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昨日久し振りに、と一緒に寝た。
理由は簡単、リボーンから怖い話しを聞かされたとかで、一人で寝るのが怖いから一緒に寝て欲しいと言う事。
が怖い話を大の苦手としている事を知っているのにも拘らず、そんな話をしたリボーンにこっそりと感謝した方がいいのだろうか?
ボンヤリと意識が覚醒されていくのを感じて、そのままゆっくりと瞳を開く。
開いた瞬間、思考が停止してしまう。
目を開けた先に、自分が寝ている姿が見えた。
驚いて飛び起きた瞬間、右足に激痛を感じて顔を顰めてしまう。
そのお陰で寝ぼけていた頭が覚醒したが、状況が理解できない。
なんで、オレの目の前でオレが寝ているのか……そして、この激痛の理由も
「んっ?ツナ??」
痛みに耐えていると、隣で寝ていたオレが目を覚ます。
まだ寝ぼけているのだろう、眠そうに目を擦っているその姿は、本当に自分なのかと疑いたくなってしまうぐらいに幼く見えた。
だが、そのお陰で納得する事が出来る。
多分、目の前のオレは、と言う事になるのだが……
「ツナ!って、俺がもう一人?」
右足を擦るようにしているオレに気付いて、飛び起きたオレが意味が分からないと言うように首を傾げる。
でも、その言葉で確信出来た。
やっぱり目の前のオレの中身は、間違いなくだという事を
「とりあえず落ち着いて、多分、オレとの中身が入れ替わってるんだと思うんだけど……」
そこまでは分かるのだが、流石にその理由までは分からない。
「って、なんでそんなに落ち着いてるの?!」
軽いパニックを起こしていると分かるを宥めるように口を開けば、更に驚いたように突込みが入る。
いや、慌てても何の解決にもならないからなんだけどね。
まぁ、が慌てるからオレは逆に落ち着いてられるとも言うんだけど
「なんでって、こうなった原因なんて、あいつ以外には考えられないからね」
「あいつ?」
そして、何よりもこんな日常ではあり得ない事が起こりうる理由なんて、あいつ以外が原因だとは考えられない。
だけど、オレの言葉に意味が分からないと言うようにが聞き返すようにそれを繰り返す。
「そう、あいつだよ。あの偽赤ん坊」
不思議そうな表情をするオレの姿のに、原因である相手を教えてあげる。
そいつ以外には、考えられないから
「偽赤ん坊じゃねぇぞ、れっきとした赤ん坊だ。それにしても、良く分かったな」
オレがそういった瞬間、聞えて来たその声。
何がれっきとした赤ん坊なんだか……偽者としか言えないだろうが!
しかも、お前以外にこんな事する奴は、この家には誰一人として居ない。
「分かるに決まってるだろう!大体、昨日に怖い話をしたのも、こうなるように仕向ける為だったんだろうが!!」
「えっ?」
感心したように呟かれたそれに、不機嫌な声で言葉を返せば、意味が分からないと言うようにが首を傾げた。
「流石だな。全部間違いねぇぞ。この弾を試す為にお前とダメが一緒に寝るように仕向けたんだぞ」
オレの言葉に満足そうな表情をしながら見せられたのは、こいつ曰くボンゴレが開発している特殊弾。
二つの銃弾を手にして言われたその言葉から、考えられる答えは一つ。
「その弾を同時に撃たれた人間の中身が入れ替わるとか言うモノか?」
ため息をつきながら質問したオレに対して、またリボーンがニヤリと笑みを浮かべる。
「その通りだぞ。この弾の名前は入れ替わり弾」
「って、なんで平日にそう言う事するわけ!?今日は普通に学校あるんだけど……」
満足そうな表情で説明されたその内容に、が非難の声を上げた。
外見がオレなだけに、違和感がありまくりだけど、そう言う問題じゃないと思うのは、オレだけじゃないはずだ。
「こいつに、何を言っても無駄だよ。どうせ決行したのだって、その方が面白いって理由だろうからね」
そんなに、ため息をつきながら何を言っても無駄だという事を伝える。
