どうやら学校側から連絡があったらしく、それを聞いて母さんは心配してくれていたらしい。
「まぁ、何と……」
「右腕の骨折。右足捻挫、頭にタンコブが出来てて、数箇所の打撲。母さんの頭冷やすからアイスノンの準備よろしく」
「分かったわ」
母さんに答えようと口を開きかけた俺の言葉を遮って、ツナが怪我の具合を正確に説明する。
いや、確かに間違いじゃないんだけど、そんなスラスラと
しかも、しっかりと母さんに頭を冷やす為のアイスノンまで準備させてるし、これはもう大人しく寝てろってことなんだろうね。
勿論今の俺の状態は、ツナに抱き上げられているままです。
「は、このまま部屋で寝てる事。多分怪我の所為で熱も出てくるだろうからね」
「……んっ」
考えた通り、ツナがしっかりと念を押してくる。
確かに、この怪我だから熱が出ると思うし、無茶なことしてこれ以上ツナを怒らせるのは得策じゃないから、俺は素直に頷いて返した。
頷いた事で満足したのか、ツナもそれ以上何も言わない。
部屋に運ばれて、流石に制服で寝る訳にはいかないので、服を着替えようとして思ったんだけどどうやって着替えよう。
最近のギブスは本当に軽くて薄いからあんまり気にしてはなかったんだけど、このままだと服を着替えられないんだけど
夏だから半袖だったのがせめてもの救いだよね。
でも、服は廊下が汚れていたのか階段を落ちた時に汚れている。
結局、何が言いたいかと言うと、右手が肩から手首までしっかりとギブスで固定されているので、服を着替える事も満足に出来ない状態なんですけど、俺?!
「?」
部屋に入って下ろしてもらい、服を着替えようとした瞬間固まってしまった俺に気付いて、ツナが不思議そうに名前を呼んでくる。
「どうしたの?」
「……右手が動かないから、ボタンが外せない」
心配そうに質問してきたツナに、情けないけど現状を説明。
それを聞いて納得したのか、ツナが小さくため息をついてボタンを一つづつ外してくれる。
「もっと、早く言ってよ」
「ごめんなさい」
どうやら申し出なかった俺に呆れているようで、しっかりと文句を言われてしまった。
プチプチとボタンを外して、ゆっくりと服を脱がしてくれた上に、今度はパジャマも着せてくれる。
「重ね重ね、すみません」
「仕方ないよ。は右利きだからね。その手が使えないんだから、不便になるのは分かってた事だから」
確かに、その通りです。
この手だと、ご飯食べるもの苦労しそうだし、何よりも勉強するのに字が書けない?!
「そう言う訳だから、完治するまでオレがの面倒見るからね」
「えっ?何がそう言う訳??」
内心でこれから完治するまでどうしようと考えていた俺の耳に、当然だと言うように言われたツナの言葉の意味がわからなくて思わず聞き返してしまう。
「完治には、約2ヶ月だっけ?」
「えっと、多分、そんなもんかな?……早ければ、1ヶ月過ぎればギブスは取れるかもって……」
足の捻挫は3・4日で治ると思うし、打撲も1〜2週間で消えると思うから、大丈夫。
頭のタンコブは、様子見ないと分からないけど、こっちも1ヶ月も掛からずに直ると思う。
でも、やっぱり骨折に関しては、全治2ヶ月は掛かるって言われた。
その間、本気で授業どうしよう。
この手だと、ノートも取れないんだけど
「だから、その間オレがの面倒を全部見るって言ったんだよ。勿論、授業のノートも、オレが変わりに取るから心配しなくいいからね」
「いや、ちょっと待って、そんな事したら、ツナが自分の授業受けられないよ!」
「ああ、オレの事は気にしなくていいよ。あんな授業聞かなくても、全部分かってるから」
やっぱり授業の事を心配していれば、ツナがまたもやさらりととんでもない事を口にしてくれた。
それに慌てて言葉を返せば、あっさりと問題ないと言われてしまう。
確かに、ツナなら学校の授業なんて受けなくても全然問題ないと思うんだけど、だからって、ずっと俺に付いてるなんて
「そんなの学校側が許可する訳ないよ!!」
「ああ、そんな心配はしなくていいよ。学校の権力者であるヒバリさんとちょっと話をすれば問題ないから」
て、にこやかにとんでもない事をさらっと言ってくれちゃってるんですけど?!
