最近俺は、お気に入りをゲットしました。
「機嫌いいな……」
今にも鼻歌でも歌いたい気分の俺に、シカマルがボソリと一言。
「モチ!こうでもなきゃ、下忍引き受けた意味ねぇじゃん。俺、もっと早くに話に加わればよかったと思うぜ」
今日も今日とて、下忍の任務。
その為の集合場所に向かいながら、機嫌がいい俺は最初の頃から考えれば、信じられないかもしれない。
でもな、すんげぇお気に入りが居るんだよ!
もう、なんて言うのか、癒し系?
兎に角、一緒に居ると心が安らぐって言うか、うん。シカマルが幼馴染してる理由が良く分かる。
「そんなに気に入ったのかよ」
「おう!もっと早くに会うべきだったよな!」
「いや、会ってるつーの……」
面白くなさそうに呟いたシカマルの言葉に、俺が力一杯返事を返せば、呆れたようにため息をつかれてしまう。
う〜っ、確かに会ってるけど、話もしてないから会ってないのと同じじゃんか!
シカマルが、すげぇ意地悪だ……。
ここ最近、シカマルは不機嫌だ。それに合わせて、ナルトの機嫌もあんまり良くない。
俺、何かしたんだろうか??
「なぁ、シカマルは何でそんなに不機嫌なんだ?」
だから、ここは直接尋ねてみる事にしてみた。
だって、分からないなら聞くしかない。そうじゃなければ、相手の気持ちは分からないから…。
「別に、機嫌は悪くねぇよ……もう直ぐ着くぜ」
俺の質問に、シカマルが一瞬複雑な表情をする。
だけどそれは本当に一瞬だけで、直ぐに否定された。
そして、集合場所に近付いた事でその会話は、強制的に終了させられてしまう。
もう既にチョウジといのが集合場所に来ている事からも、俺は表の自分にならなきゃいけない。
そうなると、シカマルと仲良く話をする事は出来ないから、言われた言葉に納得して仮面を被った。
「おはよう、シカマルに」
「はよ、チョウジ……いのもな…」
チョウジに声を掛けられて、シカマルが大きな欠伸をしながら返事を返す。
「おはようって、欠伸しながら挨拶って失礼よ、あんた!!」
そんなシカマルに文句を言いながらも、しっかりと挨拶をするいのに、思わず苦笑を零してしまう。
朝だろうと、彼女の元気は変わらない。
「お、おはよう、チョウジ、いの」
だから、俺もちょっと遅れて挨拶を返す。
本当は、『くん』とか『さん』付けしたいんだけど、それは駄目だと初っ端に釘を刺されているので、呼び捨て。
う〜ん、表だとどうしても慣れないな……。
「おはよう、それにしても、あんた達良く一緒に来るわよね。もしかして、仲良くなったの?」
俺の挨拶にいのがもう一度ちゃんと言葉を返してくれて、そして疑問を投げかけられた。
そ、そう言えば、俺ってば任務がある時って大抵シカマルと一緒に来てるかも……考えてなかったけど、それってヤバイ気が……。
「そうだね、とシカマルって、よく一緒に来るよね。今度は、僕も一緒してもいい?」
内心冷や汗ものの俺に、チョウジが何時ものようにお菓子を食べながら質問してきた。
「えっ?シ、シカマルと一緒になったのは、本当に偶然で……勿論、僕なんかでいいなら!」
最初の言葉はいのに返し、最後の言葉はチョウジへと向ける。
思わず力が入ってしまったのは、相手がチョウジだからだ。
そう、最近の俺のお気に入りの相手は、秋道チョウジ。
何て言うのか、本当にその雰囲気が好きなんだよな。
こう、ほのぼのするって言うのか、安心するっていうのか、一緒にいて心休まる存在。
そんな訳で、一番のお気に入りなのだ。
「それじゃ今度、どこかで待ち合わせしようか」
ニコニコと笑いながら言われる言葉に、何も考えずにそのまま頷きそうになる。
「別に、俺等は待ち合わせなんてしてねぇつーの。偶然だ、偶然」
頷きそうになった俺を遮ったのは、シカマルの呆れたような声。
確かに、待ち合わせはしてないな。うん、それに間違いはない。
だって、俺とシカマルは一緒の家から来てるんだから……。何時ものように家に泊まってたからな、シカマルは……。
って、よく考えたら、最近こいつ奈良の実家に帰ってねぇじゃん!いくら放任主義っても、お袋さん流石に心配してんじゃねぇのか!
