「どうすっかなぁ……」
ポツリと呟いたその言葉に、答えてくれる相手は誰も居ない。
今年も残すところ後僅かとなった年末時期。
何時ものように今年も年末から年初めに掛けて、暗部も下忍の任務も休みを貰っている。
今年初めて、ナルトとシカマルを奉納舞に招いた事から、来年からは火影である三代目もその席に招待する事になった。
それに対して不満がある訳じゃないが、素直に受け入れられる程納得している訳でもない。
何が楽しくって、女装姿を人に見せないといけないのだろうか……。
そんな自分の心情も知らずに、奈良夫妻まで招待したらどうだと言うのは、自分にとって育ての親とも言える2匹の猫達。
いや、確かに招待したら、二人ともすっごく喜びそうなのは否定しない。
彼等は、自分は勿論、ナルトも受け入れてくれた理解者だから。
自分にとって、暖かな居場所を提供してくれたのも彼等だ。
それに対しては、ものすっごく感謝している。いや、感謝だけでは決して足りない気持ちも持っている。
だけど、だからと言って、あの席に招待したいとはどうしても思えない。
「やっぱり、招待するのは、ナルトとシカマル。後は三代目と……後一人だな」
頷いて、正式な招待状を作る。
本当は、去年もナルトやシカマルにこれを渡さなければいけなかったのだが、そんな決まりがあるとは知らなかったので、去年は『夜』が準備してくれたらしい。
それを知ったからには、ちゃんと仕来りを守るのが残された者の義務。
『、お茶の準備できたよ。後ね、ナルとシカが帰って来たよ』
ノックの音と共に、珍しく自室に居た俺を『夜』が呼びに来てくれる。
その言われた言葉に、俺は振り返った。
「了解。調度良かった。二人に渡せる準備出来たから、渡しとくか」
『何、招待状作ってたの?』
出来上がったばかりのそれを手に持って、立ち上がる。
それに、『夜』が不思議そうに訪ねてきた。
「作らないと駄目なんだろう?去年は『夜』に任せちまったから、今年はちゃんと用意した」
『そっか、二人共喜ぶだろうね』
手に持っていたそれを『夜』に見せれば、ニッコリと笑顔が向けられる。
まぁ、喜んでくれるかどうかは謎だけど、里一番の忍者を元旦から束縛していいのかどうかは、ハッキリ言って疑問だ。
もっとも、ナルトがそんな事気にするとは思えないし、火影ですら参加していたらしいその舞なのだから、悪いものじゃねぇんだろう。
奉納舞は、一年の祈願も含まれてるしなぁ。
俺なんかの舞で、ナルトとシカマルが一年無事に居られるつーなら、安いもんだと諦めよう。
「後で、三代目にも持って行かねぇとな」
言って、『夜』と並んで部屋を出る。
何時ものようにリビングには、ナルトとシカマルが書庫から持ってきた本を読んでいるだろうと考えて、笑みを零した。
「招待状?」
から渡されたそれに、思わず聞き返してしまう。
「そっ、奉納舞の正式な招待状。本当はそれがねぇと、正式に呼ばれたとは言えないつーらしい。去年は、知らなかったから準備出来なかったんだけど、今年はちゃんと用意した。だから、ナルトとシカマルは正式に俺に招待された客になる」
渡されたそれを見ていた俺に、が説明してくれる。
『今年お前達が、から招待状を貰っていなかった為に、周りの爺どもが煩かったからな』
そう言えば、『昼』が舞が始まる前にそんな事言ってたような……。
だけど、俺にもシカマルにも、周りに人の気配は感じても、肝心の姿は見えなかった。
『ナルやシカには、周りの人達見えなかったでしょう?それはね、正式な招待を受けていなかったから……だから、来年は、の正式な招待を受けてるから、彼等の姿を見る事が出来るよ』
考えていた俺に、『夜』がニッコリと笑顔で説明。
って、俺達にも、神様の姿が見えるって事?
