が自分達について来ずに、立ち止まってしまった事に気が付いて俺もその足を止め振り返る。
「?」
振り返った先では、真っ青な表情で自分の体を抱き締めるように立ち止まっているが居た。
「……悪い、足が言う事聞いてくれねぇみたい……」
そんな状態だと言うのに、は無理に笑顔を見せる。
それは、逆に人の胸を痛くさせるような笑み。
「バカ!んな真っ青な顔して、無理して笑ってんじゃねぇ!」
そんなに、怒ったように声を荒げてシカマルが駆け寄ろうとする。
「シカマル!」
だけど、そんなシカマルを俺は名前を呼ぶ事で引き止めた。
「ナルト?」
俺に名前を呼ばれて、シカマルが訝しげに俺の名前を呼ぶ。
そんなシカマルに、俺は少しだけ困ったような表情を見せた。
俺自身、今直ぐにの傍に行ってやりたいと言う気持ちが強くって体が自然と動きそうになるのをギュッと拳を握り締める事で堪える。
「が、言ったんだ。『前に進みたい』って。だから、が自分で動かないとダメなんだ……」
自分の意志を伝える為に、俺は真っ直ぐにを見詰めながらハッキリとした口調で自分の気持ち言葉にした。
俺の言葉を聞いて、一瞬が瞳を見開く。
そして、強張っていたその体から、少しだけ力が抜けたのが分かる。
「……やっぱり、ナルトだよな……」
ポツリと呟かれた言葉と同時に、辛そうだけど何時もの人を温かな気持ちにしてくれる笑顔が向けられた。
その笑顔に俺も、笑顔を返し、同じように入っていた力を抜いて、スッと手を差し出す。
「仕方ねぇなぁ……ここで待っていてやっから、早く来いよ」
そんな俺達の遣り取りを黙って見守っていたシカマルも、小さくため息をついて俺と同じように、へと手を差し出した。
「……ごめん、有難う……」
俺達が手を差し伸べる中、少しだけ離れた場所に居るがゆっくりと足を前へと進める。
「大丈夫。俺達は、ちゃんと待っているよ」
それは本当にゆっくりで、だけどにとっては精一杯だと分かる歩み。
だけど、が頑張っている事が分かるからこそ、俺は自然にへと声を掛けた。
「めんどくせぇが、ここまで来たんだ。お前が納得出来るように、ちゃんと付き合ってやるよ」
その隣で、シカマルも当然だと言うように声を掛ける。
そんな俺達に、がまた嬉しそうに笑顔を見せた。
勿論、の能力はちゃんと知っているんだけど、こんなに辛い思いをしてまでここに来たいと言ったの気持ちは分からない。
だけど、前に進みたいと言ったその言葉だけが俺を動かしたんだ。
本当なら、そんな辛い思いはて欲しくない。
そう思うけど、強くなりたいと思う気持ちは誰よりも分かるからこそ、俺はここでを待つ事が出来るのだ。
「ナルト、シカマル」
ゆっくりとした足取りで俺達の前に歩いてきたが、ギュッと差し出していた俺達の手を掴む。
「……有難う……」
そして、フワリと笑った。
「前、進めたんじゃねぇの」
綺麗な綺麗なの笑顔を前に、シカマルが少し赤くなった顔を逸らしてポツリと口を開く。
「うん、お前達が居てくれたから、前に進むことが出来た。だから、有難う」
ギュッと俺達の手を取ったまま、が再度お礼を言う。
「俺達は何もしてないよ。が頑張ったから前に進めたんだ」
俺達の手を握っているの手が、震えているのが分かる。
きっと逃げ出したい気持ちを堪えているのだろう、だけど、こうしてここに来たに俺は精一杯の笑顔を見せた。
そんな俺に、は一瞬驚いたような表情を見せたけど、次の瞬間には突然抱き付かれた。
「!」
突然の事に、俺は驚いての名前を呼ぶ。
ぎゅっと抱き締めてくるに、俺はただ慌てる事しか出来ない。
絶対は、今の自分の性別を忘れていると思う。何時もよりも柔らかなの体に、ドキドキするのは仕方ないだろう。
「……ナルト、大好き!!」
どう反応するべきか困惑している俺を他所に、が漸く俺から離れてニッコリと笑顔で告白。
「お、俺もの事、大好きだってばよ……」
って、思わず動揺して表口調で返事返しちゃったってばよぉ!!!!
「お前等、俺を無視してんじゃねぇつーの……で、お前はここに来て何をしたかったんだ?」
何か思わず返してしまったそれに、が嬉しそうに笑うから、ますます顔が赤くなってしまう。
絶対ってば、『美少女だよなぁ』なんて思っている俺の耳に、呆れたようにため息をつくシカマルの声が聞えてきて我に返った。
そ、そう言えば、前に進みたいからここに来たいんだって聞いたけど、本当の理由は全然分かっていない。
シカマルの質問内容に、俺もを見る。
「……女でしか出来ない事があるから……」
俺とシカマルが見詰める中、がポツリと口を開く。
「女じゃねぇと出来ない事?それが、ここと関係あんのかよ」
呟かれたそれに、更にシカマルが質問。
シカマルの質問に、コクンとが頷いた。
この場所で、女じゃないと出来ない事?一体何だって言うんだろう??
