俺もね、一応、人間様なわけで……ココロがない人形じゃない。
だからね……時には嫉妬する事もあるんです。
ぶっすぶっすと布地に大穴を開けるかのように針を乱暴に突き刺していく。
布地は気分を表すように見事にがたがた、元々、そうでなくとも形が狂いまくって寸法は滅茶苦茶なものが輪をかけて滅茶苦茶になってる。
理由なんて簡単だ、つなよしさんと喧嘩した……それだけのコト。
喧嘩の原因は本当に些細な事で、自分としては不平不満を何処かに思わず叫びそうになる。
「……不貞を見つけた妻のように感情露に叫べとでもいうんか、全く」
「ダメツナの事だから軽くでも嫉妬して欲しかったんじゃねーのか?」
ぶすりっと布地に再び大穴を開ける。
ソファに深く腰掛けて、落ち着くためにかエスプレッソに口をつけているリボ先生の言葉に唇を尖らせた。
喧嘩を始めて1週間、周囲は直ぐに元の鞘に納まるものだと思っていたらしいが、長引く冷戦に流石のリボ先生も重たい腰を上げざるをえなかったらしい
懐柔しやすいのが俺の方だと思われているのが微妙に癪だが
「だってどう見ても事故としか見えんかったんだぞ?あれ……嫉妬よりも同情が先に立った」
喧嘩の原因は、偶然、本当に偶然、つなよしさんが女性に絡まれてキスをしているところにばったりと出くわした……如何にも何処にでも転がっていそうなお約束なそれである。
飴色の瞳が大きく見開かれていたから、あれだろう、確実に不意打ち。
まぁ、つなよしさんは女性にもてるし、思い余った人間が一人二人出てきても可笑しくはないやな……
と、そのままする〜と流した、自分の態度がどうも気に食わなかったらしい。
『は……本当のところ、オレの事をどう思っているの?!』
愛情を見事に疑われました。
周囲に言わせると、かなり分かりやすい愛情表現をしているらしいのに、本人に伝わらなければ意味はない。
『どう思ってるって、純粋に愛してるけど?』
『純粋に愛?……ふぅん、愛してくれてるんだ……』
『だからそう言って……っ……』
壁に縫いとめられるように握られた手首が悲鳴をあげて、顔を顰めても手を緩めてくれる事はなかった。
求められたキスはどこか苦くて、細められた飴色の瞳に鼻の奥がつんと痛む。
『愛しているなら……愛してくれてるなら、少しは嫉妬したりしてよ……』
『嫉妬って、あのキスの事か?だってあれは事故みたいなもんなんだろ?だったら別に……』
『オレだったら、が事故でもキスしているのを見るのは嫌だよ?』
別に、キスをしているのを見て、何も感じなかったわけじゃない。
本当は分かっていると言いながら、女性の話とか結婚とか、そういう噂を彼の部下がしているのを聞くたびにびくびくしていた。
何れ来るとは知り、覚悟だってしたけれど……何処かで、もう少しと、怯えている自分がいる。
けれど、その我侭をぶつけてこれ以上、そうでなくとも色んな柵で動けなくなりそうな相手の負担になりたくないだけだったのに
『は何時もそうだ……平然とした顔をして、気にしないって笑ってる』
『………そんなこと……』
『は……本当に、オレの事を愛してくれているの?』
『つなよしさんだけを愛してる……よ?』
『っ……言葉だけなら!!言葉だけならなんとでも言えるよね……』
不安にさせたかったわけじゃない。
泣き出す一歩手前の顔をさせたかったわけでも、そんな、傷ついた顔で笑って欲しかったわけでもない。
事故としかいえないキスが、多分、原因ってわけじゃなかったんだろう。
ただ、引き金になったというだけで
それまでの、自分の何処か一歩、離れた態度が、つなよしさんにそんな顔をさせ
『少し、距離を置こうか……』
その言葉を吐かさせた。
ゆるく離れていった手。
掴まれていた手首はしっかりと赤くなっていて、指でなぞる。
だって、どうにもならないじゃないか……
どう足掻いたって、どんなに愛しいと思っても……
どうにもならない事だって、ある。
「同情って、それもどうかと思うぞ…?…」
「そう言われてもな……だって遠目に見ても嫌がってるの分かったし……」
「そんで、それを素直に口にしなかったっと?……愛情を疑われても仕方ねーぞ?」
リボ先生の言葉にうぐりと言葉に詰まる。
