「うわぁぁぁぁ!!」

 自分の驚きの声で、目が覚めた。

 何て、最悪な目覚めなんだろう。
 夢見が悪かったと言うのは、こういう事を言うんだろうか?

!何があったの?!」

 頭を抱え込んだ瞬間、バンっと言う派手な音をさせて部屋の扉が開かれる。

「えっ?ツナ??」

 乱入者は言わずと知れた俺の双子の兄である、沢田綱吉その人。
 俺が悲鳴を上げたのは認めるけど、1分も経たずに部屋に飛び込んでくるって、どれだけ凄いんですか?!

「何があったの?また、リボーンが何かした………………?」

 飛び込んで来た兄の姿に驚いている俺に、ツナがベッドの直ぐ傍まで来て心配そうに質問してくる、だけどその視線がある一定の場所に向けられたまま固まって、恐る恐ると言う様子で名前が呼ばれた。
 それは、明らかに驚いているというような様子。

「どうかしたの、ツナ?」

 信じられないモノを見るような目付きで、自分を見詰めてくる相手に意味が分からず首を傾げて名前を呼ぶ。
 何をそんなに驚いてるんだろう?

、か、体に違和感とかないの?」

「違和感?別に、何もないけど……何か、変?」

 分からないと言うように首を傾げた俺に、ツナが心配そうに質問してくる。
 質問された内容が不思議だったけど、何も感じないので素直に返事を返して逆に質問で返した。

 どう見ても、ツナから見たら俺がどっか変ってことなんだろうと思ったから


、自分の胸を触ってみて……」
「胸?何で?」
「いいから!」

 俺の質問に、ツナが変な事を言う。
 それに対して意味が分からなかったから質問したら、ちょっと焦ったような声が返された。

 不思議に思いながらも、言われたように胸に触ってみる。
 触れた瞬間、フニュっとした感触……それは、今まで自分の体では感じた事のないモノ。
 平らだったはずの胸に、明らかに違和感が……

「な、何で?!」

 信じられない自体に、声を上げる。

 だって、どう考えても今の俺には男にはない胸の膨らみが確かに2つ……。
 そんなに大きくないけど、間違いなく主張するそれはパジャマ代わりに着ているシャツの上からでも分かるほどの膨らみ。

「と、兎に角落ち着いて!またリボーンの所為だろうから……」
「ちげーぞ。オレは今回は何も知らねぇからな」

 パニックになる俺をツナが慰めるように声を掛けてくるけど、その声に続いて聞えて来た声がそれを否定する。

「リボーン!俺、何で、こんな事になってるの?!」
「それはオレにも分からねぇぞ。それよりも、先の悲鳴はなんだったんだ?」

 その声に縋るように質問すれば、逆に聞き返された。
 それは、自分の声で目が覚めたあの事を言っているんだと分かるけど、悲鳴ってそんなに酷い声だったのかな?

「えっと、悲鳴って……夢見が悪くて……」

 質問された事に、困惑しながらも答える。
 ただ、夢見が悪かったと言うのは何となく分かってるんだけど、夢の内容は目が覚めた瞬間に忘れてしまったので分からない。

「夢、どんな?」

 そんな俺に、ツナが心配そうに質問してくる。
 それに対して、俺は困ったような表情を見せた。

 だって、本気で覚えてないから、ただ、夢の中に誰かが出てきたような気がするんだけど、誰だったんだろう?

「ご、ごめん。それが、起きた瞬間に忘れちゃって……ただ、誰かが出てきた夢だったんだけど……すっごく嫌な夢……だったと思う…夢見が悪かったって思えるから……」

 必死で夢を思い出そうとするけど、まるで思い出せない。
 俺、何で悲鳴上げちゃったんだろう??

