「うわ〜!」

 突然の叫び声に珍しくも昼の任務が休みでゆっくりと寝ていた自分達は、叩き起こされてしまった。

「なんだ?」
の声だったけど……」

 自分に与えられた部屋から飛び出した瞬間、シカマルとナルトはお互いに疑問を抱く。
 そして、この家の主人の部屋へと急ぐ。

!」

 バンッと音がするほど乱暴にドアを開いた瞬間、二人は同時にその場に固まった。
 そう、ピッキと言う音が聞えそうなほど見事に……。

「何で女になってんだよ、クソ婆!!」

 そして響き渡ったその文句の言葉に、漸く思考が動き出す。
 そう、部屋に入ってベッドの上に居たのは、薄茶色の長い髪をした美少女。
 その瞳は、と全く同じ深い紺色と誰をも従わせる事が出来る金の色。他の誰もが持つ事が出来ないその瞳の色は、この世でただ一人だけが持っている色。
 例え変化したとしても、この色だけは誰にも出せない。世界に一つだけの色なのだから……。

「……、だよね?」
「おう、俺以外の誰に見えんだよ……」

 恐る恐る訪ねたナルトの問いに、不機嫌そうな声が返される。
 だが、言われた言葉にその場に立ち尽くしていた二人は、心の中で思わず否定してしまうが、それは口に出される事はなかった。

 何よりも、確かにその顔は本人のモノであるから、ただ違うのは髪の長さとその性別……。

『懐かしい気配を感じたと思ったら、遊ばれたようだな』
『わ〜っ、ってば、ママさんそっくりだね』

 何も言えない自分達に代わって、何時の間に姿を見せたのか既に部屋に入って、の目の前に浮かんでいる猫2匹が嬉しそうに口を開く。

「まぁな、何か珍しく来たと思ったら人に術掛けやがって、何処までも迷惑な人だ……」

 嬉しそうな2匹とは正反対に、は盛大なため息をついてうっとうしそうに髪を掻き揚げた。

「迷惑な人って、、誰かに術をかけられたのか??」

 しかし彼らの会話に、信じられないと言うようにナルトが問い掛ける。

「おう、まさか実の親に術をかけられるなんて思いもしなかったぜ……しかも、性別転換の術つー高度なもんを……」
「って、それ変化じゃねぇのかよ!」
「誰が好き好んで少ないチャクラ使って女に変化するんだ!!」

 盛大なため息と共に言われたの言葉に、シカマルが驚いたような声を上げるが、それは速攻で返される。

 確かに、のチャクラは、この3人の中では格段に少ないのだ。それなのに、その少ないチャクラをドベなナルトの言う所のお色気の術に遣う訳はないだろう。

「……マジ、今日が任務休みで助かった…」

 心底安心したようなその言葉に、ナルトとシカマルは苦笑を零した。

 確かに、術で女になっていると言う事は、もし表の任務があったとしたら変化の術を使わないと参加する事は不可能。
 昼間全てを変化の術で過ごすと言う事は、のチャクラでは無茶な話である。

「確かに、変化の術使って下忍とは言え任務は出来ねぇよな……」

 思った事をそのままシカマルが口に出す。だが、その呟きにが少しだけ困ったような表情を見せた。

「あ〜っ、えっとな、この性別転換の術つーのは、他の術は一切受け付けてくんねぇんだわ……だから、変化の術も出来ねぇんだ。まぁ、一日だけの期限がある分救いなんだけどな……」

 そして、盛大なため息と共に術の説明をする。
 説明された内容に、ナルトとシカマルは信じられないと言うようにを見た。

「便利なんだか、不便なんだか分かんねぇ術だな……」
「俺としては、一生関わりたくはねぇ術ではあったんだけど……」

 複雑な表情で呟かれたシカマルのその言葉に、もう一度ため息をつく。

「じゃあ、は、今日一日その姿なのか?」

 疲れきっているに、ナルトが質問。

「…………不本意だけど、そうなるな……」

 ナルトの質問に、深い深いため息と共に、諦めたように呟かれたの心情は誰の目にも分かる程嫌そうだった。

『それじゃ、今日はママさんの服を着ようね!』

 そんなとは関係無しに、元気良く何処から出したのか分からない女物の服を持って『夜』が嬉しそうに言ったその言葉に、誰もが苦笑を零す事しか出来なったのは言うまでもないだろう。






 だからって、望んでいた訳じゃない。
 いや、出来ればこれだけは勘弁してもらいたかったと言うのが正直なトコロ……。

「どうするんだってば?」

 隣に居るナルトが、楽しそうに問い掛けてくる。
 何が悲しくって、俺はこんな格好で里の中を歩いてんだよ!誰か、俺に分かるように説明してくれ!!