「って事は、来年は、神様つーもんが見えるのか?」
俺が疑問に思った事を、そのままシカマルが口に出す。
『神と言っても爺や婆の姿だ。もしくは、オレ達のように人間の姿さえしていないモノがほとんどだぞ。あいつ等の姿が見えてもいい事など一つもない』
俺も疑問に思った事を、お茶を飲みながら『昼』が答える。
「だな……後、三代目も正式に招待する事になっている。だから、今年みたいに面倒な手順は省けるな」
『そうだね。あそこまでの正式な『道』が出来るから、今年と違ってすっごく楽できると思うよ』
も同じようにお茶を飲みながら『昼』の言葉に頷く。それに続いて『夜』までもが、ニコニコと口にした言葉に、ハタっと俺とシカマルは、動きを止めた。
「ちょっと待て、何だその正式な『道』つーのは!今年のあれは、正確な道じゃねぇのかよ!!」
そう、今年、奉納寺まで行くのに、かなりの苦労をしたのは、忘れられない。
なのに、今の3人の話から考えると、どうやらそれは、からの正式な招待を受けていなかったのが原因と言える。
「あ〜っ、簡単に言えば、あの方法は、正式な招待を受けてない者達の出席方法なんだよな……俺が、用意したその招待状があれば、あの奉納寺まで、一分も掛からずに行けるようになる」
シカマルのそれに、が言い難そうに説明。だけど、言われたその内容に、俺は素直に疑問を口にした。
「えっ?でも、渡りは使っちゃだめなんじゃ……」
「渡りじゃなくって、勝手に道が出来るんだ」
俺の質問に、が困ったような表情を浮かべて答えてくれる。
だけど、言われた意味が分からない。
『つまりね。その招待状が、『道』なの。それが無い人間がその場所に行くには、誰かの案内が必要になってくる。だから、二人には大変だったけど、あの方法であそこに行って貰ったんだよ。案内役が居なくっちゃ、あそこには辿り着けないからね』
分からないと言うような表情を見せた俺に、『夜』が分かり易く説明してくれる。
だけど、その説明でも、何となくしか分からない。
えっと、要するに、この招待状があれば、『道』が出来るって事なんだと思うんだけど……。
「めんどくせぇが、要するにこれを持ってたら、問題ねぇつー事だな」
考えている俺の耳に、シカマルが話を終わらせるように短く纏める。
まぁ、それは俺も考え付いた答えだから、それを確認する為に、へと視線を向けた。
「そう言う事。だから、それを無くしたり、人に渡したりしちゃ駄目だからな。名前入れてあるから、他の人が持ってたら、その相手が時空間に閉じ込められちまう」
「って、んな危ねぇもん人に渡すんじゃねぇよ!」
シカマルのそれに、がニッコリと笑顔。
だけど、言われた内容は、その笑顔からは想像も出来ないほど危険なモノで、即座にシカマルが文句を言う。
「名前の本人なら何の問題もねぇから、大丈夫。その為に、名前が入ってんだからな」
言ってが笑った。
まぁ、確かに言われる事は納得出来るんだけど、今年の俺達って、何かバカ見たいに思えるのは気の所為だろうか?
正式な招待状だと渡されたそれの説明を聞いて、小さくため息をつく。
全く、なんでんな面倒な事してんだ、一族つー奴は。
もっとも、それだけ奉納舞が神聖かつ厳重に行われて当然なモノだと言う事は、分かってんだけどな……。
何にしても、来年は正式な招待を受けたんだから、今年みてぇに、めんどくせぇ仕来りは免除できるつー事だろう。
それだけは、有難い事だ。
まぁ、んなめんどくせぇ事しても、あの舞を見る価値はあるんだけどな……。
それだけ、が舞う奉納舞は、綺麗で引き込まれた。
「んで、三代目にも持って行かねぇと駄目なんだけど……」
「んじゃ、俺が持って行っとくよ。って、俺が持って大丈夫?」
もう一つ持っていたそれを見せながら言われたの言葉に、ナルトが申し出る。
