礼し

 


 こんな目だからこそ、俺は色々なモノを見る。
 いや、見たくないものまで、見せられていると言っても間違いじゃない。
 霊視…なんて、そんな生易しいものじゃない。
 俺には、どんなに隠そうとしても、全ての過去が見せられるのだから……。



「また逃がしたのかよ!!」

 思わず叫んでも、許されると思うのだ。

「すまぬが、今回の任務はアレの回収を……」
「……ちゃんと管理しろって言っとけ!!」

 バタンと派手な音をさせて扉から外へと出る。
 何時もなら、そんな行動しないけど、今ばかりは何かに八つ当たりしたい気分だったのだ。
 扉を閉めて、盛大なため息。

 一体、アレの回収の任務を受けるのは、これで何度目なのか数える気も起きなくなる。

『……どうする、オレも探した方がいいか?』

 盛大なため息をついた瞬間、空間から現れた白猫に、俺ははっとして顔を上げて、頷いた。

「…悪いけど頼む……あれは、小さいから探し難いし……人の体内にでも入り込まれたら厄介だからな」

 付けていた面を外して、言えば『昼』が頷く。

『了解した。見付けたら何時ものように処理する』
「おう、こっちも見付けたら連絡するな」

 言えば、頷いてまたその姿が空間へ消えていくのを見送ってから、俺はもう一度ため息を付いて面を付けた。
 そして、使い慣れた印を使い建物の外へ出る。

 どうせ、アレは既に外に出ているのは分かりきっている事だ。

 小さい気配を探す為、ゆっくりと瞳を閉じて、意識を里内全体へと向ける。
 そうすれば、里の中で何が起こっているのか、何処に誰が居るのかも全て知る事が出来るのだ。
 もっとも、かなり精神的に疲れる作業だけど……。

 一つ一つ気配を辿る。
 知らない気配は、この際無視。いや、関係ないから、素通りさせて、探している小さなそれだけに神経を集中させる。

 ザッと里の中を全て見たが、探している気配を感じる事は出来ない。

「……里の中に居ない?」

 そうなると考えられることは一つ。誰かに引っ付いて既に里の外に出てしまって居ると言う事……。

「引っ付いてる奴が怪我でもしたら、厄介すぎる!」

 舌打ちして一瞬考える。どうするのが最善かを……
 逃げ出したのは、昨日の夜。

 たく、もっと早くに知らせろつーの!一晩経ったら、本気で大変だろうが!!
 って、逃げ出した事にも気付いてなかったんだから、無理な話なのか?

 思わず盛大なため息をついて、一つの印を組む。

 探し物をするなら、一番簡単なのは……

『お呼びで』

 風の中から声がする。
 俺は、その声にフッと笑みを浮かべた。

「忙しい所悪いな。探しているモノがある。それを直ぐに見付けて貰いたいんだ」
当主の言葉なら、どんな言葉でも従おう』

 姿は見えないけど、確かな存在を感じて、俺は言われたその言葉に苦笑を零した。

「有難う……それじゃ、こう言うのを探してくれ……もしかしたら、今は姿が見えないかもしれないし、見えるかもしれない……ヘタすると人間の体内に入り込んでる可能性もある」
『これを、ですか?』
「そう、これ」

 自分の手に記憶を頼りに影を作り出して声の主に見せれば、拍子抜けしたと言うように問い掛けてくる。
 それに、俺が苦笑を零して返事をすれば、小さく息を吐き出されてしまった。

 いや、だって、急を要するって先に話しただろうが!俺は、急いでるんだよ!!

『これならば、探すまでもありますまい。今しがたこの里を出て行った暗部の肩に乗っておりましたぞ』
「暗部の肩?その暗部の面は?!」

 俺のその言葉に、声の主が教えてくれる。
 その言葉に反応して、俺は再度問い掛けた。

『白狐の面の暗部です』
「えっ?」

 言われた言葉に、驚きを隠せない。
 なんで、寄りにも寄って、その暗部なんだ?!

『なんでしたら、その暗部を探しましょう』

 動揺している俺に気付かず声が質問してくる。

「いや、大丈夫だ……その暗部には心当たりがあるから……有難う」

 気を使ってくれた相手に礼を言えば、安心したように声が消えて行く。
 それと同時に、気配も消えた。

「………運命の悪戯つーんだろうな、こう言うの…………」

 彼に会うのは、ダメだとそう分かっていても、心を止める事が出来ない。

「なら、その運命に乗っかってやるよ……」

 俺は何時もの慣れ親しんだ印を組む。
 向かう先は、ターゲットが付いて行ったと言う白狐の面を持つ暗部の場所。

「『昼』ターゲット発見。今から向う。宜しくな」

 移動する瞬間に、声に出して自分の相棒とも言える相手に簡潔に伝える。
 心話を使わなくっても、これだけで相手に伝わるのは、有難い事だ。


 そして、俺が辿り着いたその場所で、これからの運命を変える事になる。


 俺と、ナルトの初めての出会い……。
 これも、こんな目を持っているおかげなんだろうか?