何時ものように待ち合わせの場所へと向う。
その手には一つのプレゼント。
「嬉しそうだな……」
ポツリと呟かれた言葉に、俺は隣に居るシカマルへと視線を向けた。
何を言われたのか聞き逃してしまったので、思わず首を傾げてシカマルを見る。
「シカマル?」
「何でもねぇよ……」
尋ねるように名前を呼べば、ため息をついて視線がそらされてしまう。
「そっか……シカマル今日はチョウジの誕生日会に呼ばれてるから、家には来れないんだろう?」
その態度には気になるところがあるけど、シカマルが言いたくないと言うのが分かるから、それに触れないように質問を変える。
「まぁ、呼ばれてるつーたら、呼ばれてるけど……」
毎日家に来るシカマルだけど、今日はチョウジの誕生日だから、きっと家にはこれないと思ってそう質問すれば、また小さくため息をついて曖昧な返事。
「呼ばれてるけど?」
「……俺だけじゃねぇだろう……お前だって……」
そんなシカマルに俺が再度質問すれば睨みつけるように俺を見る。
「……俺は、行けないだろう……流石に、チョウジやいのの親に会うのは不味いからな……」
シカマルが言わんとする事を理解して、その視線から逃れるように顔を逸らす。
確かに、俺もチョウジの誕生日会に招待してもらった。
呼んでもらえるなんて思ってなかったから嬉しかったけど、俺がそれに参加する訳にはいかない。
猪鹿蝶とは、何度かコンビを組んでいるので正体を知られる訳にはいかないのだ。
もっとも、俺の事を知っているシカマルの親父さんは別だけどな。
「チョウジの奴、がっかりするぞ……」
「うん、だから、お詫びのプレゼント……貰ってくれると嬉しいんだけどな」
嬉しそうに俺を誘ってくれたチョウジの事を考えて、俺は複雑な気持ちになる。
こんな事でお詫びになるとは思ってないけど、少しでもチョウジが生まれてきてくれたことを祝いたいから……。
「あっ、にシカマル、おはよう」
集合場所が見えてきた瞬間、元気よく手を振ってくれるチョウジの姿に気付いて、思わず笑みを浮かべる。
本当に。癒し系だよなぁ、チョウジって……。
「おはよう、チョウジ。それから、誕生日おめでとう」
「有難う、。でも、それは夜でもよかったのに……」
「ごめんね。折角招待してくれたんだけど、どうしても外せない用事があって……これ、お詫びと誕生日プレゼントなんだけど、受け取ってくれるかなぁ」
「何、ってば、夜来られないの?残念ね、チョウジの家の料理美味しいのに」
俺の言葉に、いのが本当に残念そうに言葉を続ける。
確かに、食と言えば秋道と言われるぐらいのグルメだから、チョウジの家ならおいしいモノが一杯食べられるだろう事は想像がつく。
だけど、シカマルの親父さんだけならともかく、チョウジといのの親父さんと会う訳には行かないのだ。
「僕も楽しみにしてたんだけど、本当にごめんね……」
申し訳なく再度謝った俺に、チョウジは俺が持っているプレゼントを受け取ってくれる。
「そんなに謝らなくってもいいよ。用事があるんなら仕方ないし……また今度、都合がいい時に遊びに来てよ」
謝罪する俺に、チョウジがニッコリと笑いながら受け取ってくれた上に、更に誘ってくれる事にホッとしながら漸く俺は何時もの笑顔を見せた。
「うん、是非お邪魔させてもらうね」
ニッコリと笑顔で言えば、チョウジもニコニコと笑顔。
うーん、本当に癒し系だよなぁ、チョウジって……。
お互いニコニコと笑顔を見せ合っている横で、シカマルが呆れたようにため息をつくのが分かる。
「もう、そんなところでほのぼのしてるんじゃないわよ!で、のプレゼントって、何時ものように誕生日石なんでしょう?チョウジの石はなんなの」
ほんわか笑顔に癒されていた俺に、いのが我慢できなくなったのだろう身を乗り出してくる。
そして質問された内容に、思わず苦笑を零してしまう。
俺の誕生日のプレゼントは、みんな誕生日石。それは、既に貰っているいのも同じで、何時も身に付けてくれている。
シカマルやナルト、他にもプレゼントとして渡した相手は皆身に付けてくれているのは嬉しい事だ。
「うん、芸がなくって申し訳ないんだけど……チョウジの誕生日石は、エメラルド。幸福や幸運を運んでくれる石。夫婦愛って言うのもあるぐらいだから、家庭円満には最適な石だね」
ニッコリと笑顔でチョウジへのプレゼントの説明。
「へぇ、でも、これでウチの班は全員から誕生日石を貰った事になるわね」
俺の説明にいのが感心したように頷いて、続けて言われたその言葉に、俺も思わず頷いた。
そう言えば、下忍で後誕生日プレゼント渡してないのって、7月生まれのキバとサスケだけだな。
