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突然の事に思わず咳き込んでしまうのは止められない。
もう慣れてしまったとは言い辛いけど、何度かあじわった事のある衝撃を受けたのは、やっぱり偶然だったのだろうと思う。
でも、それは一人だけではなく、俺ともう一人が一緒に飛ばされてしまった事から、何時もの5分だけの入れ替わりのはずが良く分からない世界へと飛ばされてしまった原因なんじゃないだろうか?
「こ、ここ、やっぱり未来?」
キョロキョロと辺りを見回してみると、前に来た事のある未来とは明らかに異なった場所のような気がするんだけど……
何処かの研究所?
そう思わずには居られないほどの機械に囲まれた場所。
そして目の前にあるのは……
「銀の月?」
「銀の月なんて、面白い事を言うんだね。これは、装置だ」
丸い大きなその機械の中には、大切なものが入っているのだと何となく分かる。
でも、それが何か分からなくて、そっと呟いた俺の言葉に誰かの声が返された。
その声に驚いて振り返れば、白い服を着た人が……
「装置?でも、この中には!」
「君には分かるの、この中に入っているものが!?」
俺の言葉に少し驚いたように瞳を見開き、見詰めてくる。
「何が入っているのかは、分からないけど……大切な何かが入っているように思える……あの、ここは何処ですか?」
驚いて質問されたその言葉に、小さく首を振って返し逆に質問してしまう。
だって、俺にはさっぱり状況が分からないから
それに、ここに一緒に来たはずの相手も探さなきゃいけない。
「……君は、誰だ。どうしてここに……」
だけど俺の質問には答えてはもらえずに、質問で返されてしまった。
いや、確かにそれは一番最初に言われても可笑しくない質問だけど
「あの、俺は……」
質問された内容が当然の事だったから、それに答えようとした瞬間派手な破壊音が聞えてくる。
そして、後ろの床に大きな穴が?!
「な、何?」
「漸く、来たみたいだね」
突然の事に驚いて振り返った俺の耳に、ポツリと呟かれたその声はまるで覚悟を決めたように、聞こえた。
「入江様!」
「問題ない、来るぞ」
「ですが……そこに居るのは?!」
「この子も人質だ」
「ひと、じち?どう言う……」
質問しようとした言葉が、トンと言う誰かの足音によって遮られる。
振り返るとそこに居たのは
「綱吉!」
「えっ?」
服装はここに来る前と明らかに違っているけど、間違いなく綱吉の姿。
その姿を見つけて嬉しくて名前を呼んだら、驚いたように此方へと視線を向けてくる。
「誰だ?」
「まさか、あの幻騎士を倒すとは計算外だったよ」
そして、警戒するように身構える綱吉の姿に驚きを隠す事が出来ない。
それに続いて、白い服を着た人が感心したように呟いた
「沢田綱吉」
「入江…正一!!」
その人が綱吉のフルネームを言った瞬間、ボッと綱吉の手の炎が激しさを増す。
あれは、死ぬ気の炎。
どうして、こんな状況になっているんだろう。
分からない、分からないけど、もしかして、俺は今敵側の方にいるって事なんだろうか?
「……!!お前達は、チェルベッロ!?」
更に、綱吉から驚いたような声が……
チェルベッロって確か、あのリングの時に居た人達だよね?
あれ?でも、10年後なのに見た目全然変わってない……女の人ってすごいなぁ……じゃなくって、俺、今は状況確認だって!
「まずは拳を下ろしてもらおう。話はそれからだ」
「…話だと?」
必死でこの状況を理解しようとする俺に向けて、拳銃が頭に突き付けられる。
明らかにこの状況は、綱吉にとって不利な立場を作っているとしか思えない、それに……
「聞えなかったのか?下手に動けば彼らも死ぬぞ」
俺に拳銃を突きつけた状態で、言われた言葉と同時にガラスのケースに閉じ込められて倒れているみんなの姿が現れる。
「みんな!!」
その事に驚いたように綱吉が声を上げた。
だけど、それに対して疑問が浮かぶ。
あれ?あそこに居るのは、俺の知ってる綱吉じゃない…?
「ナノコンポジットの壁でとり囲み、逃げられなくなった所を睡眠ガスで眠らせてある。少しでも抵抗するそぶりを見せれば毒ガスに変更する」
更に目の前で進んで行く内容に、信じられない言葉を聞かされたような気がした。
睡眠ガスを毒ガスに変更するって、そ、そんな事したら……
「みんなが死んじゃう!そんな事したら、ダメだ!!」
自分の頭に拳銃を突きつけられている事なんて忘れて、そのまま声を張り上げてしまう。
それに対して、驚いたようにみんなの視線が集まってしまった。
「……先から気になっていたんだが、そいつは誰だ?」
そして最初に口を開いたのは、綱吉の足元に立っているリボーン。
分からないと言うように、俺の方へと視線を向けている。
だけど、言われたその言葉で確信した。
ここは、俺の知っている未来じゃない、と。
「お前達の仲間じゃないのか?」
リボーンの質問に対して、チェルベッロの一人が質問を返す。
それに、綱吉達が一瞬言われた意味が分からないというような表情を見せた。
「知らねーぞ。お前達の仲間じゃねーのか?」
それに返されたのも、やっぱり質問。
うん、俺、やっぱりこの世界には存在してないみたいだ……だって、綱吉も俺の事知らないみたいだし……なら、俺の知っている綱吉は?