「いいんじゃねぇのか?今日は学校も休みだからな。ママンはお前がその姿の方が喜びそうだぞ」

 思わず首を傾げた俺に、リボーンがあっさりと信じられない事を口にしてくれた。
 いや、確かに母さんは女の子が欲しかったと、ずっと言ってたけど、だからって男が女になって、それをあっさりと受け入れて……くれるだろうな、母さんなら……

「と、とりあえず、目のやり場に困るから、服を替えた方がいいと思うんだけど」
「目のやり場?」

 思わず納得してしまった自分が悲しくなっていれば、ツナが少しだけ顔を赤くして着替えるように促してくる。
 でも、その意味が分からなくて、思わず質問するように首を傾げた。

、そのTシャツ透けてるから……」

 そうすれば、視線を逸らしてツナが答えてくれる。

 た、確かに今日の俺のパジャマ代わりにしているTシャツは薄めで胸が透けてるように思うのは気の所為じゃない。
 まぁ、その所為でツナが俺に胸がある事が分かったんだから……

「ご、ごめん……直ぐに着替えるから!」

 確かにこれじゃ、目のやり場に困るよね。
 俺としては、自分の体を見られても問題ないんだけど、やっぱり男と女じゃ変わってくるよなぁ……でも、ツナが顔を赤くするとは思わなかったんだけど

 着替えると言った俺に、ツナが慌てて部屋から出て行く。
 その時に、リボーンも一緒に連れて行ってくれたんだけど、別にそんなに気にしなでいいのに……

 でも困った事に、服は何を着ればいいんだろう。
 薄い服はまずダメだよね?

 えっと、出来るだけ厚めの服で、膨らみが分からないような服って、何かあるかなぁ?

 ゴソゴソと箪笥の中から服を探す。
 出来るだけ厚めで、膨らみが分からないような服……えっと、シャツの上にベストでも着れば大丈夫かな?

 とりあえずそこまで考えて、服を取り出しTシャツを脱いで着替える。
 薄いグリーンのシャツに深緑色のベストを着て、膝までのジーパンを穿く。
 鏡の前で、可笑しくないかの確認をして

「うん、大丈夫かな?」

 大丈夫そうなので、ホッとして部屋から出る。



 そうすれば、直ぐにツナが声を掛けてきた。
 どうやら、部屋の外で俺が着替えるのを待っててくれたみたいだ。

「お待たせ。大丈夫かな?」
「うん、大丈夫だけど……やっぱり、違和感は拭えないかも」

 そんなツナに可笑しくないか質問すれば、困ったように綱吉が答えてくれる。

 うん、やっぱり違和感あるよね。
 だってね、服を着替えてて気付いたんだけど、何か胴回りがちょっと細くなってるように思うんだよね。
 やっぱり、男と女のつくりって違うんだと改めて実感した気分です。

「でも、他に服ないし……」
ちゃん!女の子になっちゃったって本当!」

 どうしようかと思って、口を開きかけた俺のその言葉を遮ったのは母さんの嬉しそうな驚きの声。
 えっと、何で母さんがその事を知ってるのか、とっても疑問なんですが……

「戻っちゃう前に、おしゃれしましょう!!」

 複雑な気持ちを拭えない俺には全く気付く事無く、キラキラとした瞳が、真っ直ぐに見詰めてくる。


 いや、あの、おしゃれって何ですか、お母様?!


「えっ、いや、あのね、母さん……」
「だって、何時戻るか分からないんでしょう?!」

 確かに、何時戻るか分からないけど、だからって何でおしゃれしないといけないんですか?!
 俺は、部屋に閉じ篭っていたいぐらいなのに!!


ちゃんを着飾れるなんて、嬉しいわ」

 ニコニコと嬉しそうな母さんを前に、何も言えなくなる。


 いやだって、そんな顔されたら、断れないから!!


「ツっくんも、ちゃんとデートしたいでしょう?」

 母さんの嬉しそうな顔に、諦めの心境になった俺の耳に母さんがツナに質問する声が聞こえてきた。
 その質問に、俺はチラリとツナを見る。

「そうだね。オレは男でも女でもなら何時でもデートしたいかな」

 俺がツナを見れば、ツナも俺を見詰めてきて言われた言葉は、何ていうか甘い言葉。


 いや、そう言ってくれるのは嬉しいんだけど、俺とツナって兄弟だからデートって言うのは違うような気がするんだけど
 それとも今は兄弟で出掛ける時も、デートって言う単語を使うんだろうか?


