「どう、私達のお見立て」

 待たされる事約1時間半。

 サクラといのに連れ去られてしまったを待って、俺とシカマルはその時間を待ち惚け状態。
 このまま戻って来なかったらどうしようかと本気で思い始めた時、漸く二人が戻って来た。

「たく、散々人待たせやがって……」

 何時ものように空を見てぼんやりしていたシカマルが、ダルそうに顔を二人へと向ける。
 俺もシカマルと同じように、二人を振り返った瞬間その動きがフリーズした。

 『夜』が見立てたお姫様スタイルと言う藤の花をモチーフに作られていた薄紫の着物は、上品で大人しいイメージでに似合っていたけど、それは何処か近寄り難い雰囲気を持っていて俺としてはあんまり好きじゃなかったんだけど、いのとサクラに連れられて戻って来たの格好に、その思考がフリーズする。

「月下の、ねぇちゃんだってば?」

 二人に連れられて戻って来たのは、何処から見ても美少女と言う言葉がぴったりな少女が一人。
 長い後ろ髪はそのまま下ろされていて、前髪は邪魔にならないようにと綺麗にセットされている。

 そして、その今の格好はと言えば若草色のワンピース姿。
 無地のワンピースは、膝下まであり風でフワリと流れる柔らかな素材。風で流されれば、その下に白いレースがチラリと見えた。
 その若草色のワンピースの上には真っ白なカーデガン。そして、手に持っているのは真っ白な帽子。

 何処からどう見ても、可憐なお嬢様がそこに立っていた。

「あ、あの、お待たせしてしまって、本当にごめんなさい……」

 ぎゅっと帽子を握り締めて、が困ったように謝罪する。

「いや、その……」

 文句を言おうとしたシカマルも、の姿に戸惑って言葉にならないようだ。
 俺も、シカマルと同じで、開いた口が塞がらない。

 女の子って、格好だけでこんなにも変わっちゃうんだと改めて思い知らされた気分だ。

 着物姿のは、凛としていて何処か近寄り難い雰囲気を持っていたのに、今のは、なんて言うか守ってあげなくっちゃって思える程フワフワした柔らかいイメージを持っている。

「ほら、月下さん二人とも見惚れちゃってるわよ」
「本当。ここに戻ってくるまでに、何人の男に声掛けられたか、数えるのも馬鹿らしくなっちゃうわよ」

 呆然と見詰めている俺とシカマルを前に、サクラといのがに笑みを浮かべる。
 そんな二人の言葉に、はただ苦笑を零した。

「はい、これ月下さんが着ていた着物。ちゃんとあんた達でエスコートしてあげなさいよ」

 そして、一つの紙袋を俺に押し付けてウインク付きで激励の言葉。

「わ、分かってるってばよ!」

 手渡されたそれを受け取って、俺は元気良く返事を返した。
 それに、満足そうに笑顔を見せるサクラ。

「それじゃ、私達はこれで。月下さん、機会があったらまた一緒に買い物に行きましょうね」

 いのは楽しそうにに声を掛ける。
 そんないのに、は深々と頭を下げた。

「いのさん、サクラさん、ご迷惑をお掛けしてしまってすみませんでした」
「そんな事ないですよ。私達も楽しんじゃいましたから」

 の謝罪の言葉に、サクラが笑顔で返事を返す。

「そうそう、こんな美人のコーディネート出来るなんて早々あるものじゃないものね」

 笑顔で返したサクラに続いて、いのも頷く。

 確かに、早々居ないよなぁ、こんな美少女……もっとも、何時も居るのは、美少年だけど……。

 内心でそんな事を思っている俺など関係なく、がサクラといのに、お礼とさよならの挨拶をしている。
 サクラといのの事を名前で呼んでいる事からも、しっかりと自己紹介している事が伺えた。
 の口調は、何処から聞いても大名のお嬢様として完璧な口調なのも感心させられてしまう。