いや、確かに委員長さんが許可を出したら、授業を受けてなくても欠席扱いにならないみたいだけど
だからって、そんな爽やかな笑顔でいう事じゃないと思うんです。
「で、でも……」
「それ以上言うなら、完治するまで学校を休ませるからね」
とんでもない内容に、拒否しようと口を開きかけた俺のそれを遮ってさらにとんでもない事を言ってくれた。
でも、ツナなら本気で休まされる?!それだけは、避けないと
「そ、それで問題ないです!」
意志が弱いとか、情けないとか言わないで下さい。
だって、ツナの強引さは誰よりも良く分かっているんだから
ツナがすると言ったら、絶対に行動に起こす事も
「納得してくれて良かった。でも、明日は念の為に学校休んだ方がいいね」
満足そうな笑顔を見せながらツナが言ったその言葉に、コクコクと頷いて返す。
その頃には、制服を着替えてパジャマ姿になっていた。
「ちゃん、冷すもの持ってきたわよ」
話が一段落した所で、母さんがアイスノンを持って部屋に入って来る。
「有難う」
それにお礼を言って受け取り、ベットに横になりながらタンコブが出来ている場所にアイスノンを押し当てた。
ひんやりとしたそれが、ちょっと熱を持っているその場所を冷してくれてホッと息を吐く。
「何か飲み物持ってきましょうか?」
「あっ、うん、喉渇いたからお願いしてもいい」
「分かったわ。オレンジジュースでいいかしら?」
そんな俺に気付いたのか、母さんが質問してくる内容に、素直にお願いすれば再度母さんが質問してくるのに、コクリと頷いてゆっくりと目を閉じた。
やっぱり疲れているのか、それとも怪我の所為でだるくなっているのか、横になった瞬間ドッと疲れを感じてしまう。
「ああ、やっぱり熱が出てきたみたいだね。タオル冷して持ってこようか?」
「んっ……ツナの手冷たくて、気持ちいい」
目を閉じた俺に、ツナの手がそっと額に触れてくる。
ああ、熱が出てきてるから、こんなにもだるいんだ。
それが分かったからか、ツナが触れているその手が気持ちよくて、思わず笑みを浮かべてしまう。
「……そう、ならもう少し触ってようか?」
「うん」
そんな俺にツナも笑みを浮かべてくれて、質問された内容に小さく頷く。
でも、ちょっとツナの顔が困惑気味に見えたのは気の所為だよね?
コンコンと部屋のドアをノックする音を遠くで聞きながら、意識が薄らいでいくのを感じた。
ああ、こんなにも眠いって事は、疲れてるのかな?
