−シカマル−

 はっきり言えば、俺はナルトの事が大嫌いだった。

 面倒臭がりのガキに、過酷な修行をさせる原因になった相手と言うだけでも、その理由は十分だろう。
 しかも、自分が初めて認めた相手が、大切に思っている人物。

 子供の可愛い嫉妬ってヤツからも、嫌いだったのだ。

 だけど、何度か共に任務をしてから、その気持ちは思いっきり覆された。
 その大嫌いなガキが、俺の認めたあいつにそっくりだったからだ。


 自分を顧みない優しさ。

 優しいのに不器用で、人の事を庇いながらも任務をするような奴。

 その優しさは、俺が呆れちまう程だった。そう、言っている事とやってる事がちげーだろうって呆れちまったつーの。
 だから、自分の持てる力でそいつをサポートしてやろう、そう思ったのだ。
 得意な頭脳を酷使して、あいつが怪我しないように戦略を考える。



 きっと、俺が初めて認めたあいつには全てお見通しだったに違いない。
 だからこそ、遣いたくもねぇ力を遣ってまで俺をナルトの相棒と言う立場にしたのだろう。

 俺は、間違いなくあいつの望んだままに行動しているつー自覚はあった。
 面白くねぇが、それが分かっていても抗う事なんて出来なかったつーのが正直なところだ。


 たく、何であいつ等はあんなに似てんだよ。
 正直言って、嫌になったつーの。 

 大体この里は、俺が認めたヤツばかりに全てのモノを背負わせてやがる。

 こんなどうでもいい里の為に、俺が認めた優しい奴ばかりが犠牲になっているのだ。はっきり言やぁますますこの里が嫌いになったつーんだよ。

 にしてもナルトにしても、本当はこの里にとって大切な者だと言うのに、それが分からないなんてはっきりいって馬鹿以外の何物でもねぇ。


 里の真実を知る者と、この里の真の英雄。

 
 だから俺は、この二人を守りたいと心から思った。
 面倒臭がりの自分が、初めて感じた強い想い。

 この二人の為なら俺は、この里をも滅ぼしてもいい。
 この二人が傷付かなくてもすむと言うのなら、喜んで策略でも練ってやるよ。


 だけどそれを実行出来ねぇのは、その二人が、この里を大切に思っている事を知っているからだ。
 俺が、この里を滅ぼしちまったら、間違いなく二人が傷付くと分かっている。

 大切に思う二人が泣くような事はしたくねぇし……。

 例え、里を滅ぼしちまったとしても、あいつ等は変わる事ない態度で俺に接してくれるだろう。
 だけど、見ていないところで自分を責める事は考えなくても分かるのだ。

 俺が、自分で許せなくって行動したとしても、それが自分達の所為だと嘆くだろう。
 だから今は、今だけは、ガラじゃねぇけど二人がこれ以上傷付かないように見守っていきたい。


 それが、俺の望み。
 そして、強く願う事だ。
 その為なら、『めんどくせぇ』なんて言ってらんねぇよ。


ナルト−

 初めてだったんだ、俺に綺麗な笑顔を見せてくれた奴なんて……。

 自分の為に泣いてくれた、そして、自分の居場所をくれた人。


 一人だと思っていた自分に、何の迷いなく手を差し伸べてくれたのは、後にも先にもきっとあいつだけ。

 この里の真実を知る者。

 それがどう言う事なのかなんて、自分には分からない。
 それでも、自分と言う存在を認めてくれた事が嬉しかったのだ。

 自分にとって、初めて誰かと一緒に食べる喜びを教えてくれたのも、あいつ。
 初めて知った事だけど、シカマルを俺の相棒にしたのも、あいつだと言う。
 それだけ、あいつは俺の事を考えてくれているのだと知った。

 
 里に疎まれた存在。

 そんな俺にあいつが言った言葉は、親父が望んだ事。
 この木の葉で、俺という存在を認めてくれる奴を見付けろ、と。

 そして、俺が護りたいと思う奴を見付けろと、そうあいつは俺に言った。

 確かに、じっちゃんもシカマルも俺の事を受け入れてくれた貴重な存在だ。
 そして、あいつは全部を知っていて、俺と言う存在に手を差し伸べてくれた。

 初めて哀れみでなく見詰めてくれた瞳。

 金色の瞳と紺色の瞳は、優しく俺と言う存在を真っ直ぐに見てくれた。
 そして、自分を傷付けた事に、涙してくれた。

 あれは、俺を助ける為だったのに、泣いてくれた事が嬉しかったと言ったら、あいつはどう思うんだろう。
 
 
 だから今は、俺をこの世に生んでくれた両親に心から感謝している。

 俺という存在をこの世に残してくれた事を。
 俺という人間に、九尾を封印してくれた事に。

 そして、何よりも、あいつに出会わせてくれた事に、感謝している。
 信じた事もない神様に……。

 


 −『夜』−

 ねぇ、ボクは、君の事が大好きなんだよ。
 だから、傷付いてなんて欲しくはないの。

 『昼』は、ボクに過保護だって言うけど、自分だってボク以上に過保護だって事、気付いていないのかな?
 だって、ボクはが傷付いたりしたら本気で怒っちゃうけど、『昼』はが無理をしちゃうと怒ってるって知ってるよ。

