「おい!」

 突然、目の前で倒れた子供を慌てて抱き止める。
 体が弱いと言っていたのは、良く理解していたが、注意を受けていた割に、元気そうな子供に安心していた矢先の出来事。

 突然立ち止まったと思った瞬間、まるで糸の切れたマリオネットのようにその場に崩れる体に、内心かなり焦った。
 今日の任務は、体の弱いには、無理だろうと思い、3人だけに任務を任せ、は残って別の仕事をしてもらっていたのだが、その最中で突然が意識を失った。

 その前まではおかしな所など一つも無かったのに、頼んだ仕事だって、大した内容のモノじゃない。ちょっとした届け物の任務。
 だから、よりも別任務をしている3人に意識が集中していたから気付くのに遅れた。
 抱き止められた自分を誉めてやりたいぐらいだ。

「おい!」

 ほっとしたのも一瞬で、慌てての頬を軽く叩く。
 その瞬間、サラサラの前髪に隠されたその顔が、流れた髪のお陰でハッキリと拝む事が出来る。
 クロブチの眼鏡を掛けていても、全く気にならないぐらいの綺麗な顔。
 はっきり言って隠しているのが勿体無いと思えるほどの美少女…いや、こいつは、男だったな……。
 自分の考えた事に思わず突っ込みをして小さくため息をつき、ポーチから薬を一つ取り出す。
 こんな時は無理に意識を取り戻させるよりも、休ませた方がいいだろう。
 あいつ等も、暫くは戻って来ない。

「気付け薬だが、ねぇよりマシだろう……わりぃが飲んでもらうぜ」

 言ってから水筒を手に取り、の口にその薬を入れ水を飲ます。

「ゴホッ」
 突然の事にが咳き込んで薄らと瞳を開いた。

「っと、気が付いちまったか……もう少し休んでろ」

 開いた瞳の色は、深い紺色。
 まるで夜の空のような深い色合い。

「……ア、スマ、上忍?」

 その深い色の瞳が、不思議そうに自分を見詰めてくる。
 多分、今の状況が分かっていないのだろう。

「お前は、倒れちまったんだよ。だから、あいつ等が戻ってくるまで、休んでろ」

 そう言って、自分ではかなり軽くその頭を撫でてやる。

「……ご迷惑、掛けてすみません……」
「気にすんじゃねぇよ」

 謝罪するに、ただその言葉を返す。
 それに、ふっとが笑みを浮かべて、またその瞳がゆっくりと閉じた。

 よっぽど辛いんだろうが、それでも人に迷惑掛けた事を気にするなんて、困ったガキだ。
 ガキはガキらしく、我侭に生きればいいつーのに……。

「気を使い過ぎだ……もっと仲間に甘えるんだな…」

 途中参加だからと言うわけではないが、目の前の子供は、他の子供達に遠慮している。
 壁を作っているかのように、一歩引いて加わっているのだ。
 意図しているのかどうかは分からないが、それは仲間としては悲しい事だ。いや、それは既に仲間とは言えないだろう。

「……この班にだけでも、打ち解けりゃいいんだがな…」

 難しい事か……。
 考えた事に思わずため息をついた。
 腕の中では、がそのまま眠っている。

 あの3人の任務ももう暫く掛かるだろうと、気配を感じて、もう一度ため息をついた。

 この子供が、前髪で顔を隠しているのも、きっと訳があるのだろう。
 それが分かるだけに、複雑な気持ちは隠せない。
 この里は、こんな子供にまで、重荷を背負わせているのだと思うと、遣る瀬無い気持ちになる。

「……うずまきに、か……」

 と言う名前を聞いた事はないが、調べてみようと思わずには居られない。
 この里が隠している真実を知るために……。