「ねぇ、人の大切なものにそんな無粋なもの突き付けないでくれる?」
疑問に思った瞬間聞こえてきた声が俺に向けられていた拳銃をあっさりと奪って、更に強い力で抱き寄せられた。
「綱吉!」
「遅くなってごめん。飛ばされた先がバラバラで、探すのにちょっと時間が掛かっちゃったみたいだ」
良く知ったその腕の感触に振り返り、その相手の名前を呼べば更に強く抱き締められて謝罪される。
いや、別に綱吉が悪いなんて思ってないんだけど……
「なっ!沢田綱吉が二人!!」
突然現れた俺の良く知っている綱吉の存在に、明らかにここに居た人達が驚いたのは仕方ないだろう。
だって、目の前には確かにツナギ姿の綱吉が居るんだから……
「10年バズーカに二人同時に撃たれた弊害がこれって訳、ね」
一方綱吉の方は、別段驚いた様子もなく、目の前の状況にも冷静な状態で感心したように呟いた。
な、なんでそんなに落ち着いていられるんだろう、俺はもうちょっとでパニックになりかかったんだけど……
「10年バズーカ?まさか、違う世界の沢田綱吉が!?」
「ふーん、随分頭の回転が早いみたいだね。そう、オレ達は別世界の10年前からここに飛ばされた。この世界にはが居ない。それが、全てを物語っている」
目の前で驚いた声を上げる白い服の人に、綱吉が感心したように説明する。
ああ、やっぱりこの世界では、俺は存在していないんだ。
だけどその説明で、納得したけどやっぱり複雑な気分になるのは仕方ないだろう。
「お前、本当に綱吉なのか?雰囲気が余りにも違いすぎるぞ」
あっ、やっぱりリボーンは気付いたんだ、ツナギを着ている綱吉と、俺を抱き締めている綱吉の違い。
そう、何て言うのかツナギを着ている綱吉は、可愛いって言うか思わず手を差し伸べたくなるようなそんな雰囲気を持っているんだよね。
「オレは、沢田綱吉で間違いないよ。この世界のオレはどうやら随分甘やかされてるみたいだね。もっとも、それは小さい頃から守る者が存在していたかどうかの違いでしかないよ」
リボーンのそれに、綱吉が説明するように口を開く。
「……それが、そいつか?」
「その通り。オレとの関係は、お前なら直ぐに分かるだろう?」
それに、リボーンが俺を見て質問すれば、当然と言うように頷いて質問で返した。
「双子、か。そいつは、ママンに良く似ているぞ」
「ええぇ!!あの子って、オレと双子なの?!」
リボーンはあっさりとそれに答えるけど、その言葉にツナギの綱吉が驚いたような声を上げる。
それもそうだろう、この世界の綱吉には兄弟が居ないみたいなんだから
「正解。だから、雰囲気も変わるって事。を傷付けると言うのなら、容赦するつもりは無いからね」
って!綱吉さん思いっ切り喧嘩売ってるんですが?!!
しかも、しっかりと奪った拳銃が綱吉の手の中に……それ、とっても危ないんじゃ……
「取り合えず、この二人が邪魔だから眠ってもらおうか」
「な、何を!?」
そう言うが早いか、既に綱吉はチェルベッロの二人を簡単に気絶させてしまった。
相変わらず、その動きは早すぎて俺には分からない。
「……あっちの綱吉はすげーぞ」
そんな綱吉に対して、リボーンが感心したように呟く声が聞こえてくる。
って、事は、こっちの綱吉は大人しい子なのかな?
「うっうっ、僕の作った装置がこんな事まで引き起こすなんて……胃が、痛い……」
チェルベッロの二人を気絶させた瞬間、白い服を着た人がヘナヘナとその場に座り込んで胃の辺りを押さえてるんだけど……
「だ、大丈夫ですか?!」
それに驚いて近付こうとしたら、綱吉に引き止められた。
「むやみやたらに近付いちゃダメだって何時も言ってるよね、」
しかも、ニッコリと笑顔でしっかりと釘を刺されてしまう。
うん、言われてるけど、でも体調悪い人の心配をするのは当然の行為だと思うんだけど、それさえもダメなの??
「敵か味方かも分からないんだから、近付いちゃダメ。もっとも、そいつからは殺気を感じられなかったけどね」
「殺気?」
俺の考えを読んだように綱吉がしっかりと却下して、続けて言われた言葉の意味が分からずに思わず首を傾げてしまう。
「そう、このチェルベッロの二人と違って、こいつからは殺気を感じられなかったからそのままにしておいたんだけど」
俺、全然気付かなかったんだけど、そうか殺気を向けられてたんだ……。
でも、女の人に手を上げるのはどうかと思うんだよね。
いや、気絶させただけだけど、それでもやっぱり気分のいいものじゃない。
「……入江正一に殺気を感じられなかっただと……どう言う事だ?」
だけどそのツナの言葉にリボーンが、意味が分からないと言うように質問してきた。
あれ?リボーンが殺気に気付いてなかったって言うのは、可笑しいよね?
