どうしてこんな事になっちまったのか、誰か教えてくれ。

 この姿で迂闊に外に出た俺が悪いのか?しかも、シカマルと一緒なのが不味かったのか?


「おば様に聞いたら、買い物に出掛けてるって言うじゃない。どうしても確認しときたい事があったから探しちゃったわよ」

 ニコニコと笑顔の山中いのの言葉に、俺は複雑な表情を見せて、出来るだけ相手に気付かれないようにシカマルの後ろへと隠れるように顔を隠す。

「ああ?何だよ、めんどくせぇな。もしかして、チョウジは巻き込まれたのか?」
「うん、でもちょうど暇だったし、お菓子を買いに行こうと思っていたから、問題ないよ。ところで、シカマルの後ろに居るのって……」

 シカマルも、俺の行動に気付いたのかスッと前に出て二人へと珍しく積極的に声を掛けた。
 シカマルに話し掛けられて、秋道チョウジが何時もの笑顔で返事を返し、そしてその瞳がシカマルの後ろに居る俺へと向けられる。

「ああ、この人はちょっとした知り合……」
「あら?あなた、前にシカマルと一緒に居た子よね。その顔絶対に間違いないわ!」

 チョウジの質問にシカマルが頭を掻きながら言葉を返そうとするが、それはいのの言葉によって遮られてしまう。

 って、なんでそんな昔の事覚えてんだよ!!
 確か、いのが俺とシカマルを見たのってアカデミー生の時で、しかも遠目だったはずなのに、断言されたそれに、俺はかなり複雑な表情を浮かべてしまった。

「ああ、前にいのがシカマルの彼女と間違えた人?でも……」
「オ、オレは『』と言います。シカマル君とは、ちょっとした知り合いで……今日は偶々ご一緒しただけで……」

 いのの言葉に、チョウジまでもが反応を返す。
 それに慌ててオレは顔を上げ、自己紹介した。

 表のオレは前髪で顔の半分を隠している上に、分厚い黒ブチの眼鏡を掛けているから顔なんて分かる訳がない。
 だから、コンタクトもしてない上に、前髪も綺麗にセット(『夜』が嬉々として整えている)された状態の俺に会うのは勿論初めてな訳で、絶対に同一人物だと思われない自信もあるのにも係らず、この時の俺はチョウジにバレるとかなり焦っていた。

 そして苦し紛れに暗部名を名乗っての、自己紹介。
 そこで、自分の墓穴をイヤと言うほど思い知らされてしまう。

「『』あら?聞いた事があるわね」
「うん、ボクも聞いた事が……あっ!『』って、すっごく美味しいお菓子の差し入れしてくれる暗部!!」

 って、そうだった。猪鹿蝶トリオとは任務で結構組む事が多い。
 そして、俺のストレス解消で作られた菓子を御裾分けする先に、必ずこの三家は含まれている事をすっかり忘れていた。

 だから、こいつ等も自分の親から暗部の『』の事を聞いていても可笑しくはないのだ。

「いや、えっと、それは多分オレじゃないと思うんだけど……」
「そう言えば、パパが言ってたわね。『』ってお面で顔を隠しているから素顔は見た事ないって言ってたけど、お面から見える瞳は、綺麗な紺色と金色のオッドアイだって、それで身長は私と同じくらいか低いぐらい……その話から言うと、特徴はぴったりよね」

 マジマジと観察するように自分を見詰めてくるいのに、俺は内心冷や汗を流していた。

 確かに、俺は任務遂行の時、自分のチャクラ温存の為に変化の術を遣わない。だから、お面は必須で、奈良の親父さん以外と組む時はその面を外した事ないけどな。
 娘に暗部の特徴話す親が何処にいんだよ!!!
 暗部って、極秘だろう。それを娘に話してんじゃねぇぞ!

「あっ、ボクも聞いた事ある。凄く美味しいお菓子貰ったから、誰が作ったのか尋ねた時に、教えてくれたんだよね」

 ニコニコといのに同意したのは、チョウジ。
 って、こっちも息子に話てんじゃねぇぞ!って、俺が菓子を御裾分けしたのが悪いのか?そうなのか??

「あ〜っ、そうだよ、こいつはその『』だ。めんどくせぇが、これは極秘だから他の奴に喋ったら俺達消されちまうからな」

 複雑な気持ちを隠せない俺の耳に、諦めたようにため息をつきながらもシカマルが真実を話す。
 いや、確かにそれは真実だけど、それは話てもいいのか。

「勿論知ってるわよ。これでも忍びの端くれよ。暗部の存在は極秘ってこともちゃんと知ってるわ」

「そうだね。ボクも消されたくないから、誰にも言わないよ」
 心配そうに二人の様子を伺えば、あっさりとシカマルの言葉に頷いた。
 チョウジなどは緊張感もなく持っていたお菓子を食べている。

「だとよ。安心していいっすよ。『』さん」

 二人の言葉に、シカマルがニッと笑顔を見せて振り返る。
 いや、確かにそれは安心できるんだけど……いいのか、俺の存在は、里の機密事項だぞ!