そして、ハッとしたように尋ねた内容に思わず苦笑をこぼした。
「いや、それは元旦の話。今は普通の紙だから大丈夫……って、ナルトに持って行ってもらうのも悪いしなぁ……」
「調度任務の事で呼ばれてるから、ついでだよ」
が考えるように言えば、ナルトがサラリと返事を返す。
そう言えば、今日も夜の任務あったな……。
確かについでと言えばついでで、間違いないだろう。
「それなら、俺も任務あるぞ」
だけど、それはも同じだったらしく、ナルトへと言葉を返す。
「まぁ、普通はそうだろうなぁ……でもお前、今日は下忍の任務出てなかっただろうが」
「ああ、今日は一族の仕事。チョウジに会えなかったのが悲しいよなぁ……」
そんなに俺は納得し頷くが、今日の下忍任務時、久し振りにが居なかった事を思わずそう言えば、残念そうにチョウジの名前が出てくる。
「そうかよ……」
それが面白くなくって、俺はお茶を一気に飲み干した。
「一族の仕事って……」
そんな俺のことなど気にもせずに、ナルトはの仕事が気になったのだろう、心配そうに見詰めている。
「大した事じゃなかったんだけど……邪気退治……」
「邪気?」
俺も、それが気になって耳を欹てる。
「簡単に言えば、人の悪意の塊。時々そんなのがウロチョロしちまうから、退治するのも一族の仕事。邪気は人間の中に入るともっと性質が悪いからな」
ナルトの質問に、何でもない事のように話すのそれを聞いていると、複雑な気持ちは拭えない。
一族はそうやって人間に害成すモノを何時だって影で退治している。
例え、それを誰にも知られる事がないとしても……。
『今日のはまだ大した事はなかったが、最近邪気が多い。お前等も気を付けた方がいいだろう』
「気を付けるって、邪気なんて見えるもんじゃねぇだろうが……」
複雑な気持ちで話を聞いていた俺とナルトに、『昼』が注意してくる。
だが、見えないものをどうやって注意するんだつーの。
「シカマルやナルトに送った誕生日石に、しっかりと護符の効果持たせたから心配ないよ」
ニッコリと笑顔で言われた言葉に、俺とナルトは思わず顔を見合わせる。
から貰ったそれにそんな意味合いも合ったのだと初めて知らされたのだ。
勿論、俺達以外の下忍でその誕生日石を貰ったのは、いのだけだ。
後はまだ誕生日になっていないので貰ってない。
まぁ、が下忍になったのが7月末だから、仕方ないと言えば仕方ないだろう。
だから、まだチョウジも貰ってないのだ。からの誕生日石を……。
って、優越感に浸ってどうすんだつーの。
「それに、基本的には木の葉にはデッカイ結界が張られてるから、害がある妖は入って来れねぇよ」
『そうだな、先代からの結界は、今だにその効力を持っているから、心配はいらないだろう』
って、お前が気を付けろって言ったんだろうが、『昼』!
の言葉に、素直に同意する『昼』に思わず心の中で突っ込みを入れてしまう。
もっとも、俺やナルトは暗部の仕事で、里外任務は日常だから、その言葉は間違いじゃないと言えば間違いじゃないけどな……。
「ところで、話は変わるんだけど、今日の任務って二人ともセットなのか?」
考え込んでいた俺の耳に、が質問を投げ掛けてくる。
本当に、話変わったな……。
「今日は単独でそれぞれ入ってる。も、単独?」
「俺は基本的に単独任務専門だからな」
の質問にナルトが返して、ナルトの質問にちゃんと返事を返す。
まぁ、こいつの場合、ほとんど単独だからな。
単独と言っても、『昼』は一緒に行動しているから、実際には単独と言っていいのかは謎だけど……。
『みんな任務あるんなら、ボク夜食作って待ってるね』
俺達の話を黙って聞いていた『夜』が、元気良く申し出たそれに、のがその体を抱き上げて頭を撫でる。
「サンキュ、『夜』」
