「あれ?」

 俺は見慣れたその姿を見付けて、思わず首を傾げてしまう。
 下忍任務が終わったばっかりの自分とは違って、偽りない何時もの姿。

「……今日は、下忍の任務があるって言ってたのに……」

 ここから名前を呼ぶ訳にもいかず、俺は急いでその人の場所へと移動した。

「やっぱり、だ」

 その直ぐ近くへと移動して、もう一度相手を確認すればそれは間違いなくで、やっぱり表仕様ではなく裏仕様の姿。

「ナルト!」

 疑問に思っている俺に、名前が呼ばれた。
 俺の気配を読む事が出来るのは、きっとこの里ではだけだと思う。
 だけど逆に、里一番の実力を持つ俺でさえ、目の前に居る人物の気配を探る事は出来ない。

「調度いい所に来たな。道連れだ!」
「はぁ?」

 言うが早いか、俺は既にに腕を取られて、気が付いた時には目の前に見た事のない景色が広がっていた。

『やっぱり、そいつを連れて来たか』

 着いた瞬間に、最近では聞きなれた声が聞えてきてそちらへと視線を向ければ、やはり予想通りの白猫の姿がある。

『うん、絶対にナルは連れてくると思ったんだ。ほら、ナルあっちに一緒に行こう』

 そしてその隣に居る人懐っこい黒猫が、楽しそうに俺の腕を持って前へと促された。
 訳が分からない俺を完全に無視して、『夜』が俺を連れて来たその場所はまるでステージになっているかのような見通しの良い高台。
 見通しの良いその場所は、気持ちの良い風が吹くのが分かる程綺麗な場所。

「って、ここは何処で、一体何が始まるんだ??」

 下忍の任務が終わって無理矢理連れて来られた俺には、何が何だかさっぱり分からない。
 だから、自分の直ぐ傍に居る2匹に問い掛けた。

『あれ?ってば、何も説明せずに連れてきたんだ。あのね、これから、の舞が見られるの』

 俺の問い掛けに、黒猫が嬉しそうに答えてくれたけど、それでも意味が分からない。

「どう言う事?」

『つまりだ。今日、この場所を数年に一度通る神が居るんだ。ここを通る神に、一族が敬意を持って舞を披露する事になっている』

 『夜』の説明では分からなかったから、その隣に居る『昼』に問い掛ければ、分かりやすく説明してくれた。

「へぇ、その神様って?」

 『昼』が説明してくれた事に感心して頷いてから、俺は更に質問。

『実りの神……幸運の神とも言われているな』
『だからね、少しでも神様の機嫌をとる為に舞を舞うんだよ。その神の機嫌がよければ、ここに幸福を沢山置いて行ってくれるからね』

 俺の質問に、まずは『昼』が答えてくれて、更に『夜』が続ける。
 言われた内容に、俺は大きく頷いて納得した。
 それは、幸運の神へのご機嫌取りと言う事。それには、一族であるの舞はまさに打って付けのモノなのだろう。

 早速準備してきたが、ステージとなっているその場に立ち頭を下げる。

 が踊るその舞いは、とても明るい祝福の舞だった。
 見ている者全てを楽しくさせてくれるようなそんな舞。

 幸運の神と呼ばれている神も、この舞を見ればきっと満足するだろうと思えるぐらい、見る人を幸せにしてくれる、そんな舞だった。






『今回も、神の機嫌は上々だったな』
「おう、満足してくれて助かった」

 舞が終わって、ホッとしているに、『昼』が声を掛ければ、疲れたのかその場に座り込んでしまう。

が舞ってるんだもん、満足しない訳ないよ!』

 疲れているに、『夜』が元気良く伝えれば、は複雑な表情を見せる。
 そんなに、俺は掛ける言葉を見つけられなかった。
 何で、俺はここに連れて来られたんだろう。俺なんかが居て、幸運の神様は機嫌を損ねたりしないんだろうか?

「ナルト、道連れにしちまって悪かったな。でも、あの神様が、ナルトに微笑んでくれたから、暫くいい事が続くと思うぜ」

 言葉に困っている俺に、が声を掛けてくる。
 その言われた内容に、俺は驚かされた。

『まぁ、その為だけにってば、ナルを連れてきたんだもんね』

 驚いている俺を他所に、『夜』が楽しそうに言えば、照れたようにがそっぽを向く。

「……あの神様は、綺麗なもん好きだから、絶対ナルトの事気に入ると思ったんだよ。微笑みをくれるかどうかは賭けだったんだ……」
…」

 そっぽを向きながら言われた内容に、俺はただその名前を呼んだ。

「ナルトに、幸が一杯あればいいなぁって……でも、幸運の女神が微笑んでくれたんだから、安泰だな」
「幸運の女神?って、えっ?神様って、女の人だったのか?」

 楽しそうに言われたの言葉に、俺は全く違う事で驚かされた。
 移動している神だから、絶対に男だと思ってたんだ。

「って、驚くところは、そこなのか?」

 驚きの声を上げた俺に、が呆れたようにため息を付く。
 いや、だって、普通気になるって……でも、まぁ、幸運って言えば、確かに女神様だよなぁ……。

『器のガキ。俺達は神が一人だとは言っていないぞ』

 一人で納得している俺に、『昼』が呆れたように声を掛けてきた。
 そしてその言われた内容に、一瞬考える。

 いや、確かに一人だと言ってないけど、それって、何人もの神様がここを通って行ったってこと?

「今回、ここを通ってくれたのは、24人。毎年確実に増えていってくれてるな」
『そうだね。昔は、100人くらいの神が通ってくれてたから、まだまだがんばらないとね』

 『昼』の言葉に考えていた俺の耳に、が嬉しそうに人数を教えてくれた。
 それに続いて『夜』も、昔ここを通っていった神の数を教えてくれる。

 100人もの幸運の神様が居るのか??
 何か、幸福もそう聞くと有難味がなくなるような気が……。

「んじゃ、目的も終わったし、帰ろうぜ」

 複雑な気持ちを隠せない俺を他所に、もう既にそう言われた瞬間には、の家だった。



 だけど、女神が微笑んでくれたと言う言葉を裏付けるように、それからの俺は兎に角幸運続きだったのは、言うまでもない。
 道連れにされたはずだけど、こんなに幸運でいいんだろうか??