「ふふ、それじゃちゃん、準備しちゃいましょう」

 ツナの言葉を聞いて、満足そうに母さんが笑って腕を引かれる。

 もうヤル気十分そうですね、お母様……。
 俺、どんな格好させられるんだろう。

「それじゃ、ツっくん楽しみにしててね」

 ニコニコしながらツナに手を振って、母さんは俺を自分の部屋へと強制連行する。


 俺、何で女なんかになってるんだろう。

 今すぐに戻りたいと思っても仕方ないよね……原因も分かってないから、無理だろうけど……
 この状況に対して、俺は深い深いため息をついてしまったのは、許されるだろうか?








 な、何とかスカートは免れました。
 いや、本気でスカートだけは許してもらったんだけど、母さんはちょっと不満そうだ。

「本当は、ブラを着けた方がいいんだけど……」
「それも、勘弁してください」

 さらに言われたその言葉に、泣きたくなる。

 何が悲しくて、そんな格好をしなくちゃいけないんでしょうか。
 大体原因が分からないから、誰を恨めばいいのかさえ分からないんだけど

「夏だから、キャミソールの重ね着で誤魔化したんだけど」
「うん、多分大丈夫だと思う……一番下に着てるのって、パット入ってるから……」

 確かに、4枚ぐらい服を重ね着している。
 一番下に着ている服にはパッドが付いてるから、何とか胸をカバーしてくれてるんだけど、何でこんなに一杯服を着てるんだろう、俺。

「本当は、スカート着てもらいたかったのに……」
「いや、マジでそれは許して……それじゃなくても、女になっちゃってかなり混乱してるから」

 自分の格好に遠い目をしていると、母さんが残念そうに呟く声が聞こえてきて、それに必死で許しを貰う。


 何で、混乱している息子に追い討ちを掛けようとするんですが、お母様!


「残念だけど、これ以上ちゃんを虐めちゃうとツっくんに怒られちゃうわね。それに、待たせ過ぎても、機嫌が悪くなっちゃいそうだわ」

 確かに、着替えるって言ってこの部屋に着てから既に30分以上過ぎている。
 ツナはそんな事で怒らないと思うけど、待たせ過ぎるのは申し訳ない。

 でも、本当に外に出掛けるつもりなのかな、ツナ?

「お待たせ、ツっくん!」

 疑問に思って首を傾げている俺には全く気付かずに、母さんが勢いよく部屋のドアを開ける。
 開いた先の壁に背を預けた状態でツナが待っていたのには、ちょっと驚いたんだけど

「ツナ、そこでずっと待ってたの?」
「まさか、そろそろ出てくるだろうと思って、移動してきたんだよ」

 母さんの声に顔を上げたツナが笑みを浮かべて俺の方を見てくるのに、疑問に思った事を質問したらあっさりと返された。

 確かに、30分以上もこんな所で待つなんて事は、流石にしないよね。

「ツっくん、どうかしら?」

 そんな俺達の遣り取りが終ったから、母さんが誇らしげに俺の腕を取ってツナに見せるように前へと突き出される。

「うん、似合ってる。流石、母さんだね。でも、メガネはいらないかな?」
「そうよね。メガネはいらわいわよね。って、ことだから、ちゃんメガネ外しましょう」
「いやいや、理由が分からないから!」

 母さんに質問されたツナが満足そうに言うその言葉と、最後に質問するように言われたそれに母さんが、頷いて俺のメガネに手を伸ばす。
 だけど言われたその内容の意味が分からないと俺が拒否すると、不機嫌そうに母さんが頬を膨らました。

「そんな顔してもダメだから!メガネはそのままでいいの!!」

 そんな母さんにしっかりと言えば、盛大なため息をつかれてしまう。

「それじゃ、これはオレが預かるから、一緒に出掛けようか」
「えっ?」

 母さんに文句を言っていた俺は、後ろから近付いてきたツナに気付かなくってそのままメガネを外されてしまった。

 突然の事に驚いて振り返れば、嬉しそうなツナの笑顔が目の前に……

「ツナ、メガネ返して!」
「大丈夫、大丈夫。母さん、オレとはそのまま出掛けるから」
「分かってるわ。気を付けて、いってらっしゃい」

 ツナの手に取られたメガネを返してもらおうと手を伸ばしたら、あっさりと避けられて、逆にその手を取られてしまう。
 それから、母さんに声を掛けてツナが俺の手を掴んだまま玄関へとゆっくりとした足取りで歩き出した。