確かに、色んなものを端折った記憶が片隅に、いじけて丸くなっていた。
「本当は、全然、嫉妬しなかったってわけじゃねーんだろ?」
リボ先生の手が薫り高いエスプレッソの注がれた白いカップを優雅に傾ける。
その隣、膝の上に一生懸命よじ登ろうとして、さり気なく左手に握られた銃口でぐりぐりと押さえつけられているダミアンちゃんが見えた。
28号以外なら仁義なき戦いに発展することはないらしい。
「今も、オマエがそんなに荒れてるのは喧嘩だけが原因か、……違うだろ?……それを素直に表に出せば、ここまで長引く事もなかったんだぞ?」
「う〜〜〜〜〜だって、どう見ても事故だったんだ」
「ああ、事故だな、確実に……それを未だに引き摺ってんのは誰だ?ん?」
「……俺、だけど……」
いい加減、面倒になったのかダミアンちゃんがソファの下に叩き落され、その足で素早くふみっと踏まれた。
じたばたともがくダミアンちゃん、ぐりぐりと足にひねりを入れてるリボ先生。
それはそれで楽しそうだ。
「だって……そんなの、子供っぽいし……格好、悪い」
「恋愛なんて格好や体裁を気にしてやるものじゃねーぞ……」
「それは知ってるけど……」
「一度、素直になってみるのも良いんじゃねぇのか……?…」
「素直になれといわれても……どうすればいいのかわからん」
相手を責めて傷つけるだけなら、誰だって出来るのだ。
傷つけあって深まるものもあるのかもしれない、でも、傷つけあったらそのまま消えてしまうかもしれない。
それでも、時折、全てを吐露して叫びだしたくなる。
叫ぶ事が出来たら……このココロも、少しは楽になるんだろうか?
(いや、逆にぐるぐると悩んで自滅すんな、俺の場合)
これでも、結構な小心者で石橋は叩いて渡らないとダメなタイプだ。
相手を思いやる言葉で飾りながら、結局は……自分が傷つきたくないだけ
「なんだっていい……面と向かって素直に感情を吐露してこい……このままだと、簡単に暗殺されるぞ?ダメツナが」
腑抜けきって、話しにならないとリボ先生が溜息を吐き出す。
布を縫うというよりはぶっさしていた手を止めて、うろりと視線を浮かせた。
「……素直に言えば……赦してくれると思うか?」
「本当は嫉妬してて悔しくて見てみぬフリをしたって?」
「………ん………」
こくりと頷けば、ぐしゃぐしゃと頭を撫でられた。
「大丈夫だろ……寧ろ、喜んでんじゃねーか?今頃……」
「……は……?」
「いや、なんでもねー」
「喜んでいるとか何とか聞こえた気がしたんだけど……」
「幻聴だぞ」
その割にははっきりとした幻聴だな?おい。
目がさり気なく泳いでいる気がするんだがな?
「リボ先生……」
扉が盛大な音を立てて内側に向かって開かれ、言葉途中で静かに口を閉ざす。
リボ先生は何故か素早くソファに身を隠した……あれか?実は仕事途中でさぼったのか?
つかな、この部屋の扉は、外側に向かって開くタイプだっつーの!!
誰じゃい!!と相手を軽く睨みつければ、すぐ傍で鋭く舌打つ音が確かに聞こえた。
「私、ボンゴレ10代目の婚約者で、セリアと申しますわ」
喧嘩の原因、つなよしさんにキスをかましていた女性の言葉に、ぴくっと指先が小さく跳ねる。
リボ先生は己の唇に人差し指を立てて、その黒曜石の瞳をすぅっと細めた。
それにしても、自称婚約者は山のようにいるらしいが……
「今まではただ打診だけでしたけど、正式にツナヨシから、申し込まれましたの……それで、屋敷に呼ばれて来てみれば、馬鹿にしてる、男の愛人ですって?」
その日が来たら後腐れなく消えてやると南国果実に断言していたし、そして何よりもそうしてやると心に硬く誓っていた。
土足禁止の室内に10センチヒールを打ち鳴らして、馬鹿にするように朱厘を引き上げる金髪美女。
つなよしさんと喧嘩した時から(一方的に喧嘩を売られた気もしないでもないが)ずっとすれ違いが続いていたが……ほほぅ、正式に婚約ね
「しかもまだ、美少年なら分かるのにこんなちんけな子供……こんなワオキキザルみたいな子供を理由に先延ばしにされていたなんて」
ちんけとか言われてるよ、俺。
ワオキキザルも、あれはあれで可愛いんだけどな。
今度、作成してみよう、武器は勿論、五寸釘とトンカチなんてどうだろう?