に頭を撫でてもらって嬉しそうな『夜』に、俺とナルトは笑みを浮かべた。
「なら、またここに帰ってくるのは決まりだな」
もっとも、この場所は、自分達にとっては既に第二の家と言ってもいい。
ハッキリ言って本当の家よりもここの方が居心地がいいのだ。
ナルトも最近では、アパートには戻らずにここで寝泊りしていると言ってもいいだろう。
それだけ、この場所は自分達にとっては居心地のいい場所なのだ。
「夜食の為にも早く帰ってこなきゃだな」
ニッコリと笑顔で言われた言葉に、俺達は同時に頷いて返した。
「あれ?」
火影室に入った瞬間、見慣れたその姿を見つけた。
「?」
「いや、だから今は『』だって……」
その姿を見つけて名前を呼べば、苦笑を零しながら訂正。
確かに今は、暗部の格好をしているから、そう呼ばなきゃいけないんだろうけど、どうしてもの暗部名って呼び難いんだよなぁ……。
シカマル相手には、そんな事思った事もないのに……。
「お疲れ、『光』」
考え込んでいる俺に、がフワリと笑って労いの言葉。
そんな風に笑顔で言われた事に、俺は少しだけ照れて頷いた。
「も、お疲れ様」
じーちゃんの前だって言うのに、すっごく和んでしまうのは仕方ないだろう。
「お主達、わしの存在を無視するでないぞ」
じーちゃんを無視してのその遣り取りに、呆れたように声が掛けられて、と二人同時に苦笑を零す。
「すみません。それでは、俺の報告は終わりましたので、先に失礼致します」
「うむ、ご苦労じゃったな。『』よ」
それから報告はもう既に終了していたらしいがじーちゃんに頭を下げて、姿を消そうとした瞬間、それをじーちゃんが呼び止めた。
「何か?」
「奉納の舞、楽しみにしておるぞ」
「……有難うございます。では」
じーちゃんに呼び止められて立ち止まったが不思議そうに尋ねれば、多分から貰ったのだろうあの招待状を手に笑顔。
それに、が一瞬複雑な表情を見せて返事をしてから、次の瞬間にはその場から姿が消える。
「じーちゃん、の母親の奉納舞、見た事あるんだよね?」
そんなを見送って、俺はじーちゃんへと問い掛けた。
にそっくりだったと言うの母親。
あの顔にそっくりって言う事は、本当に美人だったって事だろう。
「勿論じゃ。お主の父親である四代目も見た事があるのじゃぞ」
「うん、それは聞いた……やっぱり、すっごく綺麗だった?」
「そうじゃな、この世のものではない程にすばらしいものじゃったな……」
当時を思い出しているのだろうか、何処か遠くを見るようにじーちゃんが話してくれる。
今のだってすっごく綺麗で、何処か遠くに居るみたいに感じられたのだから、女だったの母親は、本当に天女のようだったんだろう。
「お主は、今年招待されておったのじゃろう。どうであった?」
「……うん、すっごく綺麗だった……綺麗過ぎて、人じゃないみたいだった……」
だから不安になったのだ。
が、自分達人間に愛想をつかして、天に帰ってしまうんじゃないかと……。
「そうか、来年が楽しみじゃな」
俺の言葉に、嬉しそうにじーちゃんが笑顔を見せる。
「それでは『光』よ、任務の報告を致せ」
そして、火影の顔になって俺の暗部名を呼んだ。それに俺も、暗部の『光』としての顔を見せる。
ねぇ、は、天に帰らない?
俺達人間に愛想をつかして……。
「ナルト」
任務報告を終えて外に出た瞬間、名前を呼ばれて振り返る。
「任務ご苦労さん」
振り返った先に居たのは、先に帰っているとばかり思っていたの姿。
そして言われたその言葉に、俺は苦笑を零す。
「……それ、先も聞いた…」
「さっきのはお疲れ様。だから違うだろう?」
また自分に労いの言葉をくれるに苦笑を零しながら返せば、笑顔のまま言葉が返される。
確かにそれは間違いじゃないけど、それって、なんか違うような気がすると思うのは、俺だけだろうか?
