「なぁ……」

 任務中に相棒の『影』が声を掛けてきたので、俺は首だけで振り返る。

「今年も、三代目に……」

 そして言われたその言葉に、高い木の枝に立ち止まった。

「勿論、じーちゃんには休みを貰った。その代わり、今年も新年まで休みなしだけどな」

 立ち止まって相棒を振り返りしっかりと報告。

「そっか、サンキュ……」
「シカマルが礼を言う事じゃないだろう。俺だって、初めからそのつもりでじーちゃんに話してたからな。何よりも俺自身が、が生まれた事を祝いたいから……」

 照れたように礼を言うシカマルに、俺は面を外して笑みを浮かべる。
 シカマルも、俺と同じ枝に立ち止まると面を外して空を仰いだ。

「あ〜っ、この姿の時にその名前呼ぶんじゃねぇよ、誰かに聞かれちまったら、めんどくせぇ事になんだろうが」

 そして、呆れたように言われた言葉に、俺は思わず苦笑を零した。
 シカマルの表情は明らかに安堵しているのが見て取れたから……。

「心配ない。近くには誰の気配も感じられな……」
「その油断が大敵。よっ!そっちも、任務帰りか?」

 シカマルの注意の言葉に返事を返そうとした俺の言葉は、新たな人物によって遮られてしまった。

?!」

 突然の登場に、思わずその名前を大声で呼んでしまう。

「そっちも任務帰りみてぇだな」
『……明日は里の機能が停止するからと言って、その前に大量の任務を持ってくるのはどうにかしてもらいたいぞ』

 思わず呼んでしまったその名前に、慌てて口に手を当てる俺を前に、はフワリと笑顔を見せる。それに、シカマルが声を掛けて、『昼』が心底疲れたように盛大なため息をついた。

「まぁ、確かに、任務尽くしつーのはうんざりしてるてぇのには、同感だ」
「そう言うなって、俺達は2日間も休み貰ってんだからな」

 『昼』のその言葉にシカマルが同意して大きく頷いている。そんなシカマルに、が苦笑を零しながら何気なく口にしたその言葉に、俺とシカマルは、同時に驚いてを見た。

「今年も、祝ってくれるんだろう?」

 見詰めた先には、少しだけ困ったようなそれでいて何処か照れているような表情を浮かべたが、自分達に問い掛けてくる。

『お前達の考えはお見通しだ。しかも、三代目から愚痴を零されては、嫌でも分かるというものだぞ』

 驚いている俺達を前に、『昼』が呆れたように真相を教えてくれた。

「って、じーちゃんなんでに愚痴零してるんだよ!!」

 その教えてくれた内容に、俺は思わずドベ口調で文句を言う。

「……あ〜っ、まぁ、知られちまったもんは仕方ねぇだろう。今年は、本人も祝われる気があるみてぇだし、それでいいんじゃねぇかよ」
「そう言う問題じゃない!じーちゃん、後で覚えていろよ!!」
「まぁ、三代目も悪気がある訳じゃねぇんだから、そんなに苛めるなよ…可愛い孫のおねだりを叶えてくれたじーさんだろう」

 諦めたようにため息を付くシカマルの言葉に、俺はしっかりとじーちゃんへの報復を考えていたんだけど、それはの言葉で吹き飛んでしまう。
 だって、確かに俺の我侭で、休み貰っていると言うのは本当の事だから……。

「だからって、人が楽しみにしていたのに……」

 それでも、を驚かせたいと思っていたからこそ、それが悔まれる。
 別に、驚かせたいだけが理由ではないけど、どれだけ俺達がの生まれてきた事を感謝しているかって事を、本人に知って貰いたかったから……。
 残念そうに呟かれた俺のそれに、が俺の大好きな笑顔を見せてくれる。

「でも、それ聞いた時、俺は嬉しかった。今年も、ナルトやシカマルと自分の誕生日が過ごせるって事……。二人と一緒に居ると、俺もこの世に生まれてきた事、素直に感謝出来るから……だから、その……あっ!!早く帰らねぇと、『夜』が文句言うよな……俺、先に報告に戻る!」
!」