意味が分からないと言うように、俺達はの言葉を待つ。
「……一族に伝わる舞の中には、女でなければ舞えないモノが沢山あるんだ。これから、この場所で舞うそれも、その一つ」
言った瞬間に、の着ていた服が巫女装束へと変化した。
印も組まずに変化した事に、俺もシカマルも驚かされた。
一体、どう言う仕組みになっているんだろう………じゃなくって、女でしか舞えない舞って……。
「見ててくれるか?精一杯、舞うから」
言っては何処から出したのか、扇を両手に持ち深く頭を下げた。
そして、風の調べと共にの舞が始まる。
行き成りの転回に頭は付いていかない状態だったけど、その綺麗な舞に目は釘付けになってしまった。
まるで包み込むような、優しい舞。全てのものに癒しを与えるような、そんな不思議な不思議な舞だった。
奉納舞は、威厳ある神への舞だとすれば、この舞は慈しむ母のような舞。
確かに、この舞は女でしか舞う事は出来ないだろう。
母とは、女性なのだから……。
時間にすれば、一体どれぐらいだったのか定かじゃない。
10分だったのかもしれないし、1時間だったのかもしれない。
今、目の前では、舞を終えたが、倒れていた体を起こしていた。
それを何処か遠い場所で見ながら、俺もシカマルも何も反応を返す事が出来ない。それだけ、見せられた舞は、綺麗で心安らぐモノだったのだ。
「どうだった?」
何時の間にか、あの若草色のワンピース姿に戻っていたが、俺達に声を掛けてきた事で、我に返る。
「……確かに、ありゃ女じゃねぇと舞えねぇな……」
「うん、奉納の舞が、慰めの舞だとすれば、今の舞は全てを慈しむ舞」
俺よりも先に声を出したのはシカマルで、それに続いて俺も口を開く。
俺達のその言葉に、はフワリと笑顔を見せる。
「うん、俺は偽りの女だけど、それが伝わってたのなら、良かった……それに、これでここが、俺にとっても普通の場所になれた」
俺の言葉に満足そうにが笑顔を見せて、続けて言われたその言葉に、漸く気が付いた。
確かに言われてみれば、先程までと明らかに空気が違う事に気が付く。
なんて言うのか良く分からないけど、何かが変わったとしか表現できない。
「……お前がしたかったのは、これか……」
先程の舞は、ここに眠っている人達に向けてのモノ。が、ここに来たいと言った本当の理由。
俺もシカマルと同じように、の返事を待つようにじっとその顔を見た。
「………うん。俺達は表で、下忍になった。だから、任務は選べないだろう?下忍の任務には、ここの清掃作業もあるからな……」
俺とシカマルに見詰められて、居心地悪そうに困ったような表情を見せて、が言い難くそうに口を開く。
「そんなの!じーちゃんだって、の能力知ってるんだから、何とかしてくれる。それに、もしそうなったとしても、俺やシカマルが……」
「そう言われるのは、分かっていた。だけど、性別転換の術が施されてる今なら、ここを少しでも変えられると思ったから!」
言われた言葉に、俺が信じられないと言うように返せば、その言葉はの言葉によって遮られてしまった。
「……お前のお袋さんは、確か一族随一の先見の能力者だったよな」
俺の言葉をさえぎって言われた内容に、シカマルが小さくため息をついて、確認するように口を開く。
どうしてここでの母親の事が出てきたのか分からずに、俺は思わずシカマルへと視線を向ける。
「……本当、シカには隠し事できないよな………俺も予想でしかないけど、お袋は、こうなる事を予想して俺に術を施したんだと思う」
言われた言葉に、驚いて瞳を見開いてしまう。
の母親がそんな事を見越して術を施したなんて、普通に考えたとすれば有り得ない。
勿論、俺がそう思う理由は世の中の母親と言う者が、子供をどれだけ大切にしているかを想像として知っているから……。
自分には与えられる事はないと知っていても、その想いをずっと羨ましく思っていたのだ。
なのに、そうなると分かっていて、の母ちゃんが術を施したとすれば、の母ちゃんは、の事が可愛くないのか?
「……たく、エラク過保護な親だな……」
信じられないと言うようにの言葉を聞いて考え込んでいた俺の耳に、呆れたようにシカマルが口を開いた。
過保護?何処から、そんな単語が出てくるんだ??
「……俺もそう思う……」
困惑している俺を他所に、がシカマルの言葉に苦笑を零して頷いた。
「……どうして、そこで過保護なんて言葉が出てくるんだ?だって、態々に辛い想いさせなくっても……」
「ナルト、獅子は、自分の子を谷から突き落とすってのは知ってるな?」
そんな二人に信じられないと言うように俺が口を開けば、その言葉はシカマルによって遮られた。
確かに、獅子は、自分の子を谷から落とす事は知っている。それは、その子を強くする為だって事も……。
「あっ!」
疑問で返されたそれに、俺は頷いて返してから気がついた事に、思わず声を出す。
「気が付いたみてぇだな。そうだよ、こいつのお袋も、そう願って術を施したつー事だ」
「まぁ、正直言えば、かなり迷惑だったことは否定しないけどな」
シカマルが小さくため息をついて口を開けば、クスクスと楽しそうに笑ってがその言葉を続けた。
「って事で、最悪な一日も、後僅か。『昼』!」
『呼んだか?』
空を見上げて時間を確認したが、突然『昼』の名前を呼べば、空間から白猫の姿が現れる。
「ずっと様子を見てたのは知ってるから…心配掛けてごめんな………もう帰るぞ」
当然のように出て来た白猫に、はギュッとその体を抱き締めた。
こうして、長いようで短かった一日が終了する。
だけど、また同じような事がないとは断言出来ない。