任務が終わって何時ものように、の家に帰って来てリビングで寛いでいると、キッチンから甘い香りが漂ってきた。
そう言えば、任務から戻って来てから、の姿が見えない。
「もしかしなくっても、ってばまた、何かあったんだってば?」
キッチンからの匂いに、そう思わずにいられない。
だって、がキッチンに篭ってる時って、そう言う事が多いから……。
「ああ?明日の準備でもしてんじゃねぇのか…」
俺の疑問に、シカマルが興味なさそうに本を読みながら答えてくれた。
「明日の準備?」
だけど言われた事の意味が分からなくって、俺は首を傾げてしまう。
本当、俺ってば行事を全然知らないんだって思い知らされる。
『明日は、ホワイトデーだからな』
疑問に思った事を聞き返した俺に、『昼』があっさりと言葉を返してくれた。
言われて、はたっとカレンダーへと視線を向ける。
「明日って、ホワイトデーだっけ??」
興味ないから全然覚えてなかった……正直言ってヤバイ。
サクラやいのに何のお返しも準備してねぇぞ……そう言えば、ヒナタからも貰ったよなぁ…それも準備しないと!
「お、俺、買い物してくる!!」
思い出して、立ち上がるとそのまま部屋を飛び出そうとする。
『ナル、今の時間から考えると、それは無理だと思うよ』
だけど飛び出そうとした扉を開いた瞬間、その入り口に浮かんでいた黒い猫の呆れたようなその言葉で我に返った。
そう言えば、夜の任務終わって戻ってきた時間なんだから、こんな時間に開いてる店なんて限られている上に、その開いている店には、自分が欲しいモノはきっと置いていないだろうと思って頭を抱え込んだ。
ヒナタに関してなら問題ないと思うんだけど、サクラといのはきっとかなり問題だと思う。
『心配しなくっても、がナル達の分も準備してたよ』
だけどその後に言われた言葉に、慌てて顔を上げた。
「ほ、本当に?」
『うん、嬉々としてお菓子準備してたから、問題ないと思うよ』
救いのようなその言葉に聞き返せば、『夜』が苦笑を零しながら返事を返してくる。
言われたその言葉に、俺は思わず安堵のため息を零す。
「だろうな……そう思ったから、俺も用意してねぇぞ」
『夜』の言葉にシカマルも、予想通りと言った様子だ。
って、今回も俺だけ全然分かってなかったんだ。……ヤバイ、落ち込むかも…。
何時もの事だと言われれば、その通りなんだけど、やっぱりちゃんと通じ合っているとシカマルを見ると落ち込んでしまうのは止められない。
そんな処でも、二人の時間を考えさせられてしまう。
「よっしゃ!出来た」
そんなことを考えていた俺の耳に、キッチンから出てきたの声で現実へと引き戻された。
「これが、シカマル用のクッキー。んで、ナルトにはマーマレード…で問題ねぇ?」
可愛く準備されたそれは、女の子には喜ばれるだろう可愛いラッピングが施されていた。
しかも、が作ったって事は、味もバッチリって事だよな。
「俺は問題ねぇつーか、毎年頼んでるからな」
「まぁな、嬉しい事に山中嬢も気に入ってくれて、毎年楽しみにしてくれてるみたいだし……で、ナルトはマーマレードで問題ねぇか?もし他のが良かったら作り直すけど」
の質問にシカマルが返事を返せば、嬉しそうに返事をして、続けて俺へと質問。
「えっと、俺は何でもいい……が準備してくれたんだったら、味も心配してないし……」
「んじゃ、これナルトのな。明日、ちゃんと女の子達に渡してやんなきゃ!」
「んで、お前は何用意したんだ?」
三つの包みを俺に手渡して、がニッコリと笑顔。
そんなに、シカマルが疑問をぶつけた。
