『今日の夕飯は、お豆腐のあんかけに、モロヘイヤスープ、カップトマトのサラダにたこときゅうりの酢の物』
嬉しそうに夕食の献立を口にする『夜』の姿を前に、俺は思わず苦笑を零してしまう。
既に第二の家と化したの家で、こうして夕食を食べるのは当たり前の日常となっている。
だけど、一つだけ問題点があるのだ。
が好きだからと言う理由から、ここでは絶対にサラダや和え物が欠かされない。
ここに来るようになって、サラダと言っても色々な種類があるのだと、初めて知ったのも事実。
俺の知っているサラダと言えば、ただ生野菜を切って和えたモノと言う認識だったんだけど、温野菜サラダと言うものもあるのだと教えてもらった。
知識が増えた事は本当に嬉しいし、ここで食べるご飯は美味しくて、毎日の献立は楽しみだ。
だが、ここでハッキリ言おう。
俺は、生野菜が嫌いだった。
そう、ここでご飯を食べるようになってから、それは嫌いから苦手に変わり、今では人並みに食べられるようになったのだ。
それでも、好き好んでは決して食わない。
「ナルト、眉間に皺。うちはみたいな表情になってるぞ」
今日もしっかりとサラダと酢の物があるのを聞いて眉間に皺が寄った俺に、直ぐ傍に居たが眉間を指で押す。
「別に…」
「別には聞かない。今日の夕飯にもサラダと酢の物があるのが気に入らない?」
それに俺は不機嫌に返すけど、しっかりと俺の不機嫌な理由はに知られているようで、逆に聞き返されてしまう。
「最近は、ちゃんと食えるようになった!」
そんなに、俺は思わず少しだけ声を荒げて返してから、慌てて自分の口を塞いだ。
こんな事が言いたい訳じゃないのに……
嫌いだった野菜も、今ではちゃんと食べられるようになった。
でも、やっぱり苦手なモノは苦手。
「そう言えば、ナルトって何で生野菜が嫌いなんだ?」
俺の言葉は気にした様子もなく、ちょっとだけ考えてからが首を傾げる。
俺が、野菜を嫌いになった訳?
「何で?」
「んっ?気になったから……味がやっぱり苦手だからかなぁと……」
質問された理由が分からなくて聞き返せば、ちょっと困ったようにが口を開いた。
そう言えば、俺が野菜を嫌いな理由って、誰にも話した事がなかったかもしれない……。
「きっと、面白くないぞ」
「うん、でも、ナルトの話だから、聞きたい」
ちょっとだけ照れくさくってそっぽを向きながら言えば、が真剣な声で返してくる。
きっとその顔には何時もの優しい笑顔が浮かべられているだろう事が、その声から想像出来て思わずため息をついてしまう。
「本当に、大した理由じゃないのに……」
そう言いながら、俺は理由を口にした。
それはまだ俺が小さかった頃、じーちゃんの所から離れて一人で生活し始めた時の事……
その時、偶々長期任務になってしまった。
予想では1週間ぐらいで終わるだろうと思っていたのに、寄りにもよって2ヶ月も過ぎてしまった。
原因は、下らない色々な偶然が重なった為。
勿論俺は、そんなに長く掛かるなんて思ってなかったから、何の片付けもせずに家を出てしまったのが、全ての原因。
「野菜って腐るとドロドロに溶けるんだからな!」
だから、家に帰った俺が見たものは、ドロドロに溶けた野菜の数々。
夏だった事と、野菜をそのままにして置いたのが全ての敗因。
その時のことを思い出すと、野菜なんて食いたくなくなる。
大体、一人暮らしの子供に大量の野菜を持たせるじーちゃんも悪い!
「えっと、ナルト、それって……」
「それ片付けるのが、どれだけ大変だったか」
それ以上は、思い出したくもない。
あの後、暫く野菜を見るのも嫌だったのだからな。
「ああ、それは、確かに嫌になるかも……でも、最近は大分食べれるようになってきたから、克服したんじゃなねぇの?」
「えっ?」
「うん、少しでも野菜が美味しいって思えるようになったんだったら、俺は嬉しい」
「」
ニッコリと笑ったに、俺は一瞬言葉に詰まった。
だって、やっぱりは全てお見通しなのだ。
今俺は、野菜が嫌いじゃない。
今は、苦手なだけ……
でも、少しずつそれは変化している。
だって、誰かと一緒に食べる食事を知ってしまったから……。
だから、嫌いな物は少なくなった。
それも全部、目の前に居る人に出会ったから……。
嫌いな物は、確かにあるけど、誰かと食べるそれは、不思議と美味しい。
そう思うけど、そんな事には言えない。
バレてるかもしれないけどな……xx