「ツ、ツナ、メガネ」
「うん、今日はオレが預かっておくから」
「じゃなくって!」

 言って、ツナは着ているシャツのポケットにメガネを入れてしまう。

「あっ!ちゃんの靴は、これでいいわよね?」

 そんなツナに文句を言おうとしたら、母さんが慌てて後ろから追かけて来た。
 そして渡されたのは、可愛いサンダル。

「って、これ踵ちょっと高くない?」

 ちょっと踵の高めなそのサンダルに、俺が思わず焦ってしまう。

「大丈夫よ。こけそうになったら、ツっくんが助けてくれるわよ」
「そりゃ、助けるけど、の足に負担が掛かるんじゃないの?」
「……そうねぇ、でもツっくんなら、ちゃんに負担なく行けるわよね?」

 それにあっさりと母さんが返してきて、逆に心配そうにツナが言えば、ニコニコと嬉しそうな笑顔で母さんが問い掛けるように言う。


 いや、何て言うか、やっぱり母さん最強のように思うんだけど

 大体良く考えたら、何で俺はで掛ける事になってるんだ。
 出来れば、家でのんびりしていたいんだけど

「分かった。それじゃ、には美味しいケーキが食べられる喫茶店に連れて行ってあげるから」

 やはり出掛けるのはキャンセルしようと口を開きかけた俺に、ツナがあっさりとその考えを覆す事を言ってくれた。


 俺、ケーキ好きだし、仕方ないじゃん!


「行く!」

 だから、俺が返す事が出来たのは、力一杯返事をする事だけだった。
 それに対して、母さんとツナが笑っているのが分かるけど、そんな事気にしていられない。

「いってらっしゃい」

 母さんに見送られながら、家を出てきたけど、もう既に後悔していたり
 母さん、やっぱりこのサンダル無理があると思うんですが!!

「ツ、ツナ……」
「ああ、大丈夫、?オレの腕に摑まっていいよ」
「うん」

 踵の高いサンダルは、やっぱりと言うか俺にはかなり辛くて、ツナに助けを求めるように名前を呼べば納得してくれたのかツナが腕に摑まる許可をくれる。
 許可を貰ったので、俺はツナの腕に両腕で抱き付いてバランスを取った。

「……あ〜っ、こうなるまで忘れてた…今のって、女の子だったんだよね……」
「へっ?」

 何とかツナの腕に抱き付いた状態で不安定ながらも歩けるようになった自分に対して、ツナが何処か困ったような表情を見せてポツリと呟く。
 忘れていた事を思い出したように言われたその内容に、俺は意味が分からずに思わず聞き返すように首を傾げた。

「…胸がね、腕に当たるんだけど……」

 言われた瞬間に思い出す。
 確かに、今の俺の性別は女だった事を

 でも、別段胸が当たっても相手はツナだから気にならないんだけど、俺は……
 やっぱりツナもお年頃だから、胸が当たると恥かしいとか……あ、あんまり想像できないんだけど

「えっと、離れようか?」

 自分で考えた事を否定して、でも困っているようなツナに質問する。
 出来れば俺はツナの腕は離したくないんだけど、だって、こける自信が確実にあるから!

「大丈夫。いやな訳じゃないからね。それに今は手を離すとそのままこけちゃいそうだから」

 うん、その通りです。

 質問した俺に、苦笑交じりにツナが返事を返してくれる。
 それに、心の中で大きく頷いて返す。


 全部、こんなサンダルを俺に履かせた母さんが悪いんだから!


「有難う、ツナ」

 心の中で母さんに文句言いながら、摑まる事を許してくれたツナに笑顔でお礼を言う。

「……本当、無自覚でそんな顔するから性質が悪いんだよね、は……」
「何?何言った?」

 そんな俺に対して、ツナが何か言ったように思うので質問する。
 流石に何を言ったのか聞えなかったから

「何でもない。朝ご飯食べてないから、どうしようかなって思ってただけだよ」
「そう言えば、朝ご飯抜きだった……でも、ケーキ食べに行くんだよね?」

 質問した俺に、ツナが口を開いた内容に思わず首を傾げてしまう。

 だって、ケーキ食べる為に出てきたんだよね?
 なのに、何で朝ご飯の心配してるんだろう。

「まぁ、そうだね……でもケーキは3時のおやつでいいかな?」
「えっ?!それじゃ、それまでどうするの?」

 分からないと言うように質問した俺に、ツナが苦笑を零して逆に質問してくる。
 その内容に驚いて、やっぱり俺も聞き返してしまった。

 だって、3時って、かなり時間あるんだけど……

 今日は、俺が夢見が悪くて早起きだったから、まだ今の時間は10時を過ぎたところ……(早くないって言わないで、これでも休みの日の俺としては、かなり早い方だから!)


