(こちらの小説では暗部名は変換できません)


 −ナルト−

『ナルの暗部名って、どうやって決めたの?』

 突然の質問に、俺は思わず首を傾げてしまう。
 不思議そうに紫の瞳が、真っ直ぐ自分を見つめてくる。

「な、なんだってばよ、いきなり……」

 って、思わずドベ口調になっちまったてばよ…。

『う〜ん、だって気になったから!』

 驚いてドベ口調で聞き返した俺に、ニッコリと笑顔で答えが返ってきた。

 まぁ、普通はそれ以外には考えられない事だろう。
 気になったから質問する、これは普通の事だ。
 だけど、何で俺の暗部名なんて……。

「ナルトの暗部名は、確か三代目が決められたんだよな」

 思わず考え込んでしまった俺に、が声を掛けてくる。
 その言われた事に、俺は驚いてを見た。
 だって、それを知っているのは、俺とじーちゃんだけのはず……。

「どうして、が知っているんだよ?!」

 信じられないと言うように、を見れば、ニッコリと優しく笑う。

「だって、俺が付けたようなもんだからな」

 そして、その笑顔と共に、信じられない事を言われた。

「へ?」

 言われた言葉が理解できないで、思わず間抜けな声を出してしまう。
 だって、俺の暗部名は、間違いなく三代目であるじーちゃんが、付けたもの。

「あっ、そっか、ナルトは知らねぇのか……まぁ『夜』も『昼』も知らない事だから、当然だけど……ナルトの暗部名は、俺が付けたの。この里の英雄であり『ヒカリ』であるナルトに、光りと書いて−コウ−と読む名前を……」
『確かに、それは知らなかったな』

 驚いている俺に、が説明してくれる。

 そう言えば、俺の暗部名を決めて欲しいと言った時、じーちゃんは、その場で決めずに暫く待って欲しいと言ってから、名前を付けてくれた。
 それって、俺の名前をに相談していたって事だってば!
 って、それって、俺が暗部になった時から、は俺の事を知っていたって事に……。

は、俺の事を一体何時から知ってるんだよ!」

 俺は、最近までの事を知らなかったのに、はずっと俺の事を知っていてくれたんだ……。
 それって、誰かに見て欲しいと思っていた俺の気持ちは、叶っていたと言う事。

「ナルトを知ったのは、ナルトが暗部になる1年前。俺も、その頃には暗部になる為に三代目に忍術習ってたからな……実は、その頃に一度会ってるんだぜ、俺とナルト」
『……確かに、言われてみれば、そうだな』
「えっ?俺、に会った事があるのか?」

 信じられないと言うように問い掛ければ、コクリと頷いて返される。
 さっきから驚く事ばっかり言われて、ドベ口調が戻らない。

「一度だけ、な。俺は、その時から、ナルトを見守る事を誓ったんだから」

 笑顔と共に言われた事に、信じられないと言うようにを見る。
 だって、俺にはそんな記憶がないから……。
 俺は、と会った事がある?

『覚えていないのも無理はない。あの時、お前は意識を失いかけていたからな』
「えっ?」
『『化け物』って、言われてた……あんな事、小さい子供にする事じゃないのに、この里の大人は、馬鹿ばっかりだよね』

 『化け物』とは、俺が里人に言われ続けている言葉。
 それは、今に始まった事ではない。
 そう言いながら暴力を受けた事など、きっと数え切れないぐらいに経験している。
 だから、そう言われても、全く思い出す事が出来ない。俺と、が出会った時の事なんて……。

「初めてナルトを知ったのは、その時。この里の真の英雄であり、四代目の忘れ形見……そして、俺達一族が守護すべき存在」

 俺が暗部になる1年前って事は、俺が3歳の時?4歳で暗部になったんだから、そうなるよなぁ……って事は、も暗部になったのって俺と同じ歳??