でも、そのお陰で気付いた、あのリボーンが実体じゃない事に
「簡単な事だ。こいつには戦う意思が無いという事。そうだろう?」
「……その通りだ。僕には、君達と戦う意思は無い」
そう言った瞬間、みんなが眠っているガラスケースの中に流れていた睡眠ガスが止まる。
ガスが止まった事で、獄寺くんや委員長さん、クローム、それから知らない女の人と男の人が目を覚ます。
「…………なんて悪夢だ…10代目の首を絞めるなんてよぉ…………」
って、獄寺くんの呟きが聞えてきたけど、一体どんな夢見てたんだろう、綱吉の首を絞めたなんて……
そして、一斉にみんなの視線がこちらへと向けられる。
「なっ!10代目がお二人も!!って、オレ達捕まってんじゃねぇかよ!!」
いや、うん、兎に角落ち着こうね、獄寺くん。
綱吉が二人居るのは本当にだし、君達が捕まっているのも本当だけど、そんなに慌てるのはどうかと思うよ。
仮にも、綱吉の右腕になろうとするなら、これぐらいで驚いてたら絶対に無理だと思う。
「沢田!早く貴様の手で装置を破壊しろ!」
「そ、そうです、10代目!!丸い装置を!!そいつをぶっ壊せば過去に帰れるかもしれない!!」
「……ダメ……」
って、状況が全く分からないけど、綱吉に対して皆がこの丸い機械を壊せって言い始める。
だけど、クロームだけがそれをポツリと止める声が聞こえてきた。
うん、これを壊しちゃダメだなんだ。だって、この中に入っているのは……
「これを壊しちゃダメ!だって、この中には大切なものが入っているから!!」
だから俺は立ち上がって、その装置の前に立つ。
これを壊して困るのは、白い服を着ている人達じゃなく、多分この世界の綱吉達。
「?!」
突然の行動に、ツナが驚いたように俺の名前を呼ぶ。
「この子の言う通りだよ。この装置を破壊すれば困るのは君達の方だ」
「何で!」
俺に続いて、白い服を着た人が言葉を続ける。
その言葉にツナギを着た綱吉が驚いたような声を上げた。
その次の瞬間、プシュッと言う音と共に装置が開く。
「この装置に入っているのは、10年バズーカで君達と入れ替わりで消えてしまった。この時代の君達なんだから」
座り込んだままの状態で説明されるその内容に、俺も驚いて装置を振り返れば、そこに見えるのは10人の男女の影。
そのシルエットは、よく知っている人達に似ている。
「もっとも、今見えているのは照射された立体映像のイメージであり、実際には分解された分子の状態で保存されているんだけど」
「ど…どうなってやがる!だって、この時代のオレ達は…」
「10年バズーカの効力で…10年前に行ったはず!!」
淡々と説明される内容に、獄寺くんと知らない男の人が驚いた声を上げる。
……俺も、本気で状況が分からないんだけど……ここは、ツナギを着ている綱吉の10年後の世界で、んで、ここではバズーカで撃たれた皆は、10年前と入れ替わらずに、この装置の中に入っているって事で……それにさらに、全く違う世界の俺と綱吉がここに加わって……面倒以外の何者でもない状況を起こしているように思うのは、気の所為じゃないよね?
目の前では、まだ難しい話が淡々と続けられている。
この世界の綱吉達が、この世界に来るように手を回したのは、この白い服を着た人。
そして、この世界では百欄と言う人がミルフィオーレと言う組織を使って酷い事をしている事。
全てを説明してから、白い服を着た人は着ていた上着を脱いだ。
「僕は君達の味方だよ」
「!!オレ達の味方だって!?」
状況がどんどん分からなくなる。
説明された内容は、世界的なもので、俺には信じられなかった。
不安に思っていたのが行動に出ていたのか、傍に居た綱吉の服をギュッと握る。
「そう、すべては君達を鍛えて強くなってもらうために考えた設定だったんだよ」
真剣に言われたその言葉に、皆が驚いているのが良く分かる。
状況が分からない俺でも、思わず息を呑んでしまう雰囲気。
「たくさん、ひどいことをして…本当にゴメン…でも、これから来る戦いに備え短時間に飛躍的な成長をしてもらうには、この方法しかなかったんだ!!」
「……………?これから来る戦い…?」
「そうだ!!君達の本当の敵は僕じゃない」
「ふざけんな!!作り話に決まってるぜ!!てめーがやばくなってきたんでオレ達を丸め込もうってんだな!!」
「獄寺の言う通りだ!!そんな話信じられるか!!」
必死で説明する白い服を脱いだ相手に、獄寺くんと知らない女の人が警戒するように言葉を投げ掛けてくる。
だけど、俺にはこの人が嘘を言っているようには、見えないんだけど……
「冷静さに欠けてるね。全く真実を見ようとしてない」
でも、俺が口を挟むのもどうかと思って、何も言えずに困っていればポツリと綱吉が口を開いた。
その声に、気付いたのか急にみんなの視線向けられる。
「どう言う意味だ?」
それに対して、不機嫌な声が質問を投げ掛けてきた。
「考えれば分かることだと思うけど、それさえも分からないから、冷静さに欠けると言ってるんだよ」