何て、のんびりとした意識の中で考えながら
「ちゃんは、寝ちゃったのね?」
ノックの音にそっとの額に置いてあった手を離してそのドアを開ければ、母さんが手にオレンジジュースを持って立っていた。
「うん、疲れてたんだろうね。それに、熱も出てきたみたいだから」
「そう、濡れタオルを準備した方がいいわね」
「お願いするよ」
母さんからジュースを受け取って、言われる言葉に返事を返す。
オレの言葉に頷いて、一度の様子を見てから母さんは部屋を出て行った。
それを見送って、受け取ったモノを机の上に置き、椅子に座る。
「……あの顔は、反則だよね……」
座ってから、はーっと長いため息をつく。
オレの手を気持ちいいと言った時のの顔が、ほんのり頬を染めた状態で本気で理性が飛びかけたんだけど
瞳もちょっと熱の所為で潤んでいたから、なおさら性質が悪い。
ソレを全部無意識でやっているんだから、本当に手に負えないよ。
「ああ、獄寺に連絡入れとかないと……」
思い出した内容に、携帯を取り出しメールを打ち込む。
その手を動かしながら、数時間前の事を思い出してもう一度ため息をつく。
のクラスの子から、聞かされた内容に本気で焦った。
その知らせを聞いて急いで保健室に行けば、シャマルから重症だったのでクラスの担任に頼んで病院に運んでもらったと言う事。
何処の病院に運んだのかと聞けば、の掛かりつけの並盛総合病院。
それを聞き出してから、学校を飛び出して病院へと向かへば、の怪我は右手骨折の大怪我。
右足も捻挫している上に、頭にはタンコブまであるなんて、本気でを巻き込んで階段から落ちた生徒を恨みたくなった。
しかも、巻き込んだ生徒は無傷だと言うのを聞いて、更に殺意が湧く。
「……本当に、が階段から落ちたと聞かされて、心臓が止まるかと思ったんだけど……」
あの時、本気で目の前が暗くなった。
オレにとってはもう、が世界のすべてなのだから……
再度ため息をついた瞬間、着信を告げる携帯の音に我に返る。
「もしもし?」
『ツナ、オレだけど』
相手を確認せずに電話に出れば、予想外の人物からの電話。
てっきりオレは獄寺からの電話だと思っていたんだけど
「山本?どうしたの?」
意外だった相手に、問い掛けた。
『が階段から落ちたって、学校中で噂になってるのな。しかも、落した原因の生徒が自分の所為だから、死んで侘びを入れるって屋上から飛び降りる勢いだったのをヒバリが気絶させて病院送りにしたらしい』
「へぇ〜」
オレの質問に、山本が学校で起こった事を報告してくれる。
聞かされた内容に、オレは興味なく返事を返した。
まぁ、に怪我をさせたのだから、それぐらいの反省は当然だし、本当ならオレのこの手で体裁を加えたいぐらいなのだから
と約束した手前、そんな事は出来ないけどね。
『まぁ、だから、な。これ以上はそいつに手を出すのも気の毒だから、て言う報告なのな』
「ああ、まだ足りない気もするけど、オレが直接手を加えない約束をとしてるから、心配しなくて大丈夫だよ」
『そうなのか?なら、余計な心配だったのな。どっちにしても、獄寺と一緒に帰りに見舞いに行くから』
オレが直接手を出すことを心配している山本に、素直にそう言えば安心したように山本がウチに来ることを口にする。
「そう、なら獄寺にメールは打ってたんだけど、とオレの荷物届けてくれるかな?」
『おう、任せとけって!』
多分、獄寺からも返事が来ることは判っているけど、一応山本にもお願いすればしっかりと返事が返された。
きっと、いつもの笑顔を浮かべているのだろうと想像できるくらいには、山本はオレの近くにいる人間の一人だと言える。
「それじゃ、宜しく」
もう一度頼むように口を開いて、電話を切ればそのタイミングで母さんが部屋の中へと入ってきた。
「電話中だった?」
「今切ったところだから、大丈夫だよ」
「そう、それじゃ、水とタオルはここにおいて置くわね。ちゃんの事はツっくんに任せておいていいかしら?」
「大丈夫、母さんは、チビ達の面倒見ててよ。の部屋に入ってこないように見張ってて」
「分かったわ」
手に持った水桶とタオルをテーブルの上に置きながら言われた母さんの言葉に返事を返して、オレからもしっかりと釘を刺すように言えば納得したのだろう頷いてから部屋を出て行った。
母さんを見送った瞬間、今度はメールの着信音が響く。
それに気付いて携帯を手に取れば、今度は獄寺からで長々としたメール文が……
「時間掛かってたのは、この為か……」
ざっと目を通せば、がオレに心配掛けるなんてと言う文句から始まって、最後はちゃんとの心配の言葉で〆められている。
オレとの荷物は届けるから心配しないでくださいと書かれているので、何の問題もないだろう。
「結局は、獄寺もの事を心配してるんだよね……」
皆が、君のことを心配している。
きっと、君には分からないんだろうね。
自分がどれだけの人を惹きつけているかなんて
オレが、どんなに君の事を思っているかさえも
「は、気付いててもそれを完全に理解してくれないから……」
オレの気持ちがどういったものなのか、全然分かってくれない。
どうすれば、分かってくれるんだろうか
「こいつがこいつである限り無理なんじゃねぇのか?」
「……人の心に勝手に返事するなよ、偽赤ん坊!」
「うるせーぞ。静かにしねぇと、ダメが起きちまうだろうが」
人が考えていたそれに、的確な言葉を返してきた事が更にムカついて少し声を荒げて睨み付ければしっかりとそれを咎めてくる偽赤ん坊。
確かに間違いじゃないが、こいつに言われると、かなり肌が立つのは何でだ?
