長らく行方不明だった53号を無事発見、手早くカスタマイズして(何せ不法侵入ですから)拾い主に渡るようにダミアンちゃんの飼い方入門編を……制作者としての最低限のマナーとして潜ませておいた。


やっぱりほら、一応さ……飼い方は分かっていた方が良いかと思って……


親切心だったんだぞ?本当だぞ?!
それで、そのままさっくりと戻ったわけだが……
多分、その際にポロッと溢してしまったのがいけなかったのだろう。


妹の前で不用意な発言ははっきり言って厳禁だ。
何しろ、あれでも一応、お兄様のためならば……という性格の持ち主。
屋敷の中で蹲ってどうにもこうにも打ちひしがれているっぽい小柄な少年の後姿を見つけた時、ふっとその時の会話が走馬灯のように巡りまわったのは不用意な発言と言う自覚が思いっきりあったからだろう。





「う〜……少しだけ、会って来ればよかったかも……」



不用意な発言、会ってみたいとつい、零してしまった。
妹の瞳がきらんっと底光りした事にも気づかずに、ずずっと紅茶を啜る。



「それは、お兄様……ダミアンちゃん53号の拾い主に……ですわよね?」

「え?会ってなかったの?!カスタマイズはバッチリと言ってたからてっきり本人に会ったものかと……」



メイドの ちゃんを交えて、一階にある食堂にて茶をしばく。
もう一つある食堂とは違ってこっちは一般向けというか、幹部以外向け食堂で遠巻きにこちらを窺っている顔が幾つか見えたが妹の が一睨みすると散り散りになって逃げていった。



(根性の無いことで……まぁ、邪魔されたくないし、いっか)



どこでも異世界ドアで向こうに行っていた時間は30分ほどだったのだが、一方通行だったらどうしようとその間、ずっと心配してドアの前で待っていてくれた。
持つべきものは母国語が同じ出身国も同じ友人である、性別を超えた友情は確かに育まれると思います。

まぁ、そんなわけで、お陰でほんの少しだけ妹の態度が軟化。
それは兄としても喜ばしき事だ、何しろほんの少しばかし妹は人間不信が強いから。
寧ろ、人間が嫌いなのだ、どちらかといえば……そうは見えないように振舞ってはいるが

それにしてもダミアンちゃん53号をカスタマイズしたとは言ったが、相手に会ったとは一言も言っておらんぞ?……早とちりさんだな、 ちゃんは



「一応、インターホンを押してみたら反応が無くってな」

「は、反応が無くてどうしたの? くん……」

「仕方がなかったんで手ごろな窓から侵入してみた」

「犯罪!!それ微妙に犯罪っ!!」

「知ってる……だから、まぁ、さすがにこの年で不法侵入で前科一犯で補導されてバリさんに咬み殺されるのはごめんじゃとばかりに早々に引き上げてきたんだ……実は」



ちゃんが叫ぶように、微妙ではなく完全に犯罪だって事は理解していたので早々に逃げてきたんだが
バリさんは、自分の素行は棚に上げてそういう事には厳しいかんな、あの人。
異世界だろうがなんだろうが、補導なんかされた日には



『何してるの?』



とか言って引き取りついでに咬み殺されそうな気がする。
まぁ、でも、こっそりと電柱の影からでものぞき見ておけばよかったかな?……

どんな人間が拾ったのか、未だに気になっていたりするのだから。



「お兄様はその方に一目でも良いから会っておけばよかったと後悔しているのですわね?」

「後悔つーか……まぁ、うん、似たようなもんか……」



完全に後悔というわけではないが……
会ってみたかったと未だに恋する乙女のように相手の事を思うのはそれに似たようなものなんだろうかと首を軽く傾げつつ、言葉を濁した瞬間、ずばたんっと扉が大きな音を立てて叩き割られた。