――シカマル、お前家帰んなくってもいいのか?
――ああ?今更何言ってんだつーの。母ちゃんは気にしてねぇし、親父はもっと気にしてねぇんだから、お前も気にすんな。
気にすんなって、いや普通気になるし……。
いやまぁ、お袋さん達がいいなら俺は、別にいいんだけどな……。
シカマルは、ナルトと違ってちゃんと家族が居る。
勿論それは、帰る家もあると言う訳で、でもその帰る場所が当然のように俺の家になっていると思うのは、気の所為じゃねぇよな……。
まぁ、第二の家って思ってくれてるんなら、それはそれで嬉しい事だ。
って、話しがズレた!そう言えば、チョウジに返事返してねぇじゃん、俺!!
「確かに、僕とシカマルは待ち合わせしている訳じゃないんだよ。でも、今度待ち合わせするのも楽しいかもね」
思い出した事に、慌てて口を開く。
いや、本当悪気はなかったんだけどな、すっかり返事を忘れちまってごめんよ、チョウジ。
俺の癒し系なのに……。
「それじゃ、次の任務の時って言うのは、どう?」
「うん、それでいいよ」
俺の言葉に、チョウジがニコニコと笑いながら質問してくる。
それに、俺も笑いながら頷いた。
「どうせ目的地は一緒なんだから、態々待ち合わせする必要なんてあるの?」
そんな俺達の遣り取りに、いのが呆れたように質問してくる。
確かに、集合する場所があるんだから、態々待ち合わせる意味はねぇと思うけど、親睦は大事だろう!
「えっ、そうかなぁ……僕は、変だとは思わないけど……」
いのの言葉にチョウジが不思議そうに首を傾げる。
うん、やっぱりチョウジって、癒し系だよ。
こう、雰囲気がフンワリしてるてぇか、安心できるんだよな。
「まぁいいわよ。好きにしなさい」
そんなチョウジに、いのが呆れたようにため息をつく。
その向こうから、アスマ上忍の気配を感じて、俺は顔を上げた。
「皆揃ってんな。今日の任務は、昨日言ったように里の外れにある屋敷の掃除だ。かなりでけぇからな、今日中に終わらなけりゃ、明日も同じ任務になるぞ」
「って、あの屋敷を私達の班だけで一日で終わらすなんて無理に決まってるでしょう!」
着て早々、昨日言った任務内容を伝えて、笑いながら付け足された言葉に、いのが文句の言葉を返す。
確かに、この里の外れにある屋敷って、かなり大きかったよなぁ……。
ウチよりかは、小さいかもしれんねぇけど……。
でも、確か空家だったはずだよなぁ。掃除の依頼がきたって事は、その空家に誰か住むんだろうか?
まぁ、そうだろうから、俺等下忍に任務が回ってきたんだろうけどな……。毎回思うけど、そんな事ぐらい、自分達でしろつーの。金出してまで、忍者雇う事ねぇだろうに……。
「普通に考えりゃ、終わらねぇだろうな。まぁ、暫くは、その任務が続くと思っていいぞ。早く終われば、それだけお前等の休みが増えるからな。一応、与えられた期間は1週間。気合入れて頑張れよ」
言われた言葉に、全員揃ってため息をついた。
まぁ、掃除は嫌いじゃないから、別にいいんだけど……。
シカマルじゃねぇけど、めんどくさいとは思うよな。
最近のは、下忍任務がある時は機嫌がいい。
その理由は、秋道チョウジ。
確かに、俺にとっても幼馴染であり親友と言う立場のあいつだから、が気に入っている理由も分かっている。
だけど、それが正直面白くねぇつーのが正直なところだ。
そう思っているのは、俺だけじゃなく、ナルトも同じように思っているんだろう。だから、最近何処となく不機嫌そうに見える。それは、俺も人の事言えねぇけど……。
と言う人間を知れば、誰もが引かれるのは仕方ねぇ事だと思う。