「本当に馬鹿にしているわ……こんな平凡な子供を愛人に抱えているようでは、ツナヨシの趣味が疑われるのに」
柔らかそうな巻き毛を右手でさらっと払って、毒を孕んで紡がれた言葉。
子供なのも平凡なのもまぁ、本当のことだし仕方が無い。
「ぱっとしないし華も無い」
婚約者というからには、彼女がいずれかはボンゴレ夫人になるんだろう。
正式につなよしさんから申し込んだというし……リボ先生は額に手を当てて何か遠い目をしているし
これが、ボンゴレ夫人(予定)
あ〜〜〜〜〜ダメだな、うん、性格、合いそうにないわ
「私が最初から、彼の傍にいればこんなゲテモノ食いもしなかったでしょうに」
「セリア!!こんなところにいたのか?!ボンゴレがオマエをお呼びだ」
「お父様、分かりましたわ、直ぐに参ります」
ぱっと顔を輝かせるセリア嬢に、その父親の言葉。
気付いてみれば、手の中でめきょっと針が折れ曲がっていて、少しだけ自分の行動に驚いた。
リボ先生があ〜〜〜とでも言うような顔をしているように見えたのは気のせいか?
「ちょっと、あなた、聞いてるの?貴方はもう用済みなの、ツナヨシが最近、外出していたのは私のところに通ってきていたから、いい加減、お払い箱だって事に気付きなさいよ」
「きちんとばっちり全部聞いた……今回が実に初めてだ、俺が右から左にオールスルーしなかったのも」
にぃぃぃぃっこりと微笑んで、ぶっすりと折れ曲がった針を針坊主に突き刺し、そのまま立ち上がる。
ゲテモノ食いに、ちんけな子供、お払い箱で、通い婚。
「婚約、婚約ね……ダイヤモンドのエンゲージリングで、俺がいない場所で永遠の愛を誓ってくれ、うん」
「な、なに言ってるのか分からないわよ」
「理解してほしいわけじゃないんで、理解しないでくれて結構」
どきっぱりと言い切って、部屋の中を横断する。
「ちょ、何をしているの……?」
「変な事を聞くんだな、出て行けって言ったのはそっちだろ?」
クローゼットを開け放って、中から取り出したのはこの日のために用意していた現金とパスポート。
ついでにダミアンちゃん1号を抱き上げれば、金髪巻き毛が後ろに下がった気配がした。
「リボ先生、俺は自分の心が結構、狭いことを今知った」
少しだけ心苦しいが、付けられていた鈴を全てばらっと外して床に落す。
この女が自分のところに喧嘩を売りに来た上に、目の前の女性を呼びつける理由は……つまりはそういう事と判断して構わないんだろう。
「何処に行くつもりだ?」
「救命ロボくんで一気に空港までトンズラする、追いかけてくるなよ?ダミアンちゃんで攻撃すっからな」
さらば、イタリア。
二度と来る事は無いだろう、うん。
「一応、ダメツナの弁明は聞いてやるつもりはねーのか?」
「婚約おめでとうとでも伝えておいてくれや……」
本人が目の前の女性を選ぶというのであれば、別にそれでいい。
か〜な〜り、言われた事にかち〜んときたが、さっくりきっぱり身を引いてやろうじゃないか
「あらあらあら、ボンゴレ様ったら迂闊ですわね……浮気現場はばれないようにするのがセオリーですのに」
「……丁度いいとこに、さっくりと消えるぞ、オマエがいてくれれば、100人力だ……それに本命なら浮気じゃないんじゃないんか?」
「ほほほほほ、珍しくお兄様、怒ってますわね」
「あそこまで貶されて怒らない人間がいれば俺は見てみたい、きっと限りなく菩薩のように広い心を持った人間だろうな、俺とは正反対だ、うん」
「本当の理由は違うくせに……お兄様は本当に素直じゃありませんわ」
「素直じゃないのが俺だかんな」
窓ガラスを蹴り開けて、ひょいっとベランダの柵に飛び乗る。
救命ロボくんに飛び乗って、さぁ、行こう、天竺へ
「でもね、お兄様……逃げるのは多分、無理ですわよ?」
「そうだな、確実に無理だろうな」
とリボ先生の言葉を聞き返す事もせずに、瞳を伏せる。
耳に飛び込んでくる、ジェット噴射の音。
髪が風に煽られ、ふわりと揺れた。
「3階から飛び降りたりするのは、もう二度とやらないでって、言ったよね?」
てぃっと景気よく飛んだ瞬間に、声が聞こえて
首が思いっきり、絞まった。
「ぐはっ!!?首が〜〜〜〜〜!!首がぐきっとばきっと鳴ったぞ、今!!」
「へ〜ぇ、それは大変だね……」
ぎぎぃっと壊れたブリキの玩具のようにそちらを見れば
にこやか笑みなのにその目がこれっぽっちも笑っていないつなよしさんがおりましたとな
「な、なんで居るんだ?!つなよしさん?!!」
「自分の屋敷にいて何か悪いの?……」
いや、うん、自分の屋敷にいて悪い事は無いんですがね
俺が言いたいのはそういう事じゃなくてだな、ど〜〜〜してここに居るかって事なんだが……
ついでに首根っこを猫のようにぶら〜んとぶら下げられていなければならないのか理由がさっぱり、分かりません。
「で、出来ればこのまま放して欲しいかな〜〜〜なんて」
お邪魔虫はこのまま海外に高飛びします。
そのまま二度と戻ってこないんで、新婚家庭の波風は立てませんよ?