「扉がっ、扉がっ!!壁に思いっきりめり込んでいるように見えるんですけどっ!!?」

「お兄様の事になると力の加減をどこかにすこ〜んと落してくるんですわ」

「力の加減の問題じゃないような気がするのは私だけ?!私だけなのっ?!」



ちゃんがぎょっとした顔でそちらを見ているが、うん、最近は慣れたかんな、俺達は

あわあわとしているメイドの ちゃんを尻目にずずぅっと二人して暢気にお茶を啜っていれば、案の定と言うかつなよしさんがタコヘッドを引き摺りながらやってきたところだった。
引き摺られている背後のタコヘッドが擦り切れているように見えるのは目の錯覚だな、うん。



「いい加減に離して欲しいんだけど、獄寺くん……ぁ…… !!良かった、いた……」

「どうしたんだ?つなよしさん、そんなに慌てて」

「ちょっとね……やっぱり機械の故障なのかな?……急に反応が消えて、その後、復旧はしたんだけど……」



首を傾げながら、ぼそっと零された言葉に、全てを理解した。
そういえば、何時も出掛ける時のように鈴をダミアンちゃんにプレゼントふぉーゆーするのをしっかりと忘れていたな、うん……異世界からでは電波は届かんだろう、流石に。

反応が消え、後に復旧したのは異世界に行って帰ってきたから。
で、外出していたはずのつなよしさんがタコヘッドを引き摺ってここにいるって事は大慌てで帰って来たんだろうな、確実に



「でも、良かった、本当に……良かった……機械の故障で……急に反応が消えるから……どうかしたのかと本気で心配した」



伸ばされる手が静かに頬を包み込むように触れる。
タコヘッドは冷凍庫に住んでいるダミアンちゃんが、冷凍マグロで殴り飛ばして、昏倒させていた。

あれだな、 ちゃんの半径30メートル以内に近づいたからだな……あれは絶対。
恋する男の嫉妬は醜いぞ……っと、捨てる場所がないからってダストシュートに放り込むのはどうかと……



「心配かけて悪かったな……」

「機械の故障だし の所為じゃない……無事でいてくれるなら、別にそれだけで」

「いや、うん……機械の故障ってわけじゃ……ぶらり異世界、ダミアンちゃん定期健診へゴーの旅に30分ほど出かけてたからな」

「……何その、ぶらり異世界ダミアンちゃん定期健診って……」



そのまんまの意味なんだが、つなよしさんの眉間にはわずかばかりの深い渓谷が出来上がっている。
さりげなく隣の席に腰掛けるつなよしさんに、余分に用意してあったティーカップを手に取ると紅茶を注いで渡してやりながら、ついでにスコーンにアプリコットジャムを塗って手渡せば短い礼が返ってきた。



「あの二人って、どんな関係か、聞いても良いかな?…… くんはあの、ボスの愛人とか」

「ほほほほほ、そうですわ、お兄様はボンゴレ様の想い人……」

「だ、大丈夫なの?なんか妙に息があってるんだけど……そんな姿を見られたら」

「禁断の泥沼にはなりませんわ、安心してくださって大丈夫ですわよ?」



二人でぼそぼそこしょこしょと声を潜めて何かを言ってる。
声までは聞こえてこないが、何故だろう、 がすっごいいい笑顔になってるんだが……見なかったことにしておこう。

二人の会話が微妙に気になりもしたが、つなよしさんが答えを求めるような眼差しを向けてきてるかんな。



「ほれ、前にも言ってただろ?53号の事」

「ダンボールを抱えて走り回っているダミアンちゃんだっけ?……捨て子ごっこをするのが大好きな……え……あれって、見つかったんじゃなかったの?最近、探してなかったよね?



こっくりと自分の分のスコーンにたっぷりとやっぱりアプリコットジャムを塗りたくって、まぐっと噛み付く。
甘酸っぱい味が程よく口内に広がって、ほにゃ〜んと幸せ気分を味わいながら、むぐむぐと口を動かしごくっと飲み込んで口を開いた。



「そう、その捨て子ごっこをするのをこよなく愛しているダミアンちゃん……いないってことに定期健診になってようやく思い出してな〜」

「わ、忘れてたんだ……一ヶ月も忘れてたんだ……見つかったから探してなかったわけじゃなかったんだ」

「はっはっは、俺の記憶力も人並みなのさ……んで、ゴミ袋にダミアンズを詰め合わせにして定期健診のためにちょっとばかし、天井裏を探し地下に潜り、壁を叩いて周り、最終的にちょっくら異世界まで」