あいつの持つ輝きと、何よりも『王者の瞳』には誰も逆らえはしないのだから……。
アスマの言葉に、同時にため息をつく。
確かに、誰も住んでねぇ屋敷を掃除するつーのはめんどくせぇ事この上ない。
それでも、任務だから仕方なく全員が屋敷に向かって歩き出す。
場所が分かってんだから、そっちで集合すりゃいいのに、何でここで集合にしたんだよ、移動するのもめんどくせぇつーの。
「2手に別れて行動するか……家の中と庭だな。俺は庭の方を手伝ってやるが、お前等はどうする?」
屋敷に着いて直ぐに、アスマが質問してくる。
確かに、2手に別れた方が効率的だろう。
「そうねぇ。は無理出来ないから中の方がいいでしょう」
「そうだね。この暑さだと、倒れちゃうからね」
そして、アスマの質問に、いのがを見てさらりと言葉を返す。
まぁ、妥当な所だな。それに、チョウジも頷いて返した。
体が弱いつー設定は、こう言う時便利だよな。このクソあちぃ中に、地獄を見なくていいんだからよ……。
「でも……」
「ああ、無理すんじゃねぇって、全員文句ねぇんだから、それで納得しとけ」
二人から言われた事に、が申し訳なさそうに口を開こうとしたそれを、俺が遮ってきっぱりと言う。
俺の言葉に、が複雑な表情を向けてくるがムシだつーの。
お前が倒れでもしたら『夜』が暴れるんだつーの、そっちの方が余計にめんどくせぇ事になんだよ。
「で、後はどうすんだ?」
「やっぱり、女の子である私も絶対に中よね!」
そして、アスマからの質問に、当然とばかりの主張をするいの。
まぁ、予想通りちゃ予想通りだけど、いのとを二人だけにする訳にはいかねぇよな。
「ああ?何言ってんだ。ここは公平にクジで決めりゃいいだろう。アスマ、めんどくせぇが、その辺の草でクジ作ってくれ」
「ああ、そうだな……」
俺に言われて、アスマが近くに生えている細長い草を引き抜いた。
三本手に持って、それの一つの根元を結べば、即席でクジになるつー訳だ。
「何でよ!女の子である私の綺麗な肌が焼けちゃったらどうする気!!」
俺の提案に、いのが当然のように文句を言う。
って、しっかり日焼け止め塗ってるヤツが何言ってんだ。
「んなのは、男女の差別にゃなんねぇだろうが。ほら、さっさと引くぞ」
アスマが準備した即席のクジの一本を掴んだ俺に習って、チョウジも同じように一本を掴む。
そんな俺達を見て、いのもブツブツと文句を言いながらも残りの一本を掴んだ。
全員が掴んだところで、アスマが手を離し、それぞれ掴んだ草だけが互いの手に残る。
結び目がある草を選んだのは、チョウジ。
「チョウジとが中の担当だな。いの、残念だが外を頑張れ」
「……いいわよ!さっさと終わらせて、中に移動するんだからね!!」
決まった事をアスマが説明すれば、いのがやる気を出して作業に入る。
「まぁ、こっちの方が先に終わるだろうから、お前等も適当に頑張れよ」
「うん、分かった。それじゃ、、僕達は中に入ろうか」
「あっ、うん……えっと、シカマルもアスマ上忍もあんまり無理せずに頑張って下さいね」
チョウジに促されて、が慌てて俺達に声を掛け、屋敷の中へと入って行く。
それを見送りながら、俺は複雑な気分を隠すためにため息をつく。
「良かったのか?」
そんな俺に、アスマが不思議そうに質問してきた。
「ああ?何言ってんだ?」
だが、俺はその言われた意味が分からずにアスマに訪ね返す。
「お前、かなりの事を気にしてるだろう。無意識だろうが、目があいつを追ってるのはバレバレだ。お前、俺が気付いてねぇと思ってたんだろう」
訪ねた俺に、アスマは思っても無い事を口にしてくれる。
無意識に目で追ってる?
