手に入れる前と手に入れてからでは、明らかに全てが変わった。
 手に入れて初めて、俺は幸せと言うモノが何なのかを初めて知ることが出来たのだ。


「ナルト、お帰り」

 部屋に入った瞬間に迎えてくれるのは温かな笑顔と、ずっと望んでいた言葉。
 誰も居ない冷たい部屋に戻るのではなく、誰かが自分を待っていてくれる事が何よりも嬉しい。

「ただいま、

 そんな相手に、俺も笑顔で返事を返す。

『お帰り、ナル』

 続いてと一緒にお茶の準備をしていた黒猫が声を掛けてくる。

「ただいま、『夜』」

 当然のように迎え入れてくれるその言葉は、自分にとっては望んでも得られないモノだったのだ。
 だけど、今自分にその望んだ言葉をくれる人達が出来て、初めて帰る場所を見つけることが出来た。
 笑顔で迎えてくれる温かな人の言葉に、フワリと心が満たされる。

『今日はね、がナルの好きなモカケーキ作ったんだよ』

 ニコニコと嬉しそう言われる言葉に、俺の顔も自然と笑顔になるのを止められない。
 無理矢理作った笑顔ではなく、自然と作る事が出来る笑顔があるんだっと知ったのも、彼等と出会ってからだった。

 手に入れる前には何も存在しなかった、すべてのモノがここにはある。
 そう、俺が望んだモノが、全て……。

「今日も任務お疲れさん」

 労いの言葉と一緒に準備されていたお茶を手渡してくれるに、素直にそれを受け取って顔を向ければ、大好きな笑顔が目の前にあった。

「……有難う、…」

 それに、俺も笑顔を浮かべる。
 大好きな大好きな人が目の前に居て、自分に笑ってくれる事。
 そんな単純なことが、何よりも幸せなのだと分かる。

「疲れてる時には、甘いモノ。お茶菓子もな」

 ケーキが盛ってあるお皿とフォークを渡されて、また顔が綻んでしまう。
 だって、このケーキは、俺の好きなモノの一つ。それを知っているから、は時々自分の為に作ってくれる。
 その事が嬉しいから、再度小さな声でお礼を言えば、フワリとが笑った。

「どういたしまして」

 その笑顔は、ケーキなんかよりもずっとずっと甘くって、そんでもって、ケーキよりもずっとずっと俺が大好きなモノ。


 手に入れる前には、気付く事なんて出来なかった。
 幸せは、こんなに近くにあるんだって言う事を……。