「良かった」
そう言っての奴が俺に抱き付いて来た。
正直言って、突然のその行動に狼狽えても仕方ないだろう。
「……って、何が良かったんだ?」
意味が分からねぇと言うように問い掛ければ、少しだけ困ったように俺を見詰めてくる金と紺の瞳。
そして、俺の質問に、ゆっくりとが口を開いた。
黙っての話を聞き終えた俺は、深く深くため息を付く。
なんだって、こいつはそんなめんどくせぇ事してやがるんだ!
しかも、その身代わりにこの俺を使うつーのは、どう言う事なんだ!!
「いや、だから……えっと、正体バレそうになって、咄嗟に唯一知ってる子供であるお前の姿を急いで作って………んで、お腹が空いてるって言ってたから、持ってたお弁当その人達に渡したんだけど、何か凄い反応で不味い事したんだと思って慌てて作ったシカを消しちゃったんだ……」
言い難そうに再度同じ事を言うを前に、俺はもう一度ため息をついた。
道理で、訳の分からない連中が俺の家に押し掛けて来た訳だ。
勿論、とーちゃんとかーちゃんが追い払ってくれたが……何処の世界に、若干6歳の子供に飯をタカリに来る忍びが居んだよ!
って、事実、経験しちまったんだが……。
原因が目の前の相手だと分かって、再度ため息をつく。
確かに、こいつが持っていた弁当なら納得する。意味が分からなかったが、それで全て納得できた。
「だから、シカに何か迷惑掛けたかもって……シカマル?」
ずっと説明しているのに何も言わない俺に心配そうに見上げてくるに、もう数えるのもバカらしく思えるため息をつく。
全く、ため息をつくと幸せが逃げるとは良く言ったもんだ。
俺はこいつと出会ってから、確実に幸せと言うモノが減ったと実感している。
そう、それだけため息をつく回数も増えたと言う事。
若干6歳の子供に、こんなにため息つかすんじゃねぇよ!
「……理由は分かった。そいつ等なら、先刻俺の家に来て、とーちゃんとかーちゃんが追い払ったけどな……訳分かんねぇ事言ってたつーか、原因はお前だったんだな……」
もう、正直言って怒る気にもならない。
言って俺は深く息を吐き出して頭を抱えた。
「……迷惑掛けて、ごめん」
そんな俺の態度に、目の前の相手は申し訳なさそうに項垂れて謝罪。
「んな顔すんじゃねぇって、別にとーちゃんもかーちゃんも怒ってなかったし、俺も気にしちゃいねぇよ。でも、頼むから、俺の顔使ってそんな事はしねぇでくれ」
俯いてしまったに、慌ててそう言えば、パッと顔を上げてフワリと笑顔。
「うん、約束する!」
綺麗な綺麗な笑顔を見せて、元気良く言ったそれに俺も満足して頷くとその頭を優しく撫でた。
別に、身代わりに使われたとしてもなんとも思っちゃいない。
訳分からない連中の事も、全然気にしちゃいねぇんだ。
ただ、お前が、お前自身が傷付く事がなければ、幾らだって身代わりになる。
だけどな、腹空かしてるからって餌付けしないでくれ。その弁当目当てで、あの連中は押し掛けて来たのだから……。
よっぽどが持っていた弁当は美味かったらしく、そいつ等は俺の家に押し掛けて来て、その弁当を誰が作ったのかを聞いてきたのだ。
勿論、何の事か分からなかった俺達は、そのまま追い返したのだが……。
これで、全ての謎が解けた。
……身代わりに使うんなら、目立った行動だけはしないでくれ、頼むから……。