君はいつも窓際の席にいた。
漆黒の綺麗な髪が太陽に照らされて、思わず動けなくなった。
いつも黒い眼鏡をしていて、その奥に秘められたる感情は伺うことが出来ない。
けれども、その時僕は思ってしまったんだ。
君の瞳を見てみたいって。
顔を見てみたいと・・・。
僕は見てはいけなかったんだと思う。
見てしまったら何だか引き返せないところまで行きそうで、僕は怖かった。
【窓際の君】
その時、沢田綱吉は気付いた。
中学には行ってからすぐ自分のダメさが目立ち始め、『ダメツナ』と呼ばれるまでそんなにかからなかった。
ダメツナと呼ばれることに最初は抵抗を感じていたものの、最近になってそれは当たり前になっていた。
何をやってもダメだからダメツナ。
けれども、リボーンと出会い己のダメさと向き合うことになった。
自分は何をやってもダメだということを自分がダメツナだと認め、何もかもやる前から投げ出していたからだった。
所謂自分がこれ以上傷つかないための防護策が、諦めることだったのだ。
ダメツナだと自分で思い続け、中途半端に投げだし、何もして来なかった。
それが今、『リボーン』という謎の赤ん坊によって全てが変わった今。
ツナは少しだけ、前の自分を思い返す。
前の自分より今の自分の方が好きだと言える。
それを思い返せば、クラス中がダメツナとはやし立て、パシリにさせられる中。
たった一人だけいたんだ。
けれども、それを今の今まで馬鹿なことだと思っていたから。
今こうして思えば、自分は好きだったのだ。
というクラスメイトを。
**
は、とにかく謎の少年だった。
入学早々、顔の半分を覆い隠すようにして黒いサングラスをして学校へやってきた。
とにかく体育の着替えだろうが何だろうが、サングラスを外さない
にクラスメイトが面白がって何かしようとしたらしいが、何故かそれもうやむやのうちに霧散してしまった。
あれは、後から聞いた話によれば、この時すでに
は風紀委員に属しており絡まれているところを雲雀に見とがめられ、噛み殺されたらしい。
それ以来
の脅しは無くなり、結果自分に向くことになったのだが。
同じクラスメイトとはいえ、謎に包まれている
に誰一人として声をかけることはなかった。
必要最低限の事柄以上の話をしている
を、ツナは見たことがなかった。
頬杖をついて窓際の席で、じっと外を睨み付けて微動だにしない。
彫像のようにそっぽを向く
をツナは、見るともなしに見詰めていた。
頭もいいらしく、獄寺が来る前までは学年一位を獲得していたが、彼が入って以降はずっと2位をキープし続けている。
それだけでも相当頭がいいらしく、今では獄寺を抜いたり抜かされたりといい勝負を見せていた。
運動もそこそこ出来るらしく、ミステリアスな雰囲気からクラスメイトや他のクラスの女子にまで人気があるらしい。
だが、彼がクラスにいる時間は限られているので、大体お昼休みや中休みといった時間帯はほんどいない。
いつも授業が始まるギリギリまで帰ってこないことが多い。
放課後もホームルームが終わると同時に、帰る。
これも親しくなってからなのだが、その時間は殆ど応接室で過ごしていたらしいのだ。
昼ご飯も。
そんなわけで、ミステリアスな
とダメツナの自分の接点はどこにもなかった。
**
切っ掛けとなったのはやっぱりあの日だろうと、ツナは思い返す。
あの日は雨が降っていた。
補習で遅くなり、帰ろうと昇降口に立ったときすでに豪雨となっていた。
朝から曇っていたが大丈夫だと高をくくったため、傘を忘れてきていたのだ。
最悪なことに、山本は家の用事で先に帰り、獄寺もダイナマイトの買い付けのため、先へ帰ってしまった。
山本はまた日を改めての補習ということになり、ツナ一人で補習を受けることになったのだ。
外は、漆黒の闇が支配し、ざーざーと耳障りな音を立てている雨。
先が暗く、下駄箱入り口上の蛍光灯が鈍く光り、チカチカと明滅を繰り返す。
確実に何か出そうな予感がヒシヒシツナはしてきた。
母が気付いて持ってきてくれたらいいのにという予想は却下された。
っというのも、教室にいる時点で雨に気が付き、電話をしたのだが通話中の空しい音を奏でるのみだった。
学校に残っているのはどうやら自分一人のようで、他には誰もいない。
雨の様子を見れば、当分病みそうにもない。
っというより、夜中ふりそうだ。
「はぁ・・・母さんの言うこと聞けばよかった」
誰に言うでもなく、漏れた言葉はコトンっという何かを置いた音によって返された。
「沢田殿?」
クルリと振り向けば、漆黒の髪が鮮やかな
が立っていた。
一年二年と続いてしてきたサングラスは外され、その下に除く黒い瞳が不思議そうに垂れる。
その時始めて見た
の顔にドキンっと胸が高鳴るのを感じた。
始めてみた・・・以外と可愛いかもしれない。
うるさい心臓の鼓動にどうして、
と分かったのだろうと自問自答する。
たぶん呼び方で分かったのだ。
自分を『殿』付けするのは
だけだったから。
「あれ?