誰が?誰を……。
確かに、俺にとってあいつは大切な奴だ。それは、違えようもねぇ事実。
「う、うるせぇ!余計なお世話だつーの!!」
気付かれていた事に、顔が赤くなるのが、自分でも分かった。
こんな時、自分が子供だと言う事を思い知らされて、嫌になる。
「もう!何してるのよ!さっさと終わらせて、私達も建物の中に入るわよ!!」
何時まで経っても動かない俺達に、いのの怒声が聞えてきてもう一度ため息をついた。
今頃あいつは、一番のお気に入りであるチョウジと楽しく部屋の掃除をしているんだろう。
本当はね、全部知ってて黙っているんだ。
ねぇ、僕はずるいのかなぁ……。
だって、二人には、ちゃんと話して欲しいって思うから。
だから、何時まででも待つよ。
何時か、二人…ううん、三人が僕に隠している事を話してくれるその時を……。
下忍任務で、屋敷の掃除。
庭は勿論、屋敷の中も掃除って言う事で、僕とが屋敷の中の担当になった。
勿論それは、体が弱いを気遣っての事。
僕はまだ見た事はないんだけど、何度か倒れた事があるんだって聞いたから、当然の配慮だと思う。
それでも、自分が楽な場所を担当する事には不満そうな表情を見せていた。
何時も思うんだけどは、みんなの意見を当然の事だと受け止めたりはしない。そんな風に考えないで、本当に申し訳なさそうな表情を見せるのは、きっとが責任感のある人間だからだと思う。
そうじゃなければ、自分だけ楽が出来ることを喜ばない人はいないと思うから……。だから、それが、の強さでもあるんだと思う。
シカマルは、そんなだから、何時も心配そうに見詰めてるのかもしれない。
無理をしないように、きっと目が離せないんだと思う。
だって、それは僕も同じだから……。
建物の中に入ると、外とは違って涼しく感じられた。
それでも、長年使われていなかったと言うだけあって、埃っぽさは仕方ない事だと思う。
見た感じだけでも、人の住んでない空家と言うに相応しいどんよりとした雰囲気を持っている。
「えっと、どこから手を付けようか……」
「そうだね、やっぱり上から順番かな」
中の状態を確認して、まずは全ての窓を開く。
それが終わった後、が呟いたその言葉に僕はそのまま返事を返した。
「それじゃ、3階からだね……掃除道具ってどこにあるんだろう?」
僕のその言葉に素直に賛同して、が今度は掃除道具を探して歩き出す。
中に入って一息もせずに、どんどん行動して行くに、僕も同じように動いて行く。
真面目なに習って、掃除道具があるだろうと考えられる物置へと二人並んで移動した。
「これ、鍵が掛かってるみたいなんだけど、アスマ上忍、鍵預かってるかなぁ」
「僕、聞いてくるね」
だけど、見つけた物置には、立派な錠がされていて、簡単に開かないようになっている。それに、が困ったような表情を見せて窓の外に居るだろうアスマ先生の名前を口にする。
確かに、このままじゃ何にも出来ないから、に返してから外に居るアスマ先生の所に向おうとした瞬間、後ろから小さく鍵の開く音が聞てきた。
「?」
その音は本当に小さくって、きっと僕が忍びなんてしていなければ気付けなかったかもしれない。
それでも、鍵が開いた音だと言う事だけは直ぐに分かった。
振り返った先では、掛かっていたその錠をしっかり手に持って呆然としているの姿。
「……触った瞬間に、鍵が開いちゃったみたい……壊れてたのかもしれないね……」
複雑な表情で言われたそれに、僕はリョクトの手にあるその錠前を見た。
でも、手に持っているそれは、壊れている様子なんて全くなくって、まるでが当然のように鍵を使って開いたような状態を見せていた。勿論、しっかりと鍵がされていたのは僕もちゃんと見ていたから、壊れてるなんて、そんな筈は有り得ない。
確かに、僕等の知識の中には、鍵を外す事もしっかりと叩き込まれている。
それが忍びなんだから、当然かもしれないけど、でも、一瞬で鍵を外せるなんて普通ならよっぽどの人間でなければ出来ないはず。
ううん、きっとどんな凄い人でも一瞬で開く事なんて出来ないと思う。
だって、は何の道具も遣っていなかったから……。
でも、言われた言葉に、それ以上聞いちゃいけないんだと思って、僕は何時もの笑顔をへと向ける。
「アスマ先生の所に行く手間が省けて良かったね」
ニッコリと笑顔で言えば、少しだけ困ったような表情で頷かれた。
顔の半分を隠すような前髪と分厚い眼鏡でその瞳を見る事は出来ないけど、雰囲気から察する事のできるの動揺。