「そうだね、がこうなった理由も分かってないから、あんまり動き回るのはどうかと思うし……とりあえず何処かでモーニングでも食べながら考えようか」


 言うが早いか、もうその足は既に目的の場所へ向かって歩き出している。
 勿論、俺の歩く速度に合わせてくれるのが、ツナらしい。


 移動した先は、並盛商店街。
 この中にある喫茶店は安いし味も良くて、決行人気の店があるのだ。
 勿論ケーキ屋さんで有名なのは、ラ・ナミモリーヌで、女の子には大人気。

「いらっしゃいませ」

 感じのいい店内に足を踏み入れれば、元気な声が出迎えてくれる。
 俺は、ツナの腕に抱き付いたまま店の中に入ったから、ちょっと恥かしいんだけど

 窓際の席に案内してくれて、俺をまず座らせてからツナが向かいの席に座った。

 俺はモーニングセットBを頼んで、ツナはAを頼む。
 ちなみにBのメニューはサンドイッチにサラダとスープ、それと果物とヨーグルト。
 Aのメニューは、トーストに目玉焼き、サラダとスープ、同じく果物とヨーグルトになっている。
 俺はミルクティで、ツナはコーヒー。

 これも、何時もの通りかな?

「足、大丈夫?」

 注文した商品を繰り返してから店員の人が離れて行った瞬間、ツナが心配そうな声で質問してくる。

「うん、ツナが支えてくれてるから、大丈夫だよ」

 心配そうな顔を見せているツナに、ニッコリと笑顔で返事を返せば、何処かホッとした表情になった。
 その瞬間、携帯の着信音が鳴る。
 珍しく鳴り出した俺の携帯に、ビクリと大きく肩が震えた。
 でも、相手を待たせる訳には行かないので、慌てて携帯を手に持つ。

「もしもし?」

 携帯の画面には、非通知の文字。
 一瞬出る事に躊躇ったけど、意を決して通話ボタンを押す。

『クフフフフ、どうです、楽しんでいただいていますか?』
「はい?」

 警戒しながら電話に出れば、独特な笑い声と共に意味不明な言葉が聞えてきた。
 それに思わず聞き返してしまうのは、仕方ないと思う。
 だって、何を楽しんでいるって言うのか、全く理解できない。

?」

 訝しげな表情をした俺に、ツナが警戒したように名前を呼ぶ。

『おや、夢の内容は覚えていないようですね』


 夢?


 分からないと言うような俺に、電話の相手が楽しそうに笑いながら口を開いたそれに、疑問が浮かぶ。
 俺が今朝見た夢、それは、夢見が悪いものだったとしか言えなくて……それには、誰かが出てきたと……

「夢に出てきた相手!」
!電話替わって!!」

 思い出した内容に、俺が口を開いた瞬間持っていた携帯がツナに奪われる。

「お前が、に変な術を仕掛けたのか?」

 俺から携帯を奪ったツナが、声を低くして相手へと問い掛けた。
 勿論、俺には相手の声が聞こえてない。

 それにしても、電話の相手って一体誰なんだろう。
 聞いた事がある声なんだけど、誰だったかが思い出せない。

「………数時間で元に戻るんだな。後遺症があるようなら、許さない」

 何を話しているのかが気になるので、ジッとツナを見ていれば、俺のこの姿は数時間で元に戻るのだという事が分かってホッとする。

「……………分かった。
「んっ?」

 その後、後遺症がどうとか話していたんだけど、後遺症あったらどうしよう。
 って、心配してたら、ツナが携帯電話を差し出してきた。

「替われって」

 それに意味が分からなくて首を傾げれば、ツナが相手の言葉を口にして漸くその意図を理解する。

「もしもし?」
『夢の事は覚えてないみたいですから、お久し振りですね、沢田くん』
「えっと、骸?」

 相手が誰だか分かていない俺は、恐る恐る電話の相手へと声を掛ければ、フルネームで名前を呼ばれた。
 その声に、相手が誰だか漸く理解する。

『クフフ、覚えていてくださったようですね。今貴方が女性になっているのは、僕のちょっとした意地悪です』
「はぁ?」


 ちょっと待って、意味が分からないから!
 なんで、ちょっとした意地悪で俺、女の子になってるの?!
 その前に、意地悪で性別変えられるって、どんなに凄いんですか?!!