 俺の大好きな笑顔と共に言われた言葉は最後までその言葉を伝える事無く、は顔を真っ赤にして『渡り』の術を使って一瞬でその姿を消してしまう。

 突然の行動に、俺がその名前を呼んでも、相手に聞えたかどうかは分からない。
 だけど、あんなに慌てているの姿なんて、初めてみたってばよ……。

「……あいつがあんな風にうろたえるなんて、珍しい事もあるもんだな…」

 余りにも意外なの姿に、一瞬幻でも見てしまったのかと思ってしまった自分の耳に、シカマルが驚いたように呟いた言葉が、現実だったのだと教えてくれた。

『余程、お前達に礼を言うのが照れくさかったと見える』

 消える前、の顔は夜目にも分かるぐらい真っ赤になっていたのだから……。

 それに、俺とシカマルは、信じられないモノを見たというように、その場に立ち尽くしてしまった。
 だけど、そん俺達の耳に、聞き慣れた声が聞えて来て驚いてそちらへ視線を向ければ、闇に浮かび上がる白猫の姿。

「って、、『昼』の事置いて行ったのか?」

 余りにも有り得ない事に、首を傾げて『昼』を見る。

『それだけ余裕がなかったんだろう……お前達は、オレが送ってやる。きっと、火影室で後悔しているだろうからな』

 ニヤリと楽しそうに笑っている『昼』の姿に、意味が分からず思わずシカマルと顔を見合わせてしまう。
 その間にも、『昼』は渡りの術を発動してくれた。
 あっと言う間に、場所が火影室へと移り変わる。本当に、この渡りの術って便利だよなぁ、俺には使えないんだけど……。

「戻ったようだな。ご苦労であったのう。…で、一体『』はどうしたのじゃ??」

 目の前で書類に目を通していたじーちゃんが、俺達が現れても驚いた様子も見せずに労いの言葉。
 そして、続けて言われたその言葉に、俺は意味が分からずにじーちゃんが指し示した方へと視線を向けた。
 それは、シカマルも同じで、視線を向けた瞬間その瞳が驚きに見開かれる。

?」

 そこには、頭を抱え込んでいるの姿。

「ど、どうしたんだ??」

 信じられないの姿に、慌ててその肩を掴んでその様子を確認しようとしたけど、それは見えたの耳によって動きを止める。
 の耳は、本当に真っ赤だったから……。

『全く、そこまで照れる必要があるのか?何時もなら平気で言える言葉だろうが……』

 そんなに、『昼』が呆れたようにその頭に乗る。

「……言い慣れた言葉でも、自分が関係してるもんだとなんか違うんだよ……俺は、ずっと自分の存在を否定してたんだからな!」

 『昼』に言われて、スクッと立ち上がったは、顔を真っ赤にしたままそれを見られないように俺達から逸らした。

「でも、言わないでそのまま逃げたのは、その、やっぱり……」

 そして、困ったようにどんどん声が小さくなっていく。

「無理して言わなくっても気にしてない。俺は、がちゃんと自分の存在を認めてくれた事の方が嬉しい!」
「そうだな。確かに、俺もナルトと同意見だ。お前が、自分の存在を許したつーなら、それ以上は望んでねぇよ」

 俯いてしまったに、慌てて俺が言えばシカマルも続いて言葉を伝える。

 それは、俺達が本当に嬉しいと感じられた事だ。
 だって、は俺以上に自分の存在を許してはいなかったから……。
 だからこそ、俺達が一緒に居る事で生まれてきた事を嬉しいって思ってくれたのならこれ以上ないくらい喜ばしい事だ。

