「―夢楽死葬―」

 その声を遠くに聞いたその瞬間、その場の音が無くなった。

 本当に偶然だった。全く違う任務を受けていたのに、その先であいつに会えるなんて思っても見なかった事。

 声が聞こえてきた時、自分の耳を疑ったくらいだ。

 今日は俺もシカマルも単独任務。
 それは、も同じだった事を知ったのは、の任務先が俺の任務先と離れていなかったから……。

 凛と済んだ声が、術の発動を伝えた瞬間、音が無くなった。
 呻き声が聞えていたのに、その声を最後に音が全て消える。

「『光』?」

 青い炎が見えた瞬間、驚いたように俺の暗部名が呼ばれた。
 静かな空間の中、はっきりと聞えてきたその声に、俺はスッとの前にその姿を移動させる。

「……任務地、近かったんだ……じーちゃんも、こんなに場所が近いんなら一緒にしてくれればいいのに……」
「まぁ、そればっかりは仕方ねぇだろう。お疲れさん、『光』も任務は終わったんだろう?」

 姿を見せた瞬間文句を言えば、面を外したが笑みを浮かべた。

 綺麗な紺と金色の瞳が自分を見詰めてくる。
 が俺に声を掛けた瞬間、音が無くなった世界に、また全ての音が戻ってきた。

 静寂の中に立っていたは、この世の者じゃないと思える程に神秘的で、近寄りがたい存在だったのに、その雰囲気は既になく自分を安心させてくれる笑顔が目の前にある。

「ああ、も、終わった?」
「おう!今日はこれがラスト!後は真っ直ぐ家に帰るだけ」

 それにほっとしながら、質問された事に素直に言葉を返せば、明るい声で返事が返された。

 これが最後って事は、これ以外にも、任務をこなしていたと言う事……一体幾つ目の任務だったんだろう……最近急激に自分に渡される任務が減ってきているけど、それでも今日はSランクが二件。

 は、俺やシカマルと違って下忍としての任務がないから、必然的に暗部の任務が中心となる。
 だから、昼間も仕事していたと言うのが想像できて、複雑な表情をしてしまう。

、今日は一体何件の任務を片付けたんだ?」

 だから気が付いたら、思わず質問を投げ掛けていた。

 俺の突然の質問に、は驚いたような表情を見せたが、それが直ぐに苦笑へと変わる。
 その表情は、困ったような表情で、質問に対して答えていいのか迷っているように見えた。

『器のガキ、少しばかり三代目に文句を言ってもらえるか。今日が遂行した任務の数は』
「『昼』!」

 そんなに変わって口を開いたのは、その肩に乗り大人しく話を聞いていた白猫。その白猫の言葉に、が慌ててその名前を呼ぶ。

『今ので、調度10件だ。いくらお前達が昼間は下忍だと言っても、一人に押し付けるには、限度と言うモノがあるはずだぞ』

 咎めるように名前を呼ばれても全く気にした風も無く『昼』が続けて言ったその言葉に、俺は驚いてを見る。
 は罰悪そうに俺から視線を反らした。

「そ、それってどう言う事だよ!!最近任務が少なくなったと思ったら、あのクソ爺ってば、に仕事を押し付けてたのかよ!!」
「ナ、ナルト、クソ爺って、一応火影……」
「あんなのクソ爺で十分だ!『昼』今すぐじーちゃんの所に文句言いに行くぞ!!」
『分かった』

 『昼』から聞かされた内容に、思わずドベ口調になるが、しっかりとじーちゃんの悪口。
 それにが宥めるように言うが、キッパリと返して『昼』へと声を掛けた。

 だって、俺らの所為で、一人に負担が掛かっていたんだと分かったら、じーちゃんに文句の一つでも言ってやらなきゃ気がすまない。
 
 だから最近、が疲れた表情してたんだと言う事に、今になって気が付いた自分を不甲斐なく思う。
 『夜』も何処となくの事を心配していた事を思い出して、更に悔しくって唇を噛んだ。