『僕が貴方にした事は、ただの幻術ですから、4〜5時間で解けますよ』

 内心かなりの突込みを入れていた俺に気付く事もなく、あっさりとどう言う仕組みなのか説明してくれる骸さん。

 いや、何で幻術でそんな事出来るんですか?!
 その前に、俺を女にしてなにか楽しい事が……

「あのさぁ、意地悪なのは分かったんだけど、何で俺が女に……」
『勿論、それが貴方には一番効果が高いと思ったからです。予想通り、かなり動揺してるみたいですからね』

 確かに動揺してるんだけど、別に今更女になっても、何時も女の子に間違われているから、大差ないというか何と言うか……


 考えてて、悲しくなってきたんだけど


「まぁ、いいよ。数時間で元に戻るなら、怒っても仕方ないしね」
『……………そんな、貴方だから、意地悪したくなるんですよ』

 諦めたように盛大なため息をついて、頷けば骸がポツリと口を開く。

 えっと、何で俺がこんなだと意地悪したくなるんだろう?

「骸?」
『………でも、意地悪は程ほどにしておきましょう、ボンゴレに殺されてしまいそうですからね』

 意味が分からないと言うように相手の名前を呼べば、またとんでもない言葉が返されてしまう。


 た、確かに否定できないかも……
 今も、目の前のツナは不機嫌そうにこっちを見ている。


「まぁ、でもこうして理由を教えてもらえて安心した。有難う」
『…まったく、貴方には敵いませんね……そこでお礼を言うのは、貴方ぐらいですよ』

 でも、原因が分かってホッとしたから、俺は素直にそれを言葉にすれば、呆れたように骸が返してくる。
 でもなぁ、本気で理由が分かって安心できたから、感謝の言葉を口にしたのに……

「そうかなぁ?でも、本当に有難いと思ったからお礼言ったんだけど」

 呆れたような骸のそれに、再度当然だと言うように返事を返せば、電話の向こうで息を呑む音が聞こえた。
 そんなに驚くようなこと言った覚えはないんだけど、俺。

「骸?」
『……女性になっている貴方を見れなくて残念です……今度は、僕の前で見せてくださいね』
「いや、ちょっと遠慮したいんだけど……」

 どんな辛らつな言葉が返されるのだろうかと心配して名前を呼べば、以外にも普通に嫌味のような言葉が返されて、速攻で拒否する。
 それに、何時もの笑い声が聞えてきて電話が切られてしまった。

 切られたそれに、ホーッとため息をつく。
 何ていうか、あの事件以来久し振りに聞いた声は、元気そうでちょっとだけ安心した。

、何でそこでお礼言ってるの?」

 安心した瞬間、ヒンヤリとした声が質問を投げ掛けてくる。


 わ、忘れてた、目の前にツナが居るのに俺、何時も通りに話してたんだけど……

 いや、骸と携帯で話をしたのは初めてだけどね。
 あれ?そう言えば、何で骸は俺の携帯の番号知ってるんだろう?

