「今日の任務は終了だ」

 空を見上げてのアスマ上忍の言葉に、俺達下忍は動かしていたその手を止めた。

「明日も今日の続きだ」

 俺の前ではタバコを吸わなくなったアスマ上忍は、それでも火の点いてないタバコはしっかりと加えているのは、身に付いている主観からだろう。
 『解散』と言う言葉を残してその姿が消える。何時ものながら本当に、あっさりとしたものだと感心して俺は空を仰いだ。

 夏から秋と言う季節に変わるこの時期、日が沈むのは早くなる。

「もう、流石に疲れたわ……どうしてこんなにごみが捨てられるのかしら……」

 持っていたごみ袋を指定の位置に持っていきながら一番に文句を言ったのはいのだった。

 俺達10班の任務は、里のごみ拾い。

 流石にこの広い里なだけに、今日の今日で終わる任務ではなく、明日も同じ任務が決定している。
 綺麗に見える里でも、良く見ればそこ等にごみが捨てられているのだと言う事を嫌と言うほど知った日。

「平気でごみを捨てる人間は、ごみと一緒に大切なモノも捨ててるんだって気付かないものなんだよ……」

 平気で捨てられるタバコや空き缶。
 そして一緒に、彼らは人間として大切なものもを無くしているのだと言う事にも気付かない。

?」

 ポツリと呟いた俺に、チョウジが不思議そうに名前を呼ぶ。

「何でも無いよ。もう暗くなっちゃたから、早く帰えらないとって言ったんだ」

 心配そうに見詰めてくるチョウジに、俺はニッコリと笑顔を返した。

「本当よね…ついこの前まではこの時間もまだ明るかったのに、日が沈むの早くなったわね」

 そんな俺の言葉に、いのも同意するように空を見上げる。

「本当だね……もう秋だからだよね」

 俺に続いていのが言った言葉で、チョウジも納得したのか呟いて空を見た。

「んな事話してる場合じゃねぇだろう、帰る気ねぇのかよ……」

 俺達3人が空を見上げる中、呆れたように声を掛けてきたのは、シカマル。
 何時もは一緒になって空見るくせに今日に限っては早く帰るように促している。

「いけない、これ以上暗くなったら、パパが心配するわ!」

 だけどそのシカマルの言葉に慌てたのはやっぱり女の子のいのだった。
 って、山中の親父さん、そんなに過保護……だったな……。

「それじゃ、ボクもいのと一緒に帰るね」
「おう、またなチョウジに、いの」
「気を付けてね二人とも」

 慌てているいのに、さり気無く一緒に動いたチョウジが彼女を送っていくと言うのが分かって思わず笑ってしまう。
 そう言うさり気無い気配りが出来るのも、俺のお気に入りの一つだ。

「で、二人を先に帰らせて何か用事だったのか?」

 去って行く二人を見送って、その姿が見えなくなってから俺はシカマルへと視線を向けた。

「別に、そんなんじゃねぇよ……」

 俺の問い掛けに、フッと視線を逸らしたシカマルは空を見上げる。
 そんなシカマルと同じように、俺も空へと視線を向けた。

 夕日の色から広がっていくのは夜の帳。
 昼間見えていたあの綺麗な空色は、既にその色を無くしていた。

「……時々、本当に時々想う事がある……大切な何かを無くして行く奴等の心の中って、こんな夕闇と同じなのかもしれないって……」

 そんな空を見上げながら、俺はまたポツリと呟く。
 きっと、先ほどの言葉はシカマルにはしっかりと聞えていたと分かっているから、だからこその言葉。

「違げぇだろう。そんな奴等の心を、この綺麗な空と一緒にしてんじゃねぇつーの……そんな奴等の心は、このごみと一緒で十分だ」

 呟いた俺の言葉に、だけどシカマルから返されたのは意外なものだった。
 シカマルは闇に染まっていくこの空を綺麗だと言う。

「……夕闇が、この闇に染まっていく空が綺麗?」
「おう、綺麗じゃねぇかよ。お前の左眼と同じ色に染まっていくんだ、んな汚ねぇもんと一緒にすんじゃねぇよ」

 見上げているシカマルの瞳は嬉しそうに闇に染まっていく空を見詰めている。

 空は、青から赤へ、そして闇の色へと変わっていく。
 それをシカマルは綺麗だとそう言った。

 そして、俺の左眼の色と同じだと……。
 確かに俺の左眼は深い紺色。この闇の色に染まった空と一番近い色をしている。
 だからこそ、綺麗な青空を闇に染める俺と言う存在と重なったのだから……。

「めんどくせぇ事考えてんじゃねぇつーの。んな馬鹿な事考えてっとナルトの奴が泣くぞ」

 驚いてそっと自分の左眼に手を添えていた俺に、シカマルが不機嫌そのままに睨み付けてくる。
 どうしてばれていたんだろうか。
 俺と言う闇が、ナルトという光を汚しているんだと、そう思っていたからこそ、その心を読み取られて俺は動揺を隠せない。

「だから、馬鹿な事だつーてんだよ。お前は汚してんじゃねぇ、あいつを更に輝かせる存在だ」

 真剣に見詰めてくる瞳が、真っ直ぐ俺を見詰めながらはっきりと言葉を伝えてくる。

「だから、んなモンと一緒にしてんじゃねぇよ、この超バカ!」

 呆れたように言われた言葉とコツンと叩かれたそれに、俺は何と返していいのか分からずにただ苦笑を零した。

 空を見上げれば、夕闇から既に闇へと塗り替えられた空には瞬く星々。

 その空に続いて俺達が集めた今日のごみを見た。
 ごみを捨てている人間のその心は、もう既にその捨てたごみと同じ価値しかない。

 そう、ごみを捨てていく度に、彼らは大切な人の心をも一緒に捨てている事に気付かないのだ。

「シカマル、帰ろう!」
「ああ、そうだな……」

 俺はそんなことを考えていた自分の思考を打ち切って、シカマルへと声を掛けた。
 俺の言葉に頷くシカマルの腕を取って、何時ものように『渡り』を使う。

 今は、俺達の光に早く会いたいとそう思えたから……。