「うーん」

 目の前にある食材に考え込んでいた俺は、思わず声を出してしまったようだ。

『何、唸ってるの?』

 そんな俺に、タイミング良く声が掛けられた。

「『夜』、これ見てくれ」
『凄い一杯のかぼちゃだね。何森の皆がまた持って来てくれたの?』

 それに俺は素直に唸ってしまった原因のモノを見せる。
 見せられた食材に、『夜』が質問してくるから、素直に頷いた。

 森の皆とは、この森の中に暮らしている妖怪や動物。
 まぁ、妖怪と言っても、悪い妖怪じゃない。こうして森の中で、生活している彼等は、自分達が作っているものをお裾分けだと持って来てくれる。

 そう、それは本当に助かるのだが、彼等は何時も加減と言うモノを知らないのだ。
 今回も、大量に届けられたかぼちゃに、呆然としてしまったのは、許して欲しい。

『それじゃ、シカの家とかにまたお裾分けしないとだね』

 苦笑交じりに『夜』が言ったそれに、俺も頷いて返す。

 いや、お裾分けしないと、無くなりそうにないんだけど……。
 さって、家ではどうやって調理するか……。
 ああ、久し振りにかぼちゃのプリンでも作るかな。それなら、ナルトも喜んで食べてくれそうだし……。

『何?何作るか、考えたの?』

 わくわくと楽しそうな顔で『夜』が俺に質問。

「ああ、かぼちゃのプリン作ろうかと……」
『それ、いい考えだね。ナルもそれなら喜んで食べてくれるだろうし』

 『夜』の質問に素直に答えた俺に、今自分が考えていた事と同じ事を言われて、思わず笑ってしまう。

「それじゃ、早速作るか」
『うん、ボクも手伝うね』

 嬉しそうに言う『夜』にニッコリと笑顔で頷いて返す。

 まぁ、今の時間から作れば、何とか今日のお茶の時間には間に合うかな??

 チラリと時間を確認して、腕まくり。
 目の前にある食材を手に持って、早速料理に入った。

 かぼちゃのプリンで何が大変って、かぼちゃの裏ごしが一番大変なんだよなぁ……。
 その辺は、『夜』も手伝ってくれるって言うから、大丈夫だろう。
 あ〜っ、ついでにパンプキンパイも作るのいいかも……それなら、少しでも消費されるよな、うん。

 一人で納得しながら、大量にあるかぼちゃを切って、レンジに入れた。

『他にも何か作るの?』
「あ〜っ、パンプキンパイでも作ろうかと……ついでに、かぼちゃのスープって言うのも良くないか?」

 レンジだけじゃ足りないから、鍋も用意した俺に、『夜』が不思議そうに問い掛けてくる。
 それに、俺はちょっと考えて、素直に質問。

『……かぼちゃのフルコースでも作っちゃうつもり?』
「おっ!それって、いい考えかも!!かぼちゃのスープに、かぼちゃの天ぷら・煮物・サラダ……後は、デザートにパイ出せば完璧」

 俺の質問に、ちょっと呆れたように『夜』が言ったそれを聞いて、いい考えとばかりに口を開けば、盛大なため息をつかれてしまった。

 いい考えだと思ったのに……。

「まぁ、冗談はここまでにして、レンジの方宜しく!」

 半分ぐらいは本気だったんだけど、それはいくらなんでも、皆に申し訳ないから冗談で済ませて、タイミング良く音楽を鳴らしているレンジを指差してニッコリと笑顔。
 まぁ、『夜』がこれで誤魔化せるとは思ってなかったんだけど、ため息をついて素直に言われたようにレンジから茹で上がっているかぼちゃを取り出す。

『これは、裏ごしでいいんだよね?』
「おう、頼むな」

 質問されたそれに頷いけば、『夜』はもう既に作業に取り掛かっていた。いや、その方が有り難いんだけど……。

 それを横目で確認しながら、鍋でかぼちゃを蒸していく。
 ゆでるよりは、こっちの方が水っぽくなくってホッコリと出来上がる。難点なのは、時間がちょっと掛かるってところだな。