って、何時暗部になったんだ?」
「俺が暗部になったのは、4つの時だな。ナルトと同じ。まぁ、ほとんど存在知られてねぇけど……『夜光』って名前と、白黒の面ってだけが俺の情報だからな」

 驚いて質問した俺に、さらりとが答えてくれる。
 そんなに、あっさりと答えてくれるとは思っていなかったから、少しだけ驚いた。

「俺は、の事、全然知らなかった……シカマルが教えてくれるまで・……」
「俺の事は、最重要機密事項だからな。ナルトが九尾の器にされている以上に」

 知らなかった俺と、全てを知っている
 言いながら、は少しだけ寂しそうに微笑んだ。

『そうだな。一族については、この里にとって、忘れたいとされる存在。だからこそ、伝えられる事はありえないだろう』

 かける言葉を失っている俺に、『昼』がそう言って小さくため息をつく。

 本当に、間違いばかりを犯している里。
 全ての真実を闇に葬るこの里。それが、どれだけ、一部の人間を苦しめる事になっているのかを、分かっているのだろうか?

『それじゃ、ナルの暗部名って、が決めたんだ。でもね、ボクはそれってとってもナルに合ってると思うよ』

 考え込んでいる俺の耳に、明るい『夜』の声が聞こえてくる。
 それに、俺は驚いて顔を上げた。

「だろう。俺も、絶対ナルトの名前は、それ以外に思い付かなかったんだよな」

 驚いている俺なんて、気付かずに、も嬉しそうに笑顔を見せる。

 ああ、そうか。
 俺の名前を付けてくれたのは、この人。

「……俺の暗部名を付けてくれて、有難う」
「ナルトが、その名前を気に入ってくれたのが、嬉しい」

 気に入った……。

 違う。俺は、この名前に恥じるような人間だとそう思っていた。
 だって、一番俺には似合わない名前だと思ったから……。

 じーちゃんにも、そう言って名前を変えさせようと言ったけど、それは認めてもらえなかった。
 だから、俺は『光』と言う名前を遣っているだけ。
 それ以外何も思い入れなんてないモノだったのに……。

 それを、目の前の人がつけてくれたのだと知っただけで、大切なものに思える。
 大好きな人がつけてくれた名前。
 そして、自分に似合っていると言ってもらえたからこそ、誇れる名前。


−シカマル−

「シカマルの暗部名って、何で『影』?」

 突然の質問に、俺は読んでいた禁書から目をその相手へと向ける。

「ああ?何だよ、急に……」
「この前、俺の暗部名に付いて『夜』から質問されたんだけど、シカマルはなんで、『影』なんだろうなぁと思って……」

 自分が居なかった時に、そんな話してたのか、こいつ等……。

 自分は、家に家族も居る。
 こいつのように、ずっとここに居る理由がない。
 俺の本当の家は、ここではなく奈良の家がそうだから。

『器のガキの名は、が決めたらしいぞ』

 そして、盛大なため息をついた俺の耳に、信じられない言葉が聞こえてきた。

「何だ、それ?」

 初めて聞かされたこと。
 ナルトの暗部名を、あいつが決めたと言う。
 そんなの、全然知らなかった。

『ボク達も知らなくって、びっくりしちゃったの』

 驚いている俺に、『夜』がそう言って笑う。
 ああ、こいつ等も知らなかったのか……なら、俺が知らなくっても、仕方ない事だ。

「別に秘密にしてた訳じゃねぇんだけどな……シカマルの暗部名って、奈良の力が関係してるのか?」

 紅茶を入れながら、も話しに加わってくる。
 まだ、俺の暗部名の話終わってなかったのか?

「……ああ、そうだ。奈良は、影を操る一族だからな。だから、それから名付けた」

 本当は違うが、それも一つの理由である事は間違いない。
 だから、俺はそう言ってまた本へと視線を戻す。

「そっか、シカマルは、奈良の力から暗部名決めたんだ」

 ナルトは、その言葉に納得したのだろう、頷いてが入れてくれた紅茶を飲んでいる。
 それをチラリと見てから俺はこっそりとため息を付いた。

 俺の暗部名は、『影』。

 ナルトが、『光』。俺は、その『光』を守るために暗部になった。
 だから、『影』なのだ。光によって作られる、影。それが、俺の暗部名。

 光が強ければ強いほど、影は濃く強くなる。
 だから、俺は『影』と名前を付けた。ナルトと言う光りと、そしてと言う光が俺を強くしてくれると知っているから……。
 だから、『影』と言う名前。