いい加減も、こいつの性格は分かっているのだろうオレの言葉を聞いて諦めたようにため息をついた。
「で、もう一回その弾を撃てば、元に戻るの?」
「ちげーぞ、今日一日は、お前らはそのまんまだぞ」
「はぁ?!」
それから、諦めたように早く戻してくれと言うように質問した内容は、あっさりと否定されてしまう。
オレとしても、それは予想外だった為に思わず目を見開いたが、それ以上に驚いたのだろうが、訳が分からないというような声を上げる。
「今日一日、このままって……俺が綱吉で、綱吉が俺ってこと?」
「そうだぞ。お前は綱吉の姿で学校へ行け」
分からないと言うように質問するに対して、あっさりとリボーンが言葉を返す。
「えっ、お前はって、綱吉は?」
だが、その言葉に更に分からないと言うようにが首を傾げてオレを見て来た。
「綱吉は休ませる。お前、足が痛くて動けねぇんだろう」
それに対して返されたのは、質問じゃなく確定の言葉。
気付かれているとは思っていたけど、まさか断定して言われるとは思わなかった。
「えっ!綱吉、大丈夫なの?」
「……大丈夫だよ、慣れない体だからだと思うから……」
だけど、言われた内容にが心配そうに質問してくる。
それに出来るだけ普通を装いながらも、正直言って足の痛みに慣れる事はない。
けどこの痛みは、何時もが感じている痛みなのだと思うと、複雑な表情になる。
は、ずっとこの痛みを当然のモノとして受け入れているのだから
「本当に、大丈夫?」
今にも泣き出すんじゃないかと言うような表情で、が更に質問してくる。
その姿がオレじゃなければ、すごく可愛くって抱き締めたくなるんだろうけど、自分の姿をしているだけに可愛さが半減されているように思うのは気の所為じゃないだろう。
「心配ないよ、大丈夫」
「俺も、学校休む!」
そんなに、何とか笑顔で返事を返せば勢い良く断言される言葉。
一瞬何を言われたのか分からなかったけど、真っ直ぐに見詰めてくるその目が雄弁に語っているだけに、思わず小さくため息をついてしまう。
「は、休む事ないよ。折角オレの体で自由に動けるようになったんだから」
「自由に動くとか動けないとか関係ない。俺の所為でツナが動けないのに、自分だけのうのうとする事なんて出来ないから!」
そんなに、自分の体を自由に使って欲しいと言えば、逆に強い意志で返されてしまった。
確かにの性格を考えれば、オレが動けない状態にあるのに一人だけ楽しむ事など絶対にしないだろう。
そう言うところも、のいいところの一つでもあるんだから
「そうだね。それじゃ、今日は二人で休もうか」
だから、オレが返せたのは、その言葉。
一度言い出したら、は何を言っても聞き入れない。
本当に、頑固だよね。
「うん!俺、母さんに話してくるから!」
オレの言葉にが嬉しそうに笑って、慌てたように部屋から出て行こうとする。
でも、何時もと違って動けるオレの体に戸惑ったのか、スピードになれなくて今にもこけそうになっていて、逆に心配なんだけど
無事に部屋を出て行ったを見送ってから、小さくため息をつく。
「お前が知りたかった事は、これでいいのか?」
その瞬間、今まで黙っていたリボーンが質問を投げ掛けてきた。
主語が何もないその質問に、オレは視線をそちらへと向けリボーンを見る。
「……知りたかったよ、確かに……でも、ここまで酷いとは思っていなかったんだ……」
ずっと、の足の事を知りたいと思っていた。
だけど、所詮自分にはその痛みを想像する事しか出来なくて、がどんな風に感じているのかなんて分かる訳がない。
今、こうして中身だけが入れ替わった状態になって、初めてがどれだけの痛みを感じているのかを実感する事が出来たのだ。
だけどそれは、自分が考えていたよりも、酷い状態だった。
「……それでも、昔より良くなっているらしいぞ」
オレの呟きに、リボーンが複雑な表情を見せてボソリと口を開く。
確かに、オレも何度となくその言葉を聞いてきたのだから、分かっている。