「つ、綱吉!」
「も気付いてるんだよね。その男が言っている事が全て事実だって事」
「う、うん。この人は、何も嘘は言ってない」
バカにしたように質問に答える綱吉を咎めるように名前を呼べば、気にした様子もなく同意を求められてしまう。
それは、俺も気付いていた事だから素直に頷いて返せば、目の前に居るその人が嬉しそうな表情になった。
「だって、この人は今すぐにでも獄寺くん達を殺すことが出来るから……」
あのカプセルの中に、毒を流せば簡単にみんなの命を奪ってしまえる。
それをしないという事は、その意思がないという事だから……
「…有難う。そうだよ、僕には君達を殺す事は何時だって出来たんだ。でもそれをしなかったのは、その意思が無かったからだ」
説明するように言った俺の言葉に、嬉しそうに謝礼の言葉を口にして、俺が思っていた事をそのまま口に出す。
「それだけじゃない。守護者でもないイーピン・笹川京子・三浦ハルまでを過去からこの時代に連れてきたのはなぜだかわかるかい?」
そして続けて言われた言葉の意味が分からなくって、誰もが不思議そうにその人を見た。
関係のない人達を巻き込む……一体、この未来はどうなっているんだろう……
「人は守るものがあると強くなる。そのために必要だと判断したんだ」
言われた言葉が、信じられなかった。
それだけの為に、関係のない人達を巻き込むなんて
「良く分かってるね……」
だけど、耳元でボソリと聞えてきたその声に、驚いて視線をツナへと向けた。
「そんな…!!そんな理由で!!もし京子ちゃん達に何かあったらどーするんだ!!京子ちゃん達だけじゃない!!鍛えられる前に、山本や獄寺くんやラル…みんな、この戦闘で死んでたかもしれないんだぞ!!」
俺が後ろを見た瞬間、ツナギを着た綱吉が白い服を着ていた人に掴み掛かって怒鳴り声を上げる。
確かに、綱吉の言っている事は間違いじゃない。
そんな事の理由で、関係の無い人達を巻き込んだのなら、それは怒る理由には十分過ぎる。
「………………………その場合は…それで仕方ないんだよ…」
綱吉に掴み掛かられて、驚いたような表情をしていたその人は、信じられない言葉を口にした。
「んだと!」
「…そんな」
獄寺くんとクロームの驚いた声が、聞こえてくる。
「うう〜ん……僕だって一生懸命やってるよ!!予想外のこととか起きて大変だったんだぞ!!これは君達が思っているほど小さな問題じゃないんだ!!それに、この計画はこの時代の君の意思でもあるんだ、綱吉くん!!」
「!!オレの…!?」
皆に責められるように見られた事で、限界がきたのか大声で訴えられた事に、綱吉が反応する。
オレとツナにはこっちの状況が分からないから、口出しする事はできない。
でも、分かった事はある、この状況になるように仕組んだのはこの時代の綱吉とこの白い服を着ていた人、そして委員長さんの3人だと言う。
そして、全ての元凶であり、みんなの敵が百欄と言う相手である事。
「……俺達、とんでもない所にきたみたいだけど、どうしよう……」
「別に傍観でいいんじゃないの。オレ達には関係ないみたいだし」
しかも、すっかり存在自体忘れ去られているように思うのは気の所為じゃないよね。
世界規模の争いみたいなんだけど、傍観してて本当にいいのかなぁ……。
でも、とっくの昔に5分過ぎているのにまだ戻れないって事は、お約束でバズーカが壊れていたんだろう。
それとも、予想に反して二人同時に未来に送ったことで壊れたのか……どっちにしても、碌なもんじゃない。
「取り合えず、は座っておいた方がいいよ。足に負担かかるからね」
「あっ、うん……でも、皆休息と鍛えるって言うけど、かなりボロボロだよね……誰が治療するんだろう」
「さぁ、オレ達には関係ないんじゃないの」
目の前で話される信じられない内容は何処か他人事に、ポツリと呟けばあっさりと返されるツナの返事。
更に、俺の事を気遣ってくれたので素直に言われたようにその場に座り込む。
流石にずっと立っていると、俺の足に負担だけがかかるのは否定できないから
最後の俺の質問に、ツナは欠伸をしながら返事を返してくれたんだけど……
た、確かに関係ないかもしれないけど、ここでボンヤリと見ててもいいんだろうか……
「何関係ねぇオーラー出してやがる。お前らにも手伝ってもらうぞ」
後ろからツナに抱き締められるようにそこに座り込んでいた俺達に、一通りの話が終ったのだろうリボーンが声を掛けてきた。
「手伝うのは構わないんだけど、俺には戦闘員なんて無理だよ」
「んなもんは端から期待してねぇ、でもソッチの綱吉は十分使えそうだからな。あいつらを鍛えるのに一躍買ってもらうぞ」
「……興味ない」
「つ、綱吉!」
声を掛けてきたリボーンに、戸惑いながらも返事をすれば、キッパリと返されてしまう。
うん、分かってたけどそんなにキッパリと返されるのも、悲しいですが……
更に、ツナへとニヤリと笑いながら言われたそれは、一言で返す。