くん。サングラスは?」
「放課後は外している。見えにくいからな」
「そうなんだ・・・・」
靴を履き替え、傘置きにあった青い空みたいな傘を取り出し、ツナと並んだ。
身長はツナより少し低く、頭のつむじがみえる。
小さい背に加え、女みたいな華奢な肩。
「沢田殿はどうしたんだ・・・こんな時間まで。普通なら風紀委員に噛み殺されても可笑しくないだろうに」
「今日は補習があったんだ!だから・・・こんな遅くなって・・・」
恥ずかしくなってツナは顔を赤くし、俯く。
察した
は、ふーんと言うと鞄を開け、何かゴソゴソとし出した。
何を捜しているのかと思ったら、中から出したのはカラフルな色をした折りたたみ傘だった。
「傘・・・ないんだろう?貸してあげるよ」
「え・・・いいの!!」
どうしよう、嬉しい!!
きっと今の自分は変な顔をしているに違いない。
に傘を借りて嬉しいなんて。
この時ばかりは傘を忘れてきてよかったと思ってしまった。
ツナは
から傘を受け取る。
「・・・・元気そうで安心したよ。沢田殿」
「えっ?」
唐突な言葉にツナは、
の両目をのぞき込む。
底が知れない海のようで、確か雲雀も同じ瞳だったと思い返す。
けれど、彼ほどまで行かないけれど
の瞳も深かった。
吸い込まれそうだと思う。
「一年の時、沢田殿はちゃらんぽらんに見えた。何もしない馬鹿だとね。けど、どうやら違っていたみたいだね」
微笑とまで行かない微笑みは、ぎこちなかった。
笑うのは苦手なのかも知れない。
「まぁ、色々あるようだけど最初の認識は違っていて安心したよ」
安心した?
どうやら
はツナのことを遠くからずっと見ていたってことだろうか。
じゃなかったら、こんなホッとした顔をしてはくれないだろう。
ツナは知らず知らずのうちに顔に熱が溜まるのを感じた。
自分も同じだったから。
知らないうちに
を視線の先に見詰め、
も自分を見詰めていたなんて。
こんな都合のいいことがあるのだろうかと。
「沢田殿は前よりずっとかっこよくなったと思うよ。じゃあね!」
「あっ!これ明日返すから!!」
傘を差して暗い雨の中去る
の後ろ姿にツナは大声で叫んだ。
雨の音が激しいために、聞こえていたかどうか分からない。
けれども、どうやら
には気付いていたらしく、傘を少しだけ高く上げての返答を返してくれた。
「あっ・・・・・」
帰るなら一緒に帰ろうと言えばよかったとすぐに後悔したが、今声を掛けるのも何だか気が引ける。
ツナは折りたたみ傘を握りしめながら思った。
ドクンドクンと喉元で心臓が鳴っているかと錯覚するほどの大きな音。
体中の熱が顔に集まる感覚にツナはただただ、傘を見詰めていた。
**
「でー丈夫か?ツナ」
「あ・・うん。大丈夫だよ。
」
が『ツナ』と呼び、ツナが『
』と名で呼び合うようになった頃。
ツナは、季節はずれの風邪をひいて寝込んでしまっていた。
今彼の瞳は赤と紫のオッドアイで、学校でもそれを通している。
「だらしがねぇーぞツナ」
「うるさいよ、リボーン」
の隣で家庭教師であるリボーンが、ちょこんとツナの顔をのぞき込んでくる。
不安そうな
の顔にツナは苦笑いをする。
未だもって、ツナは
に想いを伝えてはいない。
の表情と少しだけ『あの子』と被ってしまうからだった。
たった一人この生涯を通して守り抜くと誓ったただ一人に。
もうこの世にはいないあの子に。
それ故にツナは
に、告白することを躊躇っていた。
けどそれでも良いと思う。
もし、想いを伝えてしまったら今の関係が崩れることを恐れているからだ。
けれども、もし想いを伝えられたのならきっと前の自分よりもっと自分を好きになれそうな気がするから。
それまで、傍にいてもいいよね?
※コメント※
haruka様の『リボーン夢ツナ夢』とあったので頑張って見ました。
『あの子』が誰なのかは後々明らかにする予定なので明かせません(笑)。
雨の中、男性が女性に傘を貸すシーンはあったのが凄く出したかったんです。
立場逆転というのも結構いいものですね♪
では、こんなんでよろしければ貰って下さい。
幻日天化ーげんじつてんかー 三島さまよりお祝い小説頂いてしまいました。
リボーンの男主人公の夢小説です!!
我が侭言って、ツナさん相手で書いて貰った甲斐がございました!!
ツナさんが思うあの子がめちゃめちゃ気になるんですが、これから明かされていくそうです。
これからの更新も楽しみにしております。
素敵な小説、本当に有難うございました。