しかも、の寝ている枕元に立って、その顔を覗き込んでいる事にもムカつく。
「何で、こいつは怪我が絶えねぇんだ?」
何時の間にか母さんが準備していたタオルを手にして、の額にのせながら、呆れたように呟かれたその言葉は、逆にオレの方が質問したいくらいの内容だ。
勿論、その理由は聞かなくても分かってはいるんだけど
「他人の為に、自分を犠牲にし過ぎるぞ」
それはこの偽赤ん坊も分かっているのだろう、ボソリと聞えてきたその言葉に自分の眉間に皺が寄ったのが分かる。
そう、は誰かの為に自分を犠牲にして傷付くのだ。
もっと、自分を大事にして欲しいと思うことはいけないことなのだろうか?
「…んっ……」
リボーンが冷たいタオルを額にのせた事で、が小さく声を出す。
それにハッとして視線を向けるが、起きた訳ではないようでホッと息を吐き出した。
「……だから、仕方ないのかもしれないけど、オレがずっと助けられる訳じゃない……」
きっと、オレが一緒に居られれば、今日だってを助けられただろう。
同じクラスじゃない事を腹立たしく思うのは、一体これで何度目だろうか。
出来るなら、ずっとと一緒に居られる立場になりたいのに
「……だから、せめて怪我をしている間だけでも、一緒に居られるように手配してくれるよな?」
「…………ヒバリにオレから伝えろと言う事か?」
チラリとリボーンを見ながら確認するように言えば、更に質問で返してくる。
「ああ、今回のこれを許可してくれるのなら、一度だけ真面目に相手してやるって言っていい」
それに頷いて返せば、リボーンが深いため息をついた。
「……それなら、あいつも納得しそうだな。分かったぞ、仕方ねぇからその伝言はしっかりと伝えといてやる」
諦めたように言われたその言葉に、フッと笑みをうかべる。
リボーンも、を大切だと思っている事を知っているからこその頼みなのだから
予想通り、オレの言葉を断る事をしなかったのが、こいつなりにを心配している証拠。
「ヒバリも、こいつの事を心配していたからな。お前の事だから、情報は伝わっているだろうが、こいつに怪我をさせた奴が学校で自殺騒動を起こしたのを、ヒバリが撃沈させたそうだ」
「ああ、山本がそれらしい事を言ってたね」
続けて楽しそうに言われた内容に、同意して頷く。
だからこそ、が怪我をした事をあのヒバリさんも知っているだろう。
「こいつの人気が分かる、ちょっとした騒動だったからな」
その時の事を思い出しているのか、口元が笑っている。
「ああ、オレが言うよりも自分で言った方が早いかもしれねぇな」
「何、言って……」
「ねぇ、あの子が怪我したって?」
意味が分からないリボーンの言葉にその真意を確かめようと口を開いた瞬間、の部屋の開いている窓から顔を見せたのは並盛最強の委員長、雲雀恭弥その人。
「不法侵入ですけど……」
言っても無駄だと分かっているが、言わずにはいられない。
ああ、窓を閉めてなかった事をここまで後悔する事になるなんて思いもしなかった。
大体、雨が降っているのに、何でこの人は全く濡れてない状態でここに居るんだよ?!