「ダメに決まってるだろ?」
「だって、つなよしさんはそこな女性と婚約して、ダイヤモンドでエンゲージリングなんだろ?」
「ダイヤモンドのエンゲージリングを嵌めてその首に鎖を付けたいのはだけなんだけどね……」
「首に鎖はちょっと……それに、俺、絶対にそこな人とは気が会う日は永遠に来ないと思うんで、一緒に囲われるのは」
出来れば、せめて別棟に……
そしたらこっそりひっそり逃げ出しますんで
「囲わないし、婚約云々って言うのは勝手に言っている事……元から、本命はだけ……」
「……本当に……?…」
自称婚約者なのか?本当に……?
窺い見るようにじっと顔を覗けば、軽い口付けが落ちた。
「本当……誓ってもいいよ……」
「つなよしさん……」
「嫉妬してくれるのは嬉しいけど、そのまま海外逃亡しようとしないでくれないかな」
抱き上げられて、足がとんっとベランダに付く。
苦笑と、僅かに見えた嬉しげな色。
むっとして唇を尖らせた。
「嫉妬じゃない」
「そう?がそう言うならそういう事にしておいてあげる」
背中に回された暖かな腕。
そういえば喧嘩してからずっとこういう風に抱きしめてもらうこともなかった。
「それでだ、屋敷に二度と立ち入るなと言ったよな?セリア」
「これは、その……」
「弁明は聞かない、オレは以上に心が狭いんだ」
冷ややかなものを含んで、つなよしさんがふっと瞳を細める。
低い声に金髪巻き毛の女性の肩がびくっと軽く震えた。
「猫の額ほどもありませんものね……ボンゴレ様」
「そうだよ、そしてその額ほどの広さしかない心は全てで埋まってる、他に入り込む余地がないぐらいに」
茶化すような妹の言葉に、ふっと唇だけで笑んできっぱりと言い切る。
入り込む余地がないんかい、つなよしさん……
「それよりも、リボーン……前回もだけど、今回もこの女を屋敷に入れたのはオマエ?」
「今回は俺じゃねーぞ、それに前回は勝手に入り込んだだけだ」
「前回はわざと、見逃したんだろ?……オマエは」
「だから、回りくどく面倒な事に手を貸してやったんじゃねーか」
ちらっと示すように見えたのは小型集音マイク。
つまりは、だ……さっきの会話を全部、まるっと聞いていて
途中で乱入してきたセリア嬢に慌ててやってきた、と
「勿論、つまみ出してくれるんだよね?リボーン」
「オマエがつまみ出さなくていいのか?」
「ここから突き落とす方法ぐらいしか思い浮かばないんだけど……それでいいなら、やるよ?」
はぁっとリボ先生が深い溜息を吐く。
「やめておけ、一応、まだ同盟ファミリーの娘だ」
「ファミリーが残ってればの話だけどね……マイクで拾っていたのを、全館放送してみたから……」
「……更地になってんじゃねーか?今頃……」
長くて意味不明な文面になってしまいましてすみません(汗)
夢主の嫉妬話しは難しい(涙)つなさんの嫉妬は簡単なんですがね〜
嫉妬しているのかいないのか微妙な出来
ツキハナさま、有難うございます!
意味不明なんて、とんでもないです!
難しいと言っていたのに、こんな短時間で書いてくださって本当に有難うございます!!
主人公が嫉妬〜っ!と悶えて喜びました。
本当に、ツキハナさまの書かれる小説が大好きです!