けど、これで良くなっていると言うのなら、昔はどれだけの痛みに耐えていたというのだろうか
「なんではオレなんかを助けたんだろう……オレを助けなければ、こんな痛みを感じて生きる事もなかったのに……」
やるせない気持ちで呟いたオレの言葉に対して、返ってくる声はない。
けど、返事なんて聞かなくても分かっている。
は、オレだから自分を犠牲にしてまで助けてくれたのだという事を
正直言って、自分が考えていたよりも早く動くこの体に戸惑いを隠せない。
普通に歩いても、何時もの痛みを感じない事に違和感を抱く。
でも、これがツナや他の人達にとっては当たり前の事なのだ。
俺の足が欠陥品なだけ
「っと、母さんに学校休む連絡してもらわないと……」
複雑な気持ちになる自分に気付いて、慌てて現実へと引き戻す。
キッチンに居るだろう母さんに話をする為、俺は直ぐ傍にある目的の部屋へと急いだ。
「おはよう、母さん」
「おはよう、ツっくん、今日は遅かった………あら?どうしたのちゃん、ツっくんの格好なんかして」
俺が朝の挨拶と共に声を掛ければ、母さんもにこやかに返事を返してくれたけど、その後に続いたその言葉に驚かされてしまう。
「えっ?!俺が、だって分かるの?!」
「当然分かるわよ。またリボーンくんの悪戯?」
驚いて問い掛ければ、母さんがニコニコと笑顔で質問を返してくる。
確かに、リボーンの悪戯なのは否定しないけど、なんでそこで驚かないですんなりと受け入れられるんですか、お母様!
「うん、悪戯と言うか、実験と言うか…………そんな訳だから、今日は学校を休んでもいいかな?明日には戻るらしいんだ」
「そうねぇ、確かにそれだと不便よね。分かった、母さんが学校に連絡しておくわ」
「うん、有難う、母さん」
お願いするように言った俺の言葉に、母さんが納得して頷いてくれる。
それにホッとして、素直にお礼を言えば、母さんが何処か楽しそうに笑い出す。
「何?」
「ちゃんだと分かってても、見た目がツっくんだから、なんだか可笑しいわね」
笑った母さんに不思議に思って問い掛ければ、あっさりとその理由を教えてくれた。
確かに、見た目は間違いなくツナだから、何時もの自分で振舞うのは違和感があるかもしれない。
俺、本気で一人で学校行かなくて良かったかも、だってツナらしく振舞うなんてそんな器用な真似俺には出来ないもんな。
「それじゃ、学校休むのは連絡しておくけど、朝ご飯はどうする?」
そんな事を考えていた俺に、母さんが質問を投げ掛けてくる。
学校休んでもいいのなら、ゆっくりする時間が出来るので朝ご飯は食べた方がいいだろう。
「食べるけど、ツナが動けないみたいだから、部屋に運んであげてもいいかな?」
でも、動けないツナの事を考えると、一人ここでご飯を食べる訳にもいかないので質問。
そうすれば、母さんがニッコリと笑顔で頷いて、部屋に持っていけるようにと二人分の朝食をトレーに準備してくれた。
「はい、ちゃんも一緒に食べるでしょうから、二人分準備しておいたわよ」
「有難う、母さん」
そんな母さんに、ニッコリと笑顔でお礼の言葉を口にする。
「あらあら、ツっくんもそんな顔するととっても可愛くなるのね」
そんな俺に対して、母さんが何処か感心したように呟いた言葉がすっごく気になるんだけど
えっと、それは中身が俺だとツナもかっこいいじゃなくて、可愛くなると……
そ、そんな事ないと、そう願いたい。
「ふふ、それじゃ学校に連絡してくるわね」
母さんの言葉に複雑な表情をした俺に気付いたのだろう、母さんが楽しそうに笑ってキッチンから出て行った。
「……見た目はツナなのに、直ぐにばれるなんて、やっぱり俺が分かり易いからなのかなぁ……」
思わずため息をついて渡された朝ご飯を持って、自分の部屋に戻る。
その心は、複雑だった。
自分の部屋にノックをするのは変な気分だけど、中に居るのは俺であって俺じゃないツナな訳で、行き成り開けるのはやっぱりダメだよね?