「あ〜っ、めんどくせぇかもしんねぇけど、諦めろ。『夜』のあの様子からすっと、それっきゃねぇだろう……」
「だよね……『昼』も直ぐにじーちゃんから許可書貰ってくる手際の良さだったってば……んで、今のは、大名のお姫様なんだから、そんな顰め面してちゃだめだってばよ!」

 いや、うん、確かに説明してくれって心の中で言ったけど、楽しそうに言われたその言葉にもう数えたくもないため息をつく。
 確かにナルトが言うように、『昼』と『夜』の行動は早かった。

 『夜』が嬉しそうに俺が着る洋服を選んでいる間に、『昼』は火影様の所に行って事情を説明した上に、木の葉の里への滞在許可書を準備してきてくれたのだ。

 しかも、俺の設定がふざけ過ぎている。
 火の国、大名の娘って何だ、娘って!!

 ただの町娘にしてくれりゃ、こんな格好しなくっても良かったんだろうが!

 内心で『昼』と火影に対しての文句を並べ立てていた俺の格好は、淡い薄紫の生地に藤の花が描かれている上品な着物に、金を中心に織り上げられた帯が更に身分が高い事を知らしめていた。
 鬱陶しい長くなった髪も、『夜』の手でしっかりと纏められて、見事な簪で止められている。
 こんな格好、普通の町娘じゃぜってぇにしないと言う格好。
 そんな格好なもんだから、先程から里人の視線が痛い。

「その名前で呼ぶんじゃねぇって。めんどくせぇが、誰が聞いてるか分からねぇんだからな」
「っと、そうだったってば!えっと、それじゃ、何て呼べばいいんだってば?」

 疲れて何も言えない俺の代わりに、シカマルが俺の名前を呼んだナルトを咎めるようため息をつく。確かに、この格好で、の名前は不味いのは本当。それに納得してナルトが少しだけ困ったように問い掛けてくる。
 いや、本当に可愛いと思えるその様子は俺としては癒されるんだけど、なんて言っていいのか……素直に納得できないのが現状。

「んなのは、偽名作るしかねぇだろう。知ってる奴に見つかると面倒だからよ」

 何も言えずに、複雑な表情をしている俺を横に、シカマルが頭を掻きながら当然とばかりにナルトの疑問に答える。
 その言葉を聞きながら、もう諦めるしかない事を悟った俺は、最後とばかりに大きく息を吐き出す。

 人間、諦めが肝心だよなぁ……。

「………んじゃ、偽名つー事で、月下って呼んでくれ」

 諦めて、一つ浮かんだ名前を口にする。

「げっか?それは、いいんだけど、何で?」
「月下美人は月の下一晩だけ咲き誇る。つー事で、俺は一日だけのお姫様。だから、調度いい名前だろう?」

 名前を言った俺に、ナルトが不思議そうに首を傾げて理由を聞いてくるのに、ニッコリとウインク付きで理由を説明した。
 その時、ナルトとシカマルの顔が赤かったのは、きっと気の所為だと思う。今日は、日差しも温かいしな……。

「まぁ、いいんじゃねぇか……んじゃ、月下様つーことで」

 慌てて俺から顔を逸らして、シカマルが楽しそう偽名を呼ぶ。って、何でシカマルさんは、そんなに楽しそうなんだ?
 こんなめちゃめちゃ面倒臭そうな事なのに、そんな生き生きとした表情で居られる貴方が、俺には信じられられないのですけど……。

「うん、月下のねぇちゃん。いいってばね。ちゃんと、俺達が木の葉の里を案内するから安心するってばよ!」

 シカマルに続いて、ナルトまでもが嬉しそうな笑顔。

 いや、案内してもらう必要ないんですけど、ナルトさん……。
 楽しそうな二人に挟まれて、俺は複雑な気持ちのまま押し黙る事しか出来なかった。

「あら、シカマルにナルトじゃない」

 だがそんな複雑な心情の中聞えてきた声に、俺はビクリと背を正してしまう。

 な、何で誰にも会いたくないと思っているのに、一番面倒な人物に出会っちまうんだよ!!
 聞えてきた声に視線を向ければ、いのが何時もの格好ではなく、髪を下ろして光沢使用のレッドのシャツに黒のジージャンを羽織、同じく黒ジーンズ生地のミニタイトと言う格好で近付いて来た。

「あら、そっちに居るのは?」

 そして、いのから隠れるようにナルトの後ろに居た俺に気が付いて声を掛けてくる。

「俺達ってば、じーちゃんに頼まれて、任務中なんだってばよ!」

 何時もと雰囲気の違ういのに、ナルトが元気良く事情を説明。

「何、折角の休みなのに、あんた達任務中なの?大変ね。私は、これからサクラと買い物なのよ」

 元気よく言われたナルトの言葉に、いのが同情したように言葉を返してくる。

「えっ、サクラちゃんと?」
「そうよ。休みが重なったんだから、一緒に洋服を見に行く事にしたのよ」

 意外だと言うようにナルトが聞き返せば、サラリと返事をするいの。

 うちはを挟むと喧嘩ばっかりしているつーのに、こんな時には仲がいいんだなぁ……女の子って、不思議かも……。
 もっとも、うちはを挟んでいる時の二人は、別な意味で楽しそうだけど……。