「それじゃ、私達はこれで……」
「はい、お気を付けてお買い物を楽しんでくださいね」

 手を上げて去って行く二人に、がニコニコと返事を返す。
 それに、再度何かを話してから、そのまま二人は自分達の目的の為に去って行った。

「つ、疲れた……」

 その二人が居なくなった瞬間、が近くのベンチへと座り込む。
 勿論辺りには誰もいない事は、しっかりと確認済みだ。

「だ、大丈夫だってば?」

 ぐったりとした様子のに、心配して思わず声を掛ける。

「……出来れば、このまま帰りてぇ……」

 俺の気遣いに、が正直に返してくれたその内容に、思わず苦笑を零してしまう。

 あの最強と言ってもいいくノ一二人に振り回されたのだから、の気持ちは痛いほど良く分かると言うものだ。

、ほらよ」

 そんな中シカマルが声を掛けてきたのと同時に、何かが投げられる。
 声を掛けられて顔を上げたが、投げられた物を慌ててキャッチ。

「それでも飲んで休憩しとけ」

 シカマルから投げられたのは、一本の缶ジュース。
 どうやらシカマルが、近くの自販機で買って来たモノなのだろう。

 本当、こんな所でもシカマルの気配りは健在だ。
 さり気ないシカマルの気遣いに、は受け取った缶ジュースとシカマルを交互に見詰めてから、フワリと笑顔を見せる。

「サンキュ、シカマル」

 人の心を温かくさせる俺の大好きな笑顔で、シカマルに素直に感謝の言葉を口にするを前に俺はぎゅっと手を握り締めた。
 幼馴染と言う二人の関係が、羨ましくもある。

「そ、それじゃ、少し早いけどお昼にするってば?」

 そんな二人を見ていられなくって、俺は慌てて話を逸らすように態と元気良く提案。

「そうだな……ナルトのお勧めの店ってあるか?」

 シカマルから渡されたジュースのプルトンを開けてそれを一口飲んでから、が俺の言葉に同意して問い掛けてくる。
 それに内心ホッとしたのは、きっと秘密。

「そう言えば、お前は外食なんてしねぇからな……まぁ、俺も人の事は言えねぇけど……」

 の質問に、納得したようにシカマルが言えば、ただは困ったように笑顔を見せた。
 確かに、が外食なんてするとは思えない。だって、には食事を準備してくれる人も居るし、自分でも料理をする事が好きなのだ。
 そして、何よりも、偽りの姿を持つが、里との触れ合いを極力避けているのだと知っているから……。

「お、俺もそんなに外食する訳じゃないってばよ!」

 だけど、それは俺も同じ。

 里の嫌われ者である器の俺に、喜んで食事をさせてくれる所など皆無と言ってもいい。
 そんな俺が許され、安心して食事出来る場所は、この里でも一軒しかないのだ。

「うん、ナルトのお勧めって言えば、一楽だろう?俺、一度でいいから行ってみたかったんだよな」

 そんなシカマルに、俺は言い訳のように言葉を返した。
 それに、が頷いて真っ直ぐに俺を見詰めながらフワリと笑顔。
 その笑顔で、自分の顔が赤くなるのが分かる。
 は、俺の事をちゃんと知ってくれているのだと分かるから……。

「そ、その格好で一楽に行くんだってば?」

 それが分かるから、慌てて誤魔化すように言葉を返す。

「変か?」

 自分の言葉に、が自分の格好を確認するように見てから首を傾げる。
 すっごく女の子らしい格好で、一楽に行きたいなんて、やっぱりなんだと思えて嬉しくなった。

「変だけど、らしいってば」

 自分の格好に無頓着過ぎる

 サクラやいのに美人なんて言われても、自分の事だとは全く思っていなかった事もちゃんと知っている。
 そんな所も全部で、俺はそんながすごく大好きなのだ。

「それじゃ、お昼は一楽に決定だってばよ!」

 だから、俺が大好きだと言える場所をすんなりと口にしてくれたに、元気良く返事を返した。

 そんな俺に、シカマルも呆れているのが分かるけど、これが表の俺だし、何よりも嘘偽りのない素直な気持ちでもある。
 美味しいと思えるお気に入りのお店に、自分が一番大好きな人と一緒に行けるのだから……。







 ナルトの意見で昼は一楽に決定。
 まぁ、そうなる事は予想済みだったんだけどな。
 一度は行ってみたいとぼやいていたのは知っている。
 ナルトを受け入れた唯一の店。だからこそ、その店主達に会いたいとも言っていた。