そう思って、小さくノックを数回。
「どーぞ」
そうすれば、中から返事が返ってくる。
返事を貰ったのでドアを開けて中に入れば、ツナは俺が出て行ったときと同じようにベッドの上に座ったままの状態だった。
その手は、右足を擦っている。
……動けない理由は、やっぱり俺の足の所為。
俺にとっては当たり前のその痛みであっても、他の人にとっては普通じゃないという事。
それとも、今日は特別痛みを持っているのだろうか、もしそうだとしたら、ツナに滅茶苦茶迷惑掛けている事になる。
「ツナ、大丈夫?」
「それ、何度も聞いたよ、」
だからそんなツナに、心配してしまうのはどうしても仕方ないと思う。
もう何度も質問したその言葉を再度口に出せば、ツナが苦笑を零しなが突っ込まれてしまった。
「でも、足、痛いんだよね?ゴメン、俺の所為で……」
持っていたトレーを机の上に置いてシュンと落ち込みながら謝罪の言葉を口にする。
俺の所為でツナが痛い思いをしていると考えると、どうしても申し訳ない。
「が謝る事じゃないよ。悪いのは全部リボーンなんだから」
謝罪した俺に、ツナが柔らかな笑みを浮かべて言ってくれるんだけど、だからって簡単に納得出来ない。
でもね、今は全然関係ないんだけど、気になった事が一つ。
中身がツナだと、俺がすっごく大人っぽく見えるという事。
何、やっぱり人間中身なの?!
俺って、そんなにも子供っぽいって事なんだろうか。
ちょっとそれは、かなりショックなんだけど
「?」
ショックを受けていた俺は、ツナに対して反応する事が出来なくて、心配そうな声で名前を呼ばれてしまった。
しまった、ツナに余計な心配を掛けるような事は、全然考えてなかったのに……
「大丈夫!なんか、ちょっとショックで……」
「ショック?何かあったの?!」
心配そうに自分を見詰めてくるツナに慌てて口を開けば、正直にその理由を口に出してしまい、更に心配されてしまう。
って、俺ってば、本当に何やってるんだろう……。
「いや、だからね………正直に言うと、中身が違うだけで、自分がすっごく大人っぽく見えるんだなぁと……その、母さんに言われたんだけど、中身が俺だとツナも可愛いって……ツナは、何時もかっこいいって言われてるのに、中身が俺になったとたん可愛いって言われるのは、やっぱり中身の問題なんだなぁと……」
じっと見詰めてくるツナに、正直に自分が思った事を話す。
本当に、人間中身一つで変われるって、こう言う事を言うんだと身をもって体験した気分です。
「って、ちょっと待って!母さんに可愛いって……オレとが入れ替わってるって?!」
「うん、一発で気付かれた。俺、やっぱり母さんって最強なんじゃないかと思う時があるんだけど……」
何処か遠くを見ている俺に、ツナが驚いたように質問してくる。
それに対してコクリと頷いて返せば、ツナが複雑な表情を見せた。
多分俺のその言葉に賛同してるんだと思うけど、素直に口に出すことが出来ないんじゃないかな。
「そうだった。朝ご飯持ってきたから食べよう」
考え込んでしまったツナに、慌てて持って来たそれを勧める。
折角母さんが作ってくれたのに、冷めちゃったら悲しいもんね。
「……そうだね」
俺の言葉にツナも頷いてくれて、二人で仲良く朝ご飯を食べる。
それから、今日一日はのんびりと俺の部屋で二人仲良く過ごした。
動けないツナをしっかりサポートできたと思うんだけど、そう思うのは俺だけだろうか?
次の日に目を覚ましたら、自分に戻っていて本気で安心した。
足の痛みはもう慣れているから、気にならなかったのに、たった一日離れていただけで、こんなにも違うもんなんだろうか?
でも、よく考えたらツナは、この痛みを俺が何時も感じている事を知ってしまったんだよね。
勿論、昨日は体調が悪かったと言う言い訳なんて聞いてもらえるはずもなく、ますますツナが過保護になってしまったのは仕方ないと諦める事しか出来ないのだろうか?
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