「そ、それじゃ、早速掃除始めようか」
それは本当に一瞬の事で、慌てて告げられたその言葉に、僕もただ頷いて返した。
それから、物置となっていたその中から掃除道具を取り出す。
「えっと、どうしよう、別々の部屋に別れた方がいいかなぁ?」
「そうだね。その方が効率的には良いかもしれないから、そうしようか」
の申し出に、素直に同意してそれぞれ違う部屋へと入っていく。
3階の端の部屋からを順番にすると言う事で、その時はちょっと残念に思えちゃったんだけど、それが一番効率が良いと思ったから頷いたんだけど、それをちょっとだけ後悔したのは後の事。
窓を開いて、まずは空気の入れ替え。
それから、窓から順番に部屋の中を綺麗にしていく。
暫くその作業を続けていた僕は、時間の経つのも忘れていたのかもしれない。
何時もなら、お菓子の時間はしっかりと入っているはずなんだけど、それさえも忘れていたみたいだ。
「チョウジ」
名前を呼ばれて、顔を上げる。
「?」
気付けばが、直ぐ傍に立っていた。
「もうお昼だから、休憩にしよう。アスマ上忍達にも声を掛けなきゃね」
ニッコリと笑顔で言われて外を見れば、確かに時間はお昼を回っている。
「もう、こんな時間だったんだ。まだ一部屋も終わってないよ……の方は?」
もう直ぐで終わりを迎えるぐらいには出来たと思うんだけど、何分天井から全てを綺麗にしなきゃいけないから、簡単には終わらない。
「えっと、3階はここを残して終わったから、2階に移動した所かなぁ……」
「えっ?」
だから多分も同じ位だろうと思って訪ねたそれに返されたのは驚きの事実。
一体何時の間に……。
「そ、それは良いから、休憩にしよう!えっと、ここの人達に許可貰って作ってきたデザートを冷蔵庫に入れさせて貰ってるんだ。皆お弁当持ってきてるけど、デザートなら食べられるよね?」
そして、続けて言われた事に、更に驚きを隠せない。
この依頼をした人達が、ここに来たって言う事に驚かされた。
だって、依頼をする人達は大抵一般の人で、気配に聡い忍びの端くれである自分が全く気付かなかったのだから……。
「ここの人達って、誰か来てたの?僕全然気付かなかったんだけど……」
「えっ?あれ?えっと、本当に直ぐ来て帰っちゃたんだけど、ね……」
僕の質問に、が慌てて言葉を返してくる。
だけどね、もしそうだとしても、気付かないなんて可笑しいんだよ。
「あっ!ほら、皆が呼んでるみたいだから、早く行こう!」
慌てて話を誤魔化したの言うように、いのの声が聞えてきたから、それ以上何も言わずに僕も素直に皆の居る場所へと移動した。
後から聞いたんだけど、やっぱりこの家には誰も来なかったとアスマ先生が言っていた。
勿論、が作ったデザートは美味しかったけど、納得出来ない気持ちは隠せない。
ねぇ、やっぱり僕には、内緒なの。
それでも、何時か、本当の事を話してくれるって、そう望んでもいいのかなぁ……。
正直言って、この屋敷の中に入った瞬間から、嫌な予感はしていた。
こう言った古い屋敷には、付喪神と言う妖怪が宿る。
そして、予想通り、大量の妖怪達が俺を迎え入れてくれた。
正直言って有難くねぇんだけど……。
まず、勝手に鍵を開けてくれるは、部屋の掃除を嬉々としてやってくれるは、いい妖怪なんだが、それを俺一人がやったなんて、どう考えてもありえねぇだろう!
案の上、チョウジには、どう見ても怪しいと言う目で見られちまった。
でも、やめろって言っても、聞かないんだよなぁ……。
存在を認めてもらえたこいつ等は、嬉しくってしかたないらしい。
だから、俺の前ではしゃいだ姿を見せる。
そんな嬉しそうな姿を見せられると、キツイ事を言う事も出来ず、仕方なく好き勝手にさせていたら、あっと言う間にこの任務終わっちまうぞ……。
期限は、一週間じゃなかったか??
「で、お前等の方は、順調に進んでるのか?」
内心で頭を抱えていた俺に、アスマ上忍が質問してくる。
外で食うのは暑いって言ってたけど、まだ中が片付いてないと言う事で、日陰になっている場所を陣取って、皆で昼食中。
「えっと、3階は後一部屋で終わりで、2階が半分くらい終わった所、です……」
「早いな。もうそんなに終わったのか?」
「凄い!見た目だけでも、かなりの部屋数だったわよ。もう、そんなに終わっちゃったの?」
恐る恐る告げれば、驚いたようにアスマ上忍といのが言葉を返してくる。
それに俺は苦笑を零した。
――なんかあったのか?