「迷った挙句、無難なところでサツマイモのプリン…なんか可愛くって美味しそうだったから……本に書いてあった通り二個づつ入れて、んでスプーンもセットでラッピングしてみた。余分に作っといたから、食ってみるか?」
シカマルの疑問に、が返事を返してるけど、無難?それって、無難なお菓子なのか?俺ってば、初めて聞いたんだけど……。
でも、差し出されたプリンを貰って一口。
「美味しい……」
しっかりとサツマイモの味するし……でも、サツマイモって、秋なんじゃ…。
「そっか、そう言ってもらえて安心した。初めて作ったから、流石に自信なかったんだよな」
ポツリと呟いた俺の言葉に、が嬉しそうに笑う。
って、初めてでもこんな美味しいの作れるを尊敬出来るかも……。
「んで、『夜』には、シフォンケーキ作ってるから、明日一緒に食べような」
『うん、楽しみにしてるね』
そして、『夜』へと声を掛けるにはっとする。
そう言えば、俺も『夜』にチョコレートご馳走になったから、お返ししないと……。
明日、任務終わってから準備した方がいいよな……。
サクラ達のは、が準備してくれたけど、『夜』のぐらいは自分で準備したい。
それに、にも、お返ししたいよなぁ……。
「んじゃ、食べて直ぐに寝るのはあんまり良くねぇんだけど、明日つーか今日も下忍任務だからさっさと寝ちまおうぜ」
プリンを食べ終わったところで、が言ったその言葉に、小さく息をつく。
そう言えば、もう日付変わってる時間だ……シカマルは、その言葉に気乗りしないようだけど、『夜』に文句を言われて渋々部屋を出て行く。
「んじゃ、お休み、ナルト」
シカマルに続いても出て行く。
「お休み、」
俺に声を掛けてくれたに返事を返して、その後姿を見送った。
『で、お前は動かないのか?』
だけど、一向に動こうとしない俺に、『昼』が小さくため息をつきながら声を掛けてくる。
『夜』は、先に休む事になったの代わりに後片付け中。
「あの、のお菓子の好みってどんなのだ?」
だけど、俺はそんな二人に質問する。
『の菓子の好み?』
『う〜ん、そうだね。和風でも洋風でも何でもOKだよ。でも、甘すぎるのは、好きじゃないみたい。ナルは、が作るお菓子食べてるよね?あのぐらいの甘さが好みみたいだよ』
言われて、俺はが作るお菓子の事思い出す。
確かに、の作るお菓子って、そんなに甘いって言うほど甘くない。
お菓子だから、それなりに甘いといえば甘いけど、そんなに甘いモノが好きじゃない俺やシカマルでも食べられる甘さ。
「う〜ん、難しい……」
『でもね、きっとナルが準備したモノだったらどんなモノでも喜ぶと思うよ』
それを思い出して、小さくため息を付いた俺に、『夜』が楽しそうに笑いながら、しっかりと俺の考えを読んで言葉を返してくれる。
『そうだな……菓子じゃなくっても、酒でも喜ぶぞ』
『それは、じゃなくって、『昼』が嬉しいんでしょう。もう、一応も未成年なんだよ』
考え込んだ俺に、『昼』がアドバイス。
それにしっかりと突っ込みを入れる『夜』の言葉に俺は小さくため息をついた。
一応じゃなくって、完全に未成年だと思う…。
そう、突っ込みたいのを、必死で我慢しながら……。
そんな訳で、その日の任務は無理矢理さっさと終わらせた。
そう、カカシに遅刻なんてさせないで、時間通りに来させて、速攻で任務を終わらせた。
多分、達の班もまだ任務終わってないというぐらい即効で!
こっそりと、実力出して、しっかりと終わらせた任務に、サクラとサスケは呆然としていたけど、知ったことじゃない。
が準備してくれたお返しをしっかりとサクラに渡して、俺は解散と同時に走り出す。
「俺ってば、今日は急いでるからまただてばよ!」
返事も聞かずに走る。
だって、と『夜』にお返し準備したいから!