いや、確かにそうかもしれないけど、この状況でそんな事言ってる場合じゃないように思うんだけど
「興味ないなら興味を持ってもらうぞ。お前等がここに来たって事は、オレ達と同じように問題が解決しねぇと戻れないって事だからな」
だけどそんな綱吉の事なんて全く気にした様子もなく、リボーンが更に口を開く。
それに対して、ピクリと綱吉が反応した。
確かにリボーンの言うように、ここに来た事がこの装置によって引き寄せられたという事は、俺達は問題が解決するまで帰れないと言う事だ。
「いいよ、それじゃ、この世界の戦い方を教えてもらう。じゃなきゃ、戦えないからね」
「いいぞ。お前も大空のリングは持っているんだろうな?」
「ああ」
「それを指に付けて、炎を灯すんだぞ」
「何、そんな簡単な事?」
教えられた事に、ツナが首に下げていたそれを指に嵌めて、炎を灯す。
綺麗なオレンジ色の炎が、指輪を媒介にして輝きを増した。
「流石だな」
それに対して、リボーンが満足そうな笑みを浮かべる。
「すごい、オレなんて始めは全然灯せなかったのに……」
ああ、ツナギの綱吉が落ち込んでるんですけど……
そっか、やっぱりツナはすごいって事なんだよね……でも、そんな事よりも
「綱吉、顔に傷がある」
「えっ?」
ずっと気になってたんだけど、顔に一杯擦り傷があるんだよね、こっちの綱吉。
あんまりこんな姿の綱吉は見たこと無いから新鮮だけど、なんか痛々しいって言うか……
そう思ったから、すっと手を差し伸べて俺も自分の手に炎を灯す。
「なっ、リングもなしに炎を灯すなんて!!しかも、金色の炎……そんな炎は見た事がない。一体何の属性なんだ?」
俺が炎を灯した瞬間、知らない女の人が驚いたように声を出した。
えっと、属性って何の事だろう。
俺の属性は、間違いなく人間だと思うんだけど、そう言う問題じゃないんだよね、多分?
「き、傷が、治った?!」
言われた事の意味が分からなくて首を傾げている間に、綱吉の治療完了。
この能力を初めて使ったのは、骸達と戦った時。
俺は捕まって、綱吉に迷惑掛けたんだけど、そのお陰でこの能力に目覚める事が出来た。
でもその所為なのか、瞳の色が昔と同じように濃くなってしまったんだよね……
眼鏡で誤魔化してるけど、見られれば直ぐに瞳の色が違う事が分かってしまうだろう。
本気でカラーコンタクト入れようかなぁ……
「!何してるの?!」
「何って、綱吉の治療?」
「そんなのしなくていいから!その能力は使っちゃダメだってあれほど!!」
昔の事をしみじみと思い出しながらそんな事を考えていた俺は、綱吉の怒ったような声に気付いて振り返りながら、思わず疑問系で返事を返してしまった。
そんな俺に対して、しっかりと怒られてしまう。
「だって、綱吉が怪我してるのはあんまり見たくないから……」
「オレが怪我してるんじゃないから!」
怒られたので、慌てて言い訳をしたら更に怒られてしまった。
た、確かに綱吉は怪我してないけど、ツナギ姿の綱吉は怪我してるんだから治して上げなくっちゃって思ったんだよね。
それに、カプセルの中に居る皆もボロボロなんだから、誰かが治療する必要があると思うんだけど……未来だから、簡単に治療とか出来るのかな?
「あ、あの」
まだ続いてる綱吉の説教を聞き流しながら、考える事はみんなの怪我の事で、どうしたものかと思っていると、躊躇いがちな声が聞こえてきた。
それは、ツナギ姿の綱吉で、声を掛けられたのだと漸く気付いて、首を傾げる。
「怪我を治してくれて、有難うございます」
「えっ、いや、どういたしまして?」
なんで声を掛けられたのか分からなくって首を傾げた俺に、目の前の綱吉が深々と頭を下げてお礼の言葉をくれた。
余りにも突然だったから、俺はそれについていけなくて、思わず疑問形で返してしまう。
だって、この綱吉本気で可愛いんだけど!!
しかも、身長が俺とあんまり変わらないし!!(ここ重要だからね)
「えっ?何で疑問系?!」
俺が言葉を返したら、速攻で目の前の綱吉に突っ込まれてしまった。
どうやらこの世界の綱吉は、突っ込み属性らしい。
本気で新鮮なんだけど
「疑問系なのに意味はないんだけど……ああ、そうだった、俺は綱吉の事知ってるけど、こっちの綱吉は俺の事知らないだったよね?今更自己紹介って変な感じだけど、俺の名前は沢田。リボーンが言ってたけど、あっちの綱吉とは二卵性の双子なんだ」
こっちの世界の綱吉が声を掛けてきたことで、ツナの説教が中断したのをこれ幸いと、今更ながらに自己紹介をしてみる。
だって、俺は綱吉の事を知っているけど、こっちの綱吉は俺の事を知らないから、ちゃんと自己紹介した方がいいかなぁって……
「あっ、態々すみません。オレは沢田綱吉です」
「うん、知ってるから」
俺が自己紹介したら、こっちの綱吉までもが慌てて自己紹介してくる。
それに思わず苦笑を零して、思わず言葉を返した。
だって、俺は別世界の綱吉の双子だって説明してるのに、自己紹介されるとは思ってなかったんだよね。
やっぱり、こっちの綱吉はすっごく可愛い!
