「ごめん!」

 信じられない事に、人にぶつかって俺は慌てて謝罪の言葉を口にする。

「いや、私の方こそすまなかった」

 慌てて謝罪した俺と同じようにぶつかった相手も、素直に謝ってくれて、俺は思わずホッとしてしまう。
 そして、改めて自分がぶつかった相手を見た。
 って、何でここに砂の忍者がいるんだよ!!

「お前も、この里の忍びか?」

 驚いている俺の前で、不思議そうに質問してくるのは、砂の里のテマリ嬢。
 この姿では勿論初めてのご対面。
 今の俺の姿は、表の姿じゃなくって、裏と言うか本当の姿。
 前髪で顔を隠してない上に、コンタクトだって付けていない。
 更に言えば、そんな状態でも、首には忍びの証である木の葉マークの額宛てをつけたままの状態なのだ。

「まぁ、一応……」
「下忍、ではないな…その気配の消し方……」

 テマリ嬢の質問に、複雑な表情のまま頷いて返す。
 それに、テマリ嬢は、マジマジと俺に視線を向けてきた。
 やばい、何時もの癖で、完全に気配を消していた。
 それが原因でテマリ嬢とぶつかったと言ってもいいんだけどな……。

 さて、どうしたものか……。

 大体、何で砂の忍びが木の葉の里でこんに寛いだ状態で歩いてんだよ!ありえねぇだろう!!
 例え同盟国だとしても、やっぱりありえねぇって!

「あっ、俺、まだ任務があるんで、これで失礼……」
「どこかで、会った事が……」

 急いでこの場を去ろうと口を開いた俺に、テマリ嬢が考えるように呟いた言葉が俺の続けようとした言葉を遮ってくれた。
 いや、確かにテマリ嬢とは、何度か会っている。
 サスケ奪還の任務の時、ナルトとシカマルが大変お世話になったのも事実。
 勿論、その任務に俺は係っていなかったけどな。
 それでも、表の姿で任務についていた二人が無事に戻って来られたのは、砂の忍びの存在在ってこそだ。
 それに対しては、本気で感謝している。

 だけど、それとこれとは話が別。
 だからって、裏の俺を知られる訳にはいかない。
 ナルトとシカマルが、任務で居ないのが悔まれる。
 助けは望めないだろう……。
 小さくため息をついて覚悟を決める。

「砂の国のテマリさんですよね。確かに何度か御見掛けいたしましたが、俺はあなたと直接お会いした事は在りませんよ、残念ながら」

 必死で思い出そうとしているテマリ嬢に、俺は少し困ったようにそう説明した。

「この姿は変化しているモノですので、誰かお知り合いに似ている方がいらっしゃったのかもしれませんね」

 更にとどめとばかりに、ニッコリと笑顔。
 それに目の前のテマリ嬢が、一瞬赤い顔をしたのはきっと気のせいだろう。

「そうなのか?だが、そんな事、私に話しても良かったのか?任務の途中じゃ…」
「ええ、これから新しい任務につかなければいけないので、慌てていました。本当にすみません」

 少し困ったような表情で再度謝罪すれば、テマリ嬢が慌てて首を振る。
 どうやら、ごまかせたようだな。

「いや、私の方こそ、邪魔してすまなかった」
「いえ、俺は、テマリ嬢とお話出来て良かったですよ」

 慌てて謝罪するテマリ嬢に、ニッコリと笑顔。

「それでは、先を急ぎますので、失礼いたします」

 言ってそのまま渡りを遣って、姿を消した。


 いや、本当びっくりしたよな。
 偶然と言うのは、恐ろしい…。
 ぶつかった相手が、砂のテマリ嬢なんて、普通なら絶対にありえないよな。






-おまけ-

「そう言えば、砂の女から、お前の事を質問されたんだが、一体何があったんだ」
「砂?!って、我愛羅ん所の姉ちゃんだよな?、一体何したんだよ!」

 頑張って仕事を終わらせてきた俺を待ちわびていたのは、椅子に座ってナルトとシカマルを相手に話をしていた五代目火影。
 五代目のその質問に、ナルトが同じように質問してくる。

「ってもなぁ、何にも無いぜ。ただちょっと大ボケやらかして、テマリ嬢とぶつかっただけだ」
「ああ?お前が人にぶつかった?在りえねぇだろう」

「……シカマル。俺のここ数日の仕事量を考えろ。お前等以上に働いてんだぞ!最近は、一族の仕事も忙しい上に、暗部に下忍、俺に死ねって言ってるようなもんじゃねぇかよ!」

 言われた質問に答えた俺に、シカマルが驚きの表情を見せて、否定する。
 それに、俺は疲れるのも気にしないでそのまま怒鳴って返した。

「ああ、確かにここ数日お前には苦労を掛けているな。ナルトとシカマル同様、本日は上がって良いぞ」
「って、それだけかよ!」

 数日間の労いの報酬が一晩の休み。
 あ、ありえねぇ……。

「何にしても、その格好でうろつくんじゃないよ。誰彼構わず誑しこむんだからな」
「そうだ!は、その姿での外出禁止!」

 そして続けて言われた言葉に、思わず絶句。

 それって、俺の所為なのか?!
 頑張って仕事していたのに、逆に外出禁止ってありなのか?!

 だけど、不機嫌なナルトに、何も文句など言える筈もなく、俺は、ただ盛大なため息を付いた。