「ゴミ袋にあれを詰め込んだの?!……ま、まぁ、良く分からないけど……それで、ダミアンちゃんは見つかった?」



首をゆるく傾げながらも、つなよしさんが口を開く。
僅かな休憩時間、そのうちにリボ先生辺りが突入してくるだろう。
仕事をさぼってんじゃねーぞ!!と言いながら……



「おう、良い飼い主に拾ってもらえたみたいでな、毛並みも艶やかでまるっと太っていたぞ?」

「あれって太るの?!いやいやいや、うん……そ、それなら良いんだ、ん?良いのかな……」



毛艶やが良くなっててな〜とつなよしさんに語れば、驚いた目を向けられた。
中身の綿が日向ぼっこしたお陰で膨らんだんだろうな、うん。

あんまり日光を浴びすぎると周囲の布が劣化するからな、気をつけるんだぞ〜



「ま、今度行く時はきちんと、つなよしさんに一言いってからにするな」

「いや、うん……まだ、よく理解できてないんだけど、出来れば何処にも出かけて欲しくないんだけど……」

「安心してくださいな、お兄様が行かずとも逢う、方法なんて幾らでもありますわ」



まぁ、そんな会話を経て……呼び込まれてしまったのが 少年だった。
ごめんな……俺の不用意な一言の所為でと心の中で静かに謝罪しつつ声をかけたら、思いっきり慌てまくって焦りまくっていたっけ……



(ごめんなさい……なんて、謝るべきは本当は俺の方だったのにな)



拾い主と言うかダミアンちゃん53号が惚れ込んだ相手は何処かつなよしさんに似た雰囲気と血筋を確信させる外見をしていて……顔を見た時、少しだけ驚いた。
つなよしさんよりも優しげで何処か少女めいた綺麗な顔立ちをしていたけれど……

つなよしさんも驚いてた……母さんと……
そうかそうか、母親似だからあんなにも可愛らしい少年だったんだな……なるほど、納得。



(なんつーかこう、守ってやりたくなる雰囲気をもってたしな……それに、足も……うん、気付いてやれなくて悪いことをした)



ぎりぎりまで内側に隠して我慢をしたがるのはつなよしさんの家系なんだろうか?
そういやホラーが苦手なのもそっくりだ。
思い出せば思い出すほどに静かに心を揺らす、想い。



『ぬいぐるみは動かないから!』



叫ぶように言った後に悪いことを言ったと後悔しているのだとあからさまに分かる表情になった。

別に気にしなくて良かったのに……
少しだけ痛みはあるけれど言葉の棘は静かに慣れてしまったもの。
その反応はある意味当たり前で、当然のこと……



(ホラーが苦手なら……ぬいぐるみが動いたら恐怖以外のなにものでもないしな)



つなよしさんですら時折、悲鳴をあげてるからなぁ……
特に愛の踊りの時は大慌てでその場から逃げ出す姿を何度か確認してる。



(ホラーが苦手になったのはその目が……原因?……)



俺には両親がいた。
普通の人にとってみればズレタ世界……けれど自分にとっては普通の世界。
同じ世界を見る人達が側にいたから……そういうものだと受け入れたけれど……

それでも堪らなく辛くなることもある。



『……糸が……』



普通の人間であれば、見えないもの。
見なくていいもの、見てはいけないもの。

それは、人には理解できない……まるで歪んだフィルター越しの世界。

千切れて飛んだ腕の無い男性、大量の血を流した女性。
助けを求めるようにただ彷徨い歩く、口に出して言えば変な目で見られるのは自然の摂理。

僅かに瞳によぎった脅え……



……あぁ……



だからこそ、少しだけ分かった気がした……
ダミアンちゃんがあんなにもなついた理由が…



(ダミアンちゃんはあれでも人の心に敏感だから……あれでも……)



何処か似通った部分があった。
触れられたくなくて静かに微笑みの下に沈め、緩やかに哀しみを沈殿する。
そして感覚を鈍らせて、平気だと笑うのだ。

自分と少しだけ……似ていたのかもしれない。



もう少しだけ……話してみたかったと思うのはいけないことで、口に出してはいけないこと。
口に出すのは酷く簡単だからこそ、慎重さが求められる。
それでも、寂しいとか、切ないとか感じる心はあるわけで……



「もう……これで、 少年には会うことはないのかな?」



結局、あのままずっと留めてしまった。
仕事を途中で放り出してきたつなよしさんを……これも、我侭だと分かっていても
僅かに開いた隙間を埋めるように、誤魔化すように恋人の温もりだけを求めて……



「淋しいの?