「僕にそんな言葉は関係ないね。で、どんな様子なの?」
オレの言葉に、当然のように返されたその言葉に長いため息をつく。
「右手の骨折に右足の捻挫。頭に大きなタンコブと打撲が数箇所。今は怪我の所為で熱を出している状態ですよ」
「そう、風紀委員に命令して、階段が滑らないようにしっかりと対策をさせておくよ」
「そうしてくれると助かりますね。で、モノは相談ですが、明日はを休ませますけど、次の日から完治するまでの間、の面倒は全てオレが見ますから、許可を下さい」
当然のようにの部屋の中へと窓から入って来たヒバリさんは、チラリとを見てから小さく息を吐き出す。
そして、質問された内容に返事を返せば、こんな事がないように徹底させる事を口にした。
オレとしても、流石に何度もこんな事があったもら困るから、その言葉は頼もしいものだ。
「骨折、右手だって言ったよね?」
「ええ、右手骨折です」
「この子、右手が利き腕だったね……いいよ、特別に許可を出してあげる。その代わり、放課後この子には応接室に来てもらって、僕とお茶をしてもらうよ」
「なぁ!?」
「それが聞けないというのなら、許可は出せないね」
あっさりと許可を出したと思ったら、とんでもない要求を出してきた。
毎日、応接室でヒバリさんとお茶!そんなの許せる訳がない。
「上手い要求を出したじゃねぇか、ツナ、どうするんだ?」
言葉に困ったオレに、今まで黙って話を聞いていたリボーンが楽しそうに笑いながら質問してくる。
それを許可すれば、オレの要求が通るけど、そうするとがヒバリさんと毎日顔を合わせる事になるのだ、それは、本当なら避けたい事。
「どうするの?僕はどっちでもいいんだけど」
「……いいですよ。その条件引き受けましょう。ただし、オレが応接室に送り迎えしますから」
「ふーん、別にそれでいいよ。僕としては、少しでもこの子に僕の事を知ってもらうチャンスだからね」
それがヒバリさんの考えだった事は分かっているけど、今は承諾するしか道はなく、精一杯の言葉を返したオレに、満足そうな笑みが返された。
「……んっ?…あれ?おれ、ねてたにょ?」
その時、寝ていたがゆっくりと目を開いて、不思議そうに首を傾げる。
まだ寝ぼけているのか、状況を理解していないのか上手く言葉がしゃべれていないに、笑みを誘われる。
「君、馬鹿なの?」
「へぇ?あ、あれ?委員長さん、なんで、ここに??」
そんなにヒバリさんが呆れたように声を掛ければ、聞えるはずのない声が聞こえてきた事で覚醒したが、不思議そうに首を傾げた。
「君が怪我をしたって聞いて、様子を見に来たんだよ」
「えっ?そうなんですか?態々すみません。俺は、この通り大丈夫……」
「右手の骨折に、右足捻挫。頭にタンコブこさえている人間の言葉じゃないよね」
の質問に何処か偉そうな返事を返してから、が口を開き掛けるその言葉を遮って呆れたようにヒバリさんがオレが説明した怪我の状態を口に出す。
それにが、罰悪そうな顔をする。
本当に、どうして直ぐに大丈夫だって、その言葉を簡単に口出すんだろうね。
君が、そう言っても、状況は何も変わることはないのに
「沢田綱吉の許可は取ったから、学校の事は心配しなくていいよ。後、放課後は毎日僕の所に顔を出すのは決定事項だからね」
「えっ?あの、あれ?はぁ??」
当然と言うように言われるヒバリさんの言葉の意味が分からないのか、が素っ頓狂な声を上げた。
そんなに大きな声出して、頭に響かないのか心配なんだけど……
大きなタンコブ作ってるって言う自覚があるのかな、は……
「君には拒否権はないからね。僕も放課後は忙しいから、30分程度の時間を貰うだけだよ」
「そんな事でいいなら、俺で良かったら付き合いますよ」