 一人で頑張っちゃう事だって知ってるけど、ボク達が本当にの事を大切に思ってるってことだけは、忘れないで欲しいんだ。

 だって、ボク達がここに居るのは、みんなキミの為なんだもん。
 だからね、その事を忘れないで欲しいんだよ。

 
 ナルはね、本当にいい子だよ。
 九尾を封印されちゃった事で、本当に辛い思いをしてるのは、誰でもないナル自身だって事、ボクだって知ってる。

 だけど、四代目の選択は間違ってなかったってそう思うよ。
 だって、ナルに封印されている九尾は、落ち着いているから。
 それは、ナルが本当にいい子だから、だから九尾も大人しく封印されているんだと思う。

 ずっと九尾を守護していた『』を手伝ってきたから、ボクには分かる。

 もう、大丈夫だって。

 封印が解けても、きっと九尾は落ち着いていられる。
 だって、その時には、も居るから。

 だから、大丈夫。

 本当は、ボクは九尾なんて大嫌い。
 だって、あいつの所為で『』は、この里に滅ぼされたんだもん。

 だから、大嫌い。

 でもね、感謝もしているのも、本当。
 だって、だからはシカにもナルにも出会う事が出来たから。
 今笑っていられる事が出来るのは、あの事件があったから……。

 
 だから、大嫌いでも、許しているの。
 全部、が居るから出来た事。

 そうでなければ、ボクはきっと封印されているナルごと九尾を消しちゃっていたかもしれない。
 そうなってたら、ボクはきっとに許してもらえなかったよね。


 だからこれは、誰にも内緒。
 今は、もう怒ってないから大丈夫。
 ナルの事も、大好きだからね。


  −『昼』−

 『』に使える事が、自分の全てだった。

 オレと『夜』は、それを誇りに思っていた事もある。


 なのに、この里は、そんなオレ達の大切な主を殺したのだ。
 主が、望まなければ、オレ達はこの里を滅ぼしていただろう。

 九尾がした事と同じように、オレ達は間違いなく荒神となり、破壊の限りを尽くしていた。


 だが、そうならなかったのは、主が残してくれた、子の為。
 その子を護る事が、オレ達の新しい使命になった。

 主と認めたのは、この世でたった一人だけ。
 その主が望んだから、オレ達はあいつを護ると決めた。


 だけど今は、その子がオレ達にとって大切な存在になった事は否めない。
 多分、オレ達にとって最後の宝となるだろう。

 『』の最強の力を持つ子供。

 生き残った子に力が宿ったのは、この一族を哀れに思った神の最後の慈悲かもしれない。

 それでも、オレ達は、その力がその子に与えられた事に感謝している。

 もう自分達の目の前で、大切な相手を失いたくはないから……。



 そして、奈良のガキと器のガキが、オレ達の大切な子に集ってきた。
 二人もまたあの子に惹かれてきた事は、誰の目から見ても明らかだろう。

 『真実の瞳』と『王者の眼』を持つ子供。

 全ての真実をその瞳に移し、そして全ての者を従わせる眼を持つ。

 実を言えば、『真実の瞳』は、必要なかった。オレ達が望んだのは、『王者の眼』。
 それさえあれば、子を傷付けるモノなど居ないと思ったからだ。

 なのに子は、その力を遣わない。

 遣えば、仕事は難なく片付くと分かっていても、その力を遣わないのだ。
 問えば苦い顔で、

『相手の気持ち無視して縛りたくねぇじゃん』

 と笑った。

 優し過ぎる子の言葉に、呆れたのは本当。
 そして、護りたいと強く願った。


 だから、俺達は、今もここに居る。
 大切な、お前の傍に……。


  −

 俺という存在は、この世界に存在す事のなかったモノ。
 だから、俺には有り得ない力が宿されている。

 全てを映す事の出来る『真実の瞳』と、どんな相手でも操る事が出来る『王者の瞳』。
 この二つが、同じ人間に宿る事など、決して有り得ない事なのだ……。


 真実を隠すこの里で、その隠している真実を見通してしまえるこの瞳。
 過去に起こったすべての事が、映像となって映し出される。
 それに、小さい頃狂いそうになった事があった。



 知らない奴等の死。

 モノ言わぬ物の思い。

 里が隠そうとすればするほど、それは拠り強く自分に知らしめてくる。

 
 そんな中で知った九尾の狐を封印されし者。
 それは、俺にとって救いで、そして大切に思えた相手。

 この里にとっては、排除すべき存在だと言われていても、俺には分かった。彼が、本当のこの里の英雄だと言う事が……。

 そして、伝えられる四代目の願い。

 しかし、それさえも、この里は知ろうとはしない。

 自分勝手なこの里は、真実は何も受け入れようとはしないのだ。
 自分達が侵してしまった罪さえも、認めない。

 これが、この里の姿。
 自分達が望んだ結果が受けられなければ、それを排除する。

 それが、この里。



 だから、この里に滅ぼされた一族は、俺にこの力を残したのだろうか?
 隠された真実を、残された俺に知って欲しかったのだろうか……。

 

 今、俺はその里の英雄と共に居る。
 自分にとって、大切だと思える人達と共に……。