スポンジケーキを初めて作ったのは、何時だっただろう?
確か、物心ついた時だったような気がする。
そんな小さい頃から、菓子作りが好きなんて、俺もどうかしているよなぁ……。
『、ケーキ焼いてるみたいだけど、何のケーキ作ってるの?』
スポンジケーキが焼き上がるのをゆっくりと待っていた俺には、声を掛けられて本から視線をそちらへと向ける。
「う〜ん、今日は季節的にもマロンケーキにしようかと……森の住人達が栗を一杯くれたからな」
『そう言えば、御裾分けにって持ってきてくれてたね。それじゃ、ナルが好きなモカマロンなんていいんじゃない?』
「モカマロンなぁ……この本だと、カスタードになってたけど、その方がナルトが喜びそうだな。よしそっちにするか!」
決まれば後は準備をするだけ。
スポンジケーキは焼き上がるのを待つだけだし、その間にクリームの準備をする。
そうすれば、出来上がるのはちょっとだけほろ苦い味のモカマロンケーキ。
トッピングに栗をいくつか乗せれば完成だ。
「出来た!」
『うん、出来たね。そう言えば、初めてが作ったケーキもマロンケーキだったよね』
出来上がったケーキを満足気に見ていた俺に、『夜』が思い出したと言うように口を開く。
そう言えば、そうだっただろうか?
あまりに小さかったから、もう覚えていない。
『その時も、森の皆が今日みたいに栗を持ってきてくれたんだよね。それで、はモンブランが食べたいって言って、ボクが作ろうかって言ったら、自分で作るって言ったのが始まり。それから、すっかりお菓子作るのに嵌っちゃたみたいだけど……』
昔を思い出しながら楽しそうに笑う『夜』に、俺は覚えていないだけに何も答える事が出来なかった。
でも言える事は一つ。
「んじゃ、その時よっぽど上手く出来たんだろうな……」
『違うよ。その反対』
その当時を思い出すように言った俺に、『夜』が否定の言葉を返す。
『その時のスポンジは膨らまないし、中まで綺麗に焼けて無くって、食べられたモノじゃなかったんだよ』
当時を思い出しながら、『夜』が楽しそうに笑いながら話すその言葉を俺はただ黙って聞いていた。
『だけどね、そんなケーキをね、『昼』が美味しいって食べてくれたのが始まり。自分で食べて、それが食べられないものだって分かった時にね、泣いちゃって、今度はちゃんと美味しいの食べさせるんだって、それからどんどん料理上手になっちゃったんだよね』
クスクスと笑っている『夜』のその言葉に、俺は当時の自分を思い出そうと頑張ってみる。
た、確かに、そんな記憶もあったような・……。
今思えば、恥ずかしい記憶だ。
「まぁ、そんな昔が合ったからこそ、今このケーキが出来上がってる訳だ。それじゃ、早速お茶にしようぜ!」
ケーキを片手にウインク付きで話を纏める。
そう、昔の自分があるからこそ、今の自分が居るのだ。
昔は食べられた物じゃないとしても、今は本当においしいと言ってくれる人達が居るから……。
「お待たせ!」
リビングで寛いでいるその大切な人達に、切り分けてきたケーキを手渡す。
「うん、美味しい!」
俺が渡したケーキを美味しいと笑顔で食べてくれる人達の姿に自然と俺も笑みを浮かべる。
「そう言やぁ、何か賑やかだったみてぇだけど、何かあったのか?」
本を読んでいた手を止めて、俺のケーキを食してくれていたシカマルが、疑問に思った事をそのまま問い掛けてくる。
俺は一瞬『夜』と顔を見合わせて、二人で笑い合った。
「二人で分かり合うなんて、ずるいぞ!」
幸せそうにケーキを食べていたナルトが、そんな俺達に文句を言う。それに、俺と『夜』はもう一度笑って、何を話していたのかを、説明する。
それは、小さい頃の事。
初めて俺が、ケーキを作った時の話。
そんな話を、俺の大切な人達に、話す。
そのお茶菓子は、勿論、俺の作ったスポンジケーキ。