どう説明すべきか考え込んでいる俺に、シカマルが心話で質問してきた。
――……あの屋敷、妖怪の住家……掃除手伝ってくれるんだよなぁ……今も、喜んで掃除続けてるんじゃねぇか……。
――あ〜っ、付喪神ってヤツだよな……って、ここに人が棲むつーのに、大丈夫なのかよ!
――それは、問題ない。俺だからってのが、正直な所……。
思わずため息をついてしまっても、許されるだろうか?
俺の所為じゃないかもしれないけど、この場合、俺の所為なのか??
こんな場所に任務に入った俺が悪いのか?
――まぁ、早く終わっちまえば、後は休みになんだから、それで良いんじゃねぇのか。
――早過ぎるのも問題だつーの!お陰で、チョウジには変な目で見られるし……これ以上は誤魔化せないだろうが!
「この分なら、予想よりも早く終わりそうだな。よし、早く終わったら、俺が焼く肉奢ってやるぞ!」
「肉・肉!!」
内心複雑な気持ちを隠せない俺の耳に、楽しそうなアスマ上忍とチョウジの声。
ああ、うん、予想よりも早く終わるだろうなぁ……。
きっと、下手すると今日中には終わると思うぞ……。
そんな楽しそうなチョウジの声を聞きながら、思わず遠い目をしてしまう。
あいつ等に悪気がない分、本当に困ってしまうのだ。
「そう言えば、外の方はどうなってるんですか?」
だから、現実逃避も兼ねて訪ねたそれに、いのが一番に反応を返してくれた。
「聞いてよ!それが不思議なんだけど、いつも以上に効率がいいって言うか、自分ではそんなにやってないと思うんだけど、自分が考えてた以上に終わっちゃってるのよね」
だが返って来たその言葉に、俺は思わずその場にフリーズ。
いやだって、こっちも手を出してるのかよ!!
――シカマル!
――ああ、俺も可笑しいと思ってたんだがよ、お前の言葉聞いて納得した。
思わず心話で、シカマルを呼べば、面倒臭そうにシカマルが返事を返してくる。
いや、可笑しいって思う時点で、俺に連絡しろよ!!
絶対に、アスマ上忍は異変に気付いてるぞ……。
「まぁ、任務が早く終わるの良い事だからな。その調子で頑張れよ」
恐る恐る様子を伺ったにも係らず、アスマ上忍は全く気にした様子も無く、俺が作ってきたデザートを食っていた。
それを『美味いなぁ』と誉めてくれるのは有難いんだけど、それで良いのか、木の葉の上忍!!
――あれだな、深く考えるなつー事だろう。めんどくせぇからよ……。
思わずこの里を心配した俺に、シカマルが哀れむように何時もの言葉を投げ掛けてきた。
それは、全く慰めになってなかったけど、確かにその通りなので、小さく頷いて返す。
「飯も食ったし、昼からも続けて作業だな」
ご飯を食べて満足したアスマ上忍が言ったその言葉で、また各自が作業をする為に、自分達の荷物を片付けて、動き出した。
きっと、この任務は間違いなく、今日中に終わっちまうんだろうなぁ。
そんな事を思った俺に、どこからか楽しそうな笑い声が聞えて来て、諦めたように小さくため息をついた。
正直言えば、かなりスムーズに任務が終わった。
任務期限は一週間と言う時間があるにもかかわらず、たった一日でその作業は終わりを告げている。
めんどくせぇ事が嫌いな俺でも、こんな状態には、頭を抱え込みたい気分だ。
「あ〜、予定よりも確実に早く終わったな……約束通り飯に行くか……」
「わ〜い、肉・肉vv」
流石のアスマも、この状態には驚きを隠せないつーのが見て取れる。
だが、終わっちまったもんは仕方ねぇ。
何を言っても、意味をなさねぇだろう。
『話の途中に申し訳ないんだが……』
思わずため息をつきたくなったところで、新たな声が掛けられ、俺達は同時にそちらへと視線を向けた。
そこに立っていたのは、白銀の長い髪を後ろで束ねた赤目の美男子と言ってもいい相手。
「何か、御用事が?」
突然声を掛けてきたその相手に、アスマが警戒したように問い掛ける。
『オレは、の保護者代わりだ。そいつを迎えに来た』
だがその男は、アスマの態度など全く気にした様子も見せずに、偉そうな態度でを指差した。
