「えっと、とりあえず、状況をまず説明して欲しいんだけど……」

 突然『夜』によってここに連れて来られた俺達は、正直言って状況が把握出来ていない。
 の言葉から、ここがホテルと言う事は良く分かった。

 そして、目の前に居るメイド服を着た少女が人形であると言う事と、ここが人界とあの世の境目だと言うのは、『昼』の説明だ。

 だけど、結局俺達は何で、ここに呼び出されたのか、その理由を説明されていないのだ。
 俺が質問するよりも先に、ナルトがオズオズと口を開く。

 まぁ、ナルトが言わなきゃ間違いなく俺が言っていた言葉だが……。
 俺もその質問に頷いて、へと視線を向けた。

「状況説明なぁ……簡単に言えば、ここにお泊りしましょうって事でしょうか……」

 俺とナルトの質問に、が困ったように説明らしい事を口にする。

 いや、そりゃ状況説明じゃなくって、結果論だろう。明らかに決定事項とされた事を言われて、俺は小さくため息をつく。

「そうじゃねぇつーの。どうしてそうなったのかを説明しろ、このバカ!」
「……えっと……」

 呆れて盛大なため息をつきながら、聞き返せばどう答えを返すべきか悩んでいるが居る。

「それは、私から説明させて頂きます」

 だが、その答えは、全く別の人物から聞かされる事になった。

「私達人形は、この空間に迷い込んでしまった人間に、憩いの場を提供するのを仕事としております。勿論、初めは私共を怖がる人間もいらっしゃいますが、皆さん最後には笑顔でここを出て行かれるのが、私達にとって何よりも嬉しい事でした。ですが、ここ数年、この地にお客様がいらっしゃらなくなってしまい、偶々この近くをお通りになったこちらのお二人を無理やりこの地に引き込んでしまったのです。本当はしてはいけない事なのですが、お客様がいらしゃらない寂しさにこんな事をしてしまい、本当に申し訳ありませんでした」

 素直に謝罪して、申し訳なさそうに深々と頭を下げるメイド少女に、俺とナルトは一瞬顔を見合わせて同時にため息をつく。
 その説明を聞けば、俺達がここに呼び出された理由が良く分かると言うモノだ。

「御もてなししてくれるって言うのなら、別に迷惑じゃないってばよ」

 まずその少女の言葉に反応を返したのはナルト。
 まぁ、危害が及ぶかもしれねぇつー場所に俺やナルトを呼び出すなんて、これっぽっちも考えちゃいねぇからこんな事だとは思ったんだが、その申し出は最近特に忙しかった自分達には有り難いモノだった。

「だな、面倒な事じゃねぇんなら、俺は気にしねぇ。つーか、ゆっくり出来るんなら、逆にありがてぇ」
「はい、私共が出来うる範囲で、精一杯御もてなしさせいただきます!」

 俺の言葉に、少女が満面の笑顔で言葉を返してくる。
 それが本当に嬉しそうな表情なだけに、御もてなししてもらうこっちとしては、逆にそれでいいのかと疑問に思えるほどだった。
 まぁ、本人がそれで喜んでいるのなら、その好意に甘える方が得策だ。

『了解も出たようだ。では、2・3日世話になるか』
『そうだね。それぐらいゆっくり出来れば、十分だよね』

 俺達の言葉に満足そうに頷いて、今だにから離れていない2匹の猫が勝手に話を勧めていく。
 って、ちょっと待て、確かにそんなにゆっくり出来りゃ有り難い有り難い事だが、流石にそりゃ不味いだろう。その間、俺達は間違いなく行方不明扱いになるんじゃねぇかよ!

「そうだな。それじゃ、ゆっくりとさせてもらおうか」
「はい、有難うございます。お部屋の方は、どうなさいますか?」

 俺とナルトの思考を完全に無視して、までもがあっさりとそれに同意した。

「部屋、どうする?」

 そして、俺達へと質問。
 それに俺達は何も返事を返す事が出来ないが、俺達の代わりに『昼』と『夜』が話を続ける。

『オレと『夜』が、同じで、お前達が3人部屋でいいだろう』
『え〜っ、僕もと一緒の部屋がいいな』
『オレ達は、何時でも一緒に居られるが、そいつ等は違う。ここは、譲ってやれ』

 目の前で進められる会話に、全くついて行く事が出来ない。
 なんで、そんなに冷静な会話が出来るのか、頼むから俺達にもきちんと説明してくれ!

「んじゃ、2人部屋を一つと、3人部屋を一つでお願いします」
「了解いたしました。では、ご案内いたしますね」

 完全に置いてけボリ状態の俺達を無視して、話が決まり少女が笑顔で頷いて歩き出す。
 それに、が着いて行くように歩き出した事に、慌ててその腕を掴んだ。

「ちょっと待て!そこで勝手に話終わらせるんじゃねぇぞ!俺達にもちゃんと説明しやがれ!」
「そうだ、2・3日もここに居る訳にはいかない」

 それはナルトも同じらしく、俺とは逆の腕を掴んでを引き止めている。

「そう言えば、説明抜かってたか?」

 そんな俺達に、は一瞬驚いたようだったが、納得したように苦笑を零した。
 そんなに、『昼』が少し意外そうに口を開く。

『なんだ、器のガキも奈良のガキも気付いて居なかったのか?ここと、人界の時間の流れは全く異なるモノだ』
『うん、だからね。ここでもし2・3日過ごしたとしても、向こうだとほんの数時間しか過ぎてないんだよ』

 に変わって説明された内容に、俺とナルトは一瞬意味が掴みきれず呆然としてしまった。
 まぁ、ここが人界とあの世の境目だというのなら、そんな事もあるのかもしれないが、普通は気付くもんなのか?