 『昼』の渡りを遣って、そのまま火影室へと移動する。

「じーちゃん!」

 突然『昼』の渡りで現れた俺に、じーちゃんはちょっと驚いたような表情を見せるが、それは一瞬だけで、直ぐに何時もの狸笑いを見せる。

「任務は終了したようじゃのう……して、どうしたのじゃ、二人揃って?」
「今日のへの任務量は一体何だってばよ!」

 何も分からないと言うように問い掛けてくるじーちゃんに、俺はバンッと目の前の机を叩いて怒鳴った。

「『』の任務は、今日は終わっておるはずじゃ……」
「これからの任務じゃない!一人に10件もの任務押し付けるなんてどう言う事だよ!!」

 俺の言葉に、じーちゃんが惚けたように返したそれを遮って、『昼』から聞いたその件数を伝える。

「……た、確かに、『』へと頼んだ任務はそのぐらいじゃったかもしれんが、それは……」
「あ〜っ、まぁ、俺が火影様にお願いしたんだよ……」

 俺の勢いに押されて、じーちゃんが慌てて言い訳をしようとしたその言葉を遮ったのは、の声。
 聞えてきたその声に、俺は驚いて振り返る。

?」
「………火影様に無理言ったのは俺。だから、三代目責める必要はないだろう」

 言われた言葉が信じられなくってその名前を呼べば、困ったような笑みを浮かべてもう一度しっかりと言葉にする。

「って、そんな無理がする事ないだろう!」
「ん〜、まぁ、確かに俺がそこまでする必要はないかもしれないけど、少しでも、ナルトやシカマルを休ませてやりたかったのが本音。下忍であるお前等が、昼間も大変そうなのに、夜も暗部で休む暇ねぇだろう。だから、三代目に無理言った。まぁ、ここ数日忙しかったけど、粗方片付いたから、暫くはゆっくり出来るぜ」

 ニッコリと笑顔で言われたその言葉に、俺は何も言えなくなる。

 自分達の為に頑張ってくれた事が嬉しいと思えるけど、その為に辛い思いをしていた事をしって、どんな言葉を返したらいいのか分からない。
 片を付けたと言う事は、ここ数日同じいや、それ以上の数の任務を一人で終わらせていたと言う事。

 普通の暗部では、到底出来ないその仕事量。

 きっと自分でも、そんなに出来ないかもしれない。
 それでも、は自分達の為に頑張ってくれたのだ。

「………俺達の事はいいから、だってちゃんと休まないと駄目なんだからな!!」
「うん。ちゃんと分かってる。『昼』や『夜』にも心配掛けたから、今度からはもうちょっと何とかなるようにするな」

 無理をしていたに、心配をしたのだと分からせるようにしっかりと釘を刺す。
 それに返されたのは、分かっているのかそうじゃないのか分からないの言葉。

『……。器のガキが呆れているぞ』

 の言われたそれに、俺は複雑な表情を見せれば、『昼』がため息をつく。

 本当に、は分かってるんだろうか。
 無茶な事をすると、俺だけじゃなくってシカマルだって黙ってないと言う事を……。

「話は終わったようじゃな。では、『光』と『』そして、『影』には3日間の休暇を与える。ゆっくりと休むんじゃぞ」
「了解!」
「御意」

 俺達の話を黙って聞いていたじーちゃんが、小さくため息を付いて話を切り出す。
 それは、久し振りの3人揃っての休暇。
 勿論下忍の任務はあるだろうけど、暗部の仕事が休みだと言う事は、ゆっくりとの家で寛ぐ事が出来る。

「『影』には、お前達から伝える方が良いじゃろう」

 嬉しくって顔が思わず笑みの形を作る。

 その表情のまま、じーちゃんが言ったその言葉に、俺は頷いて今度はの家へと帰るために、『昼』の渡りに便乗した。


 偶々出会った任務先で、信じられない幻想的な世界を見た。
 そこでは、全ての音が無くなって、でもどんな世界よりも澄んだ空気が流れている。
 そして、その世界を作り出した人は、俺にとって暖かな世界も作り出してくれるのだ。

 少し無理はするけど、彼は俺達の為に、頑張ってくれる。
 それが嬉しい反面、ちょっとだけ心配だ。

 暗部の任務は何時だって危険が付き纏うから、だから、もしもこいつが居なくなれば、俺の世界の全ての音は無くなってしまうだろう。
 今の自分は、彼を中心に回っているから……。


 だから、音が無くなる。

 他の音なんて、必要ない。
 お前だけが、ここに居てくれるのなら……。