?」

「えっ、あの、ごめんなさい!あっ!注文した料理運ばれてきたみたい!!」

 内心で疑問に思っていたら、ツナの質問に答えられなくて、再度ツナが俺の名前を呼ぶ。
 それに、素直に謝って、店員さんが料理を手に此方に歩いてくるのに気付いて話を誤魔化した。

「お待たせいたしました、モーニングセットAとBになります」

 俺の言葉にツナが諦めた様にため息をついた瞬間、テーブルに運ばれてきた料理が並んだ。
 それにホッとしながら、朝ご飯を食べ始める。

 その間も、ツナは不機嫌そうだったけど、食べている間は流石にその話をしないみたいだ。

 うん、そう言う配慮をしてくれるツナは、スキ。

 ただ、食べ終わったら、説明させられるんだろうなぁ……それと、説教が待っていることなんて分かりきっている。

 まぁでも、俺としては、本当に理由が分かってかなり安心したので、気が楽になったのが本音だ。
 だって、流石に原因が分からないと、不安だったから
 もしかしたら、一生戻らないかもしれないと言う不安。
 それが解消出来たから、本当に有難うって感謝した。
 ちゃんとした理由だと思うんだけどね、俺は

「お前等、人を無視して出掛けてやがるんだ?」
「リボーン!」

 モーニングを食べ終わって、食後の紅茶を飲んでいたら、不機嫌そうな声が聞こえてきて驚いてその名前を呼ぶ。
 そう言えば、俺が服を着替えてから姿が見えなかったんだけど

「どうして、ここに?」
「ママンに聞いたら、多分ここだと教えてくれたぞ」

 ちょこんと俺の隣に座ったリボーンに疑問に思った事を質問すれば、あっさりと理由を教えてくれた。

「母さん、余計な事を……」

 その言葉を聞いて、ボソリとツナが言った言葉は軽くスルーの方向で

「それで、どうしたの?」
「オレなりに、お前がこうなった理由を調べていたんだぞ」

 多分ここに来たって事は、何か用事があるのだろうと思って再度質問。
 そうすれば、リボーンが小さくため息をついて口を開いた。

「有難う、リボーン。でも、先、原因の元から連絡があったから、大丈夫だよ」

 言い難そうにしているリボーンに気付いて、俺は、先ほど骸に言った言葉をリボーンに言って原因が分かっている事を知らせる。

「……そうか……なら、オレの用事はねぇぞ。ツナ、しっかりとダメをエスコートしてやるんだな」
「お前に言われてなくても、ちゃんとするに決まってるんだろう!」

 俺が言った言葉で、リボーンが帽子で顔を隠すように下を向き、ピョンと椅子から飛び下りてツナに声を掛けた。
 言われた内容に、ツナがしっかりと返事を返せば、リボーンは満足そうな表情を浮かべて店から出て行ってしまう。

「態々調べて、教えに来てくれたのなら、コーヒーぐらい飲んでいっても良かったのに……」

 何も注文せずに出て行ってしまったりボーンに、ちょっとだけ文句を言えば、ツナが呆れたような視線を向けてきた。

「何?」
「……何でもないよ……やっぱり、だなぁと、思ってところ」

 その視線に気付いて首を傾げたら、ツナはコーヒーを飲みながら訳の分からない事言う。
 それにさらに?マークを浮かべている俺に気付いているだろうに、ツナは何も言わない。

 まぁ、気にしても仕方ないみたいだから、気にしないようにしよう。




 その後、結局映画を見る事になって、適当な映画を選んで見た。

 うん、何て言うか動物映画って、何であんなに泣けちゃうんだろう……。
 グスグスと泣いている俺を、ツナが慰めてくれて、ちょうどいい時間になったからと喫茶店でケーキを食べた。

 ツナが美味しいって言ってただけあって、本当に美味しかった。
 でも、誰にこの場所教えてもらったんだろう?


 それから、家に帰る頃には俺の体は元に戻っていて、骸の言葉を信じてなかった訳じゃないんだけど、本当に安心した。

 でも、男に戻ってしまった俺に、母さんが悲しんでしまったのは、何ていうか複雑なんだけど
 そ、そんなに女の子の方が良かったんだろうか……いや、いつもそう言っていたのは、知ってるんだけどね。

 そんなこんなで、朝起きた時は最悪だったんだけど、何とか楽しい時間が過ごせたので良しとしよう。

 でも、骸は何で、こんな意地悪をしたんだろう?
 それだけが、謎なままだったんだけど

 ツナは、骸とどんな話をしたのかなぁ?
 もしかしたら、何か話を聞いているのかもしれないけど、きっと聞いても教えてくれないだろう。

 そんな事を思いながら、眠りについた先で、その人物が待っていたのは言うまでもない。
 勿論、俺に意地悪が出来て、嬉しそうだったのだけは、否定できないんだけど……