別段、自分が生まれた日だからって、何かが変わる訳じゃねぇってことは、俺自身が一番よく分かっている。
 だけど、今日この日に生まれてきたからこそ、今大切な奴等に出会える事が出来たのだ。

「シカマル、誕生日おめでとう」

 何時も通りの任務。
 だけど、今日は何時もと違って待ち合わせとなっている場所へ辿り付いた瞬間、幼馴染2人に同時に祝の言葉を貰った。

 言われた瞬間思い出す。
 今日が自分の誕生日だと言う事を。

「おう、サンキュ…」
「プレゼントは、明日だけどね」

 言われた祝の言葉に当り障りのない返事を返せば、チョウジが笑いながらそう言った。

 あ〜っ、また恒例で誕生日会かよ、めんどくせぇ。

「そう言えば、今日は、は一緒じゃないの?」

 明日のことを考えて、うんざりした表情を見せた俺には気付かず、いのがキョロキョロと辺りを見回す。
 まぁ、休みじゃねぇ時以外は、大体一緒に来ているのだから、そう言われても仕方ねぇだろう。

「見てねぇから、休みじゃねぇのか」

 実際、今日は一族の仕事があるからと、休みなのは聞いている。
 だが、それを俺が知っている訳にはいかないので、何時ものように返事を返した。
 一緒に来ない場合は、休みと言う方程式も気が付けば出来てるみてぇだしな。

「そうなんだ、、シカマルの誕生日に休みなんて……明日の誕生日会には来られるのかな?」

 俺の言葉に、チョウジが心配そうな表情で問い掛けてくる。
 まぁ、まず間違いなく明日は無理だろう。
 今回は、いのの家で開かれるそれに、が参加出来る訳がない。

「さぁな……あんまり無理は出来ねぇだろう……」
「そうだよね……ちょっと残念だね」

 チョウジの質問に、答えて小さくため息をつく。
 残念そうに呟かれたその言葉を聞きながら、俺は今この場に居ない人物の事を考えた。

 やっぱり、今年も祝うつもりなんだろうか?

 朝出掛けには何も言ってなかったが、まず間違いなくそのつもりだろう。
 また、家の親も一緒に祝う事になるのだろうか……。
 去年のことを考えると、それは正直避けたい。

 いや、その前に、あいつの仕事今日中に終わるのか?

「待たせたな」

 考え事をしていた俺は、アスマの声で我に返った。

「もう気付いてるだろうが、は休みだ。今日は3人で任務を行う」

 今日の任務内容を説明しているアスマの声を聞きながら、俺はそっと、空へと視線を向けた。

 秋の空は、綺麗な薄い青色。
 誰かの色を思い出させるようなその空を見詰めて、もう一度息を吐き出した。






 あっけなく任務を終え、俺はいつもの道をゆっくりと歩く。
 帰れば、何時ものようにあいつ等が出迎えてくれるだろう。
 疑いもせずに、何時もの日常を描きながら帰路を歩く。

「ただいま」

 里外れの『魔の森』と呼ばれるその場所にあるあいつの家が、既に俺にとっては第二の家となっている。
 当然のようにそこに戻って、何時もの挨拶。

『シカ!って、もう帰ってきちゃったの?』

 開いたドアの先、黒猫が慌しく準備する姿がある。

「……帰ってこない方が良かったみてぇだな……」

 予想外だと言わんばかりの黒猫の言葉に、俺は複雑な表情を返した。

『そんな事ないけど……その表情からすると、今日が何の日か分かってるみたいだね。まぁ、任務の時にあの二人から教えられちゃったんだろうけど……お帰り、シカ』

 俺の言葉に、『夜』は少しだけ残念そうに呟いて、それでも何時もの挨拶を返してくる。
 それに、もう一度『ただいま』と返してから、更に眉間に皺が寄ったのが自分でも分かる。
 まぁ、言われた内容は否定も出来ない本当の事だから、何も言葉を返せるはずもないが……。

『なら、別にいいか……はまだ戻って来られないみたいだけど、シカは今から何時ものように読書?』
「おう、指定位置でな」

 諦めたように呟いて、の事も教えてくれる。
 やっぱり、まだ戻って来れないのかよ……って、今日中に戻ってこられるのか?