「弟にしたかったと言ったぞ?俺は……いや、 に不満があるわけじゃないんだがっ!!」

「大丈夫だよ、分かってるから……でも、本当に、それだけ?……」



つなよしさんの言葉に苦笑を落とす。
自然に伸ばされた腕……その中が自分の居場所だと言うように、僅かに起こしていた半身を静かにシーツの海に横たえて、こちらを見つめる恋人に、摩り寄らせ瞳を伏せた。
背中に自然に回される腕、静かに直接伝わってくるその温もり。

この腕の中が、自分の居場所、此処以外の居場所を自分は持ってない。



「……仕方がないこととは分かってもいるし、あまり長時間とどめておくのは良くないのも分かってる……長くなれば長くなるほど相手への情が湧くし」

「うん、そうだね…… は、どちらかといえば、相手へ情を向けやすいしね」

「う”……それは、嫌味か?……でも、うん……もう少しだけ話してみたかったと思うのは、我侭なのかな?……ほんの少しでも、伝える事は出来たかな?」



異能という事は、それだけ世界から孤立しやすい。
人と違うものを人は受け入れてはくれない……けれど、それは決して、マイナスではないからと

力は、あくまでも特技であって、自分達もまた、人なのだと……少しでも、伝える事は出来ただろうか?



「心配しなくても大丈夫だよ、 ……彼は言ってただろう?つなよしが待っているって……」



ふっと頬に、慰めるように触れてくる手。
髪をなぞるようになでて、額にそっと口付けをひとつ。
上からのぞき込む飴色の瞳は何処までも優しい、切なくなるほどに



「彼にはきちんと支えになるべき存在がいるってことだよ」

「……そ、だな……」



と名乗ったあの少年にも自分と同じように待っている人がいて、帰る場所があるのだ。
最初から帰れるかどうかを心配していたのは……
帰りたかった場所があり、待っている人がいるから……



「そんな表情で想われると……嫉妬するんだけど……別世界の人間とは言え、ね」

「……は?……また突然だな……つなよしさんは」

「心が狭いからね、多分、アチラの自分も同じようなものなんだろうけど……あの様子だと、本気で苦労してそうだ」

「笑いながらいう事なのか?いう事なのか?!!」



くすくすと、喉を鳴らす恋人は自分できっぱりと言いきるほどに確かに心が狭い。

猫の額ほども無い……何せ、この部屋にいるのがいい見本。
見知らぬ相手と歩いていたと聞いただけで仕事を投げ出して来て、そのまま此処にいる。

理由の一端は自分だけれど、一方通行では決してないから



「泣き出しそうな……そんな、顔をするのは……オレの為だけにしてよ、 ……」

「う?そんな情けない顔をしていたか?」

「ずっとね……って、うん、顔を手でぺたぺた触っても分からないと思うよ?」



言われた言葉にきょっとりと顔をぺたぺたしたら小さな笑みを落とされた。
きゅうっと静かに力が篭る腕はただ暖かく……ただ、静かに再び想いを捧げるように瞳を閉じる。






ねぇ……そちらの世界で……

キミが愛しく思う人は、ほんの少しだけでもアナタの事を抱き締めてくれますか?



心ごと……抱きしめてくれますか?

 

 

 


ツキハナさま、有難うございます!
体調悪い中、こんな素敵な小説を!!!
なんだか、ジーンとするお話です。
家の夢主は、沙耶さんにそこまで思って貰えるほど重い人生じゃないんですけどね。(笑)
本当に、素敵な小説を有難うございました!!