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自分が人ではないと思い知るたび
私は死にたくなる
どうして周りの人は私を死なせてくれないのか
一体私がなにをしたというのだ?
『絶望の淵』
一人の少年が屋根の上に寝っ転がりながら、耳にはイヤホンを付け、音楽を聴いていた。
音もなく少年の隣に立ったのは暗部服に身を包み、動物の面を着けている男。
「ここにいたのか」
「なに?任務」
少年は暗部服の男にめんどくさそうに言い返した。
「お前にしか出来ないそうだ」
「わかった」
簡潔に答えると少年は立ち上がった。
そして体の回りに風を纏い、瞬時に目の前から消え去った。
男もそれに続いて、姿を消す。
その様子を見ている者は誰一人としていなかった。
***
「では、。どうしてもお前でなくてはならない」
そう言って初代はに巻物を渡した。
巻物には任務内容のこまかなことが記されている。
「わかった、気にするなよ。初代」
はあろう事か火影の初代を呼び捨てにした。
隣に立っている男はの後頭部を殴り付けた。
「何すんだよ!!猿飛」
「初代様になって口を利くんだ?」
「気にするな、猿飛。は特別なのだ」
初代の宥めに猿飛は従った。
その横でが舌を出すのを怒りの形相でにらみ返していた。
「んで、猿飛も連れてくのか?初代」
「いや。そのつもりはサラサラないのでな」
「え!!俺も連れてけよ、!!」
みっともなく大声を上げる猿飛を横目にはため息を付いた。
「足手まといになる」
「連れてけ!友達だろう?」
グッとは息を止めた。
猿飛に『友達』と言われるとどうしても断ることが出来ない。
ヤレヤレと初代は二人を見比べた。
は猿飛が子供だった頃、拾ってきた少年だ。
最初、人の手を離れた野獣のように手当たり次第の人間の手を噛んだ。
しかし、しばらくすると猿飛にやがてなつくようになり、今では二人は友達以上の、親友と呼べる関係にまでなった。
は人間ではない。
裏界と呼ばれる世界に君臨する風の神であり、動物や人間の怪我を治すことも出来るが、死んだ動物は生き返らせても、人間は生き返らすことができなかった。
に言わせて見れば、それは上からの命令で、決してやってはいけない決まり事なのだそうだ。
初代はと契約している。
その契約内容は『この里に危険が迫った場合、助ける』と。
代わりに、『この里に原因がない場合のみ』通用する契約だった。
にもいちお、里の住人として任務をこなしてもらっている。
ほとんどが暗部の人間すら手に負えない絶滅任務や護衛を言った代物だ。
大勢の人間を必要とする任務であっても、一人いれば解決する任務も多い。
しかも、任務は100%こなしている。
「ここで読んでいいか?」
「あぁ」
は巻物を広げると横からが覗き込んできた。
内容は『とある城にいる人の全滅任務』だった。
「俺一人でいい?」
「一緒に行くからなぁ?」
ニッコリ笑顔で言い換えされ、は口を噤んだ。
「では、行ってくる」
「気を付けてこい。・猿川」
初代の言葉を待たずに二人は姿を消した。
***
「う〜ん、終わりv」
その場にぐぅ〜んと背伸びをしながら、は辺りを見回した。
壁という壁は血で塗りつぶされ、本来の白さを止めては居なかった。
足元には多量の死骸が折り重なるように倒れていた。
その全てが一発で、殺された。
ただ一人立っているの暗部服には血が一切、ついていない。
神が人を殺しては行けないというルールは天上界にはない。
それは人間が勝手に作った解釈であって、妄想と現実は決して合うことはない。
「やべ。猿川んとこいかねぇーと」
ピチャピチャ。
床を流れるまだ固まっていない血が走るたびに跳ねる。
汚いなぁと思いながら目を瞑り、周りに風を纏う。
そうすることによって、が歩いた後には一本の道が出来ていた。
真っ直ぐに血痕は道の途中で切られ、その場所だけ雑巾をかけたような白さになっていた。
「あれ?まだ来てねぇーし」
猿飛との待ち合わせ場所は城の出入り口。
キョロキョロするものの、猿飛の姿は影も形もない。
なにせこの城に入ってから30分しか経過していないのだから、当然と言えた。
中にいたのは二人で分担したから総勢100人程度。
その時間より5分程度早い。
外にも護衛がいたが、全て殺し、死体しかない。
仕方なくは壁に寄っかかる。
たった一人ここに立っていると、無性に死にたくなる。
生きている意味さえ、分からなくなり、誰が自分を殺して欲しい衝動に駆られる。
どうして自分は生きている?
不老不死だからそう簡単に死ねるはずがないことは分かっている。
それでも、死にたかった。
左右目の色が違うと言うだけで、天上界の人はを拷問した。
数え切れないほど体を焼かれ、切られ、今では痛みさえ湧いてこなくなった。
そんな絶望の淵にいた自分を猿飛は『生きて欲しい』と言った。
嘘偽りのない言葉には涙が出た。
生まれて初めて何かに許しをもらうことがなかった。
だから、猿飛の言葉に応えるため、生きようと思った。
どんな手を使ってでも、生きていればいつか自分を認めてくれる存在が他にもいるかも知れないと言う、希望が見えてくる。
「」
声がして振り向くと、全身血まみれで、肩で大きく息をしている猿飛だった。
「猿川・・・」
は猿飛に近づいていった。
「なに?どうしたんだ?泣きそうな顔をして・・・」
「いや・・何でもない」
はニッコリ笑った。
「じゃあ・・・帰ろうぜ!」
「うんv」
二人は連れだってその場から姿を消した。
(完)
幻日天化ーげんじつてんかー 三島さまより相互お礼に頂きました。
男主人公の夢小説です!!
しかも、主人公最強に強い!!カッコいいんです!!
陰のある主人公って大好きなので、すっごく嬉しかったです。本当に有難うございました。
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