「君、バカ?拒否権はないって言ったはずだよ。送り迎えは、そこに居るヤツがしてくれるそうだから」
「そこに居るヤツって、ツナ?」
「まぁ、行かす場所は不本意だけど、ね……」
チラリとオレの方を見てくるに、頷いて返せばすっごく驚いた顔をされる。
確かに、オレがとヒバリさんを会わせる手伝いをするなんて、普通なら考えられないだろう。
だけど、それを提示されたら、引き受けるしかないのだ。
が完治するまでの間、ずっと一緒に居られる事に比べれば、何とか納得も出来ると言うもの。
「ちわーす!」
複雑な心境が拭えないオレのそんな心とは裏腹に、元気な声が玄関から聞こえてきた。
それは、まだ授業中のはずである山本の声。
「ふーん、僕の前で堂々とサボリなんて、面白いね」
その声に一番に反応したのは、風紀委員としては真面目と言われるヒバリさん。
自分の事は棚上げで言われたその言葉に、ため息をついてしまう。
それを言うなら、オレもサボリなんだけど……オレは、まだ許されているという事なのだろうか。
「10代目!お荷物をお持ちいたしました」
そして、の部屋に勢い良く入ってきたのは玄関から聞こえてきた声とは別のモノ。
「ああ、有難う。だけど、放課後で良かったんだけど?」
「まぁな、獄寺が、のんびり授業なんて聞いてられるかって、教室飛び出しちまったんだよ。だから、オレも一緒に来たのな」
……意味は分かるけど、理由にはなってないと思うんだけどね。
しかも、ものすっごく面倒な授業を抜け出せたのが、嬉しそうに見えるのは気の所為じゃないだろう。
「来てくれるのは嬉しいんだけど、授業はちゃんと受けないと……」
「僕の前で堂々とサボリだなんて、いい度胸だね。咬み殺すよ」
がそんな山本に困ったように口を開けば、それに続いて風紀委員長が何時もの台詞を口に出す。
その声で、漸くヒバリさんが居る事に気付いた獄寺が威嚇。
「なぁ!なんで、ここにてめぇが居やがるんだ!」
「何だ、ヒバリもの事を心配して、お見舞いか?」
暢気な山本は、笑顔でそんなヒバリさんへと質問を投げ掛けた。
本気で、こいつの頭の中を覗いてみたいと思うのは、こんな時だ。
「……山本武。相変わらずヤル気をなくさせるね」
山本の言葉に、ヒバリさんが不機嫌な声でその名前を呼ぶ。
言われた言葉に、オレは激しく同意した事は心の中に仕舞っておこう。
「あ、あの、委員長さん?」
「今日は気分がいいから、特別に見逃してあげるよ」
恐る恐るヒバリさんに声を掛けるに、フッと笑みを浮かべてまた窓の外から出て行く。
それを見送って、オレは盛大にため息をついた。
「オレとしては、不本意なんだけど……」
「何だ?ヒバリと何かあったのか?」
「まぁ、ちょっと取引を、ね……」
不本意だけど、必要だと言える取引。
だから、一日30分だけの時間は目を瞑ろう。
「ツナ?」
不思議そうにオレの事を呼ぶその声に、笑みを浮かべる。
獄寺に説教をされていたらしいに、オレが笑みを浮かべれば困ったように笑い返してきた。
「てぇ!聞いてるのかよ!!10代目にご心配お掛けするなんてなぁ」
続いて聞えてくる獄寺のその言葉を聞いて、思わず苦笑をこぼしてしまうのを止められない。
心配するのは、オレが勝手に心配しているだけなのだから、を怒るのは間違ってると思うんだけどね。
「まぁまぁ、今回はも災難だった訳だしな。笹川達も心配してたぜ」
そんなに助け舟を出したのは山本で、何時もの笑顔を見せながら獄寺の言葉を遮ってへと声を掛ける。
「あ、有難う、京子ちゃん達にも、そう伝えといてくれる?」
「おう!しっかりと伝えといてやるよ」
心配してくれる友人に何処か恥かしそうに、でもちょっとだけ嬉しそうな顔をしてがお礼の言葉を口にすれば、山本がニッカリと頷いて返す。