「あっ、そ、そうだった。す、すみません」
俺の言葉に綱吉が顔を真っ赤にして、謝罪の言葉を述べてくる。
「いや、謝らなくてもいいんだけど……それよりも、俺に敬語はやめて欲しいな。我侭かもしれないけど」
だけで敬語なのが、ちょっと悲しい。
そう思って、我侭だと分かっていても言わずには居られなかった。
「ご、ごめん……どうしても、その……」
俺の言葉に、綱吉が申し訳なさそうに謝罪する。
確かに、初対面の相手に行き成りそんなこと言われても困るよね。
「うん、分かるから、少しずつでいいから、慣れてくれると嬉しい」
綱吉の気持ちが分かるから、ニッコリと笑顔でそう言えば、あれ?綱吉の顔がちょっと赤いんだけど、なんでだろう??
「綱吉?」
不思議に思って名前を呼べば、『何でもないです』と返されてしまった。
やっぱり、敬語なんだなぁ……複雑。
「おめぇ、面白い能力を持っているな」
「ん?」
ちょっと悲しいなぁと思っている俺に、足元から声が聞こえてきた。
あれ?リボーンって、ツナと話してたんじゃなかったっけ?
あっ、ツナギ服を着ているツナと俺の兄弟であるツナとの区別は呼び方で、変えよう。
うん、ややこしいから、ツナギのツナは、綱吉。兄弟のツナは、ツナって呼ぶ事にしよう。そうすれば、分かり易いよね?
「オレを無視するんじゃねぇぞ!」
「いや、無視した訳じゃないんだけど……ツナが二人居るからややこしいなぁと思ってただけで……リボーンは、ツナと話してたんじゃなかったっけ?」
「もうとっくに話は終ったぞ。と言うか、お前がダメツナの治療する前に終っちまったと言った方がいいがな」
ああ、そう言えば、俺は先程までツナに怒られてたんだっけ……もしかして、そのツナを無視して綱吉と話してなかったっけ……
思い出した内容に、サーッと血の気が引く。
今、後ろを振り返るのが、とっても怖い。絶対にツナが怒ってるよね?
「」
そう思った瞬間、ヒンヤリとした声で名前を呼ばれた。
「は、はい!」
「オレの言う事、聞いてなかったよね?」
疑問系なのに、断定されてます。
でも、間違いはないので俺は慌ててコクコクと何度も頷いて返した。
だって、これ以上ツナを怒らせるのはどう考えても得策じゃないから
「は、後でお説教決定だからね。それからリボーン!にあいつらの治療はさせられない。この力はにとっては諸刃の剣だからな」
そう思って頷いたのに、しっかりとお説教は確定してしまった。
う〜っ、わざとじゃないのに、そんなに怒らなくってもいいと思うんだけど
しかも、俺に代わってリボーンに返事返してるし……
「諸刃の剣?って事は、何か厄介な事があるのか?」
「厄介以外のナニモノでもないね。この力はの体力を根こそぎ奪う。使いすぎたら、間違いなく2週間は動けなくなる」
「……今、2週間も動けなくなるのは、確かに厄介だな」
諸刃の剣。
確かに、そうかもしれない。
この力を初めて使った時、俺は2週間動けなくなったのだから……その後の1週間も、動けるようにはなったけど、フラフラしてたのは、本当です。
ツナに説明されて、リボーンが小さくため息をつく。
俺は、ツナと違って役立たずです、本当にごめんなさい。
どう考えても俺は足手まといでしかない。
せめて、みんなの怪我を治してあげる事が出来ればいいのに、ツナの言うようにその後動けなくなるという事は、更に迷惑を掛けることになる。
って、今の状況のままでも、俺の足を考えたら動けないのと同じような気がするのは気の所為だろうか?