「いの!こんな所で何してるのよ、もう直ぐ待ち合わせの時間じゃない……って、ナルトにシカマル?」

 内心で考えていた俺の耳に、新たな声が聞えてきて思わず神を恨みたくなる。
 どうやら、待ち合わせ場所に向っている春野まで、ここに来てしまったようだ。

 って、本気で、神様恨みたいと思っても許されるよな?

 いのと待ち合わせをしていたと言う春野の格好も、何時もの格好ではなく、真っ白なレース付きのキャミソールを何枚か重ね着してその上から薄ピンクのカーデガンを羽織って、フワリと広がったフレアスカートが女の子らしい格好だった。

「ごめん、ごめん。偶然この二人に会っちゃったのよ……勿論、今から待ち合わせ場所に行くつもりだって。ほら、まだ時間じゃないでしょう」

 春野に言われて、していた腕時計で時間を確認したいのが、素直に謝罪の言葉を口にする。

「まぁ、確かにそうなんだけど……ところで、ナルトとシカマルがどうかしたの?」

 いのに言われたその言葉で、春野も納得したようで諦めたように小さくため息をつき、黙って二人の遣り取りを聞いていた俺達へと視線を向けてきた。
 って、俺達の事はいいから、早く買い物に行って下さい。ほら、俺達に時間を裂くなんて、勿体無いでしょう!

「サクラちゃん、これからいのと買い物なんだってば?」
「そうよ。折角のお休みなんだから、おしゃれに時間かけないでどうするのよ!」

 ナルトが春野へと声を掛ければ、勢い良く返事が返される。
 いや、女の子はおしゃれに恋に大変なんだなぁ、何て他人事に考えていた俺は、じーっと自分を見詰めてくる二人の視線を感じて顔を上げた。

「もしかして、このお嬢様があんた達の任務なの?」

 何も言わずに見られている事に、複雑な表情を見せた俺に、いのが信じられない者でも見たようにシカマルへと問い掛ける。

「あ〜っ、めんどくせぇが、偶々居合わせたつーだけで、面倒な事押し付けられたんだよ」

 いのの問い掛けに、面倒臭そうに返事を返すシカマル。

 確かに、面倒な事この上ないよな。俺も出来れば、家でのんびりしたいのが本音だ。
 そう、許されるなら、家に引き篭もっていたかったよなぁ……。

「何、ナルトもシカマルも任務中なの?折角の休みに大変ね。って、言いたかったんだけど、こんな美人の護衛なら、文句はないでしょう」

 そんなシカマルの言葉に、春野が何処か感嘆したようにホッと息をついた。

 いや、美人って誰の事だよ。何処にそんな美人が居るんだ??
 思わずキョロキョロと辺りを見回してみる。そんな俺に、ナルトとシカマルが同時に苦笑を零した。

「俺達ってば、月下のねぇちゃんをちゃんと案内してやれって、じーちゃんに言われてるんだってばよ」

 辺りを見回してみても、そんな美人は居なくって、疑問に思っていた俺に、ナルトが元気良く任務内容を口にする。
 いや、うん、可愛いし本当は偽任務だから問題ねぇんだけど、そんな簡単に任務内容を口にしてもいいのか、表のナルトさん!

「ふ〜ん、月下さんね……でも、そんな格好じゃ、余計浮いちゃうんじゃない?何処から見てもお姫様って感じよね」

 ナルトの言葉に納得したように、いのが俺をジーっと見詰めてくる。

 確かに、この格好が、この里で浮いているのは本当の事だ。
 『夜』の奴、何を好き好んでこんな面倒な格好をさせたんだろうか……。

「そうね。木の葉を案内するって言うのなら、変装ぐらいした方がいいわよ」

 いのの言葉に、春野も同意して頷く。

「まぁ、確かにこの格好は目立つな。何だよ、お前等何かいい考えでもあるのか?」

 口々に言われたその言葉に、ただ黙って話を聞いていた俺は、シカマルが問い掛けたそれと同時にニタリと笑った少女達の笑みを見た。

「勿論よ」

 これ以上ない程の笑みを浮かべたいのが、シカマルの質問に頷いて返す。

「月下さんの変装は、私達に任せなさい!」

 満面の笑顔で言われたその言葉に、逆らえる人間が居ると言うのなら、その回避方法を教えてもらいたいと切実に願っても仕方ない事だろう。