 本当に、こいつの頭の中はナルトの事しかないんじゃねぇのかと思えてくる。
 もっとも、それだけこいつ等がお互いの存在を一番に考えているつー証拠だ。

 ナルトもナルトで、俺に対しての嫉妬丸出しで分かり易い。まぁ、俺もこの場所をあいつに譲るつもりはサラサラねぇけどな。
 こいつ等が互いを一番としている事を知っているから、俺は一歩引いた場所でお前等を見守ってやるよ。



「おっちゃん、俺ってば味噌チャーシュー大盛りだってばよ!!」

 元気良く表のナルトが一楽の店主へと声を掛けた。

「よう、ボーズ。今日は偉い別嬪さんの連れじゃねぇかよ」
「おう、こっちは、月下のねぇちゃんだってばよ。やっぱり木の葉って言ったらおっちゃんのラーメン食わないと始じまらねぇから連れてきたんだってば」

 ナルトに続いて顔を出したの姿を見た瞬間、店主が笑顔でナルトに話し掛けてくる。
 それに対して、元気良く返事を返すナルト。

「嬉しい事言ってくれるじゃねぇか。ボーズ、チャーシューおまけしといてやるからな」
「ラッキーだってば」

 そんなナルトに笑顔でラーメンを作る店主は、好感の持てる親父さんだった。

「いらっしゃいませ。ナルトくんは何時ものよね。それじゃ、君は何にする?」

 そして奥から出て来たのは、店主の愛娘であり一楽の看板娘。
 質問を向けられた俺は、一瞬考えるようにメニューが書かれているそれに目を向けた。

「俺は、普通サイズの塩ラーメン」

 そして、自分の食べたい物を注文。

「シカマル、塩なんてじゃどうだってばよ!やっぱりラーメンは味噌に限るってば!」

 そんな俺にすかさずナルトが文句を言ってくる。本当に、表のこいつは煩くってかなわねぇよな。
 大体、邪道ぐらい漢字を使え、漢字を……。

「あら、家は何でも美味しいのよ」

 そんなナルトに、ニコニコと笑顔で反論するのは、看板娘。

「そうかもしれねぇけど、俺は断然味噌だってばよ!」

 そんな看板娘に、ナルトは拗ねたように返事を返した。
 そんな遣り取りを見ながら、がクスクスと楽しそうに笑っている。

「では、私はナルトくんのお勧めする味噌チャーシューをお一つお願いいたします」
「さすが、月下のねぇちゃんてば話が分かる!」

 しっかりとがナルトのお勧めの味噌チャーシューを注文。
 ハッキリ言って、その格好と味噌チャーシューって、ギャップあり過ぎるだろう。

「はい、有難うございます。塩と味噌チャーシュー各一丁!」
「あいよ。まずはボーズお勧めの味噌チャーシュー大盛り一丁上がり」
「待ってましたってば!」

 一番に注文していたナルトのラーメンをその前に置けば、箸を持って早速食べ始める。
 何時も思うんだが、こんな演技していて疲れねぇのか、こいつ。

「あの、月下さんって呼んでも大丈夫ですか?」
「はい?」

 嬉しそうに一楽のラーメンを食っているナルトを見ていた俺達に、看板娘がへと声を掛けてくる。
 言われた事に、小首を傾げて問い掛けるに、看板娘が顔を真っ赤にした。

「ナ、ナルト君が、その『月下のねぇちゃん』って呼んでいたので……」
「はい、私、月下と申します。勿論、お好きに呼んで頂いて問題ありません」

 真っ赤になって言い訳するようにボソボソと言われた内容に、も納得したのだろう、ニッコリと花のような笑みを浮かべて自己紹介。

「そ、それじゃ、月下さんは、家の店なんかで良かったんですか……その、ラーメンなんて召し上がらないんじゃ……」

 しどろもどろ状態で、看板娘が自分の店をなんか呼ばわり。

 まぁ、気持ちは分かるが……。着物から着替えて、雰囲気が柔らかくなったつーても、どう見てもお嬢様と言ったそのスタイルは変わっていないのだ。
 いのと春野の奴も一体何を考えてんだか……。もう少し違う服装にすれば、こんな面倒な事もなかったつーの。
 変装は任せろっとか言って置きながらも、こんなんじゃ変装になってねぇだろうが。

