まるで、サバトだな……。
聞えてくるのは弔いの鐘の音。
ソレを遠くに聞きながら、俺はぼんやりとそんなことを考えていた。
今日、10月10日は、木の葉の里を九尾が襲った日。
沢山の犠牲者を出したこの日は、里の全ての人間が亡くなった犠牲者へと祈りをささげる。
いや、全てと言うのは間違いか。
現に俺は参加せずに、のんびりと家で寛いでいるのだから……。
そして、今何処に居るのか分からないが、もう一人参加を許されない人物が居る。
一番の英雄である彼は、今どんな気持ちでこの鐘の音を聞いているんだろうか?
本当なら、その出生を誰よりも祝われた存在。
今日も、その誕生に人々から喜びの声を貰って当然だろう人。
だけど現実は、彼の存在はこの里では認められていない。
その腹に九尾を封じられているだけなのに、里の大人達から疎ましく思われている事を知っている。
この里を守っているのがその彼だとも知らずに……。
全てを知っている自分だが、彼の為に何かが出来るとは思っていない。
一番近い存在である自分だからこそ、何も出来ないのだ。
いや違う、本物の里の英雄と、この里の亡霊である自分が近い存在なんて思う事など許されない。
彼と自分は、近くて一番遠い存在なのだ。
『?』
ぼんやりと遠くから聞えてくる鐘の音を聞いていた俺は、名前を呼ばれた事で意識を引き戻される。
どうやら、あの鐘の音に引き込まれていたのだとその時になって初めて気付かされた。
「……お茶の準備有難う、『夜』」
『うん……、ダメだからね!』
目の前には準備されたお茶があり、俺は何時ものように笑顔で礼を言ってそれを手に取る。
だけど、そんな俺に目の前の黒猫は、一瞬難しい表情をして頷くとキッと、自分を見詰めてはっきりと否定されてしまった。
「………うん」
主語の無い言葉だったけれど、『夜』が何を言いたいのかを理解している俺は、ただ小さく頷いて返す。
準備されていたお茶を口にすれば、少し渋みのある独特な味が口の中に広がって、自分が今ここに居るのだと教えてくれた。
「大丈夫だよ、俺はここに居るから……」
目の前で自分を見詰めてくるその瞳に、笑顔を見せれば漸く安心したのかその表情がパッと明るいものへと変化する。
『うん、が居なくなったりしたら、今度はボクと『昼』でこの里をめちゃめちゃにしちゃうんだからね!!』
そして、続けて言われたその言葉に俺は思わず苦笑を零した。
自分を大切にしてくれる彼らだからこそ、その言葉が否定出来ない。
「そうならないように、俺はちゃんとここに居なきゃだな」
亡霊だとしても、今ここに居る自分が本物だからこそ、否定する事など許されない。
大切な彼等を悲しませたくは無いから……。
遠くから聞えてくるのは、弔いの鐘の音。
まだ、鳴り響いているその音を聞きながら思う。
何時か、本当に何時か、この里の真の英雄である彼と、この鐘の音を一緒に聞ける事があればいいのに、と……。
今日、この日に生まれた彼の事を思いながら、俺はお茶を飲み干した。