『終わったよ』

 数分後、黙々と作業をしていた『夜』のその声で、我に返った。
 ヤバイ、ちょっと意識が飛んでたかも…。

「サンキュ。それじゃ、それはこっちに貰って……」

 綺麗に裏ごしされているそれを少しだけ指で掬って味の確認。

『どう?』
「うん、砂糖控えめでも大丈夫そうだな。今年のかぼちゃは良い出来」

 俺のその様子を見詰めていた『夜』が質問してくるそれに、俺はニッコリと笑って返事を返す。まぁ、流石に砂糖無しって言うのは無理だけど、かなり砂糖少な目でも問題ないだろう。
 そう考えて、砂糖と牛乳に卵を準備して、牛乳を鍋に入れて火を点ける。

『それじゃ、ボクがカラメルソース作ってもいい?』
「おう、頼むな」

 本当はちゃんと分量とか量った方がいいんだろうけど、俺は大体目分量で作ってしまう。牛乳が人肌に温まってきたのを確認して、『夜』が裏ごししてくれたかぼちゃをその中に入れて木べらで溶けるように混ぜ、沸騰する直前に火を止めた。
 そんな俺の横では、『夜』がザラメを使ってカラメルソースを作っている。
 砂糖が焦げるこの匂いを嗅ぐと、プリン作ってんだなぁって思えるのはどうしてだろう。

 そんな事を考えながら、ボールに卵を割り砂糖と混ぜ合わせ、先程暖めたかぼちゃの入った牛乳を少しづつボールに加えていく。

「出来上がったら型に入れてくれるか?」

 作業をしながら、カラメルを綺麗に作ってくれた『夜』へと声を掛けた。

『了解…って、型はどれで作るの?小さいので一杯作る?それとも、大きいので一気に作る??』

 『夜』は俺に返事を返して、思い付いたと言うように質問を返してくる。

 質問されたそれに、俺は一瞬考え込んでしまった。そう言えば、そこまで考えてなかったよなぁ……。
 えっと、家にある型って確か……大きな型は、確か4つぐらいはあったよな。うん、だけどこれを全部使っても、まだまだ材料は余るだろうし……。
 確か、小さい型は、一杯あったはず。

「う〜ん、大きい型全部使って、残りは小さいので作るよ……って、カラメルそれだけじゃ足りないから、まだまだよろしく」
『うん、分かった』

 どうせだから、作ったプリンもお裾分けした方がいいよな、うん。
 そうすれば、少しでもかぼちゃが減る!

『う〜ん、が何考えてるのか良く分かるんだけど……』

 ぐっと拳を握り締めた俺に、型の準備をしながら『夜』が呆れたように呟いた声が聞こえてきたけど、無視を決め込む。どうせ、分かりやすい思考してるよ……。

 んでもって、準備は事前にするものだと思う。カラメルが固まるんじゃないかと、ちょっとだけ心配してしまった。
 いや、うん、本当は全部準備してから調理するのが正しいんだからな、今回は、行き当たりばったりって事で許して欲しい。

『そう言えば、ナルは任務だったよね?お茶の時間までに戻ってこられると良いね』

 何とか固まらずにすんだカラメルを型に流し込みながら、ポツリと言われた言葉に、一瞬俺の手が止まる。

 う〜ん、そう言えば、ナルトは今日も任務なんだよなぁ……カカシ上忍ちゃんと時間通りに……来る訳ないけど、少しでも早く終わればいいんだけど……。

「弁当必須だったからなぁ……今日は間に合わないかも……」
『そっか、残念だね。あっ!差し入れに持っていって上げるのも良いかも!!』

 朝、お弁当を持って行ったナルトの事を思い出して、俺は小さくため息をつく。

 勿論、お弁当は俺が頑張って作ったモノだ。だって、作らないと、ナルトの奴、その辺のパンとかですましちゃうんだよなぁ・……言ってくれれば、ちゃんと準備するんだから、もっと早く言ってくれればいいのに……。
 いっつも、出掛ける前に昼はいらないからって言って出て行くだけなんだもんなぁ……お陰で、事前に春野かうちはに確認してるんだけど……。

「そうだな、差し入れするのも良いかも……」

 何時も俺の質問に答えてくれる春野とうちはにもお礼の意味で差し入れ……そうすれば、プリンも減るし!

『あ〜っ、またが何を考えてたのか、分かっちゃったんだけど……』

 …分かりやすくって悪かったな!

 呆れたように呟いた『夜』に、俺はスッと顔を横に向けた。

 これ以上、『夜』に読まれない為に……。