「どうしてですか?ナルトくんが、木の葉に訪れたのなら、抜かしては行けないお店だとおっしゃっておりました。私も、そう言われるラーメンを是非頂きたいと思っております」
「そうだってばよ、アヤメのねぇちゃん。一楽は、木の葉の里で一番の名店だってば!」

 看板娘、アヤメの言葉に、が微笑んで返せば、ナルトが同意するように返す。

「そう言ってくれるのは、嬉しいねぇ……ほら、塩と味噌チャーシューお待ち!」

 そんな二人の言葉に、店主がニコニコと笑顔で俺との前にラーメンを置く。

「有難うございます。それでは、頂きますね」

 置かれたラーメンに、がニッコリと笑顔で礼を述べ、両手を合わせて頭を下げると割り箸を持つ。
 俺も、割り箸を持って、渡されたラーメンに手を伸ばした。

「美味しい」

 そして、一口食べた瞬間聞えてきたの声。

 本当に嬉しそうに聞えてきた声に、俺も同感。
 ここのラーメンは、作っている店主の人柄を表しているような、そんなラーメンだった。
 食べるとホッとする味とでも言うのだろうか、確かに、ナルトが嵌っているのも分かる気がする。

「そうかい、そう言ってもらえりゃ、作った甲斐があるってもんだ」

 素直に賛辞の言葉を口にするに、店主は嬉しそうにニコニコと上機嫌の笑顔。
 それを見ていたアヤメという看板娘も、その表情に笑みを浮かべた。

「ご馳走様でした。本当に美味しかったです」

 ラーメンを食べ終わって、気分も良く店を後にすれば、元気良く送り出してくれる店主と娘の声が後ろから聞えて来る。
 それを後ろに聞きながら、里の中へと歩き出す。

「腹ごしらえは終わったてばよ。んじゃ、次は何処へ行くってば?」

 満足そうに腹を撫でながら、ナルトが後ろを振り返り問い掛けてくる。

 その中でも、ナルトとに向けられる視線はやむ事はない。
 ナルトへは嫌悪の視線を、へは好奇と憧れの視線。何処まで行っても、鬱陶しいと思える里人の視線を感じながら、俺は小さくため息をつく。

「そうですね。私、一箇所だけ行ってみたい場所があります。ご案内お願いしても宜しいですか?」

 里人の視線があるから、しっかりと演技をしながら言われたの言葉に、俺とナルトは同時に顔を見合わせた。
 が俺達に案内して貰いたい場所など、皆目検討がつかない。
 大体、に木の葉の里を案内する必要は全然ないのだから……。

「行きたい場所って、何処だってば?」

 疑問に思った事を、ナルトがそのまま問い掛ける。
 その問い掛けには、何処か寂しそうな笑顔を見せた。
 そして、少しだけ困ったような表情を見せる。それは、言う事を躊躇っているような仕草。

「……私が行きたい場所は、木の葉の慰霊碑です……」
「なっ!」

 言い難そうに言われたその言葉に、驚かされて言葉を失う。
 きっとにとっては、一番辛い場所だと分かっているから……。

「お願いいたします。私を案内してください……」

 反対しようとしたその言葉は、真剣な瞳に遮られて、何も口にする事は出来なかった。
 ナルトも俺と同じらしく、複雑な表情でを見ている。

「大丈夫です。お二人が御一緒なのですから、何も心配はしておりません」

 俺とナルトに見られて、がニッコリと笑顔。
 まるで俺達を安心させるように見せられたその笑顔に、俺とナルトは同時にため息をつく。

「あ〜っ、分かった。案内してやるよ……ほら、ナルト行くぞ」

 複雑な表情でを見詰めているナルトを促すように声を掛ければ、納得出来ないと言いたそうな視線とぶつかった。
 俺もこいつと同じ気持ちだが、態々がそんな事を言い出した理由が分からねぇんだから、行くしかねぇんだよ。
 自分から、めんどくせぇ場所に行きてぇなんて言い出した、こいつの気持ちを知る為にも……。

 そう考えて、思わず盛大なため息をつく。
 諦めたように歩き出した俺達に、もゆっくりとその後ろを付いてくる。

 それを目の端に捕らえながら、やはり複雑な気持ちは拭えなかった。