「私が貰ったのが、アメトリン。シカマルがダイヤモンド。アスマがブルーアゲートだったわよね」
「んで、ナルトがブラックオニキス、春野がインカローズでヒナタがクロスパールにシノがカーネリアン、紅上忍がラブラドライトだっけか?」
「そうだったね」
いのとシカマルが、俺が皆にプレゼントした石の名前を言う。
よく覚えてるよなぁ……。
「その石をよくそんなに探して来られるわよね。石の名前言われても、さっぱり分からないわよ」
感心したようないのの言葉に、俺は苦笑を零す。
俺がこの石を何処から手に入れてくるのかは、内緒。
それは、企業秘密です。
この石には、しっかりとお守りの役目もあるから、身に付けてくれているのは有難く思ってます。
「あれ?そう言えば、カカシ上忍には、何を渡したの?」
感心している俺の耳に、チョウジが不思議そうに問い掛けてくる。
それに俺は思わず苦笑を零した。
いや、だって、俺がカカシ上忍にプレゼント渡すのに、ナルトが許可をくれなかったから、渡してないのが正直なところ。
本気でカカシ上忍はナルトに嫌われてるよなぁ……。
まぁ、俺もそんなに好きな相手じゃねぇんだけど……。
「えっと、僕、カカシ上忍の誕生日何時なのか知らなくって……」
そんな訳なので、苦しい言い訳。
「あら、そう言えば、私も知らないわ」
苦し紛れの言い訳だったんだけど、それにいのも同意見。
よ、良かった、あの人が謎な人物で。
「よぉ、揃ってるな」
話が一段落した時に、アスマ上忍が木の葉と一緒に姿を現す。
まぁ、ずっと近くで様子を伺っているのは気付いていたから、驚きはしないんだけど……。
「遅いわよ!」
そんなアスマ上忍に、一番にいのが文句を言う。
って、まだ待ち合わせ時間前だから、怒るのは間違ってるような……。
「遅いか?まだ時間じゃねぇだろう……」
文句を言われて、アスマ上忍がため息をつく。
「約束の10分前に来るのは常識よ!」
そんなアスマ上忍に、びしっといのが言い切った。
うん、それは人それぞれだと思うけど、いのさん、それはカカシ上忍に言ってやってくれ!絶対聞きゃしねぇだろうけど……。
「あ〜っ、悪かった……まぁ、何だ、忍びはどっちかつーと時間厳守だからな、決められた時間に行動するもんだ」
ガシガシと少し乱暴に自分の頭を掻いて、アスマ上忍がため息をつく。
「アスマ上忍、でしたら、それをカカシ上忍にも徹底させてください!」
そんなアスマ上忍に、俺もキッパリと言葉を伝える。
いや、だって、カカシ上忍が時間通りに動いてくれりゃ、ナルトももっと気が楽になるんじゃないかと思うんだよなぁ……。
普通だったら、2時間とか3時間待たされりゃ誰だって機嫌悪くなると思う。
「あ〜そりゃ無理だ。あいつには、何度も言ってるが聞かねぇんだよ」
だけど、アスマ上忍から返された言葉は、まぁ諦めの言葉と言うモノだった。
いや、うん、ちょっとは期待したんだけどね。そりゃ、遅刻してくる相手に誰も文句言わない訳ないし……もう散々文句言って聞かれないから、今だに遅刻してるんだと思うんだけど……。
ため息交じりで言われた言葉に、俺もため息をつき考えている中、シカマルが不機嫌そうに口を開く。
「あ〜っ、んな事よりも、任務はいいのかよ……」
って、本当に不機嫌なのは何でだろう?
「ああ、すまん、すまん。今日の任務は、昨日言ったようにペット探しだ。頑張れよ」
不機嫌なシカマルに言われて、慌ててアスマ上忍が今日の任務の再確認。
そう言えば、今日の任務ペット探し……確か、トラを探すんだったよな?
マダムしじみ絶対に猫に嫌われてるって自覚した方がいいと思うぞ……。
小さくため息をついて、今日の任務へと意識を向ける。
心配していたよりも、簡単にトラを見つけることが出来て今日の任務時間は2時間で終了。
いや、本当早くてびっくり。
「んじゃ、今日はチョウジの誕生日だったな。祝に甘栗甘で奢ってやるか……」
任務が早く終わった事で、アスマ上忍の機嫌も宜しくそのまま甘味処で奢ってくれると言うので、素直に皆で移動した。
チョウジの誕生日会には出席できなくっても、これぐらいは祝いたいから俺も断らずに参加。
美味しい抹茶と水羊羹をご馳走になって、最後にもう一度チョウジへお祝いの言葉を述べて、解散となった。
その後、シカマルが影分身をチョウジの誕生日会に向わせたのだけが気になったけど、本人がそれでいいんだと言い張ったので、まぁいいのかと俺も納得。
そして、シカマルが影分身ならと、ナルトまでもが影分身を行かせたのは、更に疑問だった。