「奈良の術って、便利だよな。俺も親父さんに修行付けて貰おうか」
「って、やめろ!」

 ボソリと言われたの言葉に思わず突っ込んでしまう。
 親父なら、にそう言われると、喜んで教えちまいそうだ。
 めんどくせぇが、これ以上力で引き離されてたまるかよ!
 奈良の力があるから、俺は少しでもこいつ等と共にいる事が出来るつーのに……。

「冗談だって!流石に親父さんも、部外者に奈良の秘術教えられる訳ねぇだろう。しっかりと後継者居るんだからな」

 慌てている俺に、が楽しそうに笑いながら返してくる。

 いや、あの親父なら、喜んで教えそうだぞ……しゃれにならねぇ……。

「残念。が習ったら、それを俺も教えてもらおうかと思ったんだけどなぁ……」

 それに続けて、ナルトまでもが残念そうに呟く。

 いや、だから、んなの教えられて堪るかよ。
 これ以上、自分の居場所がなくなるなんて、たまったもんじゃねぇ。

 そう考えながら、真剣にもっと修行しようと心の中でこっそりと誓った。

 

 


 −『夜』−

『夜』って名前は、一族の当主と言う人が決めた。
 ボクの名前。

 妖であるボク達にとって名前は、束縛を意味する。
 だから、ボクの名前は、服従と言う現れ。

「『夜』」

 名前を呼ばれて振り返る。
 大好きなボク達の主人。

「お茶の準備できたぞ。ナルトやシカマルも来てっから、早く行こうぜ」

 そう言ってボクの体を抱き上げてくれるのは、暖かな腕。
 ボク達にとって、何者にも変え難い存在。

、今日のお菓子は何を作ったの?』
「今日は、イチゴパイ。季節だから、ちょうどいいだろう?」

 そう言って嬉しそうに笑うその顔が、ボクは大好き。

『ねぇ、どうしてボクの名前は、『夜』なんだろう?』

 だからそんな君に、そっと問い掛ける。

 自分の名前を決めたのは、彼ではないけど、彼の先祖なのは間違いではないから…。

「う〜ん、難しい質問だけど、『夜』は『夜』だしなぁ……でも、俺の先祖が違う名前を付けちまったら、『夜』は『夜』じゃなかった訳だし……なんで、『夜』なのかって聞かれたら、やっぱり『夜』は『夜』だって、答える事しか出来ねぇ……質問に答えられなくって、ごめんな」

 自分の質問に、必死で考えて答えてくれる大好きな人。

『うん、ボクはボクっだよね。の言う通りだ』

 もし、違う名前を付けられていても、ボクはボクでしかない。

 今こうして、『夜』という名前でここに居る。
 だから、大好きな人と一緒に居られる事を素直に喜ぼう。


  −『昼』−

『オレ達の名前の由来?』

 突然の質問に、オレは複雑な表情を見せてしまう。
 あまり、聞かれたくない事だ。

『『昼』は、知ってるの?』

 オレの表情を読んで、『夜』が不思議そうに問い掛けてくる。
 そう言う時点で、こいつは知らないのだろう。ここの当主がオレ達の名前を付けた理由を……。

『知らない方が、いい事もある』

 だから、俺に言えることはそれだけ。
 あんないい加減な名前の付け方などに、由来など存在しないだろう。

「……言いたくない理由も分からなくないけどな……」

 そっぽを向いたオレの耳に、ボソリと聞こえてきたの声。
 それは、理由を知っていると言う言葉。

?』
「まぁ、俺の先祖だし、仕方ねぇかもしんねぇいけど……あんな理由じゃ、言いたくないよな……」

 苦笑交じりに言われた言葉に、オレは何も言えない。
 オレ達の名前は……。


 初め、ここに引き寄せられたのは、オレが先だった。
 この屋敷に引き寄せられたオレを、ここの当主は快く出迎えてくれた。
 そして、使役になる事になったのだが、名前を付ける時かなり迷っていたのを今でも覚えている。
 オレの後から、『夜』がこの屋敷に訪れた。
 そこで付けられた名前が、今の名。