 『夜』に返事を返して、何時もの指定位置に腰を降ろし置いてあった本を手に持ちながら、内心ではここに居ないこの家の主の事を考える。

「なぁ」
『なに?』

 コトンと準備してくれていたのだろうお茶を、俺の前に置いた『夜』へ声を掛ける。

「あいつ、今日戻って来られるのか?」
『う〜ん、どうだろうね。本人は何が何でも戻って来るつもりあるみたいだけど……もしかしたら、難しいかもね』

 俺の質問に、少しだけ考えるような素振りを見せて、でもちゃんと返事をくれた『夜』のその言葉を聞いて、呆れたようにため息をついてしまう。

「何が何でも戻って来なくってもいいから、怪我しねぇでくれるとありがたいんだけどな……」
『……本当にね』

 入れてくれたお茶を手に取って、素直に思ったことを口に出せば、『夜』が楽しそうにクスクスと声を出して笑う。そして、言われたのは、俺の言葉に賛同するそれ。

 俺の誕生日だからって、無理だけはして欲しくねぇ。
 いや、むしろ俺の誕生日だからこそ、無理はして欲しくねぇのが本音だ。

「ただいま!遅くなってごめん!!バカカシがまた……って、シカマルもう帰ってきてるし!!!」
「おう、先に戻ってて悪かったな」

 コクリと茶を飲んだ瞬間、バタバタと慌しい足音と聞きなれた声が響き渡る。
 バタンと派手な音と共に開いた扉と、人の姿を見るなり言われたそれに、俺はポツリと言葉を返した。

『お帰り、ナル。大丈夫だよ。シカはもう今日が何の日か知ってるからね』
「あ〜っ、そいだよなぁ……猪鹿蝶トリオは伊達じゃなかった……」

 ガックリと少し大袈裟に肩を落とすその姿に、思わず首を傾げてしまう。
 こいつは、裏ではもう少し大人しい筈なんだけど……。

、残念がるよなぁ……仕事に行く前に、楽しみにしてたみたいだから……」

 そして続けて言われたその言葉で、納得する。

 やっぱり、楽しみにしてたのかよ、あいつ……。本気で、心配になってきた……頼むから、怪我だけはしないでくれよな、めんどくせぇから……。
 そう思いながら、自分の目の前で話をしている二人に目を向ける。
 知られたのなら、気を使う必要はないって事だろう。まぁ、俺も気にしないけど……。

「それじゃ、俺も着替えて準備手伝うな」
『うん、お願いする……あっ!!』

 ぼんやりとそんな二人の遣り取りを見詰めていれば、話が終わったのだろうナルトが部屋を出て行こうとした瞬間『夜』が、声を上げる。

「どうかしたのか?」

 そんな『夜』にナルトが振り返って質問。俺も突然の事に驚いて『夜』を凝視してしまう。

『な、何でもないよ……えっと、それじゃ、ナル宜しくね』

 慌てて返事を返してきた『夜』に、複雑な表情を見せる。
 どう考えても、何かを隠しているという表情だ。

「何か、あったのか?」

 この黒猫が白猫と繋がっている事を知っているからこそ、何かあったのではと心配になる。
 それはナルトも同じようで、じっと『夜』の様子を見詰めていた。

『……本当に何も無いよ。ちょっと買い忘れたものがあるのを思い出しちゃっただけ』

 じっと見詰める中、苦笑を零すように言われた言葉は俺にとっては納得できる内容ではない。
 その表情は、明らかに何かを隠しているというモノ。

「ビックリさせるなよ、に何かあったのかと思ったってば」

 だが『夜』の言葉に、ナルトはホッと安心したように胸を撫で下ろして、部屋から出て行く。
 ナルトが出て行くのを静かに見送ってから、俺は持っていた本を横に置いた。

に何かあったんだろう?」
『やだなぁ、シカはナルと違って騙されてくれないんだね……』

 そして、複雑な表情をしている『夜』へと確認するように質問する。
 そうすれば、諦めたように『夜』がため息をついた。

「何があった?」
『……大した事じゃないんだけど……が怪我しちゃったみたい』

 複雑な表情で言われたその言葉を一瞬理解できない。
 だけど、言われた事を考えて、俺は低い声で呟いていた。

「って、大した事あるじゃねぇかよ!」

 心配していた事が起こってしまったのだと
 こいつが、驚いて声を上げるぐらいの怪我をしたという事。

「俺が行く。医療忍術は少しぐれぇなら使えるからな」
『行くって……止めても聞きそうに無いね。分かった、送って上げるよ。でも、約束して、何があってもシカは無茶しちゃダメだからね』