その口調で、俺にもその相手が誰なのか理解出来る。
こいつの人間バージョンなんて、初めて見たつーの。
「えっ、ああ……いえ、今日は、任務も終わったので、これから焼肉でも、と思っていたんですが……」
『申し訳ないが、は疲れているようなので、今日は遠慮させてもらえないか』
言って、の腕を掴むとそのまま引き寄せる。
大事そうにその腕に抱えて、アスマを睨むように言われた言葉と、チラリと向けられた俺への視線。
「確かに、今日はかなり働いてくれたのは否定しねぇんだが……ああ、まぁ、そうだなちゃんと休めよ」
「す、すみません。折角のご好意なんですが、迎えも来ましたので、僕はこれで失礼します」
男の言葉に、アスマがどうしたモノかと考えて、を見てから諦めたようにため息をついて、その頭を少しだけ乱暴に撫でる。
そんなアスマに、は丁寧に謝罪し、頭を下げると、男に連れられるようにその場を歩いていく。
その後姿を見送りながら、俺も続いて行動に出る。
「悪い、俺もこの後用事があるから、帰るは……チョウジといのは、アスマに奢ってもらえよ」
「ああ?お前もかよ!」
出来るだけ不自然なところが無いように、アスマの誘いを断れば、アスマが不満そうな声を上げた。
まぁ、折角奢ってくれるつーのは有難いんだけどよ、あの視線は、絶対に何かあるって言う知らせだ。
あの『昼』が態々俺に視線で合図を寄越して来たんだから、その理由は気になるところだ。
「残念だけど、僕達だけで行こうか……」
「そうだな……言ったように、今日から一週間は休みだ。めんどくせぇからつーって、修行を怠るんじゃねぇぞ!」
歩き出した俺に、後ろからチョウジの声が聞えてきて、アスマの声が追いかけて来る。
それに手を振って返して、そのままのんびりと歩いて行く。
後ろのアスマ達の気配が、別方向へと動いて行くのを背中で感じながら、そこでピタリと足を止めた。
「そこに居んだろう?」
そして、そっと誰も居ない空間へと問い掛けた。
「やっぱり、気付いてたか……『昼』がシカマルに視線向けてたのには気付いてたけど、アスマ上忍達の方は、良かったのか?」
「めんどくせぇが、こっちの方が面白そうだったからな」
俺の問い掛けに、現れたのは先程別れた相手。
その肩には、白猫の姿。
苦笑しながら問われたその言葉に、俺はニッと笑顔で言葉を返した。
「で、これから何があるんだ?」
「………あの屋敷に居た付喪神達に、お礼をな……」
これからの事を訪ねれば、少しだけ言い難そうに、が返事する。
『奈良のガキ、これからの『感謝の舞』を見る事が出来るぞ』
「ああ?『感謝の舞』?」
そんなとは反対に、楽しそうな『昼』の説明に、俺は意味が分からなくって思わず首を傾げた。
「……まぁ、任務手伝ってくれたのは、抗えない事実だからな……それの感謝を表すんだよ……出来れば、遠慮しねぇか?」
俺の疑問に、複雑な表情を見せながらが、理由を教えてくれる。だが、その後に、上目使いで言われた言葉に、俺は思わず笑みを浮かべた。
「誰が遠慮なんてすんだよ。折角だから、楽しませてもらうぜ。なんなら、ナルトのヤツも呼んだ方がいいんじゃねぇのか?」
「んな事出来るか!!」
きっと、後から知ったら悔しがるだろうと分かるからそう言えば、キッパリと否定されちまった。
まぁ、こればっかりは、同じ班になった特権つー事でナルトには、諦めてもらうしかねぇだろう。
俺にとっては、ラッキーな事に、心から感謝しながら、任務場所となっていた屋敷へと再度足を向ける。
そして、俺達の任務を手伝ってくれたと言う付喪神に対し、が見事な舞を見せてくれた。
そのの舞によって、付喪神達も満足そうにまた眠りにつく。ここに来る新しい人間を見守る為に……。
その後、何処で知ったのか、の舞を見逃してしまったナルトと『夜』が不機嫌になったのはまた別の話だ。
『夜』が散々文句を言ってくれたお陰で、俺はもう一度の舞を見れたのは、かなり役得だったとだけ言って置こう。