『だ、そうだぞ』
「う〜っ」

 真剣に伝えた俺達の言葉に、『昼』が楽しそうにを促す。
 それに、顔を真っ赤にしたが、唸り声を上げて、それでも俯いていた顔を俺達へと向けた。

「……そ、それでも、やっぱり伝えなきゃいけないんだよな……う〜っ、ナルト、シカマル」

 赤くなった顔を罰悪そうに視線を逸らす事で誤魔化してはいるけど、その瞳は真剣で、必死に言葉を探しているのが良く分かった。
 そして、俺とシカマルの名前を呼んで、意を決したように真っ直ぐに俺達に視線を向ける。
 こんな事思うのは真剣なに申し訳ないんだけど、真っ赤になって照れているは、お世辞とか抜きで本当に可愛かった。

「……二人とも、俺の為に、有難う……」

 そしてその後、顔を赤くしたまま照れたような笑みを見せるは本当に可愛くって、そこいらの女の子なんてきっと足元にも及ばないと思える。
 それぐらいの見せてくれたその笑みは、一生忘れられないぐらい綺麗で兎に角、可愛かったのだ。

「あ〜っ、話は終わったようじゃのう。全く、ここを何処じゃと思っておるのじゃ……まぁ、わしとしても、が自身の存在を認めてくれて有難い事なのじゃが……時と場所をもうちっと考えてくれんか……」

 の笑顔に思わず見惚れていた俺とシカマルは、呆れたようなじーちゃんのその言葉で現実へと引き戻された。
 残念な事に、もそれで何時もの表情になる。まぁ、その顔はまだ少し赤かったのは、仕方ない事かもしれないけど……。

「も、申し訳ありません。本日の任務『』全て終了いたしました」

 慌てて謝罪の言葉を言ってその場に片膝を付き、頭を下げる。

「あ〜っ、俺も全て任務完了だ……」

 に続いて、シカマルも面倒臭そうに任務完了の報告。

「俺も、任務完了!」
「……お主等は、『』をもう少し見習うんじゃな……」

 シカマルに続いて俺も、元気良く報告。そんな俺とシカマルに、じーちゃんが呆れたようにため息をつく。

「何にしてもじゃ、明日、明後日は3人共休みとなっておる。しっかりと体を休めるのじゃぞ。後、ナルトとシカマルは、明日は影分身で良いので参加するように」

 呆れながらも、じーちゃんが俺達に明日と明後日の休みを告げ、そしてしっかりと明日の事を釘刺された。
 だけど、それには俺とシカマルだけしか当て嵌らず思わず首を傾げてしまう。

「って、今年もは不参加なのか?」
「おい、流石に下忍にもなってそれは不味いんじゃねぇのかよ」

 シカマルも同意見らしく、へと質問。

「アスマ上忍には、ちゃんと説明してあるから問題ない。それに、俺の場合は火影様公認だからな」
「うむ……本当は、不本意なのじゃがのう……」

 俺とシカマルの質問に、が何時もの表情で言葉を返してくる。それに、じーちゃんが頷いて、ボソリと本音。

「って、何て説明してあんだよ」
「何てって、俺は体が弱いんだよ。だから、人が大勢居る所には、出られねぇんだ。そんな所に出ると、ぶっ倒れるのは目に見えるからな」
『確かに、この里の者達が集まるのなら、その気に当てられるのは想像しやすい事。ましてや、器のガキが参加するのであれば、尚更だ』
「不の感情は、俺にとって負担でしかねぇからな……だから、参加しねぇ方がいいんだ」

 と『昼』の説明に思わず納得してしまう。
 確かに、人の気に敏感ながあんな場所に行ったりしたら……。
 どう考えても、倒れてしまうだろう。悔しいけど、納得するしかない理由かもしれない。

「それにな、子供の頃一度だけ参加した事があって、あの時見事なまでにぶっ倒れたつー前例もあるから、火影様は強制できねぇんだよ」

 楽しそうに言われたのその言葉に、じーちゃんが罰悪そうに視線を逸らす。
 し、知らなかったってば、昔も、ちゃんと行事に参加してたんだ。全然覚えてないけど……。

「そう言えば、そんな事親父達が言ってたっけか……。俺も流石に記憶にはねぇけど、子供が参加して行き成りぶっ倒れたつーの…」
「おう、会場に入った瞬間、ブラックアウト。その後の事は俺も覚えてねぇし」
『オレと『夜』で連れて帰ったに決まっているだろう』