 真剣に言われた事に頷けば、諦めたように盛大なため息をつかれた。
 そして、空間が歪む感覚。

『ボクは一緒に行けないから、シカだけを送るね』
「って、ちょっと待て!」
『いってらっしゃい!』

 続けて言われた事にギョッとして口を開けば、暢気に送り出すような声が聞こえて来た瞬間、グラリともうすでに慣れた感覚が自身を襲う。

「あれ?シカマルは?」

 俺がその場から離れた瞬間、戻ってきたナルトが不思議そうに質問したそれに、『夜』があっさりと『三代目の呼び出し』と返していることなんて知らずに……








 送られた先は、深く森の中。
 突然出たその場所で、俺は警戒しながら辺りを見回す。

 だが、行き成りの激戦場所ではないらしく、捜し求めている人物の姿は見受けられない。
 どうやら『夜』も突然、の所に送るという事は避けたという事だろう。

 確かに、が怪我をしたと言うのだから、行き成り俺がその場所に行ったとすれば、ただの足手まといでしかないだろう。

「……どのぐらい、離れてるんだ?」

 自分にあいつの気配を読む事は不可能だ。
 なら、自分の勘を頼りに進むほかない。

「めんどくせぇ、どうせなら直ぐ近くに出してくれつーんだ」

 探すのが本気で面倒だ。

『奈良のガキ』

 そう思った瞬間、聞きなれた声が聞こえて来た。

「『昼』」
『なんでお前がここに居る……『夜』か?』

 聞こえたその声に、顔を上げれば、予想通りの相手が驚いたように自分を見詰めて問い掛けて来る。

「あいつが怪我したつーって聞いたからな」

『……怪我は、大した事ない…と、本人は主張しているぞ』
「つー事は、ひでぇって事だな……」

 問い掛けに言葉を返せば、何処か複雑そうな表情で、『昼』がため息をついて本人の主張を説いた。
 それに、俺も思わずため息をつく。

 どうして、俺の周りにいるヤツは、無茶ばかりするヤツが多いんだろうか?
 と言うよりも、強いからって、自分を過信し過ぎなんじゃねぇのか?!

は?」
『まだ、向こうにいる。今最後の仕上げ中だ。お前の気配を感じたと聞いたから、オレがここに来た』

 深々とため息をついて質問すれば、あっさりと『昼』がここにいる理由を口にした。

『……終わったみたいだな』

 そして、続けてポツリと呟かれたそれに、視線を向ければ数十メートル先で光が見える。

『来るぞ』
「シカマルが何で、ここに居るんだ!?」

 それを確認した瞬間、ポツリと呟いたそれと同時に良く知った声が驚いたように質問を投げかけてきた。

「……お前、怪我してんのに、『渡り』使ってどうすんだ……」
「『昼』から聞いたのか?大した事ないから大丈夫だって!って、もしかして、シカマルをここに送ったのって『夜』か?」

 その明るい声に、心底呆れたというように呟けば、やっぱり大丈夫だと言う言葉を返してくる。
 だがどう見ても、大丈夫そうには見えない。

「……顔に傷付くりやがって、しかも、何が大丈夫だ!お前、左手折れてんじゃねぇかよ!」

 ザッと確認した状態で見れば、明らかに折れていると分かる左腕、そんな手で印を組んだって言うのか、こいつは!

「……あ〜っ、うん、シカマルにはごまかせないか……俺、治癒力、自分には使えないからな……」
『当たり前だ。お前の治癒力は、お前の生命力使って治してんだからな。お前自身には使える訳ないだろう』

 俺の言葉に罰悪そうにが口にしたその言葉に、『昼』がため息をつきながら説明する。
 初めて聞かされた内容に、俺は驚いてを見た。

「お前の治癒って……」
「まぁ、使い過ぎると、命に関わるかも……」
『かもじゃない、関わるんだ!』

 言い難そうに言われた言葉に、『昼』がきっぱりと言い切る。

 そうだろう。
 自分の生命力を使っていると言うのなら、間違いなく使い過ぎは命取り。

「お前は、そんな力をバカスカ使ってたのか!!」
「あ〜っ、怒られた……イヤだって、使うとちょっと疲れるだけで、寝れば直るんだし……」
「おい!このバカ何とかしろ!!とっとと折れた腕出しやがれ!!!」
『何とかなるなら、とっくに何とかしてるに決まってる』

 のその行動に腹を立てて文句を言えば、複雑な表情で言葉が返ってくる。
 それに盛大なため息をつき、折れている腕を掴んでチャクラを流し込む。
 俺のその言葉には、『昼』がため息をつきながらしっかりと返事を返してくれた。

「シカマル、大丈夫だから……」
「大丈夫じゃねぇから、俺が医療忍術使ってんだろうが」

 腕を掴まれた瞬間、痛みに顔をしかめてうめき声を上げたが、俺の行動を悟ったのだろうが制止の声を上げるのをしっかりと言葉を返して睨み付ける。

『『夜』がお前を送ってくれた事に感謝だな。そうでなければ、もっと大変な事になっていた』
「ああ?どういう意味だよ」

 俺に睨まれた事で大人しくなったに治療をを続けていれば、意味深な言葉が聞こえて来て、チャクラを流す手をそのままに聞き返す。

『そのままの意味だ。お前が来なければ、こいつは右目の力を使わずに終わらせるつもりだったからな』
「…………バカか!お前、自分の最大の武器つかわねーでどうすんだ!!」