「でも、ツナ……皆ボロボロなんだから、ちょっとぐらいなら……」
「絶対にダメだからね。この世界の状況も大体把握出来たから、手を貸すのは了承するけど、を巻き込む事だけは絶対に許さない」
ギラリと鋭い視線でリボーンを睨むツナからは、殺気が……
自分が巻き込まれるのはいいのに、俺はダメって、ここに居る時点で無理だと思うんだけど
「心配しなくても、ここには治療用の施設もある。そこで彼らの治療は行えるから君が力を使う必要はないよ」
「あっ、えっと……」
どうしたものかと考えていれば、白い服を着ていた人が声を掛けてきた。
やっぱり治療用の施設も整ってるんだ、それなら安心だ。と思って御礼を言おうとしたけどえっと、この人の名前知らないんだけど、俺。
「自己紹介がまだだったね。ボクは入江正一手荒な事をして、ごめん」
「いえ、俺は手荒な事された覚えはないですから、気にしないで下さい」
言葉に困った俺に気付いて自己紹介してくれた上に、謝罪されて慌てて首を振る。
だって、俺は全然手荒な事をされた記憶がない。
まぁ、確かに銃を突きつけられたのは突きつけられたけど、それはこの人じゃなくってチェルベッロの人達だから、この人には何もされていないのは本当の事。
「優しいんだね、有難う」
否定した俺に、何処か嬉しそうな表情を見せてお礼の言葉が返される。
その前に、優しいって……俺は、本当の事を言っただけだから、そう言われるのは違うような気がするんだけど
「それじゃ、皆を出してチェルベッロをカプセルの中に居れて睡眠ガスを出していれば目を覚ます事はないだろう」
なんか複雑な気持ちの中、入江さんがそう言ってみんなをカプセルの中から出す。
その後にチェルベッロの人達を入れて睡眠ガスを入れれば、確かに目を覚ます心配はないけど、ずっと眠りぱなっしって大丈夫なのかな?
「みんな、大丈夫!?」
カプセルの中からフラフラと出てきた皆って、山本と知らない男の人が倒れてて動かないんだけど、大丈夫なのかな?
「オレ達は大丈夫です、10代目もご無事で何よりです」
「あんまり無事じゃないかもだけど……山本とお兄さんは大丈夫なのかな?」
心配そうに綱吉が質問すれば、ボロボロの状態でも獄寺くんが返事を返す。
どう見ても、大丈夫なようには見えないんだけど……それに綱吉が苦笑で返して、動けない山本と男の人を心配そうに見た。
あれ?今お兄さんって言った?綱吉には、お兄さんが居るのかな?
「芝生頭も野球バカもちょっと休めば大丈夫ですよ!」
ボンヤリとそんな事を考えていたら、獄寺くんが自信満々に返事を返してきた。
いや、どう見ても大丈夫なようには見えないから!しかも、芝生頭って、それってあの男の人は京子ちゃんのお兄さんですか?!
そして、今更ながらに気付いたけど、もう一人の分からなかった男の人って、どう見ても副委員長の草壁さんだよね?トレードマーク変わってないから、間違いないと思う。
「怪我人は、医療施設に運んでくれ。リングも、君達に返そう」
10年後の二人の姿に驚いている俺の目の前で、入江さんが手に持っていたリングを綱吉に差し出した。
「あっ、有難う……」
「まずは、傷をいやしてもらう。作戦についてはその後で……って、忘れてた!!ボンゴレ基地に何か連絡は?」
リングを受け取って、綱吉が礼を言えば淡々とした口調で話をしていた入江さんが急に焦ったような声を上げる。
「?ないぞ…」
突然のそれに、リボーンは意味が分からないと言うような顔をしたけど、あっさりと返事を返す。
「まだか…そうか、まだだよな…う……また緊張してきた…」
返事を貰った入江さんが、また胃を抱え込むように膝を付く。
「どうか…したんですか…?」
そんな入江さんに、綱吉が心配そうに質問する。
本気で、俺にも何がなんだか分からないんだけど、ただ入江さんが緊張している事だけは伝わってきた。
「君達がここに辿り着くことが百欄サンを倒すための一つめの賭けだった。それを第一段階だとすると、クリアすべき第二段階があるんだ!!」
「え!?まだ戦うの?」
そんな綱吉の質問に、入江さんは2本の指を立てて説明。
それに、綱吉が慌てたような声を上げた。
「へっ?いや…ちがうよ。先も言ったように、君達にはしばらく傷を癒してもらうつもりだ。もっとも、それができるかどうかは、この第二段階次第だけど」
綱吉の慌てたような声に、一瞬意味が分からないというような表情をしてから、入江さんが真剣な表情で説明する。
だけど、肝心の第二段階と言うのが分からない。
「何なんだ?その第二段階って」
そんな疑問は、俺に代わってリボーンが質問してくれた。
その声に、みんなの視線が入江さんへと向けられる。
「聞いてるだろ?ボンゴレは今日、全世界のミルフィオーレに総攻撃を仕掛ける大作戦に出るって」
「あ…そう言えば」
リボーンに質問されて、逆に質問するように聞いてから入江さんが説明した内容に、思い出したというように綱吉が返事を返す。
そんな話がある事自体知らない俺には、全く話しに入っていけないけど、本気で世界規模の問題なんだと改めて知らされた気分なんだけど
「その作戦が失敗すると全てが一気に難しくなる…一番のカギとなるのは…イタリアの主戦力だ」
イタリアの主戦力って言うと、もしかしてあのボンゴレリングを巡ってツナ達と争ったヴァリアーの事だろうか?
