まるで供物のようだ。

 あんな子供を人身御供にするなど、この里人は何と愚かな生き物なのだろうか。
 オレ達の大切な一族さえ、その手に掛けたこの里は、本当に腐りきっている。

 小さな子供を傷つけるなど、もっとも、愚かな行為だ。

 自分たちが何をしているのかさえも、理解していないのだろう。
 それが、すべて自分達へと返還されるなどと考えもしない。

『本当に愚かだな』
「『昼』?」

 思わず呟いたその言葉に、自分が与えていた課題を一生懸命片付けていた子供が不思議そうに名前を呼んでくる。

『いや、何でもない……』

 そんな相手に、小さく首を振り返した。
 今、この事をこの小さな子供が知ったら、傷付けてしまう。
 そんな事、自分達の中では絶対に許されない事だ。

「『夜』がね、もう直ぐご飯できるって言ってる」
『…そうか……なら、今日はここまでにするか』

 最近の課題として、離れた場所からでも意思を伝えられるように練習していた子供は、自分の相棒とも言える相手から伝えられた言葉をそのまま口にする。
 言われた言葉に頷いて、課題の終了を伝えれば本当に嬉しそうに笑う。
 その笑顔を前に、自分の表情も緩やかになるのが分かる。

 たった一人だけ残された、自分達が護るべき存在。
 まだ幼くて、何も知らない子供に自分達が一つ一つ教えていかなくてはいけない。
 だけど、まだあの少年の事を、この子供に教えることはしたくなかった。

 この里にとって、一番の犠牲者。
 里の護り神である九尾へと捧げられた、小さな子供。

 それでも、捧げられた子供よりも、自分達にとって大切なのは、この何者にも変えがたい存在だけなのだ。
 例え、どんなにあの子供が傷付けられたとしても、この子供に害が及ばないのであれば関係ないと思える。

 自分達の子供を護る為の供物。

 いずれ、自分達の大切な子供は、捧げられた可愛そうな子供の存在を知ってしまうだろう。
 その時、この小さな護るべき存在が傷付いてしまう事など分かりきっている。
 それでも、ほんの少しでもいい、その傷付く時が先に延ばされる事を願っているのだ。

 ああ、そう考えると、オレ達もあの自分勝手な里人と同じだな。

 ただ違うのは、その行為が自分達に戻ってくる事を理解しているだけだ。
 傷付けた分だけ、その傷は間違いなく自分達に返って来る。

 因果応報とはよく言ったものだな。

「『昼』!『夜』がご飯できたって!」

 考えていた事が、子供の声によって遮られる。

『ああ、分かった』

 嬉しそうに笑っている子供の姿に、今はこの幸せをただ愛しく思う。

 それが、あの哀れな子供の犠牲によって作られているとしても