 質問に返されたそれに、俺は再度を怒鳴りつける。

 本気で超バカ。
 こいつの能力を使えば、こんな怪我しなくってすんだだろうに……

「……俺は、この右目の力を使うの好きじゃないから……」
「好き嫌いの問題じゃねぇつーの!めんどくせぇが、使えばこんな怪我してねぇんだろうが」

 こいつの右目には、特殊な力がある。
 それは、左目も同じだが……左目は、全ての真実を移し、右目は誰をも従わせる事が出来る王者の瞳。
 それが、こいつの最大の能力であり。武器。
 なのに、その力を使うのが嫌いで使わなかったと言うのだ、このバカは!

「……本当は、この目の力を使わずに眠らせられると思ったんだ……でも、失敗してたら、意味ないよな」

 俺に怒鳴られて、困ったように呟くの言葉に、俺は何もこたえる事が出来ない。

 どうしてこんなに、バカなんだ。

 こいつの事だから、強制的にいう事を聞かす右目の能力を使うのを嫌うのは、そう、全てが強制的だからだ。
 誰も、こいつの目には逆らえなくなるという事。
 それは、自分の意思など関係なく、全てを支配されてしまうという事なのだ。

 だから、こいつはその能力を嫌う。
 自分の能力で相手を縛る事を嫌うから……

「流石に完全完治はムリだ。まぁ、顔の傷は消してやったから感謝しろよ」

 俺の医療忍術では、流石に綺麗に全てを直す事は出来ない。
 折れた骨を何とかくっ付ける位が精一杯だ。

「うん、コレだけ動かせるようになれば、十分だよ。有難う、シカマル」

 俺の言葉に、がまだ折れたままの腕を軽く動かす。
 それでも、先程よりかなり動くのだろう、満足そうに頷いて礼の言葉を口に出した。

「……この借りは大きいかんな」
「分かってる。シカマルがここに来てるって事は、もしかして、ナルトも」
「あいつは気付いてねぇよ。そうだな、ナルトのヤツに口止めも、貸し一つだ」

 そんなに、ため息をついて言えば、当然だと言うように頷いて、心配そうに質問してきた内容にも、しっかりと言葉を返せば、頷いて返された。

「あ〜っ、今日の主役に、こんなに手間掛けさせて本当に悪かったな」
「んな事、お前が気にするような事じゃねぇだろうが……」

 申し訳なさそうに言われたその言葉に、俺は再度ため息をついてしまったのは仕方ないない事だろう。

 本当、超バカ。
 人の事ばっかり考えやがって、自分の事も考えりゃいいのに

『後は、薬湯で何とかなるだろう。戻ったら、『夜』の説教が待ってると思っていいだろうな。戻るぞ』

 呆れたように返した俺の言葉に続いて『昼』がため息をつきながら声を掛けてくるその瞬間、もう既に慣れてしまった空間が歪むような感覚。

「あ〜っ、やっぱり『夜』の説教は外せないか……そうじゃなくっても、『昼』の説教も聴かなきゃいけないのに……」
『オレは今回何も言わないでいてやる。言いたい事は、奈良のガキが言ってくれたからな』
「う〜ん、それは喜んでいいのか、シカマルに怒られたから、免除って……『昼』に説教される方がマシだったような……」
『だから、オレは免除してやるんだ。オレが言うよりも聞き入れるだろうからな』

 俺の事を無視して二人が話している内容に、もう何度目になるか分からないため息をつく。
 本気で、こんな遣り取りを毎回してるのかこいつ等。

「……お前らなぁ、へたすりゃ命の危機が去ったばっかりの後に何暢気な会話してやがるんだ!」
「ってもなぁ、何時もの事だし……それに焦っても何にもいい事は生まれない。だったら、気軽に前向きに、それが俺のモットーだからな」

 嘘付きやがれ、誰が気軽に前向きだ。
 過去にこだわり続けてるヤツが何言ってやがる。

「……ウソツキ、が」

 俺の言葉に返されたそれに、ボソリと呟く。
 聞こえるか聞こえないかの声で

「さてと、今家では、ナルトと『夜』が準備中なんだよな?もう少し時間潰してから帰るか」

 俺の声が聞こえなかったのだろうが、笑顔で言ったその言葉に、俺は再度ため息をついた。


 そして、ムリヤリ進路方向を変え里内で、買い物を楽しみ、俺達が家に戻ったのは夕方過ぎ。

 戻った俺達に、しっかりと『夜』のお小言と、拗ねたナルトが出迎えたのは、仕方ない事だろう。