3人の気配が感じられなくなったところで、しっかりと変化。
だって、俺の姿で買い物に行ってに余計な心配をかけてくないから……。
それで、これって言うのを買ってから、ヒナタのところへもお返しを届ける。
その後、いのにもお返しを届けて、一緒の班であるとシカマルと一緒にその場を離れた。
「あの、……」
「んっ?」
任務につく前に、ヒナタとサクラにお返し渡していた二人とのんびりとの家に向っている中、俺が声をかければ、が立ち止まって俺を見る。
「これ、何時もお世話になってるお返しだってば!」
そして、買ってきたそれをへと差し出す。
何にするかすっごく悩んだんだけど、何時も紅茶を飲むには、これがいいかなぁと思って、紅茶の葉を買ってきた。
でも、紅茶の葉を買いに行って思ったんだけど、すっごい種類があって困ったのは、本当の事。
どれにするか悩んだ末に、店員から勧めて貰ったモノをそのまま買ってきた。
「……あ、有難う…って、俺、ナルトに何もしてねぇんだけど……でも、これ、俺の為に買ってくれたんだ……すげぇ嬉しい。有難うな、ナルト」
俺が差し出したものに、一瞬驚いたような表情を見せたが、少しだけ照れたように俺が差し出したそれを受け取ってくれる。
「ここの店の紅茶好きなんだ、サンキューナルト」
そして、ニッコリと俺の大好きな笑顔で言われた言葉に、俺も思わず笑顔を返した。
「喜んで貰えて良かった……紅茶って、すっごく種類があって、どれにするのか悩んだんだけど、それでも大丈夫だった?」
「おう、全然問題ねぇ!んじゃ、帰ったらナルトがくれたこの紅茶で、お茶しようなvv」
ニコニコと嬉しそうに言われるその言葉に、俺はホッと胸を撫で下ろした。
喜んでくれた事が、本気で嬉しい。
「んじゃ、早速帰るか!」
そして、続けて言われた瞬間、俺とシカマルはしっかりとに腕を取られた。
「ちょ、ちょっと待て!」
「待てねぇよ!」
慌ててシカマルが止めるけど、それを完全無視状態で、既に組まれる印。
最近見慣れてきたその印を見た瞬間には、目の前の景色は全く違う場所へと写っていた。
『お帰り三人とも』
そして、聞えてきたその声に、乾いた笑い。
うん、大分慣れてきたんだけど、やっぱりの『渡り』は、すっごくドキドキしてしまう。
失敗しないと分かっていても、どうしても……。
「ただいま!んじゃ、早速準備してくるな!」
るんるん状態のは、元気に『夜』に返事して、さっさと部屋から出て行く。
それを見送って、俺とシカマルは同時に盛大なため息をついた。
『お前達は、まだ慣れないのか?』
「慣れるには慣れてるんだけど、やっぱりな……」
「に腕組まれるとドキドキするんだよね…」
そんな状態の俺達を『昼』が呆れたように見詰めてくる。
それに、俺達はもう一度ため息をついて、こっそりと理由を口にした。
うん、なんて言うか、渡りには、慣れてるんだけど、に腕を組まれる事が慣れないんだよ……。
いや、うん、悪い意味では全くないんだけど……。
『で、二人とも帰ってきた時の挨拶は?』
疲れ切っている俺達に、『夜』が少しだけ怒ったような笑顔で質問。
「えっと、ただいま……」
「ただいま…」
不機嫌なその様子に、俺は慌てて挨拶。シカマルも同じように俺に続いた。
『はい、お帰り』
そんな俺達に満足したのだろう『夜』が、ニッコリと笑顔。
「あっ、そうだ!これ俺から『夜』へバレンタインのお返し……何にするか迷ったんだけど……」
無難なところで申し訳ないんだけど、クッキーにしてみた。
味は、女の子達がお勧めしていた店だから大丈夫だと思う。
『えっ、ナル、ボクにもお返し準備してくれたの?』
差し出されたそれに、『夜』が驚いたように俺を見る。
質問された事に、俺は素直に頷いた。
「大したモノじゃないんだけど……」
『ううん、嬉しいvvそれじゃ、皆で一緒に食べようねvv』
これまた上機嫌の『夜』に、俺は照れたように頭を掻いた。
「お待たせ!」
そんな中、キッチンから戻ってきたが勢い良くドアを開いて部屋へと入ってくる。
その瞬間香ってくるのは、甘いお菓子の香りと、それから俺がに渡した紅茶の匂い。
「そんじゃ、お茶にしようぜ」
何時ものように言われたその言葉に、俺は笑みを浮かべた。
すっごく単純な事だけど、こうやってお返しするのもいいものなんだとそう思う。
それが、どんな小さなモノで、大したモノじゃなくっても、相手が喜んでくれるそれが、自分にとっても嬉しい事だから……。
その後、が準備してくれたお返しは、女の子達には、人気が良かった。
一番人気良かったのは勿論、のプリン。
スプーンまで入っていたと言う気配りに、女の子達は、本気で喜んだらしい。
それに関しては、少しだけ面白くなかったのは、秘密。