「、母さんがジュース持って来てくれてるから、飲む?」
「うん、有難う、ツナ」
そんな二人に割って入るように、オレは母さんが準備してくれたジュースをに差し出す。
まだそんなに温くはなっていないそれは、氷が少し溶けてしまってジュースが薄くなってしまっているようだ。
「入れなおしてこようか?」
それに気付いて、渡そうとしたコップを下げようとすれば、は首を振って手を伸ばして受け取る。
「いいよ。ちょっと薄い方が今の状態にはちょうどいいから」
体を起こして、オレから受け取ったコップを手にニッコリと笑顔を見せてから、それを一気に飲み干す。
余程喉が渇いていたのか、ゴクゴクとそれを飲み干したにちょっと驚いた。
何時もは、ゆっくりと飲むから
「美味しかった!有難う、ツナ」
全部飲み干してから満足そうに笑って、が空になったコップを差し出してくる。
それを受け取って、オレは心配そうにに声を掛けた。
「そう、良かった。喉、渇いてたみたいだね」
「熱がある所為かな?だからこれぐらいの方が良かった……」
「ああ?、熱あるのか?」
「野球バカ!お前この状況見て何言ってやがるんだ!!」
の言葉を聞いて、山本が心配そうに声を掛けてくるのに、賑やかな獄寺の声がそれを馬鹿にする。
賑やかな二人の遣り取りに、はただ困ったように笑っているだけだ。
その顔は、まだ熱があるのが分かるほどに、赤い。
流石に、この二人が居るとが落ち着いて休めないかも……
「ですが、それならあまり長居はしない方がいいですね」
どうやって二人を追い出すかを考えている中、突然獄寺がまともな事を口にしたので、一瞬その言葉を理解するのに時間が掛かってしまった。
オレが、何かを言う前に、獄寺の言葉に続いて山本も納得したように頷く。
「そうだな、をゆっくり休ませてやる方がいいもんな」
「では、10代目、オレ達は学校に戻りますので」
返事を返す前に、獄寺と山本がの部屋から出て行くためにドアへと向かう。
「あっ!二人とも、有難う」
そんな二人に慌ててが声を掛けて、お礼の言葉を口に出す。
「気にすんなって!友達を心配するのは当たり前なのな」
「お前の為じゃねぇよ!10代目にこれ以上心配掛けるんじゃねぇぞ!」
それに対して山本と獄寺がそれぞれらしい言葉を返して、部屋から出て行くのにオレは慌ててその後を追った。
「は、ちゃんと寝ててね!」
「うん、二人を見送ってあげてね」
しっかりとに釘を刺すことも忘れないけど
返ってきたそれに、頷いて返して玄関に向かっている二人の後を追う。
「二人とも、来てくれて有難う」
ドアを出て直ぐに二人は立っていて、それに素直に礼の言葉を口にする。
こんなにも素直に感謝の気持ちを家族以外に向けたのは、どれぐらい振りだろう。
「おう、それはもう聞いたのな」
「おい!10代目の有難いお言葉に、何てこと言ってやがるんだ!」
「鞄は、おばさんに預けてるから、後で貰ってくれよ」
「分かった」
感謝の言葉を口に出したオレに、山本は笑って返しその返答に対して獄寺が文句を言うのは、何時もの事。
だけど山本は、獄寺の文句は完全無視で、オレにしっかりと鞄の所在を教えてくれた。
そう言えば、二人ともの部屋に入って来た時、手に何も持ってなかったのを思い出す。
荷物を持って来たって、言ってたのにも関わらずだ。
「一応、あいつに見舞いの品、買ってきたんで渡しといてください」
「アイスだから、冷蔵庫に入れてもらってるのな」
「ああ、熱が出てるから、かなり有難いかも」
「だと思った。オレも腕を折った時に、熱出たからさ」
ああ、言われてみれば。確かに山本も腕を折った事があったんだっけ?