 理由は、本当に単純なモノ。
 オレが、この場所に現れた時間が、『昼』時間。そして、『夜』は、『夜』になってここに現れた。
 それだけの理由。

「まぁ、その逆だったら、ちょっと色的に合わないかもだったか……」

 考えていたオレの耳に、そう言うの声が聞こえてきた。

 本当に、単純な理由。
 現れた時間帯で付けられた名前。
 それが、自分達の名前の由来。

「俺の先祖ながら、単純な名前の付け方だよなぁ……」

 紅茶を飲みながらため息をつきながら言われた言葉に、苦笑を零す。
 それでも、今ではこの名前が定着している事は否定できない。

「『昼』お茶のおかわりは?」

 名前を呼ばれて、顔を上げれば、気に入っているその表情で、問い掛けてくる。

『貰う』

 ずっと大切に思えた一族最後の一人。
 オレ達に使役としての役目は無いが、ずっとそばに居る事を誓った相手。

 もしも、この里がこの命さえも奪うと言うのなら、自分は間違いなくこの里を滅びへと導くだろう。
 昔、この里を襲った九尾と同じように……。

「ナルト、シカマルも、お茶飲むだろう?」

 にこやかに笑うその顔を見ながら、オレはが入れてくれたお茶を飲む。

 今は、この場所にいられる事を感謝しながら……。


  

、お前の暗部名は、何で『夜光』なんだよ」

 自分達の名前は聞かれたのに、すっかり蚊帳の外な状態の俺に、シカマルが不機嫌そのままに問い掛けてきた。
 ああ、やっぱり、俺も聞かれるんだなぁなんて、そんな事を思いながら苦笑してしまう。

の暗部名は、オレと『夜』で決めた』
『そうそう、ってば、面倒だからって、名無しでいいって言ったから、ボク達で決めたの!』

 ああ、しっかりと、『夜』と『昼』が口を開く。
 だって、名前なんてそんなの興味ねぇし、俺という存在は、この里では亡霊だから……。

「俺としては、亡霊でもいいぐらいだったんだけど」
『そんなの絶対駄目!』

 この里の亡霊。
 滅びた一族。
 決して生き残る事など無かったはずなのに……。

「それじゃ、の名前は、『昼』と『夜』が決めたんだ。何で、『夜光』なんだ?」
の目!』

 考え込んでいる中でも、話がどんどん進んでいく。
 ナルトが不思議そうに問い掛けたそれに、『夜』が勢い良く返事を返した。
 そう、『夜光』と言うのは、俺の目から付けられたらしい。

「ああ、なるほどな」

 『夜』の言葉に、シカマルは納得したように頷く。

「何がだよ!」

 だけど、ナルトは分からなかったのだろう、そんなシカマルを睨みつけた。

「確かにそうだな」

 一人で納得しているシカマルに、ナルトが不機嫌な表情。
 頼むから、俺の暗部名の事で、機嫌悪くしないでくれ、ナルト。

「だから、何が!」
の左目は、深い紺色つまり、夜の空。そして、右目は、金色。それは、夜空を照らす光だつー事だろう」
「ああ、それなら、納得だな」

 簡単に説明された事で、ナルトも納得したようにじっと俺を見る。
 見られて俺は、思わず苦笑を零した。

 シカマルが言うように、俺の暗部名は、そう言う意味で付けられた。

 深い紺色は、夜の空。そして金色は、その空を照らす光。夜と、光を合わせて、『夜光』。
 それが、俺の暗部名。

『ねっ、にぴったりでしょう』

 ニコニコと嬉しそうに言われる『夜』の言葉に、ナルトとシカマルが同時に頷く。
 いや、俺は似合わないと思うんですけど……。

「ぴったりだってば!」
「確かに、それ以外には付けられないな」

 って、嬉しそうに頷く二人を前に、俺はもう一度ため息をついた。


 名前なんて、人それぞれ。
 それが、本当にその人に合っているのかどうかさえも、人それぞれ。

 だからこそ、名前は、大切なものなのかもしれない。
 それは、その人を表すものなのだから……。