 シカマルが思い出すように言われた事に、が楽しそうに言えば、呆れたように『昼』がため息をつく。

「つー訳で、俺は参加出来ねぇの。納得?」

 問い掛けられて思わず頷いて返してしまう。

「だから、二人は俺の事は気にせず、ちゃんと参加していーぞ」

 クスクスと楽しそうに笑いながらが俺とシカマルに言ったその言葉に、俺とシカマルは一瞬お互いの顔を見合わせて、苦笑を零しす。
 なんでってば、そんな事言うんだろう。俺達が、を放って下らないパーティに参加する訳ねぇてばよ。

「めんどくせぇから、パス」
「俺も同じだ!そんなのよりも、と一緒の方が何倍も楽しいから!!」

 の申し出に、あっさりと返事を返す。

「一応、主催者の前なのじゃから、もう少し言葉を選んではどうなのじゃ……まぁ、良いわ。お主らは、ちゃんと影分身を寄越すのじゃぞ。は仕方ないとしても、お主達は強制なのじゃからのう」
「分かっているから、心配ないて!」
「めんどくせぇけど、了解していますって……」

 じーちゃんの呆れたようなそれに、元気に返事を返せば、シカマルも面倒そうに頷く。
 そんな俺達を前に、は楽しそうに笑っている。

「それでは、報告は終了いたしましたので、俺達は失礼致します」
「うむ、休み明けからは、しっかりと働いて貰うぞ」

 話は終わったと言うようにがじーちゃんへ退室の言葉を伝えれば、頷いてしっかりと釘を刺されてしまう。

「了解」
「へぇ、へぇ」
「了解いたしました」

 俺とシカマルが、何時ものように返事をすれば、じーちゃんは難しい表情をする。
 ってもなぁ、今更敬語なんかで話す気にはなれねぇてばよ。でも、だけは、しっかりと返してたんだけどね……。

「では、失礼致します」

 最後の言葉を伝えて、そのまま『昼』の渡りでの家へと帰る。

 明日から二日間、任務もなくのんびり出来るのだと言う事が、正直言えば嬉しかった。
 そして、何よりも、照れながらも自分達に精一杯の気持ちを言葉にして伝えてくれたが、生まれてきた事に感謝してくれた事が、何よりも嬉しくって、俺は渡りの最中勢い良くへと抱き付く。

!」
「どうしたんだ、行き成り??」

 突然抱き付いた俺に、は引き離す事もせず不思議そうな表情で問い掛け来る。

「早いんだけど、俺もこれだけは先に言いたかったんだ」
「んっ?」

 ぎゅっとを抱き締めて、それでも、真剣に相手を見詰めれば、優しい眼差しが返されて、俺は嬉しくって笑顔を見せた。

、生まれて来てくれて本当に、有難う……」
「……ナルト…」

 真っ直ぐに見詰めながら俺がへと何時も自分の誕生日の時にが言ってくれるその言葉を伝えれば、少しだけ驚いたように俺の名前を呼んだ。

「あ〜っ!お前何一人だけで言ってんだよ。んなのは、同時に言わねぇと意味ねぇだろうが!!」

 そんな俺に、シカマルが文句を言う。
 シカマルの文句に俺は思わず苦笑を零す。

「………うん、俺も、生まれて来て、ナルトやシカマルに出会えた事、本当に感謝してる。有難う……」

 だけど、シカマルの文句なんか全く気にした様子も見せずに、がフワリと本当に綺麗な笑みを浮かべて、もう一度俺達に感謝の言葉。



 生まれてきてくれて、本当に有難う。
 君が生まれてきてくれたから、今俺達は一緒に居られる。
 だから、君が生まれてきた日を心から感謝しよう。

 今、この時間があるのは、全てはその日があってこそだから……。