「だから、ナルトとシカマルを呼んだんだよ」

 ニッコリと笑顔で言われたその言葉に、俺達はただ小さくため息をつく。
 本気で、こいつは俺達の事しか考えてねぇつーのが良く分かった。

 たく、甘やかしすぎだつーの。

「問題ないようでしたら、そのままお部屋にご案内いたします。もう夜も遅いですので、今日はゆっくりとお休みくださいね」

 そう言って案内されたのは、続き部屋となった客室。
 って、2部屋に別れるんじゃなかったのか?

「こちらのお部屋でしたら、続き部屋となりますので、皆様に喜んで頂けると思います。もし、御用がございましたら、備え付けの電話にてご連絡ください」
「有難う」

 部屋に案内されて、中に入ればそこにあるのは天蓋付きの巨大ベッドが一つ。

「待て、ベッド一つしかねぇぞ!」
「別に、このサイズなら、問題ないだろう。う〜ん、それにしても、見事な部屋だな……」
「うん、まさに人形の家ってかんじだ」

 俺の文句は簡単に聞き流されて、感心したように言われた言葉に俺も部屋の中を見回す。

 絵に描いたような調度品。

 確かに、この部屋は女の子が喜びそうなまさに作られたようなドールハウス。
 まぁ、ここに居るのが全部人形だと言う時点で、間違いなくここはドールハウスだとは思うんだが……。

「それじゃ、折角出来た3日間の休みだから、ゆっくりさせてもらうか!」
「そうだな。折角だから、今度ここの事を里の人達にも教えて上げるか?忍者って、忙しいからゆっくり出来るのは、喜ばれるだろうからな」

 現実逃避したくなるこの状況に、その現実をしっかりと受け入れている目の前の二人が普通に会話を始める。
 いや、んな胡散臭いホテル紹介しても、誰も泊まりたくねぇだろう、おい!

「……人呼びてぇなら、まずは名前改めさせろ!絶対胡散臭ぇぞ!」

 誰が好き好んで、**ホテル 人形屋敷**つー怪しいホテルに泊まりたがる客が居んだよ。
 んなめんどくさそうなホテル、俺なら絶対に近寄りたくねぇぞ。

「そうだった。んじゃ、やっぱりここはそのままんまのネーミングで、**ホテル ドールハウス**って事で……」

 俺の提案に、が納得して先程俺が考えていた事をそのまま口にした。

「……どこのラブホだそりゃ!それも、却下だ却下!!」
「シカマルが酷い。俺が考えた名前、ラブホなんて……」

 それに盛大にため息をついて却下。んな風俗みてぇな名前はダメに決まってんだろう。
 却下した俺の言葉に、がナルトに泣き付く。

「あ〜でも、シカマルの言ってる事否定できない……」

 自分に抱き付いて来たに、ナルトが苦笑を零しながらも、俺の意見に賛成する。
 まぁ、普通に考えればそうだろう。

「……名前なんて必要ねぇんじゃないのか?安らぎを求める奴に、名前なんて関係ねぇだろう。笑顔で出迎えてくれりゃ、誰だって悪い気はしねぇんだからな」

 だからこそ、俺は自分が考え付いたそれを口に出す。そう、名前なんかに拘る事はない。
 癒しが必要な奴には、癒せる場所があると教えてやればいいだけだ。
 それに、名前なんて必要ない。
 ここに居る人形達が、そう言う奴を慰めて幸せになれるのなら、俺達はそれに協力するだけだ。

「それに、俺達自身が、ここを必要とする者だと思わねぇか?」

 俺の言葉に、ナルトが納得したのだろう一瞬驚いたような表情を見せたが、それがどんどん嬉しそうな笑顔へと変わり、へと視線が向けられる。
 わくわくとしたナルトのその姿に、は小さく息を吐き出す。

「やっぱり、シカマルには気付かれたか……ちょっと、いい場所見つけたなぁって、喜んでいたのは本当」

 嘘をついても仕方ないと考えているのか、それとも楽しそうに見詰めているナルトに負けたのか、が素直に俺の言葉に考えた事を教えてくれる。

「だろうな」
「んで、ここに居る人形達の気持ちを知って、ますますご好意に甘えようかと……」

 言われた事に納得した俺に、が更に言葉を続けた。
 まぁ、普通に考えれば、誰もが同じ事を考えるだろう。俺達にとっては、ここはまさに天国と言えるような場所なのだ。

「じーちゃん容赦ねぇから、こんな場所があるのは有り難い」

 ナルトも、の言葉にニコニコと嬉しそうに同意。

「んじゃ、そう言う事で、明日あのメイドの格好した奴に、話するって事でお休み」

 話は纏まったとばかりに、一番にベッドに横になる。

 正直言って、今日も任務で疲れていたのだ。まぁ、俺の相棒が、あの里一番の実力者なんだから、仕方ねぇと言っても限度があるつーの!
 面倒な事が嫌いな俺を、こんなに働かせるんじゃねぇ!

「お休み、シカマル」

 そのまま蒲団に潜った俺に、の笑い声と挨拶が聞えて来た。その後に、ナルトの声も重なる。
 それを最後に、俺の意識は闇の中へと沈んでいった。


 人形達が作った屋敷。
 それが、俺達にとって、掛け替えの無い癒しの空間になったのは、本当に有り難い事だ。
 そして俺は、この日本当に久し振りにゆっくりと休ませてもらった。