「ツナ」
「うん、多分そうだろうね。10年後にはお互い理解しあっていると思っていいんじゃないのかな?」
「だと、いいね……」
ザンザスさんの事を考えると胸が痛くなる。
なんであんなにも力を必要としていたのかは分かるけど、その理由が余りにも悲しすぎたから
ツナには全く敵わなかったのは、あの人の強さがあまりにも悲しい結果だったからかもしれない。
「ねぇ、ソッチの沢田は随分雰囲気が違うみたいだけど、何者なの?」
思い出して悲しくなっていた俺の耳に、聞こえて来たのは聞き覚えのある不機嫌な声。
そう言えば、委員長さんや他の皆は俺達の事を知らなかったんだっけ?
「そう言えば、10代目がお二人も!一体何があったんですか?」
って、獄寺くんは忘れてたのかな、もしかして……
委員長さんの言葉に思い出したというように言われたないように、思わず苦笑を零してしまう。
「オレ達の事は気にしなくていいから、空気か何かだと思ってくれていいよ」
「って、何言ってるんですか?!そんなの無理ですから!!」
驚いている獄寺くんに、ツナがあっさりととんでもない事を口にすれば、速攻で綱吉が突っ込みを入れてくる。
何て言うか俺が突っ込まなくても綱吉が突っ込むから、俺の立場が全然ないように思うんだけど
「ふーん、面白そうだね。ソッチの沢田を咬み殺してもいい?」
「出来るものならどーぞ。どうせあんたらを鍛えるように言われてるんだからね」
更には、委員長さんの言葉に挑発的な台詞を返すのはやめましょう!
「生意気だね、本気で咬み殺すよ」
ジャキっと音をさせて構えられたのは、委員長さんが持っているトンファ。
「なんでそんなに挑戦的なの、オレなんだよね?間違いなく、オレなんだよね?!」
既に戦闘態勢に入っているツナと委員長さんに、綱吉が頭を抱えて叫ぶ。
うん、間違いなく君と同一人物だと思います。
中身は全然違うみたいだけど、それは間違いないよ。
「環境が人を変えると言うが、あっちの綱吉は随分挑戦的だな」
「うーん、俺だと止められないから……本当、ごめんね、綱吉」
「あっ、いえ、さんが謝る事じゃ……でも、なんで、あんなに強いんですか?!」
目の前では、もう既に委員長さんとツナのバトルが始められている。
うん、本当にどうしてあんなに強いんだろうね。
ツナの方が強いと分かるバトルと言う名の修行と言っていいのだろうか、こっちの委員長さんはどう見てもツナよりも明らかに力不足だ。
多分、俺達の世界の委員長さんと比べても弱い。
それは、もしかしたらツナとほぼ強制的なバトルを全くしていないからかもしれない。
そうか、あっちの委員長さんがどんどん強くなるのは、もしかしてツナとバトルしてる所為なんだね、どう考えてもそうとしか思えない。
ディーノさんの修行も確か、ただ戦うだけだったって言っていたから、それが委員長さんを強くするカギなんだろう、きっと。
「すげーな、完全にあのヒバリを軽くあしらってやがる」
「おい、お前!」
感心したように呟くリボーンの言葉が耳に聞えてきた瞬間、不機嫌な声が続けて聞こえてきた。
それに驚いて振り返る。
「えっと、俺が呼ばれたんだよね?」
多分俺の事を睨んでいるので、自分が呼ばれたのだと思うから質問するように首を傾げれば、また睨まれてしまう。
目の前に立っているのは、顔にアザのある女の人。
女の人なのに顔にアザがあるなんて、と思ったけど、そんな事を思う事自体がこの人に失礼だとそう考えて消去する。
でも、真っ直ぐにその人を見た瞬間気付いてしまった。
俺の左目には、それがはっきりと見えてしまったから
「……コロネロさん……」
大切そうに、何よりも大事だと言うようにその人を抱き締める男の人の姿。
姿は変わってしまっているけど、俺にはそれが誰なのか直ぐに分かった。
「な、何を言っているんだ?!」
「生きて……死んじゃだめだ……」
その瞬間聞こえて来たのは切実な願い。
一気に、俺の力が全身を包むのが自分でも分かる。
金色の炎は、全てを癒す力を持つ。
それは、例え生命の力が弱まっていたとしても回復させる力を持っているから
「なっ!ラルみたいに、さんも肉体から炎を出すなんて!」
「!」
全身に金色の炎を纏った俺は、そのまま彼女を抱き締めていた。
何時もの俺なら、絶対出来ないような行動だけど、今の俺にはそんな事考えられない。
ただ、彼女を死なせちゃダメだと言うその思い意外は何も……
最後に聞えたのは、ツナの俺を呼ぶ声だけ
それから俺が次に目を覚ましたのは、全てが終ってからだった。
一体、何があったのか、俺には分からないけど、目を覚ました俺を待っていたのは、ツナの長い長い説教だったのは言うまでもない。
何時の間にか自分の世界に戻ってきてしまっていたから、あっちの世界の綱吉達にお別れを言う暇もなかった事が悲しい。
そして、一番の心残りは、あの抱き付いてしまった女の人に謝罪もしなかった事。
俺、何てことをしちゃったんだろう。
絶対、俺の事変態だとか思われてるよね。
何があったのか、どんなに聞いてもツナが教えてくれなかったから分からないけど、またあの世界に行ける事があったら、真っ先にあの人に謝罪しよう。
それが、今の俺の目標です。
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