言われるまで、すっかり忘れてたよ。
「オレ等は、戻ったら、の容態の質問攻め覚悟しねぇとだな」
ちょっとだけこれからの事を考えたのか、珍しくイヤそうに呟かれた山本のその言葉に思わず苦笑をこぼしてしまう。
それが、簡単に想像できてしまったから
「ああ、大変だろうけど、宜しく。後、オレは暫くの面倒を見ることになってるから、クラスには顔は出さない」
「まぁ、そうなると思ってたぜ。でも、良くあのヒバリが許可したのな」
労うように言ってから、更に今後の事を報告して置く。
じゃないと、獄寺が煩そうだから
予想通りオレの言葉に、獄寺が情けなく『10代目〜っ!!』と言っているのは完全無視で、感心したように言われた山本の言葉にただ小さくため息をついた。
「……不本意な交渉にはなったけどね……」
「何があったかまでは聞かねぇけど、できる事があったら何時でも声掛けてくれよな」
「その時は頼むよ。暫くは、に無理させられないしね」
本当なら、ウチから一歩も出さずに縛り付けたいんだけど……
オレの言葉に何かを感じ取ったのか、山本が『気持ちは分かるけど、あんまり無茶な事はするな』と言って、獄寺と共にウチを出て行った。
それを見送って、オレはもう一度ため息をつく。
本当に、閉じ込められたのなら、あんな交渉も必要なかったんだけどね。
「ツっくん」
玄関で二人を見送ったままの状態でため息をついた瞬間、後ろから声を掛けられて振り返る。
「何、母さん?」
「ちゃん、汗を掻くだろうから、スポーツドリンクを買ってきた方がいいかしら?」
「そうだね、買い物に行くなら、買ってきてくれる?」
「分かったわ」
オレの質問に質問で返してきた母さんに返事を返せば、頷いてキッチンへと戻っていく。
その姿を見送って、オレもが居る部屋へと戻った。
一応、小さくノックをして返事も聞かずに部屋へと入る。
中に入れば、ベッドの上でが大人しく横になって居る姿があった。
それにホッとして静かに近付けば、寝息が聞えてくる。
どうやら、オレを待つ間に眠ってしまったらしい。
まぁ、熱も出てるし、賑やかだったあの騒ぎで更に疲れてしまったのだろう。
「山本達は、帰ったのか?」
安心した顔で眠っているに、微笑んだ瞬間聞こえて来た声に幸せな気分が逃げ出してしまった。
「ああ、流石に熱出してるにこれ以上の負担は掛けたくないからね」
そう言えば、ヒバリさんが来た時には部屋に居たのに、山本達が来た時には、その姿がなかったな、何処行ってたんだ、こいつ。
「シャマルから解熱剤を貰ってきてやったんだぞ」
心の中で疑問に思った瞬間、手に持っていたそれをオレに見せながら説明するリボーンに、思わず納得してしまう。
本当に、の事を大切にしていると分かる瞬間だ。
皆が、君の事を心配している。
だから、早く良くなって欲しい。
でも、暫くはずっと一緒に居られるのなら、怪我をしてもらうのも偶にはいいのかもしれないね。
なんて、そんな不謹慎な事を考えたのは、内緒。
これからの事を考えながら、オレは眠っているの額にあるタオルを取ってそっとそこにキスをした。
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