「いや、あの……」
「それにしても、『』さんって本当に綺麗!前の時はチラッと見て可愛いと思ったんだけど、こんなに綺麗な人だったのね!」

 それでも、何かを言おうとした俺のその言葉は、いのが発した声によって遮られてしまう。


 って、綺麗?か、可愛い??誰がだ、誰が!

「って、いのそれキン……」
「オレなんかよりも、中山のお嬢さんの方がとってもお美しいですよ」

 オロオロしていた思考が、言われた言葉でスーっと冷めていくのを感じる。
 そして、シカマルがヤバイという表情を見せ慌てて忠告しようとしたその言葉を遮って、これ以上ないくらいの微笑をいのへと向けた。
 しかも、普段なら絶対に口が避けても言わないようなキザな台詞と共に……。

 フワリと微笑んで言われた言葉に、いのが瞬間湯沸し器なみに一瞬で顔を真っ赤に染め上げる。

「綺麗なんてお言葉は、オレなんかよりも、あなたに相応しい言葉ですよ」

 そして、トドメとばかりにもう一度笑っていのの手を取るとそっと触れるか触れないくらいに唇を寄せた。

「あ〜っ、完全にキレちまったな……」
「シ、シカマル。『』さん一体どうしたの??」
「いのが女で良かったな。男相手だったら、今頃絶対零度の世界を体験出来んぞ」

 俺のその行動で、完全にいのの思考は停止してしまったんだろう。
 何時もの勢いもなく、顔を真っ赤にして俺に取られた手を慌てえ空いていた手で隠す姿は、本当に可愛いかもしれない。

「ちなみに、綺麗・可愛いって言葉は禁句。男で言おうものなら、絶対零度の微笑みを食らう事になるから注意しとけよ。女だと、あんな風に思考停止になるぐれぇの笑顔で迫られちまうんだよ、めんどくせぇ事にな」

「ふ〜ん、大変なんだね、も……」
「全くだな」

 そんないのを見て居る俺に、シカマルとチョウジの声が聞えてきて、その思考は完全に停止した。
 いや、この時は、いのの思考を停止させておいて本当に良かったと自分を誉めてやりたかったかもしれない。

「あ、秋道くん??」

 サラリと聞えてきた会話に、恐る恐るその名前を呼んでしまう。
 きっと一緒に話をしていたシカマルはその違和感に気付いていない。それを証拠に、頷いて返しているのだから……。

「んっ、どうしたの『』さん」

 しっかりと苗字で読んだ俺は偉いと思う。
 だが、俺の呼び掛けに、ニッコリとチョウジが笑顔で問い返してきた。

 そう、しっかりと暗部名で……。


 さ、先のは、俺の気の所為か??

「な、何でもない、気の所為みたいだな……あっ、オレ、これから任務あるからここで失礼するよ。シカマル君親父さんに宜しく伝えてくれよ」

 これ以上この場所に居られなくって、俺は任務を理由にその場から姿を消した。
 だから、それ以上の事は分からない。いや、分かりたくない……。





―おまけ―

「急にどうしたんだ?」

 突然家に戻った俺に、その夜訪ねてきたシカマルが不思議そうに問い掛けてきた。
 あの後色々大変だったと言われた事はサラリと聞き流して、俺はアレからずっと考えていた事をそのままシカマルへと返す。

「チョウジが、俺の名前呼んだんだよ!」
「ああ?何時だよ」

 俺の言葉に、シカマルが分からないと言うように問い返してくる。

「お前が俺のキレた理由を説明してる時だよ!!」

 気の所為であって欲しいけど、確かにチョウジはあの時俺の事を『』ではなく、と呼んだのだ。

「気の所為じゃねぇ………みてぇだな……」

 俺の言葉に、その時の事を思い出したのだろうシカマルが否定しようとした言葉は肯定のそれへと変化する。

「い、一体なんで気付かれたんだ」

 分からないと言うように首を傾げるシカマルを前に、俺はただ頭を抱え込んだ。

「まぁ、相手がチョウジだから心配はいらねぇとは思うけどよ、どうすんだ記憶消しちまうのかよ……」
「お、俺の心のオアシス相手にそんな事出来ねぇ」
「んじゃ、年貢の納め時つー事で諦めろ」

 そ、それもそれで困る!!

「ナルトにもちゃんと報告しとけよ。後から知られたら機嫌悪くなんぞ」

 頭を抱え込んでいる俺に、全く人事状態のシカマルが気にした様子もなく、何時もの通りの行動を起こし始める。


 って、俺の相談に乗ってくれないのか!


 そんな訳で、俺の正体が、秋道チョウジに知られてしまいました。
 癒し系だと侮っていたのが、全ての敗因かもしれねぇ……。

 ちなみにナルトにその事を話したら、笑ってチョウジは、鋭いのだと教えてくれた。
 出来れば、もっと早く教えてもらいたかったと思うのは、贅沢な事なのでしょうか??