「、先に帰ったんだと思ってた。こんな寒いところで、待つ事ないのに……」
「ん〜っ、元々待つつもりだったからな……それに、一緒に帰った方が、ナルトも早く帰れるだろう?」
「って、『渡り』使うつもりだろう…」
「『昼』は先に帰ってるから、俺の『渡り』使った方が早いだろう?シカマルももう直ぐ帰ってくるだろうから、ほら、帰ろう!」
グイッと腕を取られて引き寄せられる。その瞬間に感じるのは空間の歪み。
相変わらず見事な能力で、俺達は一瞬の内にの家へと帰り着いた。
『お帰り、、ナル』
帰り着いた瞬間元気な声が出迎えてくれるのは何時もの事。
「ただいま、『夜』。今日の夜食は?」
『うんとね、今日は味噌煮込みうどん。とナルはまずお風呂ね』
「了解!ほら、ナルト、風呂行こうぜ」
「あっ、うん。……ただいま、『夜』」
に引っ張られるままだったけど、慌てて挨拶をすれば、ニッコリ笑顔でもう一度『お帰り』と言ってくれる。
当然のようにそう言ってくれるその言葉は、本当に家に戻ってきたのだと、そう自分に教えてくれるもの。
今では一人になるあのアパートになど帰る気にもなれず、ほとんどこの家に居座っているように思う。
リビングに、俺の家に繋がるドアが在るけど、それも荷物をとりに行くだけのモノとなっている。
正直言って、ここに引っ越してきた方が早いと思えるぐらいに、既に自分の家と言ってもいいだろう。
それは、勿論自分にとっては嬉しい事だけど、そのままズルズルと居座るわけにも行かないから、そろそろアパートに戻らなきゃいけないとそう思ってはいるのだが、実行できていないのは、ここの居場所があまりにも居心地がいい所為だと思う。
それに、離れてしまったら、が居なくなってしまいそうで不安だから……。
「ナルト?」
考え込んでいた中、に名前を呼ばれてハッと意識を取り戻す。
「何か嫌な事でもあったのか?言いたくないなら聞かないけど、言ってすっきりする事もあるかもしれないぞ」
「な、なんでもない!あっ、シカマルだ」
「……邪魔すんぞ」
先に風呂に入っていた自分達に続いて、シカマルも風呂に入ってくる。
の家の風呂は温泉宿並にでかい風呂だから、3人一緒でも全く問題ない。
「お疲れ、シカマル」
「おう、そっちもな……で、こいつはどうしたんだ?」
入ってきたシカマルに、が労いの言葉を掛ける。それにシカマルが頷いて、それから俺を指差して質問。
って、それってどう言う意味だ、俺、そんなに変な顔してたんだろうか?
「う〜ん、原因分かんないけど、俺が招待状渡した時から様子変だったからなぁ……」
シカマルの質問に、が分からないと言うように首を傾げる。
だけど、その言われた内容に、ドキッと胸が高鳴った。
って、気付かれていたことに、動揺は隠せない。
「ああ、なるほど……」
のその言葉に、シカマルは納得したように頷く。
「何、シカマルは原因知っているのか?」
そんなシカマルに、が勢い良く質問。
って、何でシカマルは分かるんだってばよ!!も、俺が不安に思ってるの見透かされてるし……、二人とも鋭すぎる……。
「まぁ、多分な……大した事じゃねぇから、気にすんな。そんな事より、『夜』がお前に用事があるから早く上がってくるように言ってたぞ」
「えっ?そんな事、入る前は一言も言ってなかったぞ」
頭を抱え込んでいる俺の耳に、シカマルがに伝言を伝えている。
それには首を傾げるが、素直に上がっていく。
その後姿を見送りながら、俺は盛大なため息を付いた。
「で、お前はまた何考えてんだよ、めんどくせぇなぁ……」
が出て行った瞬間、シカマルがため息をつきながら風呂に入ってきた。
「分かってるのなら、聞くな……」
「予想は付くが、あくまでも憶測だからな」
「……憶測で十分だ……」
が居なくなった事で、必然的にシカマルが俺に話し掛けてくる。
その内容は、ハッキリ言って楽しくない内容だったけど……。
「まぁ、アレを見ちまったら、不安になる気持ちも分からなくもねぇけどな……でも、あいつは何処にも居かねぇから、心配すんな」
「シカマル?」
「あいつは、お前が居なくならねぇ限り、ずっとここに居る。絶対な」
突然言われた事に意味が分からず、その名前を呼べば、キッパリと返される言葉。
「だから、お前も簡単に居なくなるんじゃねぇぞ。めんどくせぇ事になっちまうからな」
だからと言う言葉で括られたそれに、驚きを浮かべていた表情が自然と笑顔になっていくのが自分でも良く分かる。
「……シカマル、それって、すっごい説得力……」
「そりゃ、嘘偽りねぇ、真実だからだろう」
言われた言葉は、すんなりと心に入りこんできた。
どうして俺は不安に思っていたんだろう。
は、ずっと自分の傍に居てくれていたのに……。
「シカマル!お前、嘘付いたな!!」
納得している俺の耳に、ガラリと扉が開いてが服のまま入ってくる。
「『夜』が呼んでるなんて、嘘じゃねぇかよ!!」
「あ〜っ、そんな事言ったか?」
「シカマル!!」
風呂場の中に、の声が木霊する。
それを聞きながら、俺は心から笑顔を浮かべた。
どんなに、綺麗で人間離れしていても、は天に帰る事はない。
俺やシカマルと言う鎖があるから……。