貰ったのは、二つのカップケーキ。
女の子から貰った事なんて一度も無かったから、俺はそれを笑顔で受け取った。
「お、お前、いのからそれ貰ったのかよ!」
俺の手の中にあるそれに、驚いたのはシカマル。
突然驚いたように言われたその言葉に、俺は意味が分からずにただシカマルを首を傾げて見詰めた。
と言っても、目は前髪で隠れているから、見詰めているって事は視線でしか感じられないだろうけど……。
そんな俺の視線を感じ取って、シカマルが盛大なため息をつく。
一体、何をそんなに呆れてるんだろう?
折角いのが、お近付きの印だと俺の為に作ってくれたのに、それの何処に問題が……。
「いのの奴はなぁ、あのチョウジでさえ腹壊す料理を作る奴なんだよ」
本当に意味が分からない俺に、シカマルが盛大なため息と共にその理由を教えてくれた。
えっと、それってつまり……。
「それ、食うんじゃねぇぞ」
キッパリ言われたそれに、俺はサーッと自分の顔が青ざめていくのが分かる。
だって、俺のお気に入りのチョウジは結構何でも食べられる無敵の胃を持つ秋道家の人間だ。
その無敵の胃を持つ秋道の人間の腹を壊す事の出来る料理……それは、自分にとっては毒も同じと言う事。
「で、でも、見た目はすっごく普通……」
「あいつの料理の摩訶不思議なところは、見た目が良いほどヤバイんだつーの。逆に見た目が悪い方がまだ食える」
信じられないと言うように問い返した俺に、キッパリと返されたその言葉は、今までの経験からか断言されるほどのものだった。
見た目悪い方が食えるって、いのってば、どんな料理センスしてるんだ?
「悪い事は言わねぇから、そんなめんどくせぇもんは、さっさと処分しちまえ!」
俺が手に持っているカップケーキを指差して、シカマルが忠告してくれる。
だけど、俺としては受け取ってしまったものをそんなに無碍に出来るはずも無くって……。
「い、胃薬と一緒に食べても無理かなぁ……」
「ああ?んな面倒な事してまで食うんじゃねぇよ、このバカ!」
貰ったモノを捨てる訳にはいかないから、何とかして食べようと提案してみれば、案の定呆れたシカマルにバカ扱いされてしまった。
それでも、何とか一口だけいののカップケーキを食べたんだけど、た、確かに胃薬があっても無理かも……。
少しだけ、あの世が見えるそのケーキは、危険物として『夜』と『昼』が何処かへ持っていってしまった。
それから暫くして、新しい武器だと渡されたそれが、いのの作ったカップケーキを基に作られた毒薬だと言う事だけは、本人に教えられない事実である。